オンライン殺人事件クロスオーバーA10

アゾットの日記


「んじゃ、とりあえず本題入るか…」
ギユウちゃんが全員に紅茶を配り終わったところで、サビトが茶封筒の中からホチキスで止めた付せんのいっぱいついた冊子みたいな物を取り出してテーブルの上に放り出した。

「全員分ある。
一応俺が説明して、詳細書いてある部分がどこか付せんの番号で言うから勝手に見ろ」

「りょうか~い!」
映ちゃんが元気よく手を挙げる。

「まず、付せん1な。
アゾットが何故そのジョブを選んだのか書いてある。詳細は自分で読め」


『アゾットの日記 -1- 

ネットゲームの勝者に1億与える…
主催の主旨はわからないが面白い試みだ。

こういう物に参加する奴はたいていは2種類。
1億本気で狙う馬鹿、あるいは暇つぶしで10万もらえればいいや程度の危機感のない馬鹿。

まあ…稀にどこぞの馬鹿会長みたいに、欲に走る奴らで混乱するだろうゲームの中で秩序を守ろうなんて事をくだらない正義感から考える物好きもいるかもしれないが。
…どちらにしろ馬鹿には違いない。

さて…どうするか…
馬鹿は相手にしないという選択もありだが…せっかく与えられた娯楽だ。
馬鹿を観察しながら笑ってみるのも悪くはないな。
上手くすれば金に目がくらんだ馬鹿が殺人に走る姿くらいは見られるかもしれない。

しかしみすみす巻き込まれて奔走するのもまた馬鹿というもの。

決めた…。ジョブはプリースト。
善良の象徴であり、また魔王を倒すと言う観点から見ると無害の象徴…。

一般馬鹿から善良な人として情報を集め、金に目がくらんだ加害者からは無害な人間として安全な立場を保てる。

そして…この馬鹿げた人間達が演じる悲喜劇を高みから見守る超越した知能を持つ存在として君臨する…退屈しのぎとしてはまあ悪くはない


うっあああ~嫌な奴~~。
あの優しげなプリーストが裏ではこんな事考えてたのか…
ユートも隣で眉をひそめてる。

「読み終わったか?読み終わったなら次行くが…」
みんながそれぞれ複雑な表情をする中でサビトが声をかけると、

「は~い!先生っ!しっつもんでえすっ!」
と、映ちゃんがシュタっと手をあげた。

「なんだ?」
「ここに出てくる馬鹿会長ってもしかしてサビト君?」

…あ、それ私も思った。ユートも隣で笑ってる。

「知るかっ!」
サビトはプイっとそっぽをむくが、まあそうなんだろうな。

「次行くぞ。次!」
それ以上聞かれるのはごめんとばかりにサビトは先を進めた。

「最初のゴッドセイバーの殺害はイヴの単独行動。
アゾットはゴッドセイバーがイヴにリアルを話すの聞いて、殺人事件が起こる事も予測していたらしい。詳細は付せん2を読め」


『アゾットの日記 -2- 

危機感のない愚か者…もう低能というレベルを超えてるな。
イヴというウォーリアの気を引こうとリアルまでペラペラと話しているゴッドセイバー。

一昨日あたりからショウというウォーリアも含めて3人で行動しているようだが、ショウが来たら黙ったという事は…イヴにだけなのか、リアルをしゃべりまくってるのは。

まあ…他に聞いている奴がいるかの確認もせずに、ウィスにもせず、通常会話で話してるあたりが低能としか言いようがないわけだが…。

一応…僕の他にもサビトとアオイというプレイヤーも聞いてるようだが…
とりあえず僕を覗くと奴のリアルを知ったのは3人…。

この中の誰かが襲撃でもしてやれば面白くなるんだが…

まあサビトとアオイはないだろうな。

アオイは1億狙うならシーフなんて微妙ジョブ選ばないだろう。
サビトの方は…ベルセルク、という選択はいいにしても、魔王を倒すと言う事なら万が一魔王の最後のHPを削られる危険性を考えればシーフなんて連れ歩くより一人の方がマシだ。
かといってシーフなんて危険を冒して殺すほどの価値もないジョブだしな。

