オンライン殺人事件クロスオーバーY04

なりすましメール(10日目)


昼…なんだかまた誰か殺されたっぽい。
赤坂めぐみ…って…まさかメグか?

なんつ~か…最初の一件こそマジかよとか思ったんだけど、これだけ続くとなんだかかえって現実感がない。
殺人現場みたわけでも遺体みたわけでもないし、普通の日常を考えるとこれだけ短期間に3人とか死んでるともうネタなんじゃないだろうかと疑ってみたくもなる。

なんとなく自分の名前からキャラ名つけてる奴多いから、赤坂めぐみってもし今回の参加者なんだとしたらメグなんだろうな~なんて他人事のように思う。

アオイは多分本名があおいなんだろうし、サビトが女ってありえんしな。
サビトがついててお姫様に何か起きるとかも普通にありえないんで、まあマジ他人事決定。


てこと考えると…だ、あんまりエドガーに情報もらさず現状維持が無難なんだよな。
リアル明かさず呼び出されず。
リアル周りに今回のゲームの参加者だって言う事ももらさない。

これで魔王倒されるの待つのが一番安全。
つか、そうしてればとりあえず殺されるとかいう事態に陥る事ないぽ~。


まあ…結果論なんだけど、こういう事態が起きた事考えるとエンチャ選んでおいて正解だったな。
今まで殺されてるのはウォーリアーにベルセルクにウィザード。
どれも火力ある…ってことは魔王倒せる可能性あるジョブだ。

逆説的に考えると次やばいのはエドガー、イヴ、シャルル、ヨイチ、そして…サビト。
同時に賞金1億が原因だとすると、犯人はその中でサビトをのぞいた誰か。
サビトは1億狙ってんならあの時俺ら助けてそのまま構ってたりしてないだろうし。

ま、犯人は誰でもいいや…っつ~か自分がポカやんなきゃ他人事だしな、マジ。
俺は積極的にポカやらん限り狙われる事ないだろうし…っつ~かサビトだけだし、狙われる可能性あるの。
んでもって…奴は多分今回の参加者の中で一番殺されるようなポカやる可能性が低い人間だし。

それより…一応ゲーム中は無理でも魔王倒されて安全になったらちょっとアオイを誘っちゃおうかな~なんて考えてる身としては、こんな事件起きてアオイが人間不信とかになってないといいな~なんてそっちの方が重要。

ホントだったらせっかくミッション達成金とか結構入ってるから一緒に遊びに行ったりとかしたいとこなんだけどな。

なんてお気楽に考えつつ、俺は20時になっていつものようにログインする。

サビトは相変わらず早くてもう来てる。
サビトに誘われてパーティーへ。
お姫様もそのうちインしてきて同じくパーティーへ。

アオイが来ない…。

まさか…大どんでん返しで赤坂めぐみだったとかじゃないよな?
少し不安になってきたけど、取り越し苦労だったみたいだ。
やがて少し遅れてアオイがインしてきた。



『こんちゃっ(^o^)ノ』
と、挨拶して、そのままパーティーに入ってくる。

それにみんなが挨拶返してると、アオイはいきなり
『ギユウちゃん、身体もう大丈夫なの?無理しないで休んでた方が良くない?』
とお姫様に声をかけた。

へ?
昨日は特に体調悪いとか言ってなかったけど…とぽか~んとする俺。
サビトは即反応する。

『どこか悪いのか?なら無理するなよ。ログアウトして早く寝とけ。
レベル開くの嫌なら今日はレベル上げ行かないで金策でもしながら待ってるから』

まあお姫様はそこで素直に落ちるような子でもないんで、俺もそこで
『そうだよ、先は長いんだしね。無理しないで?
まあ…それでも色々あったし不安だったりとかして一人嫌なら、街でまったりおしゃべりでもしてようか(^^』
と声をかけるが、それに対して今度はお姫様がぽか~ん。
ハテナマークを振りまきながら俺ら3人の周りをクルクル回った。

