青い大地の果てにあるものオリジナル _4_10_実家

「家も…7年ぶりか」
家々が立ち並ぶ里の景色にひのきは懐かしげに目を細めた。
「貴行は家出た当時まだ6歳だったな。てことは今もう13か。早いな」
「着きましたね」
立ち並ぶ中でも目を見張るくらい大きな家の門の前でツツジは車を止める。


「なずな、着いた。起きれるか?」
ひのきがソッと声をかけると、なずなはソロソロと目を開いた。

「大丈夫か?」
というひのきに
「うん。ここがタカが育った家なのね~」
と、なずなはうなづいて外に目を向けた。

先に降りてドアを開けるツツジに車から助け下ろされて、なずなはひのきと並んで門の前に立つ。


「貴虎様、おかえりなさいませ」
門の中から老女が出て来て涙目でひのきをみあげた。

「ああ、アケビ、久々だな。達者だったか」
と表情をやわらかくするひのきに、アケビと呼ばれた老女は言葉もなくうなづいて涙した。

老女に案内されて4人は旅館のような立派な玄関を上がって長い廊下を進んでいく。

「お館様、貴虎様をご案内して参りました」
奥の立派な襖の前で老女が膝まづいて言うと、中から
「入れ」
と若い声がする。
その声に老女は襖を開けた。

「こちらにお館様がいらっしゃいます」
老女は言って中にひのき達をうながした。

襖の中は20畳はあろうかという広い部屋で、その奥の床の間の前の座にひのきをもっと柔和にしたような顔立ちの若者が座っていた。


「兄上、お久しぶりでございます!」
若者はひのきの姿を見ると、嬉しそうに立ち上がって走り出して来た。

「遠路お疲れでございましょう、どうぞ、こちらへ」
と座を勧める。
若者は勧められるまま奥の席にひのきが座ると、なずな、つくし、ツツジにも席を勧めた。

「本当に懐かしゅうございます。お元気でいらっしゃいましたか?」
懐かしさのためか涙のにじむ目で言う弟に、ひのきも目頭が熱くなる。

「ああ。俺は元気だ。貴行には本当に苦労をかけた。すまん」
ひのきが頭をさげると、弟貴行はあわてて兄にかけよって頭をあげさせた。

「何をおっしゃいますか。兄上は何も悪い事をなさっていらっしゃらないじゃないですか。
むしろ…一族がご迷惑をおかけしたとのこと。
長の私が至らないばかりに申し訳ありません」
と、貴行は逆に頭を下げる。

「いや…お前はまだ13歳なのに本当によくやってくれている」
ひのきの言葉に貴行は首を横に振った。

「いえ、私が最後に兄上にお会いした時、兄上はまだ11歳でおられたが、今の私なんか足元にも及ばない立派な方でした。皆が追っていってしまうくらいに…」

「フォローを入れて行かなかったからな。
みんないきなり長が変わって切り替えができなかったんだろう。
俺の落ち度だ。本当にすまん。
それで…今日は謝罪ついでに貴行に頼みがあってきた」
ひのきの言葉に貴行は少し首をかしげる。

「兄上が私に頼みですか…なんでございましょう?
私にできる事なら何でもおっしゃって下さい」
貴行が言うと、ひのきはつくしに目で合図をする。

「はい、こちらに」
つくしは懐から例の半紙を取り出して、うやうやしくひのきに差し出した。

「これなんだが…」
とそれを受け取ってひのきはさらにそれを貴行に渡す。

「先日一位が建てたレッドムーン基地をつぶした際の、一族の死亡者のリストだ。
本家に背を向けて出て行った奴らだからお前も色々思う所はあるとは思う。
だがこいつらはこいつらなりに一族の事を思っての行動だったんだ。
その判断を誤らせた責は元は俺にある。
だから…一族の墓にせめてこいつらの名前を刻ませてやってくれないか?
代わりに俺は一族から抹消されてもかまわねえから…」

和紙を受け取って話を聞くと、貴行はひのきに目を向けて穏やかに微笑んだ。

「構いませんよ。
兄上、誤解があるようなのですが…私個人としては一族が二つに分かれたというのは良い事だと思ってるんです。
元々はいつか再興をと名を変え地に潜み訓練を積みながら続いてきた一族ですが、今はもうそれから何百年の時がすぎ、元の名前を名乗ったところで何ら支障もでなければ、お家再興なんていうのも今時すでに意味がない。
そんな状態で、外に出て己の力を試したいという者もあれば、治安の良くない世の中で生きて行くための手段として己の力を使いつつ同じ考えの人間と共にひっそり暮らしたいという者もでてくるのは、当然なのではないでしょうか。
兄上ほどの方になればまたその双方のバランスを保ちながら一族を収めていくこともできたのでしょうが、私はそれほどの器ではありません。
むしろ私は己の力を試したいと言う野心を持った人間がみんな去って静かに暮らしたい人間だけが残っている現状を歓迎しています。
もちろん外に行った人間でも疲れて戻ってくれば歓迎しますよ。
…こんな考え方、歴代のお館様には嘆かれそうですけどね」
貴行の言葉にひのきは少し驚いた。

