政略結婚で始まる愛の話_04_衝撃!嫁はロリショタ、ノット・ノータッチ1

「で?そろそろ名前くらいは聞いていいか?」

ゆったりと少年が食事を終えるのを待って、プリンの最後の一匙をすくったあたりで、錆兎はそろそろ、と、切り出した。

見た目も態度もきちんとしているし、おそらくはお育ちの良いお坊ちゃんだと思う。
とりあえず…だ、小学校高学年から中学生くらいの子どもが親元を離れて居て良い時間ではないので、送って行ってやらねばならない。

こんな面白愛らしい子どもが居れば楽しいし非常に残念ではあるが、相手が大人ではなく子どもである以上、保護者の了承なく泊めたりしたら悪気はなくとも犯罪だ。

そう思って身元を聞き出そうと口を開くと、スプーンを運ぶ手がピタリと止まった。
大きな目がきょとんと錆兎に向けられ、次の瞬間、目に見えて動揺。
じわりと涙が浮かび始める。

これは…さきほどの繰り返しになる!!と、さすがに察して、錆兎は慌てて

「名前がわからないと、呼ぶ時に困るだろう!他意はないっ!
さっきも言ったが、俺は鱗滝錆兎だ。
呼ぶ時は普通に錆兎でいい。お前は?
名前と呼び名を教えてくれ」

と、先に言うと、少年はまだ少し動揺しつつも

「…ぎ…ゆう……冨岡…義勇……だけど…名字は変わるから……」
と、驚くべきことを口にする。


そう、珍しい名前ではない。
驚くのはそれではなく……その名前は今日来る予定の相手の名で…

「冨岡義勇ぅぅ~?!!!!」
と、思わず声がおもいきり大きくなったら、

「ごめんなさいっ…!」
と、再び泣かれた。



え?え?真面目にっ?!!
冨岡義勇ってあれだよな?俺の嫁??
ということはこいつ16歳?炭治郎と2歳しか違わないのか??
正直…12~14歳くらいだと思っていた。

錆兎からしたら本当に十代半ばにしか見えないくらいには小さくて細っこい。
弟の炭治郎が小学生だった頃の方がまだ体格が良かった気がする。

驚きのあまりしばし放心。
誕生日に副社長が押しかけてきたあたりから錆兎的にも色々激動だったが、これがトドメのような気がする。

「…あ~…俺が悪かった。悪かったから泣くな」
と、それでも反射的に言って、席を立って相手のところまで行くと、頭を撫でる。

「…思ったより幼く見えたから驚いたんだ。
でもまああれだ、より同居人に近い相手をと選んでるから俺の側としては問題ない。
衣食住は保証するし、俺は平日は仕事だから家には居ないが、自由に過ごしてもらって構わないから。
買い物とかは休日にマーケットその他を教える。
だが、今週は迷われても引き取りに行けないし欲しい物があるならネットで購入してくれ」
そう言いながらも撫でる。ひたすら頭を撫でる。

「ということで、お前の部屋は向かって右側な。
とりあえず家具は入ってるし、今日は遅いから飯が済んだならフロ入って寝ろ」
と、さらに付け足すと、撫でている頭から盛大に震えが伝わってきた。

…へ?と見下ろすと、ひどく思いつめた目で見上げられる。

「…どした?」
「…が…頑張ります…っ…」
「……?」

わけがわからずぽかんとしている錆兎の手の下から抜け出ると、少年はまるでロボットのようにギクシャクと立ち上がり、どうやら着替えを取りにだろう。
寝室へと消えていった。

錆兎はしばらくそれを眺めていたが、結局
「まあ、いいか」
と、食器を片付けて洗い始める。


なんのかんの言って自宅で誰かと一緒に夕食なんて久しぶりだ。
しかも実家で弟と食べていた頃は使用人がいたから、社会人になって一人暮らしをし始めてから覚えた手料理を誰かに振る舞ったのも初めてだ。

「まあ…悪くはないか…」
それは思いがけず楽しいもので、錆兎の顔に自然と笑みが浮かぶ。

おそらく錆兎の人権など欠片も思いやる気もなく、むしろ踏みにじる気満々であろう副社長のこの行動も、意外に錆兎の生活に悪くはない変化をもたらせてくれそうだ。

まあ…色々と認識の差を埋めるのには苦労しそうではあるが…



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