『えっとぉ…私どこも悪くないんですけど……』
『え?だって今日貧血起こして倒れたって………』
『…?…なんの話です???』
とアオイと言葉を交わしたあと、双方無言。
ウィス中な予感。

まあ…アオイが何かの勘違いしてるに一票。
お姫様は他を気にしない分、嘘もつかないから。
それがあってる間違ってるは別にして、本当に自分の思ってる事しか言わない。
んでもって…自分が今日倒れたとかだったらさすがに覚えてるだろうし…。

ところがまあ…他の事では鋭い分析をみせるくせにお姫様の事では結構いつも振り回されるサビトが今回もやっぱり振り回された。

『お前ら!裏で話進めるなっ!』
って怒ってるようにも見えるけど、まあ動揺してるに一票。

お姫様がそれにちょっと驚いてピョンと一歩はねると、
『悪い…怒ってるわけじゃなくて…。
女同士の方が話しやすいのはわかるけど、体調悪いとか隠されると心配になるだろ…。
なんかあるなら言ってくれ。時間調整とかして無理させないようにしたいから』
と、トーンを下げる。
そして無言…。今度はサビトとお姫様がウィス中な模様。

やがてまた流れるサビトの怒声。
『アオイ、お前なぁ!』
に即お姫様が
『サビトさん…怒らないって約束したのに……』
とかぶせる。それで黙り込むサビトが笑える。
もう立場的強弱が思い切り出てる。

『えっと…俺だけ何にもわかってないっぽいんで、説明してもらえると嬉しいかなぁ…なんて思ったりとか…(^^;』

一応そこで唯一進行役になれそうなサビトが黙り込んだんで、仕方なしに俺がうながすと、サビトがため息をついた。

『今朝…な、アオイんとこに姫のメルアドから一緒に買い物しようってメールが届いたらしい』
『あらら…好奇心が勝っちゃった訳ね(^^;』
と言いつつ羨ましい俺。俺も送れば良かった。

ところがサビトはそこでまたため息。

『それですめば良かったんだがな……』
『何か問題でも?』
『大問題だ。姫はそのメールを送ってない』
『どういう事??』
俺とアオイが同時に聞く。

『たぶん…なりすましメールだ』
『なりすましメール??』
俺は聞き慣れない言葉に首をかしげた。

『えとな…最近詐欺とかでよく使われるんだけどな…他の人間のメルアドでメールを送れる方法があるんだ。
例えば…実際は俺が送ったのに、送られた側の方にはユートのメルアドから送られたように表示されるみたいな感じだな。
本当のユートのメールを使ったわけじゃなくてあくまで偽装だから、ユートの側のメールには送信履歴とかも残らない』

『え~っと…つまり…』
そこで一旦言葉を切るサビトをうながす俺。

『今回で言えば…誰かわからない第三者が姫のアドレスを使って姫になりすましてアオイにメールを送ったってことだ。
で、そこで問題だ。
二人とも今回のためにメルアドを”新しく取った”という事は…二人のメルアドを知ってるのは今回メルアド交換をしたこのゲームの参加者だけって事だ。
いいか?このゲームの参加者だけって事なんだぞ?!
ここまで言えば…いくらなんでも何を言いたいのかわかるな?』

うあああ~~~~
それって…やばいんだよな?!
てかなんでいきなりアオイが標的になってんだよ?!

『またなりすましが発生する可能性は充分あるからこれからは仲間3人にメール送る時、合い言葉というか本人同士しかわからない暗号みたいなものをいれる事にするぞ。
例えば…文章の3行目の終わりに必ず@いれるとか…そういうのをそれぞれ特定の相手ごとに作る。
だから…一人につき3種類な。
お互いしか知らなければ、誰かが暗号もらしてもあとの二人に被害が及ばないからな』