「お前が…実は3兄弟の中で一番賢かったんだな」
思わず口をついて出たひのきの言葉に、貴行は首をかしげる。

「俺は…野心を捨てて普通の生活をする方向に持って行くのに固執をして、貴景は恐らく反対に力を積極的に使う事に固執しすぎて歪みになっていたんだろう。
そんな中、両方を当たり前に認められるお前が実は一番器が大きく上に立つのにむいてるんだと思う」

小さかった弟がこんなに聡明に育ってた事にひのきは感動を覚えた。

「そんな…かいかぶりすぎです、兄上。
私はただ自分の能力以上の事をやれないと思うだけで」
少し照れくさそうに、それでも嬉しそうに言う貴行。

「兄上も…抹消とか言わないで帰りたくなったらいつでもお帰り下さい。
もう昔の一族はありませんけど、ここは兄上の実家である事には変わりないんですから」

「ああ、ありがとう」
ひのきは心の底から礼を言った。
貴行もにっこり微笑む。

「あ、兄上、ところで…そちらの綺麗な方はもしかして奥方様ですか?」
話が一段落ついたところで、貴行はなずなに目をむけた。

「あ、ああ。まあ近い未来の…か。睦月なずなだ」
ひのきもなずなに目をむけて言う。

「睦月なずなです。初めまして」
なずながにっこりと可愛らしい笑みを浮かべてお辞儀をすると貴行は少し赤くなって言った。

「檜の末弟の貴行です。おみしりおきを。
こんな綺麗な方が義姉上になられるなんて光栄です」
貴行の言葉になずなも少し赤くなる。

「でも優しそうな方で安心しました。ここのところ少し女性に関しては色々あったので…」
貴行は少し意味ありげに言葉をにごした。

つくしがそこでチラリとひのきに視線を送る。

「一位の事…か?」
ひのきが聞くと、貴行はチラリと意味ありげになずなを見て、それからひのき、つくしと視線を移した。

「ツツジ、なずな様はお疲れのようだ。別室をお借りしてお休み頂け」
つくしの言葉に
「では隣室をアケビに用意させましょう」
と貴行は手を打ってアケビを呼んで
「お客様がお疲れだ。隣室でお休み頂きなさい」
と、老女に命じた。

「かしこまりました。こちらへ」
老女が先に立ってうながす。

「ツツジ、お前もお供しろ。わかってるな?」
つくしが言うと、ツツジはうなづいてなずなの後に続いた。

3人の姿が部屋から消えると、貴行が大きく息をつく。

「ご報告しなければならない事だとは思うのですが…女性にに恐ろしげな話をお聞かせするのは少しためらいがありまして…」

「恐ろしげな話…なんだな」
ひのきがその言葉にやはり大きく息をついた。

「はい。はっきり申し上げますと一位殿が今回の騒動を起こしたのは兄上に対する個人的な思い入れで、一位殿の一番の目的は貴虎兄上に戻って頂いて兄上の奥方になる事なので…
貴景兄上と祝言の日取りが決まってまずした事が…貴景兄上を説き伏せてレッドムーンなる組織に送って…密かにイヴィルという化け物に…」

「…っ!」
想像を遥かに超えた行動にひのきも一瞬言葉が出ない。

「なんで…そうなるんだ?」
ひのきの言葉に貴行は顔をゆがめた。

「私はまだ妻を持てる歳ではありませんし、貴景兄上がいなくなると貴虎兄上以外と祝言を挙げる事はできませんから。
元々貴景兄上が跡を継ぐのに反対だった者達もそれで完全に取り込めますし。
貴景兄上ご自身は…ずっと貴虎兄上にコンプレックスを持っていらっしゃいましたから、貴虎兄上を超えるためにと、自主的に甘んじてそれをお受けになったんだと思います」

