ドアを開けて中に入ると、大人3人、心配そうな視線をひのきに送る。
「サンドバッグ終了。コーレア、アニーが謝りたいって。行ってやってくれ」
ひのきの言葉に大人組は揃って詰めていた息を吐き出した。
言ってコーレアが病室へと向かう。
「さすがタカだな。んで?どう言ったんだ?」
フェイロンが聞いてくるのにひのきは
「あ~!もう忘れてえんだから聞くな!」
とソッポをむいた。
「はいはい。聞かんといてやりましょ。やめとき、フェイちゃん」
レンはなんとなく察してフェイロンの肩を軽く叩いた。
「なずな君のボイスは神だな。
俺は目が覚めた時にはもうすっかり傷がなくなっていた。
お前はどうだ?大丈夫か?アニー」
コーレアはベッドの端に座って彼を待つアニーに声をかけた。
「はい。おかげさまで」
答えるアニーの横に腰を下ろして、コーレアはその肩に軽く片手をかけた。
「今回は...アタッカーがしっかりしてないで悪かったな。
盾の君にずいぶん負担をかけた」
謝罪をしようと思っていた所に先に謝罪をしてくるコーレアにアニーはあわてて首を振る。
「いえ、僕の方こそすみません!
戦闘の邪魔をしてコーレアさんには大怪我させてご迷惑をおかけしました」
「いや...前回で一度経験しているはずなのに状況判断できなかった俺が悪い。
お前にはずいぶんつらい選択をさせてしまって本当に悪かったと思っている」
と、コーレアはまた頭をさげた。
「いえ僕は...たぶんしなくてはいけない経験をしたんだと思います。
すごく辛い事は辛い経験ではありますけど、ジャスティスですから。
それに...過去をなくしたのと同時に今の大切さがわかったような気がします。
僕にとって今一番大切な場所はここで、大切な人達はここにいますから。
それがはっきりわかったから大丈夫、僕は戦えます」
アニーの言葉にコーレアは少しつらそうに眉をしかめた。
「その年でそれがわかってしまうというのは...つらいな」
コーレアが言うと、アニーはゆっくり首を横にふる。
「いえ、辛い事ばかりじゃないから。仲間もいるし...」
「本部組は本当に良い関係を築いているな」
アニーの言葉にコーレアは微笑んだ。
「はい。
ひのきはつらい時は彼女に頼れって言ってましたけど、自分が頼らせてくれちゃうし」
クスっとアニーが笑う、
「同じ長男として悔しいですね。いつか彼が頼ってくるくらいになってみせますよ」
「いや、あれはあれで君の事はかなり頼りにしているみたいだぞ。
優秀な盾だしトリトマとかはまだまだ頼りないしな。
ルビナスも先日の基地攻めでの君の落ち着いた態度に驚いてた」
「ありがとうございます。精進します。」
コーレアの言葉にアニーは素直に礼を言った。
と、そのとき医務室の自動ドアが開いた。
「お、君が甘えないとならないお相手がきたようだな。親父は退散するとしよう」
言われてアニーはすみません、と少し赤くなって頭をさげた。
仮眠室に消えるコーレアと入れ違いに入って来たツインテールが可愛い彼女は、
「ご心配かけてすみませんでした、ジャスミン。
かばった時結構床に強く押し付ける形になっちゃいましたけど、すみません、大丈夫でしたか?擦り傷とかありませんでした?」
と笑顔を向けるアニーにいきなりバッチ~ン!と平手打ちをくらわした。
そして鳩が豆鉄砲をくらったような顔でぽか~んとするアニーに
「痛い?」
と聞く。
戦闘の時の攻撃に比べればたいした事ないと言えばないが、一応いくら打たれ強い盾と言っても痛覚は当然ある。
「は...い。まあ痛いと言えば痛いですね」
反応に若干困って言うアニーにツカツカと近寄って正面に立つと、ジャスミンはいきなりアニーの頭をグイっと抱き寄せた。
「じゃあ泣きなさいよっ!痛いんなら泣きなさいっ!!」
「あの...ジャスミン?」
アニーがおそるおそる顔をあげようとすると、また頭をさらにぎゅうっと胸に押し付けられる。
「なんでこんな時にあたしの擦り傷の心配してんのよっ!ばっかじゃないのっ!」
罵るジャスミンの声は涙声で、アニーは少し伏し目がちに微笑んだ。
「じゃあ...少しだけ...僕泣いていいですかね?」
「そのためにあたしが今ここに来たんでしょっ!」
答えるジャスミンの口調はやっぱり怒ってるようで...でも手はアニーの綺麗な金髪を優しくなでている。
「...僕...帰る所なくしちゃいました。一人になっちゃいましたよ、ジャスミン」
嗚咽を始めるアニーの頭をジャスミンの手がペチコン!と軽く叩いた。
「なんでそういう失礼な事言うのよっ!
