「一応…物理的に今回起こった事をわかる範囲で追ってみましたが…」
錆兎が言うと、
「ありえない天才だな、君は。やっぱり凡才は天才には勝てないのかな、一生」
と、光一は言って小さく息を吐き出した。
成績も良くスポーツも出来て…容姿こそ同じだったものの優れた部分は全部弟に持って行かれていた。
苦労もせず何でも手にいれる弟を羨ましいと思ったし、正直近寄りたくないと思っていたよ。
そんな中弟に出来た彼女が澄花だ。
弟はモテる男だったからいつも複数の彼女がいてね、いつもクリスマスとかイベントが重なってしまうような時は、どうせ暇なんだからいいだろって感じで僕に身代わりをさせていて…澄花に初めて会ったのはそんな身代わりで行かされたクリスマスだった。
頭がいい彼女にはすぐバレたんだが、彼女はなんというか面白がりで…どうせなら面白いからソックリな兄弟を並べて遊びに行きたいってことで、僕のパートナーとして紹介してくれたのが志保だったんだ。
サバサバした澄花と対照的に大人しい…内気な子で…弟みたいな出来すぎる男は怖いし、普通の人がいいって言ってくれて…僕達が真剣につき合いだすのに時間はかからなかった。
翌年のクリスマスにはお揃いの指輪も交換した。
お互い照れ屋で恥ずかしくてつけられなくて、それをお揃いのチェーンに通してペンダントとして身につけていたけどね。
そして次の年末から正月休み、久しぶりに弟と澄花と4人で旅行に行こうって事になってここから少し離れた旅館にきたんだ。
志保は何故か気がすすまなさそうだったけど、僕は彼女がいると言う事で弟と対等になった気がして…今思えば見栄だったんだな。
そして1月2日の夜…花火があがるっていうんで見に行こうって誘ったんだけど彼女は後で行くからって一緒に来なくて、僕は場所取りしておいてくれって言う弟の言葉で場所を取っていて、途中澄花も同じ事言われたらしくて外に出て来てて、でも花火があがる時間になっても二人とも来ないから様子見に戻ったら、二人が布団の中にいたんだ。
もう裏切られたショックで僕は彼女を罵るだけ罵って部屋を飛び出した。
入れ違いに澄花が入って来て…彼女も同じだったらしい。
罵るだけ罵って泣きながら出て来た澄花と二人、僕達の部屋にこもって泣きながら花火を見てた。
しばらくして志保が来てドアをノックしたけど僕らはそれを無視した。
”お願いだから話を聞いて。全部話すから…”
泣きながら言う志保の最後の言葉も聞かないふりをした。
自分より光二の方が優れてる。僕はそんな当たり前の事を聞かされるのが嫌だったんだ。
それから数時間後、志保は近くの崖から投身自殺をした。
崖にきちんと揃えておかれた靴の中には二人が交換した指輪のペンダントと涙でにじんだ字でただ”ごめんなさい”とだけ書かれた遺書。
詳細はかかれてはいなかった」
そこまで言ってうなだれる光一の肩にポンと手をかけると、
「換わるわ」
と、澄花はうつむく光一と対照的に挑戦的にも思える様なキリっとした目で顔をあげた。
「正直…志保が死んだ時、最初は私は何にも感じなかったの。
私達は孤児院で一緒に育って姉妹みたいなもので、でも私は自分の方がしっかりしてると思ってたし、いつも彼女の面倒をみてると思ってたから、出し抜かれたのが悔しかったのね。
許せなかった。
でもそれ以上に許せなかったのが光二。
志保は自分から言いよれるような子じゃなかったし、わざわざちょっかいかけたのはあいつの方だってのは火を見るより明らかだったから。
そして志保が死んだ事で怒りは一気に彼に向かったのね。
遺体を確認するなりそのままの勢いで駐車場に止めた車の所にいた光二の所に駆け込んだんだけど、その時なんだかコソコソ荷物整理してた光二があわてて何か隠したのを見て、それを取り上げたの。
写真だったわ。乱暴された時の志保のね。