俺の動揺をよそにサビトは淡々と続けた。
まあ…確かにこうなるとなりすまし対策は必要なんだけどな。

とりあえず言うべき事の説明を終えてすっきりした口調でサビトはアオイを振り返った。

『じゃ、成り済まし対策はこれで良いとして…終了っ。
んで、アオイ…あれほど注意したんだから、よもやお前それでノコノコでかけて行ったりはしてないよな?』

それだっ!
とりあえずメールは全員交換してるわけだし、それが知られてる自体は問題ない。
サビトの言葉にアオイは一瞬言葉に詰まった。

『あ…あの、さ…、一応人通りの多い時間に人通りの多い場所だったから……人目いっぱいだったから…殺されないで良かったなって事で……あはは……次からは気をつけます……』

うあ…行っちゃったのか…。

『行ったのかっ!この馬鹿野郎っ!!!』
サビトの怒声。

『ごめんなさいっ!』
叫ぶアオイにサビトは沈黙した。


やばい…よな。殺されなかったのは幸いと言えば幸いだけど、たぶん顔見られてる。
その後サビトはちょっと無言。何か考え込んでる。
そしてまた口を開いた。

『アオイ、確認』
『はいっ』
『今ちゃんと窓の鍵かかってるな?自宅のドアの鍵も。
あと窓のカーテン開いてたら閉めろ』
『らじゃっ!』
確認に行ったらしくしばらく動かなくなるアオイ。

やがて
『大丈夫だったっ』
と言って動き出すアオイにサビトは、
『よしっ』
と短くうなづいたあと続けた。

『携帯は常に充電して、手元においておけ。何かあったらすぐ110番できるようにな。
あと…持ってなければ早急に防犯ベル買って来い。
買いに行く際に人通りない所通るようなら、家族なり友人なりについて行ってもらうか、それが無理ならタクシー使え。命には変えられんだろ』

『てか…当分家からでない様にするから…』
まあ…それが正しいよな。
外歩いてる時に犯人と鉢合わせする可能性だってあるし。
アオイが我慢出来るならそれが一番と俺も思ってると、サビトはまた今日何度目かのため息をついた。

『お前…全然わかってないだろ…』
『え?』
『今回な、犯人がなんで状況的に殺せないのにわざわざお前を呼び出したと思う?』

え~っと………

『犯人の目的は今日呼び出した場所でお前を殺す事じゃない。
待ち合わせ場所にきたお前の後を尾行してお前の身元や家を確認して、確実に殺せる時を伺いたかったんだ』

……う……そ……だろ……
さすがに言葉が出ないらしいアオイにサビトがとどめをさす。

『要は……家にいても安全じゃない。
お前には安全地帯がなくなったってことだ』

うああ~~~~!!!!そういう事だったんか~~!!!!
つか、マジどうするよっ!!今この瞬間だってヤバいかもじゃん!
今まで本気で他人事だったのが一気に身に降り掛かってきた気分だ。


『とりあえずレベル上げ行くか…』

…へ?
パニック起こしてる俺。
てっきりまたなんとかしてくれると信じてたサビトのその言葉にぽか~ん。

まあ…アオイもたぶんリアルでパニック中。
言葉のでない俺らの代わりに、珍しく姫が代弁してくれた。

『サビトさんっそんな場合じゃっ』
もうお姫様までまともな反応するくらいの非常事態ですよ?
ありえんてっ!

それに対してサビトは至極冷静に言う。
『注意すべき点は注意したし、今はこれ以上何もできないだろ。
あとできる事といったら、少しでも早くこのゲームクリアするくらいじゃないか?』

いや…そうなんだけど……無理じゃね?
アオイも無理だろうけど、俺も無理!
とてもじゃないけどそんな冷静に割り切れるわけが…

『ごめん、サビト、姫を連れて先行っててくれる?10分ほどしたらすぐ後追うから』
スタスタと歩き出すサビトの後ろ姿に俺は声をかけた。

『わかった。海岸の入り口あたりに行ってるな。
そこまでならアオイと二人でもこれるだろ?』
と言うサビトに手を振って、俺は
(少し話があるんだけど、いい?)
とアオイにウィスを送った。
アオイはうなづいて、噴水の端に腰をかけるユートの隣に座る。

