青い大地の果てにあるものオリジナル _4_9_ツツジ

そして翌朝、部屋に運ばれた朝食を、なずなが寝ている奥の間まで運んで熟睡中のなずなを起こしてみる。

「んぅ…」
眠そうに目をこすりながらぼ~っと見上げてくるなずなに、ひのきは小さく笑みを落とした。

「起きれるか?」
なずなはその声に2、3度目をパチパチして、
「…うん」
と、半身起こす。

「飯こっちに運んだから食っとけ」
「…うん」

ひのきは小さく返事をするなずなを抱き上げてテーブルの所まで運ぶ。
食事を終えるとなずなもだいぶ目が覚めて来たらしく、着物をきちんと着始める。

「やっぱ少し顔色悪いな。今日はなずなは休んでおくか?」
支度はお互い終えたものの、疲れた様子のなずなを見てひのきがその頬に手をやって言うが、
「ううん。行く」
となずなはスリっとひのきの手に頬をすりよせた。

「無理はすんなよ?」
「ううん。タカと行きたい。一人寂しいし」
なずなの言葉で二人は揃って部屋を出た。


「おはようございます」
ロビーに行くとつくしがすでに待機している。

「車の用意はできております。出発いたしますか?」

「ああ。そうだな」
ひのきの言葉でつくしがフロントに合図すると、フロントがうやうやしくドアの向こうへうながした。

玄関に回された立派な車のドアをつくし自らが開けた。
運転手の後ろの後部座席になずな、その隣にひのきをうながす。
そして二人が乗ると、自分は助手席に乗り込んだ。


「おい、つくし、お前も行くのか?」
驚いて聞くひのきにつくしは当然のようにうなづく。

「もちろんです。まだ一位が潜んでいないとも限りませんし、なずな様の護衛として同行させて頂きます。
運転手のツツジは鉄線家の女の中でも手練で医術もたしなんでおりますので、今後なずな様のお側に置いてやって下さい」
つくしの言葉にツツジが頭を下げる。

「あ、あの…でも私は本部に戻れば一ジャスティスにすぎませんし、人を雇う権限は…」
あわてて言うなずなに、
「そうだぞ。勝手に本部に部外者入れられねえから」
と、ひのきも同意するが、つくしは

「ああ、そのあたりはツツジは先日20歳になりブルースターの職員試験をパスしましたので…他にも20歳以上の部下10名ほど潜り込ませました」
と、とんでもない報告をしてくる。

「マジ…か」
一瞬気が重くなるひのきだが、
「一族が敵に関わってきているので内部事情に詳しくてすぐ動ける者となずな様の護衛を第一として動く者を用意するのが急務かと思い勝手に手配させて頂きました」
と続くつくしの言葉にあきらめる。

「一応な、俺達は本部では別にトップとか権限ある身じゃねえんだから、あんまり問題起こされるとフォローいれきれないから、摩擦を起こすなよ?」
とだけ注意した。

「とりあえず本家までだいぶかかりますし、なずな様は少しお休み下さい。
シートはリクライニングになりますし宜しければこちらもお使い下さい」

ツツジは全員乗り込むとトランクから毛布を出してなずなのシートをリクライニングにすると、毛布を差し出した。

「ありがとうございます」
なずなが礼を言って受け取ると
「いえ、お顔色があまり優れないように見受けられましたので。
ご気分が悪くなられた時は遠慮なくおっしゃって下さい」
と言って運転席に戻って車をだした。

「なずな、寝ておけよ。まだまだ着かねえから」
ひのきにもうながされてなずなは毛布をかけて目をつむる。


「ツツジは…13年前つくしが落とし穴作って落っこちた時にえらくつくしの事怒ってたよな。姉貴みたいだった」
車が走り出してしばらくしてひのきがそう言って懐かしそうに笑うと、

「お館様にお会いしたのはあの時とさらに5年後に開かれた親族会の2回のみと記憶しておりますが、覚えていて下さったのですか」
と、ツツジは冷静な顔に少し嬉しそうな表情を浮かべた。