それからはもう、言わないとそれを光二が持っていた事を警察に言ってやるって問いつめて吐かせたの。
結局…光二は光一に成り済まして志保を呼び出して乱暴した挙げ句、写真とってそれをネタに脅してその後も関係持ってたのよ。
それ聞いた私はもう呆然よ。
後先考えずに彼を罵って警察へ訴えてやるって踵返して後ろ向いた瞬間殴られて気を失って…
どうやらたぶん車に乗せられてそのまま突き落とされたっぽいのよね。
気がついたら病院で…もう全然何も覚えてない状態で…車も自分のでも知り合いのでもないっぽかったらしくて…でも第一発見者だったその車の持ち主がたまたま良い人でね、身元はわかったものの記憶ない状態で東京戻っても暮らせないだろうって私を引き取ってくれたのよ。
それが今の主人。
その後私は4人で旅行来て、志保が自殺して、自分はたぶん自殺未遂かなにかしたんだろうって事は聞かされてて、でも思い出せないまま主人の所で暮らしてて…まあそのまま結婚したの。
幸い看護士としての仕事は覚えてて、こっちでも看護士をして暮らしてね。
そのまま生きて行けたら幸せだったんでしょうけどね、結婚して14年目、夫が癌で余命1年て宣告されてね、その時彼が写真を出して来たの。
炎上する車からぎりぎり私を助け出した時に私が握りしめてたんだけど、あまりにショッキングなものだったからその時の私には見せない方がと思ったまま、返すタイミングを逸してしまったけど、もう20年近くたつものだし、私が記憶を取り戻す助けになればって。
それはあの時私が事実を知るきっかけになった志保の写真だった。
それで…全部思い出したわ。
夫にも全部話した。
ほんとはね、夫が亡くなってからにしようと思ったのよ。
19年よ?ずっと何にもないどころか自分の車をぶちこわした私を幸せにしてくれた相手なんだから、ちゃんと看取ってあげないとって、さすがの私でも思ったわ。
でもね、あの人はもう私の性格なんてお見通しでね、
”そんな人でなしのために君の人生を捨てる事はない。
どうせなら僕の残りの人生を使いなさい”
って、完全犯罪を目指そうって協力を申し出てくれたの。
迷ったわ。
私どう考えても最後の最後まで彼の人生を踏みつけにする気がしてね。
でも彼が言った。
”僕の死後に君がどうなるかを心配しながら死ぬのは嫌だ。
それでなくても何にもなくても君はめちゃくちゃな人なんだから。
少しくらいは心配ごとを減らしてくれ”
もうその言葉で決意したわ。
彼はたぶんそういう人で…私がそういう人間だってわかってそれが良いって結婚してるわけだしね。
その後…光一の実家は知ってたから光一に連絡取って全て打ち明けて…3人で計画練って、後は鱗滝君の言った通りよ。
しっかし…最初君達見た時、4人で来た旅行で端を発した復讐劇で、同じような4人組カップルいるなんて面白いなぁって思ったんだけど、こんな風に関わってくるとは思わなかったわ。
誤解しないでね、
最初は君達巻き込む気なんてぜんっぜんなくて、バレなかったら今でも良いおじさん、おばさんとして冷やかしながらも楽しくおつきあいしてたと思うわよっ」
あっけらかんという澄花。
「言い訳じゃないんだけど、光一なんてユート君の事本当に心配して申し訳ない事したって言い続けてたし。
あんまり関わっちゃ怪しまれるからまずいって言うのに、心配だからって部屋まで連れて来ちゃうしね」
と、澄花はさらにからかうように言った。
「光二を殺した事自体は後悔はしてないわ。
まあ…旦那巻き込んじゃった事と可愛いカップル達の信頼裏切っちゃった事くらいかな、後悔があるとすれば」
さらにさらに付け加える澄花に、光一は顔を上げた。
「僕は…でもユート君と話せてなんだか楽しかったよ。
最初は僕と似てるのかなぁなんて思って他人じゃない気がして放っておけなかったんだけど、君は僕とは全然違う。