もうマジどうしよう…。
あ~とりあえずアオイをなだめなきゃなんだけど…俺もパニック中。

とにかく本気ですぐ側にかけつけたいんだけど…
(リアルのさ、アオイの連絡先、聞いちゃだめかな?)
気付いたら口にしてた。

(まあ俺も普通の高校生だからさ…守りきれるとか言えないんだけど駆けつけるだけは駆けつけられるからさ…)

馬鹿…暴走しすぎだって>自分。
この状況で住所とか教える馬鹿いないだろうがっ!って自分で自分につっこみいれる。
当然アオイは困った様に無言。
だよな。

(…っていっても怖いよね、こんな事ばかりあると)
て即フォローいれたら
(…ごめんねっ…ユートの事信じてないわけじゃないんだけど…
今どうしていいかホントにわかんなくて…)
と返ってくる。

あ~これで引かれてないといいな~~。

失敗したっ。
とりあえず…信頼回復法考えるんだっユート!
え~っと…とりあえずこっちから身元晒すのが一番かっ。

(怖くて当たり前。俺だって怖いからさ、アオイ女の子だしね。
だからさ、とりあえず俺の携帯教えるね、良かったら今かけて見て。
番号の前に184ってつけてから番号いれると、俺の側にはアオイの番号が表示されない非通知設定になるから。
アオイが怖くて嫌だと思ったら、今後かけなければいい。
俺にはアオイの番号わからないまま終わるから大丈夫)

どうだろ~…。これでかけてこなければ引かれてるな、これ。
すっげえ緊張するんですけど?
もう本気で数時間にも感じる数分が過ぎたあと、ふいになる携帯。
やったかっ?!

「もしもし、アオイ?」
俺はもう周りの女の子達には本気でただの良い人に思えるくらい相手を警戒させない容姿や声音してるらしいから、アオイもそうだと良いな~と思いつつ、緊張しながら出てみる。
返事が…ない。

「アオイ?大丈夫?」
もう一度おそるおそる声をかけると、
「うん…ごめんね、迷惑かけて」
というか細い声と共に電話の向こうから嗚咽が聞こえる。

うあ~可愛い…。
こんな時に萌えてる場合じゃないんだけど、可愛いって!
女の子だとはほぼ確信してたけど、これで確実に女の子認定。

「大丈夫、全然大丈夫だからね」
自分的に出来る限り優しい声音で言ってみる。

「怖くなったらいつでもかけていいから。だから一人で抱え込まない様にね」
「……うん…」
「まあ…怖くなくても退屈な時とかにイタ電かけてくれてもいいけどね」

もう…マジ、イタ電でもなんでもいいです。かけてくださいって気分。
ああ、もう神様ありがとう!

「どうする?良ければ今日はこのまま話しながらLv上げやる?
俺はどっちでもいいけど。アオイがしたいようにして?」

ホントはこのままにしておきたいけど、さっきちょっと積極的に出過ぎちゃったからここらで少し引いてあげないと怖がらせる。

「このままにしてて…いい?」
電話の向こうでアオイが少し心細げに言う。
もう大歓迎っ。

「うん、そうしよっか。アオイの電話代が大変そうだけどね。
いつかこのゲームが終わって安全になってみんなちゃんと会える状況になったら半分渡すからね。
請求書書いといて」
冗談めかして言うと、アオイは電話の向こうでちょっと可愛らしい笑い声をあげた。

もうこんな時に喜んでちゃいかんとは思うけど、目一杯幸せだったり…。
すごぃドキドキしてきた。
脳内ではもう街中アオイと腕組んで歩いてる自分の図が…。

でも…こっちから連絡取れないの不便だなぁ。
ここで無理に教えてとかいうわけにもいかないし…う~ん…と思っていると、なんとアオイの方から自分だけ悪いから自分も電話番号を教えてくれると言う。

