Pkmnパロsbg_1章_2

そうして1年。
今年もあの日がやってきた。

ギユウが初めて貰われた日…そして捨てられた日の前日……。

博士のデスクに乗って窓から外を覗いていると、子どもが数人研究所に向かって歩いてくる。

そこに無意識に立派な服を身につけたあの少年の姿を探すが、彼は去年、あれからヒトカゲを受け取って旅だったので、居るはずがない。


…きゅぅ……

ギユウは肩を落としてテーブルから椅子を伝って床に降りると、デスク横にある自分の寝床にもぐりこんだ。

今日は朝早くからウロコダキ博士が、産まれて1年以内の例の3種類のポケモンを今年来る少年少女達の最初のポケモンにするべく、ボールにいれていた。

3匹ということは、去年は4人だった新米トレーナーが、今年は3人なのだろう。

…きゅぅ……

去年の今頃は自分も真新しいボールに入って期待と不安を胸にトレーナー達を待っていたのだが……
そんな事を思うと、胸がずきずき痛んで、大きな丸い目からポロポロと涙が零れ落ちた。

ギユウに、お前のトレーナーだよと言ってくれた相手のためだったら、すごく努力するつもりだった。
本当は戦闘は好きではないし、戦うよりも植物の育成や花の妖精達と戯れたりする方が好きだけど、彼が戦闘に勝ちたいと望むなら、一生懸命戦うつもりだったのに……ギユウではダメだったのだ。

どれだけ一生懸命努力しても、炎タイプでもなければ、他よりも強くなれる保証もない以上、ギユウは望まれる事もなく、返品されるようなポケモンなのだ。
そう思うと悲しくて、タオルに顔をうずめて、きゅうきゅう泣いた。

そんな風にギユウが泣いている隣の部屋では…やっぱり泣き声が響き渡っていた。



「うああああ~~~!!!!
俺だって、俺だって守ってくれるポケモンが欲しい~~!!!
トレーナーになるんだ~~!!!!」

泣いているのはウロコダキ博士で預かっている友人の孫のゼンイツだ。
その横では同じく預かっている親戚の子どものタンジロウがオロオロとゼンイツとウロコダキの顔を見比べている。

「あ~…お前の祖父がお前は来年にと言っていたから、お前の分は用意してないんだが…。
来年じゃだめか?来年ならとびきりのやつを用意してやるから」
と、いつもウロコダキは少し困った様子でゼンイツに言う。


ちょうど同じ時期に預かったタンジロウとゼンイツは仲が良くて、しかもゼンイツの方が1歳年上だ。
しかしどこか気が弱く頼りないところがあるためか、ゼンイツの祖父はポケモンと自分だけで旅をする事になるトレーナーとして送りだすには、ゼンイツはまだ早いと判断して、あと1年預かった上で来年送り出してやってくれとウロコダキに頼んでいたのだ。

それでもゼンイツだってポケモンは大好きなので、1歳年下の友人であるタンジロウがトレーナーになるのだったら自分だって…と思うのは当然の成り行きだった。

来年じゃ嫌だと号泣するゼンイツ。
だが、元々申し込みのあったタンジロウとマコモ、そしてサビトの3人分しかポケモンは用意していない。

もちろん研究所に他のポケモンが居ないかというと居るのだが、あまり育ち過ぎたポケモンは新米トレーナーの言う事を聞いてはくれないし、他人に譲渡するには産まれて1、2年以内のポケモンが好ましいとされているので、その範囲のちょうど良いポケモンと言うのがいないのである。

新米トレーナー達以外にも譲って欲しいと言うトレーナーや愛好家などに譲ってしまっていたので、急にあと一人分と言われても用意は出来ないのだ。


こうして泣き続けるゼンイツ。

タンジロウは普段は聞きわけが良く色々譲ってしまうところがあるが、さすがに今回は自分もとても楽しみにしていたので、譲れないらしい。
困った顔で…それでも視線をあとの2人に向けた。

「そんなこと言っても…ちゃんと申し込んだ人の人数分しかないし…仕方ないわよね…」
と、4人それぞれ顔見知りでもあるので気まずそうに、しかし暗に自分も譲る気はないとマコモも主張する。

そして2人は最後の1人のサビトに視線を送った。

すると今まで黙って事の成り行きを見守っていたサビトは、面倒見の良い性格なのもあって、2人のように真っ向から拒否する事もなく、ウロコダキ博士を見あげて言う。

「ウロコダキさん」
「なんだ?」
「他に適当なポケモンいないんですか?
俺は寿命や人慣れの問題もあるから、年齢はできれば1,2歳くらいのにして欲しいけど、別に種類は気にしません。
フシギダネ、ゼニガメ、ヒトカゲとかじゃなくても、ポッポでもコラッタでも何でも良い。
最初のポケモンがなんでも、結局そいつを使って他のポケモン捕まえれば良いんだし」

