政略結婚で始まる愛の話_23_初デートは危険がいっぱい5

頭が痛い…
ほんの少し浮上する意識。

夢を見ていたのか……
最後のはっきりした記憶は映画館で錆兎を待っていたこと。
それから意識はぼんやりとしているが、目の前に錆兎がいた。
何かひどく身体が重くて、近づこうとしても動けない。

それでもそばに行きたくて…泣きながら名前を呼んだ気がする…
その声さえもちゃんと出ていたかは謎なのだが……


この頭痛は覚えがある。。
義母と刺繍をしていた時に急に眠気に襲われたあと、こんな頭痛がして気づけば白い部屋のベッドで寝かされていた。

あの時はすぐ2人の兄が救出に来てくれたのだけれど…2人がこっそり来てくれた夜中までの時間、すごく怖かったのを覚えている。

だから…ああ、嫌だなぁ…と義勇は思う。
また知らない人たちに囲まれていたら……
そう思うと目を開けたくない。

怖い……

でも今回は兄たちが来てくれるとは限らないから、自力でなんとか脱出しなければいけないかもしれない。
絶対に錆兎のところに帰るのだ…
そう、義勇にはあの時と違って、なんとしても達成したい目的があるのだ。

それを思い出して、思い切って、えいっ!と目を開いて、義勇は唖然とした。

そこに見えたのは綺麗な藤色の目…
相手もびっくりしたように目を見開いていて、それからおそるおそる…と言ったふうに
「義勇…俺のこと、わかるか?」
と、聞いてくる。

わからないはずがない。
わかるに決まってるじゃないか。

「錆兎…錆兎っ!!!」

まだうまく体が動かないが、それでも泣きながら手を伸ばすと錆兎がその手を握りしめて、もう片方の手で頭をなでてくれた。
それだけでもうすっかり安心してしまう自分はまだ出会って日も浅いのにどれだけ錆兎に依存しているんだと思う。
でも錆兎はそんな義勇を完全に完璧に許容してくれてしまうのだ。

今だって
「良かった…。
義勇が無事で本当に良かった…」
と、ほぅ…と安堵の息を吐き出しながら、言ってくれるのだ。

そこでようやく落ち着いて見回してみると、今居るのは全くの知らない場所だ。
でも着ているものは普通のパジャマだし、なによりそばに錆兎がいる。
あの時とは違うのだ。

ゆっくりと髪をすいてくれる大きくて少し骨ばった手。
その心地よさに色々どうでも良くなりかけていたのだが、義勇が落ち着いたことを感じ取ったのだろう。

錆兎が、
「あのな…聞かせてほしいことがあんだけどな…」
と、ふと頭を撫でる手を止めて、義勇の顔を覗き込んだ。

「昼間な、俺が戻ったら義勇が居なくて、これは普通の状況ではないなと思って近くの人に聞いたんだ。
そうしたら義勇が半分意識ない状態で男2人に連れて行かれたっていうから、急いで追ったんだけどな。
追いついたらその二人組は義勇の父に頼まれたんだって言い張ってたんだ。
たしかにな、俺の方に話を持ってきたのは義勇の一番上の兄らしいから、親が承諾していないという可能性が皆無とは言わない。
だがそれならに俺に話すところだろう。
離婚して親権持たない親が幼児をとか言うならとにかく、この歳の人間を親が誘拐っておかしいだろう?
俺の方からこの話を持ってきた副社長を通して兄の方に連絡いれても良かったんだけど、その前に義勇にきいてみようと思ったわけなんだが…」
と錆兎に説明されて、義勇は色々な意味で青ざめた。

よもや父親がこんな実力行使に出るなんて思っても見なかった。
それにも青ざめたが、そんな面倒な問題をかかえているのだとバレたら、錆兎は嫌にならないだろうか…
それが何より恐ろしい。