まじすかっ!
と内心小躍りしたい気分だったんだけど、まあそこはほら、あんまりはしゃぐと引かれるし…
「無理しないで良いよ?」
と一応気遣う振りしておく。

これでやっぱりやめた~とか言う話にはならないだろうというのは、もちろん思ってるわけで…

当然アオイは予想を裏切らず
「ううん、無理してない。私が教えたいの」
と、番号を教えてくれた。

それから俺は当然確認もしたかった事もあるし電話をかけなおして、俺達は
「こんなのサビトにバレたら大目玉だね」
とか笑い合いながら先に行ったサビトとお姫様を追いかけた。




ミッション(10日目) 


俺らが海岸につくと、何故かお姫様が一人で釣りをしてた。

このゲームでは釣った物を雑貨屋で売ったりして換金する事ができる。
ま、今回は換金うんぬんじゃなくて、たぶん一人でミッションか何かの下見をしに行ったサビトがお姫様が退屈して暴走しないように釣りを教えたんだと思うけど…。

『ギユウちゃん、サビトは?』
ときくアオイにお姫様は案の定
『ん~~わかんないです~』
と答える。
ま、本気で行き先教えてないんだろうな。サビト。

『そっか…』
と答えて砂浜に座るアオイの隣に俺も座ってサビトを待つ。


そんなこんなで待つ事30分。
サビトが戻ってきた。

案の定ミッションの下見行ってきたらしくてボロボロ。
お姫様に回復してもらっている。

そしてサビトのHP回復や状態回復を終えてお姫様がMPをフル回復し終えると、
『行くぞ』
と、先に立って歩き始めた。

『どこ行くんですか?』
ピョコンと立ち上がると、トテトテとサビトの真後ろの自分の定位置にかけよるお姫様。
サビトは一瞬止まって俺ら3人がちゃんと付いて来てる事を確認すると、
『魔王の所。今ちょっと行って来てみた』
と言ってまた歩き始める。

「サビトでも…冗談言うんだね…」
「まあでも…あんまセンスあるとは言えないのがミソだけど…」

携帯でやっぱりボソボソ話す俺とアオイ。
しかし…そこでお約束。お姫様が目を輝かせる。

『魔王の所?もしかして魔王に会ったんですか?どんな感じなんですか?』
『えっとな…緑のタコ』
もう…やめといた方が…これって毎度おなじみ自爆パターンじゃね?

『緑のタコなんですか?
確かに海で出るタコって茶色ですもんねっ。きっとタコの王様なんですねっ。
でも緑のタコなんて面白いですよねっ、とっても楽しみです♪o(^-^)o』

本気で楽しみにされてますが?
もちろん!お姫様はとぼけてるわけでも冗談言ってるわけでもない。
思いっきりマジだ。

『……………悪かった…冗談だ』
『ええ?!嘘だったんですか~。
……すっごくすっごくすっご~~く期待してたのにぃ;;』

いや…普通嘘だって気付くし…。最後の魔王がタコってありえんでしょ。
光の神が天使みたいなのにそれに対するのが緑のタコなわけが………

『タコ見たいなら…その辺から引っ張ってくるか?』
歩く足を止めずに横の海を指さすサビトに
『緑じゃないと駄目ですっ;;
と、きっぱり断言するお姫様。

はい、サビト自爆決定。

『緑のタコさん……楽しみにしてたのに………』
『………悪かった…』
『……会ってみたかったのに……』
『………』
ため息一つ。

『とりあえず……ないものは無理だから、この後3人でミッションクリアの報告してる間にこの前欲しいって言ってたエンジェルウィング取って来てやるから。それで許せ』
『エンジェルウィングですかっ♪あれとっても可愛いんですよね♪』
とたんに機嫌がなおるお姫様。

「なんかさ…現実社会の縮図?」
「っていうか…サビトっていつも自爆してるよね…」
裏で苦笑する俺とアオイ。

「でもさ聖堂の奥行く自信あるってとこがサビトってすごいよな」

俺はため息。
俺も…簡単にとってきてやるとか言ってみたいけど無理過ぎ。
つか、サビトは取れるのか?簡単に言ってるけど…。


エンジェルウィングは城にいるお姫様がつけてるっつ~オシャレ装備で、教会の奥の聖堂の奥に行けばもらえるんだけど、これがまたくせ者で…。

まず最初のフロアは移動する落とし穴の部屋。
タイルがピカっと光って次の瞬間そのタイルに穴があくみたいな感じなんで、まあこれはな…アクションゲームとかやり慣れてればなんとかならなくはないんだけど、その後が問題。
なんと…そのフロアを超えて最奥に行くドアは高校レベルの試験問題20問中19問正解しないと開かない。
もちろん時間制限あり。

