ただしイケメンに限る!_3_イケメンは秘かに画策す

――あー、錆兎、邪魔してるぞ

錆兎が自宅マンションに戻ると、悪友二人が酒盛りをしていた。

1人は宇髄天元。
こいつは錆兎の隣の家に住んでいた一つ年上の幼馴染だ。

互いに前世の記憶を持っていて、錆兎が幼稚園くらいの頃だろうか…鬼について語ったことで互いにそれを知った。

もっとも前世では錆兎は鬼殺隊に入る前に亡くなったので面識はなかったのだが、宇髄の方は義勇に聞いて知っていたらしい。
大いに興味を持たれると共に、今生で義勇を探したいという錆兎の思いも知って協力してくれていた。

もうひとりの不死川実弥は小学校の同級生で、宇髄を通して前世の諸々を知って以来の付き合いである。


こうして小学校から3人で何かというとつるんで宇髄と錆兎は同じ大学へ。
不死川は違う大学へと進学したが、宇髄の誘いで一緒に起業してとんでもない利益が出たその年に、3人揃って隣同士に引っ越した。

それ以来、仕事でもプライベートでもつるむので、互いに互いの部屋の合いカギは持っている。


…が……

「なんでひとの部屋で酒盛りしてるんだ?」
と、ジャケットをソファに放り出しつつ眉を寄せた錆兎の言う事はおかしくないと思う。

本人がいるならとにかく、今日はデートで不在の旨は伝えておいたはずだ。
何故お前ら家主がいないとわかっている家にいるんだ…と、それでも口で言うほど気にしてもいなければ気を悪くもしていない証拠に、黙って錆兎のワインをグラスに注いで渡す宇髄の手からそれを受け取ると、錆兎は不死川が作ったつまみをテーブルの上の皿からつまみあげて口に放り込んだ。

「今日は別にいいけどな、来週は勝手に俺の部屋に入るのも、プランターから勝手に野菜もいで行くのも禁止な」
そう宣言をした後、モグモグと咀嚼しながら、ワインをあける。

まあある意味、普通なら当たり前の事なのだが、普段はそれを互いに許している程度には3人は気の置けない仲だ。

その言葉にいち早く反応したのは、3人の中で一番生真面目な不死川だ。

「わりいな…。玄弥がなぁ、今日初デートで…
相手の子が料理が得意で手料理作りたいって言ってるらしくて、俺の部屋貸してやってんだわァ。
ここがまずかったら宇髄の部屋行くけど…」
と、割合と真剣な顔で謝罪をする。

「あ~不死川、そうしたければ俺の部屋使ってていいぜ。
俺は今日は錆兎のデートについて聞かないとだし?」
と、それとは対照的ににやにやとした表情を浮かべるのは宇髄。

「目的はそれか」
と、錆兎は宇髄には呆れた顔をしてみせ、不死川には
「ああ、別に今日はかまわない。家まで送ってわかれてきたところだし。
居ないで欲しいのは来週な。
部屋に呼ぶことにしたから」
と、もういっぱい注ぐようにと、ワイングラスを差し出した。

「ええ?!!うそだろっ!!展開はやっ!!
あの冨岡が出かけるの了承しただけでも驚いたが、部屋まで来るってすげえな!
一体どういう誘い方したんだよ!!」
と、宇髄が目を丸くして身を乗り出すが、錆兎の感覚だとなぜそこまで驚かれるのかわからない。

宇髄に最初に義勇の話を聞いた時もそうだったが、自分が死んだあとの義勇と自分が知っている義勇はまるで別人だと思う。

錆兎の知っている義勇は、わりあいと裕福な家でおっとりと育った少し内気なお坊ちゃんで、姉に育てられたせいか錆兎から見ると少しばかり少女趣味な優しく可愛らしい少年だった。

こういう言い方はなんだが、誠意を持って、さらに優しく接してやればわりとすぐ懐いてしまうので、心配なくらいである。

自分が死んだあと、男ばかりの鬼殺隊でおかしな輩に絡まれたりしなかったか心配していたわけなのだが、宇髄から聞いた義勇というのは、無口で無表情で他人と関わりを持つのを拒んでいるような印象の男だったというから驚いた。

不死川からみた義勇の印象というのもほぼ同じなので、おおむねそんな感じだったのだろう。

ただ唯一、彼らの同僚の柱の1人だけ、義勇の事を”天然ドジっ子”と言っていたらしいのだが、錆兎に言わせるとそれこそが義勇で、おそらく他には人見知りをしていただけでは?と言ってみたのだが、

『はあ?あれはそんな可愛いもんじゃなかったぜぇ?!』
と、不死川に思い切り否定をされた。

まあそういうことで、錆兎からすると、勢いよく言われれば頷いて付いてきてしまうのは、義勇の行動としては実にありがちなわけだが、2人には驚かれている。

さらに不死川には
「少女趣味な冨岡なんて想像できねえ。気味が悪ぃ」
とまで言われてムッとした。

「義勇らしくて可愛いだろうがっ!」
と反論すれば、宇髄まで
「いやいや、なんだか俺らが知ってる冨岡と実は別人なんじゃね?」
と言われてしまう。

何を言っている?実際、今生で会った義勇は錆兎が知っている内気で不器用だが可愛い義勇なので、証拠として見せてやりたい気もしたが、あんなに可愛い義勇を見せて宇髄あたりにおかしなちょっかいをかけられたら嫌なので、考え直した……ら、

「錆兎、今なんだか俺に対して失礼なこと考えなかったか?」
と、宇髄に憮然とした顔をされたが、

「別に?お前も早く嫁さん達がみつかるといいな」
と、澄まし顔で答えておいた。


そう、宇髄も前世の嫁、雛鶴、まきを、須磨を探している。
起業という形に走ったのも、勤め人になってしまうと時間的にも金銭的にも人探しが難しくなりそうだからだ。

唯一、兄弟として探し人が最初からそばにいた不死川も
「まあ…錆兎も冨岡を無事みつけられたんだし、俺らがこうやって近くに生まれたのも何かの縁なんだろうから、お前の嫁も案外時期がきたらサクッとみつかるんじゃね?」
と、言葉を添えた。

ともあれ…不死川の所の玄弥も義勇と同じく前世の記憶がないらしい。
自分たちは当たり前に幼い頃からあったので、あるいはここまで記憶がない人間はそのまま前世のことは思い出さないままなのかもしれない。

不死川の場合、別に兄弟が幸せに現世を生きて普通に兄弟をしていければいいらしいのでそれで良いのだろう。

だが錆兎の場合、義勇とは兄弟でも親戚でもないので、なんらかの縁を作っていかないと大学を卒業してしまったら下手をすれば一生会えない可能性だってあるのだ。


時間は大学を卒業するまでのあと3年。
前世の記憶に頼れないなら、その間に義勇にとって前世以上に必要な人間にならねばならない。

幸いにして義勇の好みは前世とさして変わっていないようだった。
今日の義勇の反応をみれば、つかみはバッチリだった気がする。

あとは…胃袋を掴みに行かねば!!
そのために日本一の鮭大根を作るべく、料理教室にも通ったのだ!

前世では13で死んだため、結局自分がどこまで望んでいるのか前世でも今生でもわかっていないが、ただ一つわかることは、前世の分まで義勇と一緒に生きたいと思っている、それだけだ。

鱗滝錆兎、そのためにどこまでも邁進する所存である。






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