こんな可愛い彼女がいて何が一人?!罰あたるわよっ!」
「はい...」
「これでもブルースター本部のアイドルなんですからねっ!
そんな彼女様が一緒にいるんだから一人なんて言わせないわよ!」
ジャスミンの言葉にアニーは泣きながらうなづいた。
「でも...僕...手が...」
大丈夫かもと混乱する頭で思ってひのきのように言ってみようとしたが、うまく言えずに嗚咽に飲み込まれる言葉を察したようにジャスミンは言う。
「そんなもん洗ってあげるわよっ!
私愛用のD‐ショップの新製品の桃の香りのハンドソープをもう匂いが落ちなくなるくらい目一杯使ってゴシゴシ洗ってあげるから安心しなさいっ!」
えらく具体的なジャスミンの言葉に泣きながら笑うアニー。
「そのかわり...無くなったら新しいの買えるようにしっかり働いてねっ!
死んだり逃げたりは許さないからねっ!」
それにも笑いながらアニーがうなづくと、ジャスミンは不意に体を放してアニーの顔に顔を近づけた。
「ちゃんと一生側で盾になって守ってもらうんだからっ。逃げられない様に...ね」
言ってジャスミンはアニーに口づけ、唇を離すと、
「続きは部屋でねっ。待ってて」
と言うと、クルっと仮眠室に駆け出して行った。
バン!とノックもなしにドアを開けると、ポカ~ンとする男を4人に臆する事なく、まずひのきに目をむけた。
「...よお」
反応に困って片手をあげて挨拶をするひのきを見上げてジャスミンは言った。
「今回はありがとっ!でも前回の事あるから貸し借りなしねっ!」
ジャスミンの言葉に吹き出すひのき。
それからジャスミンは笑い続けるひのきを放置でクルっとレンを振り向いて手を出した。
「えと...?」
少し引くレンにジャスミンはきっぱりと言う。
「コンドームちょうだいっ!」
照れもなく言う16歳の少女を前に、逆に真っ赤な顔で視線をそらす男4人。
「ないって事ないわよね?!ひのきにはあげてるんでしょ?!」
いきなり名前を出されてむせて咳き込むひのき。
「うん。まあそうやけど...女の子が...いや、ま、避妊に興味ないよりええんかなぁ...」
ブツブツ一人つぶやきながらレンは医療棚からスキンの箱を出してジャスミンに渡した。
「ありがとっ!じゃねっ!
あ、ひのき、兄さんには私とアニーは明日いっぱいまで呼び出したら殺すからって言っておいてねっ」
と言ってまたジャスミンは病室へ消えて行った。
「ジャスミン...っつええ~!」
感心して笑うひのきと対照的に
「あんな可愛い女の子があんな事口にするのか...」
とがっくり肩を落とす大人組。
「まあ...これで一応解決...だな?」
頭をかいてうつむくフェイロンに
「だな」
とひのきとコーレアがうなづいて、その場は解散となった。
そして病室。
「お待たせっ。もう怪我は治ったんでしょ?アニーの部屋行くわよっ」
何かの箱を大切に抱えて自分の腕をつかむ彼女に少し驚いて、それでもアニーは立ち上がった。
「えと...僕の部屋ですか?」
引っ張られるまま医務室をでながら自分の腕をひっぱる彼女に聞くと、
「そう!私の部屋じゃやだもん」
とジャスミンは振り向く事なくうなづく。
「なんでですか?」
わけがわからず聞くアニーにジャスミンはきっぱり言った。
「私のベッドのベッドカバーはね、ついこの前取り寄せたばかりのD‐ショップの新作なのっ!血でダメにするの絶対に嫌っ」
血で?血でベッドのシーツ駄目にするって??ええ??
呆然としている間にアニーの私室の前まで辿り着くと
「はいっ、ちゃっちゃと部屋に入れてっ」
と、命令口調で彼女は言った。
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