錆兎君みたいにすごい天才といて全然卑屈にならずに自分を保てるんだからね。
ユート君も本当にすごい大物なんだと思う」
「あ~それ誤解です」
光一の言葉に錆兎が言った。
不思議そうな視線を向ける光一に、錆兎はクスっと笑みをもらす。
「俺が…4人の中では唯一の凡人ですよ。
幼児期から必要な事をやる時間を全部削って勉強と武道だけをやらされてきたので、少しばかり勉強ができて反射神経が良くなったくらいで…。
でも他は普通に育って来たのに、姫は…超能力並みの勘の良さでピンポイントで重要な事を提示して、アオイはありえない確率で重大な場面に出くわして、ユートは情報集めの天才。俺は…使いっぱ兼その皆が集めたすでに答えが出ている少しわかりにくいだけの事実をわかりやすく翻訳するだけの人間です」
「ま、四葉のクローバーだね。4人いる事に意義がある」
それを補足するようにユートが言って、他2名もうなづいた。
「なんか…色々えぐられる事件だったよなぁ…」
帰りの電車の中で錆兎がつぶやいた。
いつものごとくその横では錆兎の肩に頭を預けてギユウがすやすや寝息をたてている。
「まあねぇ…人間関係考えさせられたよ、色々」
ユートも脱力したように肘掛けに肘をついて言った。
アオイもさすがに疲れたらしく珍しくユートにもたれかかって眠っているので起きているのは男二人だけである。
「俺さ…ユートからもらったメール見て、もしぎゆうが俺よりユートが好きとか言い始めたら自分どうするかなぁとか考え込んじゃったんだけどな…」
ため息まじりにいう錆兎にユートが吹き出した。
「それありえんてっ。
ま、俺は逆に錆兎とアオイが浮気したらどうする?って聞かれたんだけど、雅之さんにっ。で、サビトはどうするん?」
「あ~、真っ当にやったら勝てんだろ。ユート人間関係天才的だしなぁ」
その言葉にさらにユートは吹き出して言う。
「サビトが俺に勝てないなんて思ってんのお前だけだってマジ。スペック違い過ぎだしっ」
「いや…絶望的に空気読めないから…。女心マジわからん」
錆兎は真顔で断言し、しかしさらに
「でもな、よくよく考えたら恋愛って一人じゃできんからな。
ユートは俺がぎゆうのことが好きで、今現在つきあってるって知ってて手ださんから、無問題だなと」
とつけたした。
「あ~俺もそれ思ったっ」
ユートはクスクス笑う。
「まあ…でもそんなサビトが万が一そんな自体を引き起こしたらそれは浮気じゃなくて本気だから泣きながら諦める事になるんだろうなぁと…」
「…お前は俺か?俺も同じ事思ったぞ」
と錆兎は額に手をやってため息をついた。
「でもな…それでも一つ言えるのは…俺、それでもぎゆうの事好きでいると思うし、ユートとも親友やってると思う」
「それ、俺も同じく」
そして男二人、ちらりと自分の彼女に目を落とした。
「たまたま男女二人ずつだったから男女二組になってるけどな…それでも二組のカップルである前に4人の仲間だよな…」
「うん…まあ四葉のクローバーってことで」
クスリと笑みをもらす男二人。
凶は…これ以上悪くはならないからあとは好転するだけという考え方もあるらしい。
最悪な自体になりかけて、結局今回もできなかったわけだが…まあ仲間との絆は深まった事だし、次こそは自体が好転するはず…。
次こそは奮発した500円分くらいの良い事は起こしてくれよ、頼むよ、神様…。
変な事に巻き込まれないようにって言う願いはきいてくれなかったんだから、次こそはもう一つの願い事は頼むよ、マジ…。
静かな時間が流れる中、自分の肩に頭を預けてアオイが確かに規則正しい呼吸を繰り返しているのを感じながら、ユートは秘かにそう心の中でお祈りした。
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