「派手に可愛いな、おいっ!!!」
爆笑する宇髄とそれを押さえる実弥。
招いた別荘で義勇と並んで出迎えたら、もう想像していた通りの光景だ。
義勇は他人がいるとさすがに恥ずかしいというので、今はスカートではなくマニッシュな服装だが、それでも見ようによっては十分少女に見える。
なにしろ色が白く目が大きくまつ毛が長い。
非常に幼く可愛らしい顔立ちをしている。
少年なのにそう見えない。
愛らしい少女そのもので、面白いことが大好きな宇髄がはしゃがないほうがおかしい。
一方で義勇はというと、宇髄の勢いにビビっている。
人慣れない猫そのものの性格なのだ。
いきなりグイグイくるタイプには全力で警戒する。
言葉でだけは『いらっしゃいませ』というのだが、態度と表情はどうみても言葉の真逆だ。
宇髄のここは空いてますよ?とばかりにからかうように腕を広げる宇髄から身を隠すようにササッと錆兎の後ろに隠れてギュッと錆兎のシャツを掴んでいる、
が、錆兎からすると、それがめちゃ可愛い。
…ああ…俺の嫁、可愛くないか?
じ~んと感動する錆兎。
そして機嫌よく、
「まあ、あがってくれ」
と、錆兎がドアの鍵をかけてリビングに向かう間も、義勇はカルガモのヒナのように錆兎のシャツを掴みながらぴったりとついてくる。
リビングについてからも、
実弥と宇髄の2人の座る正面のソファに座る錆兎にぴったりとくっつくというよりしがみついて、大きな目でじっと警戒する子猫のように錆兎のシャツに爪を立てていた。
「義勇、お茶淹れてきてくれるか?
菓子もテーブルに用意してあるから」
と、全力で緊張する義勇に錆兎が言うと、義勇はややホッとしたようにうなずいて、そそくさとキッチンへと消えていった。
「…めっ………っちゃっ!おもしれぇぇ~~~~!!!!!」
その背中を見送った宇髄の大爆笑交じりの叫び。
「知らねえ人間を前に全身で緊張して警戒してる子猫みたいだなァ」
と、こちらは身を乗り出す宇髄を、ドウドウとなだめる実弥。
「錆兎、お前に何かあってもこいつは俺が嫁達と一緒に面倒みてやるから、安心しなっ」
と宇髄が、いくら政略結婚とはいえ新婚の人間に言うにしてはアレなことを言い出すが、そこで錆兎は考える。
確かに…義勇は境遇的に一人にしたらまずい。
自分に何かあったらあとを託してやる相手が必要なのは確かだ。
そういう意味では、そんな面倒な状況も気にしない剛毅さと強い立場を持ち合わせた宇髄の言葉は本来安心材料ではある。
しかし自分が亡くなったあと…と、その言葉を踏まえた未来を想像した瞬間、耐え難い不快感が心の中を走った。
嫌だ…
自分以外の腕で守られて、自分以外の腕の中で安心してくつろいでいる義勇を想像すると、腹の奥から怒りのような感情が沸き起こる。
そしてそれは理性的で感情を抑えることに関しては定評のある錆兎にしては珍しく、おもいきり表情に出ていたらしい。
実弥が青ざめた。
「さ、錆兎?あれはいつもの宇髄の冗談だからなァ?」
──…死なんっ!!
と、実弥の言葉を遮って錆兎が言った。
「俺は義勇を嫁にして、ずっと守るって約束したからなっ。
意地でも義勇よりも早くは死なん。
ちゃんとあいつが年取って最期を迎えるのを看取ってから死ぬから、大丈夫だっ」
たぶん辛い。
可愛い自分の被保護者が死ぬのを看取るのは、何歳になっても、年をとっても、気が狂いそうなくらい辛いと思う。
でもそれならなおさら、相手にそんな思いをさせられないし、自分以外の誰かに義勇を託して死ぬのなんて絶対に嫌だ。
今までは目の前の事だけに追われてそんなことを考えてもみなかったが、相手をずっと守るというのはそういうことだと改めて思う。
1分1秒でもいい。
義勇より長く生きて義勇が息を引き取るその瞬間まできちんと守ってやるのだ。
そう主張すると、普段なら自分を押し通す宇髄が、
「錆兎、本当に本気じゃねえか。
いいぜ?お前がそこまで本気なら錆兎の代わりじゃなくて、錆兎が嫁より早く死なないように、色々協力してやるぜ?まかせとけっ!」
と、しみじみと言って胸を叩いて請け負った。
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