「貴行、お前も危なくないのか?」
ひのきは心配するが、貴行は小さく笑って否定した。

「いえ、一位はこの土地にも残った者にももはや興味がないみたいです。
ゆえに兄上達が潰された本拠も別の土地にあったでしょう?」

「…ならいいが…」
ホッとするひのきに、貴行は真剣な顔で首を横に振った。

「いえ、良くありませんよ。
一位の攻撃のターゲットは兄上の周り、特に義姉上に向けられています。
一位はおそらく手段を選ばないでしょうし、一位を対抗するにはあまりにか弱そうな方なので私も心配になったのですが…」
貴行の言葉に無言で青くなるひのきを元気づけるようにつくしが言った。

「確かに…。しかしまあ幸い俺もアームスを使えるようになりましたし、俺を始めとする全鉄線一族をあげてなずな様はお守りしますので、ご安心を」

「一位はなんでまたそんなに俺に固執するんだ?…交渉…する事は無理なのか?」

自分が標的になるならともかく、なずなを標的にされるのは怖い。
単に一族としての権力という事ならなんとかならないものだろうかとひのきが言うと貴行は困った様な顔をする。

「無理…でしょうね。よしんば兄上が一位の側に戻られたとしても、兄上のお心が義姉上にある以上、一位は殺そうとするでしょう。そういう人です」

「殺られる前に殺るしかねえのか…。」

「…ある意味、一位も偏った世界で育ってますからね。
俺ら鉄線みたいに世界中見てるとなずな様を排除したところで貴虎様が戻るとは思えませんし、かえって疎まれる事くらい容易に想像つくんですけどね。
ま、馬鹿は死ななきゃ治らないってレベルまで言ってますね。
俺的にはどうせ馬鹿でもなずな様の無邪気さとの狭間にある馬鹿さなら可愛いと思えるんですが」

主のパートナーと認めているわりには結構失礼な発言をするつくしだが、ひのき自身もそれは常々感じている事なので否定もせずただ苦笑する。

「確かに…可愛らしい方ですよね。16歳になられたらご結婚を?」
フォローを入れようとする貴行だが、フォローになってない。

「いや…すでに16なんだが…」
というひのきの言葉に
「ええ~?!」
と驚きの声をあげたあと、あわてて
「申し訳ありません。私と同じかせいぜい一つ年上くらいかと…
そうでしたか。一族の娘達と比べるとお若い印象うけますね」
と、付け足した。

貴行の言葉につくしが言う。

「一族の者は早く大人扱いされるから、大人っぽくなるっていうのもあるんでしょう。
なずな様見てるとそういう大人の世界の汚さとかを知らない無垢な子供っぽさが外に溢れ出てる感じしますから。
俺らみたいにそういう汚さの中で育った人間がなずな様みたいな人種見ると、持つ感情って2種類なんですよね」

「2種類?」
ひのきが聞き返すと、つくしはうなづいた。

「そのままでいて欲しいと思って荒波から遠ざけて保護したくなるか、踏みにじって貶めたくなるか。
んで、一位は後者なんですよ。
だから貴虎様と個人的接点がなかったとしても何かしら理由つけてなずな様にちょっかいかけたと思いますよ。
だから貴虎様が離れても意味ないどころか一位がちょっかいかけやすくなるだけですからね?
おかしな考えはおこさないで下さいよ?」

「お、おかしな考えって、俺は別に…」
つくしの言葉にひのきがくちごもると、つくしは小さく息をついた。

「どうせ自分がなずな様と離れて他にそれらしき女作ればとかそんな事考えてたでしょ。
見え見えですよ。
でもほんっとに無駄ですから。
それより俺を信用して下さい。
これでも諜報集団鉄線一族215名の長なんですから。
そうそう一位をなずな様に近づけたりしませんよ」

「覚悟…決めるしかないんだな」

「ま、そういう事です」
つくしはにっこりうなづいた。

「んじゃ、そういう事で、明日から強行軍ですし早めに戻りますか」
一気にどんよりと沈みこんだひのきと対照的に晴れやかな表情でつくしは立ち上がった。



「もう…会いにこれる機会はないかもしれねえが…お前に会えて良かった。
色々ありがとな。
元気で暮らせよ、貴行」

「兄上こそ…これから色々大変だとは思いますがお元気で。
お会いできて本当に嬉しかったです」
帰りは家の前まで見送りにきた貴行と別れを告げるひのき。

父より1年早く母も亡くなっていたらしく、イヴィルになった次男、貴景を除けば互いが互いの唯一の肉親である。

昨年12歳という幼いとも言える年齢で大部分が去ったとは言ってもまだまだ多くいる一族を背負う事になって若干大人びてはいた貴行も、年相応の子供の顔でしゃくりをあげながらもう二度と会えないであろう兄に言う。

