青い大地の果てにあるものオリジナル _3_16_雨降って地固まる

「ファー達、いいなぁ。なんで私にはできないのかなぁ、赤ちゃん」
取り損ねた食事を食堂でテイクアウトして部屋に戻ると、なずなは言ってソファの上で膝を抱えた。

「そりゃまあ...避妊してるから」
「避妊?」
そういえばさっきの話...と、なずなが見上げると、ひのきはうなづいた。

「赤ん坊がな、できないようにすることだ。簡単に言うと」
「え?!じゃあ私もう赤ちゃんできないの?!」
驚いて言うなずなにひのきは苦笑する。

「いや、避妊してる間だけな。
避妊しないでセックスすればできると思うけど...今はまずいだろ。
仕事の事もあるけどな...人間が一番子供産むのに安定してるのが20代なんだと。
ま、あくまで確率の問題だけだしファーなんかは頑丈だからな、まあいいんじゃね?って思うけど、なずな体強くねえから。
少しでもリスク少ない状態で産んで欲しいっていうか、な。
今子供なんて産んだら死にそうだから。
俺は子供欲しいしなずなの血を引いた子供が理想だけど、なずなの命と引き換えとかだったら要らない。養子とかでもいい」

「タカ...」
言ってひのきは横に座るなずなを引き寄せる。

「ま、見てみたいけどな、なずなの産んだ子供。マジ可愛いだろうな」
子姫ちゃん、だっけか?と、ひのきは思い出して笑った。



「しっかし...姫まで知らないとは驚いたさ」
ホップはユリの部屋でユリの遠征の荷物をつめながら、居間で色々ファーとトリトマに説明を終えて部屋に返して一休みしているユリを振り返った。

「ん~?なずなが性知識に詳しい方が驚かんか?」
ユリはお茶を入れながらそれに答える。

「でもさ、相手がタカだったから良かったけど、下手すればファーの二の舞じゃん?」
手を休めてホップも茶を飲みにテーブルによってくる。

「ああ、もし相手がそういう子供なら私が止めてるし。
相手がひのきだったから手を完全に離したんだよ。
あれの面倒は子供には無理。なにせ...一番身近にいた男がスーパー父ちゃんだったからな」

「姫パパ?」
「ああ。」
言ってユリは懐かしそうに目を細めた。

「すげえ良い父ちゃんだった。
私にとっても理想の父ちゃん。当時の私にとっては初めてお館様を超えた男だったな」

「そんなすごいん?」

「ああ。愛すべき脳筋でな。
うちはさ、お館様のために死ねってうちだったからガキの頃から育ててはくれたけど甘えさせてはくれなかったんで、私は当時結構可愛げないガキだったんだけどな、柊は...あ、なずなの父ちゃんな子供扱いしてくれてな。
いつも冬になると炬燵でさ、なずなと3人並んで寝てたんだ。
柊の左右の懐にもぐりこんでさ。
さっきのひのきの言葉じゃないけどさ、ほんと、他人の子供も自分の子供と一緒に育ててくれるみたいな感じでさ。いまだに私が炬燵に固執すんのはその名残」
言ってユリは膝を抱えた。

「タマにとっても父ちゃんだったんだな」
「うん。当時はお館様以外だと柊が初めてだったな。私に生きて良いんだって言ってくれたの。
実家では私達は死ぬ為に産まれてきたみたいに言われてたからさ、すげえ感動した」

「だからさっきあんな事言ってたん?要らない子供と要る子供って」
ホップは後ろからユリを抱え込んできく。

「ああ。私は生きないでいい子供だったからな。生きないでいい子って言うの見るのすげえ滅入る。
柊と暮らした4年間て多分人生の中で一番幸せな時期だったんじゃないかな。
柊死んだとたんさ、周りの目がもう生きないでいい子供に逆戻りだったからさ、お館様頼って逃げちゃったんだよ、私」
言ってユリは膝に顔をうずめた。
ホップはそのユリの頭を片手でそっとなでる。

「俺もさ、タカじゃないけど感謝する、姫パパに。
タマに生きてて良いんだって教えてくれてさ。
タマが生きてて良かったさ。
本当にタカの言う通りだよな。その時の柊さんのおかげで今俺にとってすごく大切なタマが生きてるのかもしれないんだもんな。
そう考えるとさ、ファー達の子供にも教えてやりたいな。そういうの」

「うん」
ユリは膝に顔をうずめたままうなづいた。







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