高校生ばかりを集めたのってそのためかよっ。
つか正解率95%って普通に無理だろっ。

おまけに…失敗したらレベル1下がるっていうペナルティ付き。

まあ…サビトは俺らより今2レベルほど高いから、チャレンジくらいはいっか~みたいな感じなのかもだけど、それですむのかね?
取ってくるなんて言ったら最後、ホントに取って来るまで言われるぞ。
もうあれ取ってくるって宣言自体がさらなる自爆発言な気がするんだけど…。


とりあえずそれはおいておいて、俺らはこれからミッション3に行くらしい。
行く”らしい”ってのは…実はミッションはいつもサビトが情報集めてサビト主導で俺らはついていくだけだから。
サビト自身はいつも自分は先にソロですませてる。
今日のミッション3もサビトはソロで済ませてるから、完全にヘルプ。
今回ズタボロだったのはミッション4の下見だな。

『ミッション4はどうだったん?』
とりあえず俺は前を歩くサビトに声をかけた。

『ん~、少なくともソロ無理。
というか…プリーストいないと絶対に無理だな。レベル高くても無理。
2体…なのは良いにしても状態異常すごすぎてな…逃げ戻った。
状態異常の種類は毒と暗闇。毒はHP尽きるまでになんとかすればいいとしても暗闇がやばい。
今俺22だけど戻る道々にいたLv5の敵とかにすら攻撃が全く当たらなくなったぞ。
いくらなんでもバランス悪すぎだ。あっちの攻撃も当たらないからなんとか逃げ切ったが、もうちょっと敵とのレベル差少なければ格下の敵に余裕で殺されてる』

『うあ…すごいね(^^;』
『ん…だからミッション3終わって報告終わったら即ミッション4の依頼受けて来い。みんなで行くぞ』

俺らはそれから軽く、サビトに倒すの手伝ってもらったから本当に軽々とミッション3の中ボスを倒すと街に帰った。


『んじゃ、そう言う事でミッション3の報告終わったらそのままミッション4受けて門前集合な』
すでにミッション4受ける所まで終わってるサビトは一人教会の方へ消えて行く。

ホントにあれやる気なのか……。
まあ…俺らが報告行ってる間ってことはチャレンジできても1回だし…それでもLv1上だからいいのか…。

ということで…お城に報告。
で、次のミッション4を受けて集合場所の門へと向かった。

『ほら姫。約束の物。これで機嫌直せよ』
待ち合わせの門前に行くとサビトはすでに来ていて、お姫様に何か渡している。
マジで取ってきたのかっ!!

『きゃあぁっサビトさんありがとう♪』
その場でピョンピョン飛び跳ねるお姫様。
即装備したお姫様のサラサラの黒髪にキラリと金色の羽根が光る。

サビトのレベルは…下がってないな。
ありえん!試験問題19問を普通に突破したって事だよな。
昔イヴの取り巻きが何回やってもダメで挫折して以来誰もチャレンジすらしなくなってたわけだが…。

『すごいね…、一発クリアなんだ』
と、ちょっと羨ましそうなアオイにも普通に
『ん?そんなに難しくはないぞ。お前も欲しいか?欲しければ今度とってきてやるけど』
と、言うサビト。
まぐれとかじゃなくて、普通に何度でもクリアする自信あるって?こいつマジなにもん?