「お前には…本当に心細い思いもさせたし苦労もかけてる。ごめんな」
ひのきはまだ成長途上で幼さの残る弟の肩を抱き寄せて、その頭をなでた。

「っ…頑張りますからっ…私も頑張って一族を支えていきますからっ…兄上もがんばっ…て」

「ああ。俺も頑張るからな。お前も頑張れ。
でもな、無理にお館様になろうとしねえでもいいから…残った奴らもきっとわかってくれる。
普通の可愛い嫁でももらって幸せになれよ。お前だけはちゃんと幸せになれ。
貴景の分も、幸せになれよ」
ひのきの言葉に貴行は泣きながらうんうんとうなづいた。

「貴虎様、そろそろ…」
つくしにうながされて、ひのきは貴行から離れた。
そして泣きながら手を振る幼い弟に手を振って車にのりこむ。

やがて滑るように車が動きだすと、遠ざかって行く7年ぶりの生家と弟を、ひのきはじっと窓越しに目をこらして脳裏にきざみつけた。

「縁…切れてしがらみもなにもないって思ってたんだが、実際に来ると色々くるものがあるな…」

完全にその影が見えなくなると、ひのきは唇をかみしめた。
あんなに逃げたいと思っていた場所なのに、今は泣きそうに懐かしく慕わしい。

日本に来て一位達の事もあって、自分のルーツにつくづく嫌気がさしていたのだが、ここにきて初めて自分も故郷を愛していたのだと知った。
そして自分のルーツが少し好きになった事で、自分自身の事も少し好きになれそうな気がする。

「つくしは…自分の実家はよらないでいいのか?
本部行くとなかなかってか、もしかしたら一生日本に帰れねえぞ?」
里を出かけてふと気付いてひのきが言うと、つくしは肩をすくめて笑った。

「俺は鉄線ですよ?土地に執着はありません。
お館様がいれば日本だろうと欧州だろうと米国だろうとそこが自分のいる場所ですから」

「葦にも会わねえで良いのか?」

「鉄線は情報でつながってますから大丈夫です」
たった一人の親だからとのひのきの心配もつくしは一笑に伏す。
そうこうしているうちに車は長野を出て静岡に入った。

なずなは行きと同様ひのきの肩にもたれて眠っている。
それを確認した上で、つくしが貴行から聞いた一位の話をツツジに説明をした。

「というわけで…ツツジ、お前のやるべき事はわかってるな?」
説明を終えて最後につくしが確認を取ると、ツツジはうなづく。

「はい。この身にかえましてもなずな様はお守りいたします」

「それだけか?」
つくしがさらに言うと、ツツジは小さく笑みを浮かべた。

「わかっております。もちろんなずな様にご負担をかけないように、ですよね。
なるべく普段通りに振る舞って頂ける様には努力致します。
一位の話も内密に致しますので」

「わかっているならいい。
お前がなずな様の元に常駐できるようにする交渉は俺がやるから」
「はい。よろしくお願いします」
ツツジとの話がすむと、つくしは今度はひのきに言った。

「今回貴行様からお聞きした話は俺からコーレアやルビナスに伝えますので、宿についたらお館様はゆっくりお休み下さい」
「ああ。悪いな」

肉体的にはともかくとして、今回は波状に明かされていくショッキングな事実のせいで精神的にかなり疲れた。
さすがにあまり自分で全てを背負い込むと息切れがしそうなので任せる事にする。

「恐れながらお館様…」
それからしばらくの沈黙の後、ツツジが迷った挙げ句、口をひらいた。

「ん?」

「大変出過ぎた事で申し上げにくいのですが…」
「ああ、かまわん。何でも言ってくれ。」
口ごもるツツジをひのきはうながした。

「はい。明日からまた任務に回られると言う事ですし、なずな様にも睡眠と休養が必要かと存じますので…今宵はできればお控えになった方が、と」
「ああ、わかってる。昨日もわかってたんだが…」
少しバツが悪そうに言うひのきに、つくしが少し笑いをこぼす。

「お部屋…別に用意いたしますか?」
「いや…それはそれで気になるから…。
まあいざとなったら色々頭冷やす方法もあるからいい」

一位の話を聞いた後だと、離れていると絶対に不安で眠れそうにない。
そのくらいならまだ眠れないだけで不安が無い方がましだ。

宿についたのはもう夕方だった。
コーレア達はすでに戻っているらしいので、今回の一件の説明はつくしに任せて、ひのきはまだ眠っているなずなを抱き上げて部屋に戻った。

「貴景って嫌な男だったけどさ、頭も悪かったんだな」
コーレアの部屋でひのきとなずな以外全員集合でつくしから報告を聞くと、ユリが吐きすてるように言う。

「嫌な男だったん?」
「うん。私が本家戻った時に親まで呼びつけて追い返したのが貴景」
「なるほど」

「逃げ帰る根性無しが悪い」
ホップとユリの会話をつくしは一刀両断にし、しかし

「まあでも確かに貴景はお館様の器ではなかったな。
恐らく一位により強い力を得られるからとか丸め込まれてイヴィルになったんだろうが、考え無しに得体の知れない力を取り込もうなんて考えるあたりがな、浅はかすぎだな」
と、続けた。