せっかく楽しかったのに…
映画館もショッピングも、すごく楽しみにしていた。
楽しい一日になるはずだった……
そう思うと、午前中のあのウキウキした時間と今のギャップに泣けてくる。

せめてこの一日だけでも楽しい時間を過ごしたかった。
どうせ捨てられるんでも、楽しく幸せな思い出くらいほしかった。

思わず涙と共にそんな思いをこぼすと、錆兎は
「ちがうっ!!なんでそうなるんだっ?!
見限るつもりならなにもきかない。
これからお前をきっちり守らないとならないから聞いているんだ」
と、少し眉を寄せて、コツン、と、額を義勇の額にぶつける。

「…へ??」

「へ?じゃない。
誰かが自分の嫁を拉致しようとしているなら、普通は全力で阻止だろう。
おまえの父親が本当におまえを拉致するような理由があって黒幕なら、俺は自分自身がガードするのはもちろん、自分のつてを総動員して潰すつもりだが、正直、よくよく考えてみればおまえの方の事情をおまえの口から聞いた事がなかったから、どうなっているのか本当のところはわからないからな。
おまえを誘拐しようとした実行犯はおまえの保護を優先して逃げられてしまったのも痛い。
万が一、本当は父親ではないあたりが黒幕だったら、いきなりそっちに相談してしまったらまずいだろう?
だからおまえ自身に聞いているんだ」

錆兎の目はいつだってまっすぐで、嘘なんかついていないのはわかってしまう。

本当なんだ…
こんなに面倒な自分でも見捨てずにいてくれるんだ…
そう思ったら違う意味で涙が溢れてきた。

「本当に…何故そんな後ろ向きなんだ。
たしかに初デートはさんざんで終わってしまったが…。
今度ちゃんとまた連れていってやるから。
記念という意味なら、今後、初クリスマス、初ニューイヤー、初誕生日に、結婚記念日もろもろたくさんあるからな。
今回は狙われてるなんて知らなかったから不覚にもさらわれたが、次回からはきっちり護衛してやるから、楽しみにしておけ」

義勇のせいで初デートが潰れてしまったのに、錆兎はそれを責めることなく、笑ってそんなことを言うと、グリグリと頭を撫で回す。
義勇がこれ以上すぎたことにクヨクヨする前に、楽しい未来を約束してくれるところが、さすが錆兎だ。

あまり他人を褒めることのない長兄をして
『正直、女だったら小躍りしてマッハで嫁入り支度整えて押しかけてもおかしくないくらいの身分、財力、顔、能力、性格と、全部が整った男』
と言わしめる人物だけある。


その後、義勇はどうやら特殊な睡眠薬を使われただけらしく、少し休んだら頭痛もひいたので、
「ま、あれだ。ランチ食いそこなったから、ディナーはデザートがすごく豊富で可愛いモン多いらしいビュッフェに行くか」

と、リカバリとばかりに錆兎が予約をいれてくれて、美味しい料理と可愛いデザートを満喫して、終わりよければ全て良しと言う錆兎の言葉とともに、初デートの日は終わったのだった。

その夜は…錆兎は隣で遅くまであちこちにメールを送っていたようだが、義勇はさすがに疲れてしまい、ふとんに入ったらもう目があかなくて、そんな気配を感じながらもすぐ眠ってしまった。

眠る直前、錆兎の大きな手が優しく頭を撫でてくれるのを感じながら…



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2 件のコメント :

  1. 誤変換報告です。「守らないとんらないから」→「守らないとならないから」nが多くなっちゃった感じですかね^^;ご確認ください。
    因みに以前にもオススメした『虫かぶり姫』今回の話とイメージが合うので機会があれば是非ご一読をコミック版が特に💮です

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    1. ご報告ありがとうございます。修正しました😁
      『虫かぶり姫』ネットで検索してみましたが、主人公のエリアーナ、ふわふわでめちゃ可愛いですね💕
      機会があれば見てみたいです。

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