でもまあアオイはさすがに悪いと思ったのか
『ありがと~。でも私はいいや』
と首を横に振る。
あ~あ…俺もサラっと取ってきてやりたいなぁ…。でも20問中19問はまず無理。

という事でミッション4。
やる事はやっぱり中ボス退治。
街を出て海岸とは反対方向に進んだ山の中。
忘れもしない一番最初のミッションで麓の兵隊に手紙を渡したあの山の上だ。

敵2体を1体ずつやる予定だったのが、途中お姫様が例によって触っちゃいけないもん触って2体目もわかしちゃって大騒ぎだったけど、俺の回避率アップの魔法と防御態勢を取る事でなんと通常の16倍の回避率になったアオイの大活躍でなんとか敵撃破。

あとは報告に戻るだけの帰り道。
いきなりサビトが崖から滑り落ちた。

『サビト?そっちなんかあんの?』
特に何も言わずにいきなりだから聞いてみると、
『いや…素でミスった、悪い。まあそこからは敵に絡まれる事ないだろうから、お前らそのまま行ってくれ。
俺はなんとか自力で帰り道みつけるから』
との返事。

おや、珍しい事も…と思ってると止める間もなくサビトを追うお姫様。

『……姫…何してる…?』
唖然とするサビトにお姫様はきょとんと
『何って?』
『いや、そのまま行けって言っただろうが…』
『はい、だからそのまま付いてきましたけど?』

もう…脳内変換が…宇宙だ。

『しかたないね…みんなでそっち行こう(^^;』
俺も苦笑して崖を滑り落ちた。


アオイがちょっと遅れて降りてくる。
降りるまでちょっと時間かかってたから
『アオイ、どうした?』
と俺は声をかけてハッとする。

『サビト!何してるん?!そっちやばいって!』
炎につっこみかけてるサビト。

俺の声でハッとして
『…あ…悪い』
と足を止める。
とりあえずそこであまりに挙動不審なサビトと前後を交代して、俺が先頭を歩く事にした。

俺は表で
『ホントさ、今日は姫以外みんなどうかしてない?』
と言いつつサビトにウィス。
(サビト…どうしたん?いったい)
それに対してサビトは無言。
なんか…言いにくい事か…。

俺の脳裏にふと全員集合したあの日の出来事がよみがえる。

あの時サビトに粘着してたシャルル、男らしくて好きだとサビトに言った後…
「リアルもさ、そんな感じ?服とかどんなの好き?
リアルでも背そこそこ高い?体格は?サビトって鍛えてはいそうだよねっ。
制服は学ラン?ブレザー?サビトのイメージだと学ランって感じだけど、ブレザー着崩したりとかもなんかいいねっ、シャツのボタンはずしちゃったりとかしてさ…
寝る時ってさ、パジャマ?Tシャツ?それとも着ないで寝ちゃったりとか?
あ、でも意外なとこで着物とかも似合うかもっ。
あ~、そだ、トランクス派?ブリーフ派?…………」
といきなりかまして、サビト怯えてたっけ…。

(もしかしていつものシャルルからのウィス?)
聞いてみると、サビト無言。

その後ざ~っと流れる原文ウィス

(サビト、今どこ?一緒に遊びに行かない?)
(サビトってさ、恋人いるの?)
(もしかしたら今フリーだったりする?)
(いないならさ…溜まった時って自分でしてんの?)
(週何回くらい?)
(その時どんな相手を想像してやってる?)


きっつ~~~
これ…まともに受け取って硬直したわけね…。

(うあ…これ…シャルルからだよな?)
(…ああ…)
(…動揺…した?)
(…おもいっきりな…)

まあ…サビトならそうだろうなぁ…。
軽くかわすなんてできなさそうだし…。

つか…シャルルもなにもん?
これ聞いてどうするよ?

う~ん…リアル特定…にしては聞く事がちょっと…。
どっちかっていうと動揺誘ってる?