「でも…ひのき君にとってはきつい戦いになるわね」
ルビナスが秀麗な顔をゆがめる。

「まあ…貴景はな…それほど恐ろしい相手ではない。
ただの出来のいい兄にコンプレックスを持った弟のなれのはてだ。
問題は一位の方で…あれでも一応幼い頃から一族の長の妻となるべく色々英才教育をされている女だからな」

「ひのき君の女版てこと?」
ルビナスの問いにつくしが嫌な顔をした。

「やめてくれ。お館様とあんな女を比べるのは。
ようは…武術や知識などを幼い頃から教え込まれているだけだ。
上に立つ者としての心得も一応は教わってるはずだが、そちらはあまり身に付いているとは言えないな」

「ま、ぶっちゃけ…一位と貴景で良かったな。
私二人とも嫌いだからぜんっぜん心痛まないから」

「珍しく気があうな。俺もだ」
ユリの言葉に同じ顔をした兄も同意する。

「これ貴行坊やとかだとちとな…可哀想な気もしたんだが」
「同じくだ」
つくしはそれにも同意した。

「で?結局つくしは一緒に戦ってもらえるのかな?」
兄妹のつぶやきが一段落ついたところでコーレアが一番気になっていた点について確認した。

ブルースターを胡散臭いと称し、縛られるのはごめんだと断言していたつくしだ。
クリスタルに選ばれたとしてもその行動まで操れるわけでもない。
あくまで嫌だと言われればそれまでだ。
コーレアの問いかけに、つくしはニヤリとルビナスを振り返った。

「それに関してだが…交渉の余地があるなら参戦してもいい」
「それは…私になのかしら?」
視線に気付いてルビナスが聞くと、つくしはもちろん、とうなづく。

「ジャスティス自身には人事の権限はないのだろう?」
つくしの言葉にルビナスは少し意外そうに首をかしげた。

「あら、ブルースターに入れて欲しい人材でもいるのかしら?」
「いや、すでに入っている人材についてだ。
一人でいい、行動の自由を認めて欲しい」
ルビナスはそれに用心深く返す。

「相手と行動によるわね。…誰に何をさせたいの?」
「医務にツツジという部下が入る事になっているのだが…これをなずな様の護衛兼身の回りのお世話係としてつけたい」
つくしの要望にルビナスはポカ~ンとあきれた表情で答えた。

「個人付きの使用人てこと?」

「うむ。本来ならお館様の奥方になられる方だ、今回10数名入隊試験をクリアした鉄線一族全員をつけたいところだが、それはさすがに無理だろうから譲歩しているつもりだ」
つくしの返答にさらにあきれるルビナス。

「それは…他への示しもあるから…ちょっと難しいと言えば難しいわねぇ…」
「それなら俺は勝手に動かせてもらうが?」
つくしの言葉にルビナスは困ったようにコーレアに助けを求める視線を送った。

「物理的には一医務員が業務につくよりもジャスティスが増えた方がもちろん良いんだが…対人的に微妙な事になりそうだな」
コーレアも困ったように考え込む。

だがユリが、すぐ打開策を提案した。

「医療ならいいんじゃないか?
丁度なずなこのところの激務でよく身体壊してたし、専属の医師って事でどうよ?」

「ああ、なるほど。それなら周りも納得するな」
コーレアがホッとしたようにうなづく。

そして
「んじゃ、そういう事で後で本部へ連絡しておくわ」
と最終的にルビナスが請け負った。

一応話も一段落ついたところで
「んじゃ、そういう事で。ちょっと俺タカんとこ行ってくるわ」
珍しくホップが自主的に立ち上がったのに一同不思議そうな視線を送る。

「まあ…たまには、な。友達だし話でもしよっかなと。
食事までにはこっちに戻ってくるからさ」

「私も…行くか?」
ユリが言うのにホップは首を横に振る。

「二人きりで話したいからさ。ごめんな」
「うん。良いけど何かあったら呼べよ?」
「サンキュ。んじゃ、行ってくる」
軽く手をあげてホップは部屋を出て行った。








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