「そりゃあな、鉄線家の長男殴り倒してたら忘れようが…」
思い出して笑うひのきに、つくしはバツが悪そうに
「忘れて下さい」
と言う。

「ま、確かにお前がなずなについててくれれば安心だな。
なずなは体強くねえから医術に通じていてくれるのも心強いし。
医療チームのトップはダチだから本部きたら紹介するな」

「それはぜひ。
私の会得した医療は古来からの東洋医術と民間レベルの西洋医術なので、先端医療には個人的に興味がありますし」

「相変わらず真面目だな、ツツジは」
その言葉に感心するひのき。

「知識を得るのが鉄線の生業ですしね」
ツツジの代わりにつくしが答える。

「一応妊娠出産小児医療も学んでおりますので、ぜひお館様のお子は取り上げさせて下さい」
ツツジの言葉にひのきは苦笑した。

昔話に花を咲かせながら車は進む。

「そろそろ長野に入ります」
ツツジの声でひのきが少し表情を厳しくした。


「本家は今…一位達とは確かに一線置いてるんだな?」

それ次第では少し考えなければならない。
しかし鉄線の確実な情報網ではそれはないとつくしは断言する。

「はい。野心のあるあたりはみんな一位に着いて行ったので、本家周りは逆に平和なものですよ。
良くも悪くも利用価値ありそうな力のある者も残ってないので」

「そうか。で、つくし、お前たまには貴行と連絡取ったりとかしてたのか?」

「いえ、実は7年ぶりだったりしますが…」
つくしは苦笑した。

「ただ去年家督を継ぐまでは親父は本家に残ってたので、親父通して内部情報は入って来てましたね」

「親父通してって…葦も公認の失踪だったのか?!」

葦というのは鉄線本家の前長で、つくし達の父親である。
ひのきの言葉につくしはそりゃあまあ、と笑う。

「だって鉄線の情報網ですよ?完全に姿隠せるわけないじゃないですか。
河骨は知りませんが、7年前に失踪した鉄線は全員親父公認でした。
んで去年ですね、一位が暴走したのをきっかけに全鉄線の力を持って貴虎様の支援に回って一位をなんとかしろって事で家督譲られたんですよ。
ということで、貴虎様を上に頂いて行動しろっていうのは、もちろん俺の意志でもあるけど一族の総意でもあるんです。
だから一位に付いて行ったのも21名と3家一少ないんですよ。
檜が多いのはたぶん一位の実家が檜分家だからで、河骨は…馬鹿だからなんですけどね」

最後の言葉はともかくとして、少なくとも一位をなんとかしようと一族をあげて行動する鉄線家の賢明さに、ひのきは感心した。


「つくし…一族以外にレッドムーンの関係者情報とか持ってるか?」
鉄線の情報網は下手をすればブルースターを超えるかもしれない。
ひのきが聞くとつくしはうなづいた。

「知ってる限りでは向こうの科学者の偉い辺りにジャスティスの身内がいるらしいですね。
あとは重要人物に関しては特に聞いてませんが…」

「ジャスティスの?!」
というと…ホップのか?ひのきは少し顔をしかめた。

「あとは…レッドムーンとは全く関係ありませんが、おもしろいところだとお館様のクリスタルの出所とか…」

「クリスタル?これか?」
つくしの言葉にひのきは首からかけたクリスタルに手をやる。

「ですです。
それの前の持ち主って…実はなずな様の父上だったりするんですがご存知でした?」
「いや、そうなのか?初耳だ」
「睦月柊。何故か武器も日本刀。元々お二人には何か縁があったのかもしれませんね」

「そうだったのか…」
ひのきは隣で眠っているなずなに目をやった。

この胸のクリスタルがずっとなずなを守ってくれていたのか…そう考えると少し暖かい気持ちになる。
そのまましばらく走ると段々懐かしい光景が見えてきた。








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