政略結婚で始まる愛の話_20_初デートは危険がいっぱい2

それは素晴らしい提案だった。

日曜日にデートをしよう。
映画館に行って美味しいランチを食べて、ティディベア専門店をみよう!

金曜日…火曜の夜に出た熱はもうとっくにひいていたのだが、念の為安静にと、それから3日間もほぼ寝たきりの状態にさせられていた義勇は、それを聞いて泣いてしまった。

「わ、悪いっ!何かいやなものあったか?
別にそのスケジュールじゃなくてもいいんだけど…」
と、慌てて言う優しい錆兎に、泣きながらクビを振る。

だって、もうだめだと思ったのだ。
火曜日のあの時、錆兎を不快にさせただけじゃなく、熱なんか出して翌日から錆兎の大切な仕事を休ませてしまった。
だから錆兎にとって必要じゃなくなる日までは置いてもらえるかもしれないが、そうじゃなくなったらこの疑似家族関係はきっと終わるものだと思っていたのだ。

そう言うと、錆兎は心底こまったように眉を八の字にして、
「ごめんな。誤解させるような言い方した俺が悪かった」
と、だきしめながら謝ってくれるのだが、あれはたぶん義勇が悪いのだ。
自分と仕事のどちらが大事かなんて聞かれたら、錆兎だって困ってしまうだろう。

錆兎は家の利害関係で義勇とはそれなりに上手くやっていかないといけない。
だからぞんざいな扱いはできないためにはっきり言えないものの、仕事は大切なものだ。
義勇みたいに厄介な子どもと比べるほうがおかしい。
かと言って、義勇のくだらない質問のために嘘をつくなんて、錆兎だって嫌だろう。
そんなふうに地の底まで落ち込んで猛省していたら熱が出た。

結果、決して狙ったわけではないのだが、まさに”(病気な)俺と仕事とどちらが大事?”と、行動で示させる選択を余儀なくさせることになって青ざめた。

選択なんてしないでいい。
仕事は大切だ。
ぜひ仕事に言ってくれと思ったのだが、錆兎は当たり前に

──さっきの質問、真剣に答え聞きたいっていうことなら、仕事よりおまえが大事。
なんて言って義勇の看病のためなんかに会社を休んでくれてしまった。
そしていつもにもましていたれりつくせりに世話をしてくれる。

そんな錆兎に、もう申し訳無さしか感じない。
いますぐ見限られても文句は言えない。
そう思って、落ち込んでおそるおそる過ごしていたら、件のお誘いだ。

嫌われてなかったっ!!
それだけでもうテンションがあがった。
しかもそのスケジュールが、まるで義勇の好みに合わせたようなものだったことに感動する。

幼い頃…親が一番愛らしい盛りの子のために色々心遣いをして遊びに連れて行ってくれるようなわりあいと普通の経験を義勇はしてこなかったため、自分にはそんな生活は縁のないものと思っていた。

それが、こんな可愛げもない16歳にもなって、顔どころか存在すら知らなかった相手との利害に基づいた縁談で、面倒ばかりかけてさぞ不快な思いをさせているであろうに、こんなふうに心をくだいてもらえるとは思ってもみなかった。

嬉しい…と思えば嬉しいのだが、それ以上にこれまでの自分の人生の不憫さと、幸せを期待してもいいのだろうか…というなんとも言えない不安とせつなさ…そしてそれと同時に感じる高揚感。

色々が混じり合って、言葉が出ずに、こみあげた想いが涙と一緒に溢れ出てしまった。

でもそんな想いをうまく告げることが出来ず、ただ、嫌なわけではない、嬉しいのだとだけ伝えれば、そっか…と、錆兎はホッとしたように微笑んで、なだめるように背をさすってくれた。

兄…という存在がいないわけではなく、11歳で父親がおかしくなってからは確かに3人ともそれなりに気遣ってくれたのだけれど、その年になってからだとそれまでの冷ややかな関係を完全に払拭できるというわけもなく、やや緊張を含んだ、家族というにはいくぶん堅苦しい関係だったこともあり、義勇は目上と言えども無条件に甘えるということがどうも得意ではない。

でも、いつもいつも錆兎はあまりに優しいので、甘やかされる心地よさに、慣れてしまいそうだ…。
少なくとも不条理に突き放される気は、もうしてこなかった。


そして当日の日曜日…

──病み上がりだしな。寒くないようにしような?」
と、どうやら今日のために用意してくれていたらしい、裾がゆったりしたベージュのダッフルコートを着せてくれる。

──思った通り、すごく可愛いな。似合ってる。
といいながらコートのフードもかぶせてくれて耳が隠れると、それだけでかなり暖かい。

錆兎はデザインはだいぶ違うものの、紺のダッフル。
義勇と違って体格が良いし、そもそもが絵に描いたようなイケメンなので、こちらは本当にカッコいい。
じぶんなんかが隣を歩くなんて、世間様に申し訳ないほどだ。

「じゃ、今日は一日、楽しむぞ~!」
と、支度を終えると錆兎はそう言って義勇に手を差し出してきた。
マンションの駐車場に向かうため、その手をとった瞬間、義勇の初めてのデートが始まった。



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