錆兎の友人はにぎやかな男達だった。
宇髄と実弥。
どちらも錆兎と同じく財閥の総帥の親族だとのことである。
義勇を可愛い可愛いと構い倒すので正直困ってしまうくらいだった。
だって、世間知らずの義勇だってさすがにわかっている。
錆兎ほどではないにしても、二人のうち特に宇髄は世間で言うところのすごいイケメンで、おそらく非常にモテるだろう。
そんな整った容姿の男達から見れば、義勇なんて本当にただのチンチクリンだ。
可愛いわけがない。
これがきちんとした大人の嫁ならそんなリップサービスに上手に礼を言って流すのだろうが、義勇には無理だった。
どうして良いかわからず気まずくて錆兎に張り付いていると、錆兎が気を利かせて、キッチンに茶菓子を用意しているからそれと一緒にお茶を淹れてきてくれと、さりげなく義勇をキッチンへ一時避難させてくれる。
そんな錆兎の気遣いはとてもありがたいのだが、同時に落ち込んだ。
せっかく錆兎の友人に高評価を得て錆兎の嫁としての株を上げる機会だったのに、本当にうまく出来ない。
それでもお茶汲みだけは自信があったので、せめて美味しいお茶でもてなそうとお茶を淹れていると、リビングの会話が耳に入ってきた。
ポットに湯を注いで砂時計をひっくり返す義勇の耳に入ってきたのは、もし錆兎に何かあった時には自分が面倒を見てやると請け負う宇髄の言葉だった。
深い意味はないのだろう。
別に義勇のことを特別どうのというわけでもない。
宇髄自身も大財閥の総帥の血筋だと言うから、義勇の1人くらいいても邪魔にはならないし、色々と事情があるため実家を頼れない錆兎の事情を知っていて、友人に安心してほしいとの好意からくる言葉なのだと思う。
良い友人関係を築いているのだろう。
心温まる光景といえば言えるくらいだ。
ただ義勇はそれを聞いて、不安に思った。
錆兎は優しいから義勇が1人では生きていけないことを知っているからこそ、最後まで見捨てずに面倒を見てやろうとしているのだと思う。
でも放り出す先があると思えば、放り出されてしまうのではないだろうか……
だって父親がおかしくなってから優しくしてくれていた他の家族だって、結局は義勇を錆兎の元へと連れて行ったのだ。
また同じように、誰か引き取って面倒を見てくれるなら…と、捨てられるかもしれない。
そんな時、義勇には今回と同様、拒否権なんてまったくないのだ。
義勇は唇をぎゅっと噛み締めて、泣くのをこらえた。
そうしないときっと泣いてしまって、そんな顔でお茶を運ばれてきても皆が困る。
そうして他のことをシャットしているかのように一心に凝視していた砂時計の最後の砂がさらりと落ちた。
そこで震える手でティーポットにかぶせていたティーコゼを取り除いてティーポットの取っ手に手をかけたその瞬間…
──…死なんっ!!
と、珍しく感情的な錆兎の言葉が聞こえて、義勇は一瞬手を止めた。
そしてその後に続く言葉、
「俺は義勇を嫁にして、ずっと守るって約束したからなっ。
意地でも義勇よりも早くは死なん。
ちゃんとあいつが年取って最期を迎えるのを看取ってから死ぬから、大丈夫だっ」
そんな錆兎の言葉に、義勇は今度こそ泣いた。
堪えていた分、ポロポロと涙があふれでる。
ああ…嫁と…唯一絶対一生一緒の人間だと認められてたんだ…
そう思うとホッとして、泣きながらもいつも以上に手はゆったりと紅茶を淹れていく。
そしてちょうど4杯淹れ終わって持っていこうとした時、運ぶのを手伝ってくれようと思ったのだろう。
キッチンへ入ってきた錆兎が泣いている義勇を見つけて
「え?義勇どうしたっ?!何かあったのかっ?!どこか痛くしたか?!」
と、慌てて駆け寄ってきてだきしめてくれる。
その体温と錆兎の匂いに包まれて義勇は心底安心して、
「なんでもない…ホッとしたんだ。
最期まで看取ってくれるんだって聞こえてきたから…」
と、正直にこぼすと、錆兎はポカンと呆けて、それから
「当たり前だろう。
俺はちょっとやそっとじゃ死なないからな。
絶対に義勇より一分一秒でも長く生きて、1人で寂しい思いをさせたりはしないようにしてやるから」
と、ポンポンとなだめるように背中をかるく叩いた。
義勇が本当に恐れていたのは死別ではないのだけれど、それでもずっと一緒なのが嬉しいので、もういいか…と、義勇は不安を感じていた本当の理由を告げる言葉を飲み込むことにした。
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