2人とは逆に、代わりがいるなら譲っても良いと、暗に言うサビト。
それにウロコダキは考え込んだ。


居るには居る…1匹だけ……う~ん………

武士の家の息子のサビトは年齢の割にしっかりとした少年だ。
根が真面目で、今の提案からもわかるように心根も優しくまっすぐだ。

「あのな…一匹だけ居るには居るんだが…ちょっとばかし難しいやつなんだ」
と、ウロコダキはしばらく腕組みをして考え込んでいたが、結局賭けてみたくなって顔をあげて、まっすぐ見あげてくる少年の藤色の目を真正面から見据えて言う。

「俺はそいつで構いません。だから俺の分をゼンイツにやってください」
と、その言葉に即答するサビト。

ゼンイツがそれを聞いて泣きやんで、期待に満ちた目でウロコダキを見あげた。

ああ…こうなるともう、やっぱりダメとも言えなくなってしまったか……
と、少し後悔するも、とりあえずは言うだけは言ってみるか…と、ウロコダキは息を吐きだして、サビトを呼び寄せると、他の3人に言う。

「とりあえずな、まだ保留だ。
わしはサビトとちょっと話をするから、それ次第ではお前達で3匹のどれを連れて行くか決めて良いが、無理そうならゼンイツは今回は諦めろ」

その言葉にまたゼンイツの目には涙が浮かぶが、とりあえずまだ諦める事が決定されたわけではないので、ぐっと涙を堪えて俯いた。



こうしてウロコダキはそんな3人を残してサビトを連れて3人から少し距離を取って話をすることにした。

「あの…俺はべつに弱い強いや見た目にもこだわりません。
どんな奴でもまだ未熟な俺と苦楽を共にしてくれる最初の相棒になるんだから大切にします」

何から話していいものか悩むウロコダキにそういうサビトの言葉にウロコダキは少し安堵して、まず一番大切な事を確認する。

「あのな、そいつはもう絶対に返却も交換もNGだ。
連れて行くなら絶対に一生大切にしてくれんと、困る奴なんだよ。
そこのところは本当に大丈夫か?」

「もちろんです。
俺は武家の人間ですから。侍である父の名と俺自身の名誉にかけて誓います」

そこで気真面目な様子で頷くサビトに、ウロコダキは具体的な説明をする事にした。

「えっとな、そいつはわしが隣の大陸に渡った時に見つけた卵から生まれたポケモンでな、この大陸にはおそらく1体しかいない。
他に発見例がないため、一応発見者ということで種族についてはわしが“キツネリス”と名づけた新種だ。
タイプは水タイプ。
それ以外は進化するのかしないのか、強いのか弱いのかさえ、正直わしにも全くわからん」

「…戦闘方法なら…慣れるまでは俺が補佐してやれると思います」

「ああ、まあそちらもそうなんだがな。
それより厄介なのが、そのポケモンは本当は去年のトレーナーのために用意したものなのだ。
それで、新種だというので、鈴木のところの坊主が喜んで連れて帰ったんだが、あそこは代々炎ポケモンの名家だからな。
親に反対されて翌日返しに来て、代わりにヒトカゲを連れて行ったんだ。
それがキツネリスにとってはすごくショックだったようでな。
トレーナーの方も新米で緊張するだろうが、ポケモンだってこの日初めてボールに入って初めて自分のトレーナーというものを持つわけだからな。
そこで拒絶されて返品されたら、繊細な奴なら当然病む。
それで、こいつは初めてボールに入ってトレーナーの家に行って、その夜にボールに入って次にボールから出たら返品されていたということで、ボール恐怖症で、ボールに入らん。
無理に入れようとしたら丸一日飯食えなくなってな。食っても吐くくらいだ。
そういう経緯があるから、もしかしたら当分懐かないかもしれん。
信頼関係を築くのがとても大変だと思う。
それでも大丈夫と言えるか?」

正直…こんな話を聞かされたら自分でも躊躇するとウロコダキは思う。
ましてや相手は10歳を少し過ぎたばかりの少年で新米トレーナーだ。

…ああ、これはゼンイツを泣かせる事になるな…と、考えれば考えるほど良い方向に行く気がしなくてガシガシと頭を掻くが、この少年は想像以上に根性と度量を持っていたらしい。

「とりあえず戦闘うんぬんより、まずポケモンに信用してもらうところから始めろという事ですよね?
わかりました。慣れるまでは場所移動しない方が良いかもしれないから、もしかしたら数日はここに泊めてもらうことになるかもしれませんけど、良いですか?」
と答えが返って来て、ウロコダキを驚かせた。







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