(…嫌がらせ…かなぁ?単なる好奇心にしては…だよな)
とつぶやいてみると、
(もしかして…俺の事妨害しようとしてんのか…)
と、いつもなら怒るであろうサビトは安堵が先立ったのか怒りもせず納得する。

(そうだよな…他意はないんだよな。単なる妨害目的で…)
もう思い切りそう思いたいって感じだ。

しかし…頭切れるし行動力もありそうなサビトだけど、そういう方面での攻撃には弱いのか。

ま…想像するに…女に縁がないいわゆる硬派。
委員長タイプな気がするから、クラスの中心にいても女に全く縁がないってことは…男子高育ちか。

つか…アオイの事あるしサビトもある程度リアルでつき合いしておいて何かあった時呼び出せる様にしたいなぁ。
俺だけだと犯人と対峙なんかした日には下手すると壁にもならん可能性ある…犯人も同じ高校生の男なら、二人掛かりならなんとかなる気するし…。

(まあ…たぶん単純に妨害って考えるのが正しいかもね)
と、その話はそれで打ち切って、俺は半ば強引に話題を変えた。


(ところでさ…サビト明日暇?)
(暇じゃない…)
相変わらず即答。

事なかれの俺のこと、普段ならここで引き下がるとこだけど、アオイの命がかかってるわけだから引き下がるわけにはいかない。

(暇作って)
と、食い下がってみたが敵もさるもの
(無理)
と、また即答。

くっそ~……

(俺明日吉祥寺の駅ビル改札で待ってるからさ…。
特徴は…つか、このキャラのまんまだと思う。携番はね…)
(ま~て~!!!)
強引に話を進めようとすると、遮るサビト。

(アオイになんかあった時のためにさ、サビトに会っときたい。
やっぱ…なんのかんのいって一番そういう時お役立ちぽいし)

これで…動かないかな?
使命感に燃えやすいタイプだと思うし、アオイの命危ないとか言う理由なら動いてくれるんじゃ…なんて甘い?

(とりあえず朝10時から待ってるから。来るまで帰んないよ、俺)
無言のサビトにさらにそう畳み掛けると、サビトが折れた。

(10時は無理。昼前までは絶対に外せない用があるから。
そうだな…12時ならなんとか行けると思う)

やった~!頑張ったな、俺!

(おっけ~。それでっ。んでサビトの特徴は?)
(キャラのままだと思うぞ)

それは…ちょっと嘘っぽ。
思わず
(ダウトッ)
という俺。

(なんだそれは?)
(だってさ…イケメンすぎね?w)

(はあ?)
サビトはポカンとする。

まあ…サビトのこのイケメンキャラそのまんまというのはありえんけど…面影はあるくらいに取っておくか。

(ま、いっか。俺はマジ、キャラのまんまだから。サビトが俺を探してよ。
一応携番だけ教えておいて?)
と、携帯の番号だけ教わって、俺はその話は切り上げた。

もう一つ…もうここまで来たら手を打っておきたい。
俺は迷わずエドガーにウィス。
なりすましメールがあった旨を伝えてメールのやり取りする前に本人確認の暗号を入れたいって話したら、なんだかものすげえ凝った暗号提案してきた。

メールの最初の文字が何行の文字かを調べて、その行があから始まって何行目かを割り出す。
ようは…ユートの”ゆ”だったら”や行”だから、あかさたなはまや、って事で7行目
で、今度はメールの最初に割り出した行の最初の文字が同じく何行目かを割り出して、その行の最後にその行の数の・を打つ。
ようは…さっきの例だと7行目の最初の文字を見て、それが例えば”と”だったら”タ行”で4。
だから7行目の行の終わりに4つの・をいれるってわけだ。
これじゃあ知らなければ絶対にわかるはずがない。

というわけで、俺はリアルに触れない様に一応サビトが俺らの中でリーダー的存在で、色々情報を集めて引っ張って行ってくれていること、お姫様はちょっと天然はいってる子な事、アオイは少し内向的な子程度な感じの人物紹介と、アオイとは携帯で連絡取り合ってる事、今回のなりすましメールの一件だけ伝えておいた。

一応アオイの面が割れてるならエドガーが犯人だとしたら今更な情報ばかりだけど、もし本当に犯人を探してるならできるだけ早く探し出して欲しいし、その参考になるといいんだけどな。





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