とすると行動を起こしてくれるとしたらイヴ。

自分がウォリアなら充分魔王を狙えるし、連れ歩いてるのウォリアとベルセルクという自分のライバルになりうる相手だとすると、仲間のふりをして追い落とすためというのも考えられなくはない


………微妙ジョブで悪かったね……
むぅぅ…読めば読むほど嫌な奴。
時間をおいてさらに進めるサビト。

「で、第一の殺人勃発。
これはイヴの単独の犯行だが、アゾットはイヴを犯人だと思って接触。詳細は3な」



『アゾットの日記 -3- 

ついにやったっ!
愚民が動いた。
8割方、犯人はイヴだな。

そんな事を考えているとイヴが怪しいとブツブツつぶやいてきた女がいる。

女ウィザードのメグ。僕に気があるらしい。
単にゲームを楽しめれば良い馬鹿の一人だ。
メグによればイヴはリアル女ではないとのこと。
同じ女としてわかるそうだ。
さらに、ゴッドセイバーと一番親しかったのだから怪しいと続ける。

…普通に考えればリアル聞いてた親しい奴が疑われるのは必須。
まあそれはこの女のような馬鹿にでもわかる事だ。
それに気付かずに短絡的に殺すってイヴも果てしのない低能だな。

せっかく面白くなってきたのに、ここで御用は残念だな。
そう思って良い事を思いついた。
あの馬鹿に知恵をつけてやったら楽しいかも知れない。

僕はあくまで手を下さず知恵だけ与える。
そうだ、それこそ神の啓示のように…。
あの馬鹿を操ってこのゲームの参加者の歴史を変える神になる。
素晴らしい考えだ。

僕はイヴに近づいた。
そしてささやいてやる。
お前は疑われている。このままでは即御用だ。

焦るイヴ。
そこでさらに言ってやる。
僕はプリーストだから自力で魔王を倒せる事はまずない。
だから500万でお前の軍師になってお前の敵を排除する知恵をさずけてやる…と。

もちろん…500万なんて欲しい訳じゃないんだが、奴のような低能には僕のような高尚な考えは理解できなくて信用しないのは必至。
非力で自力で金を取れないプリーストが少しでも金を手にしたくて協力するという図を作ってやらないとだめだろう。

半額…というと奴も迷うし、100万くらいならミッション達成金で稼げる可能性もでてくるので、500万。
我ながら絶妙な額だと思う。

案の定奴は乗ってきた。
さあ…ゲームの始まりだ…


これって……本当に高校生?
…普通の高校生がここまで悪意を持てるものなの……
なんだか実行犯より怖いよ…

「で、だ。アゾットはとりあえずイヴから疑いの目をそらすために自分に好意を持っていて動かしやすいメグを利用しようと考えた。
で、メグに全員にメルアド交換を提案させて、その裏でイヴにショウ、続いてメグを殺させた。詳細4な」



『アゾットの日記 -4- 

とりあえず…そうと決まったらイヴが捕まる前に真犯人らしき人間を作らないとだ。

ここでいきなり全く面識のない人間も使えないし、利用できるとしたらイヴのもう一人の仲間のショウと僕に気があるらしいメグ…。

さてどうするか…。
ショウは殺人にびびったらしく、イヴにゲームをやめると言って来た。
冗談じゃない。
次々やめていかれたらイヴに声をかけた意味がない…。
しかたない…やめる宣言をしているショウを殺す事によってやめても無駄だと皆に悟らせるか……さあどうする…。

メグを…利用するか…。

どちらにしても今後周りを騙すためには個別に連絡を取れる手段が必要になるし、全員のメルアドを集めさせないと…。

とりあえずイヴにはショウの連絡先をたずねさせる。
ゴッドセイバーと同じくイヴに気があるショウはイヴにだけならとあっさりと連絡先を吐いた。

ゴッドセイバーの時に殺人犯が若い男だと報道されたのも奴の警戒心を緩めるのに一役買っているようだ。
キャラの性別がリアルの性別なんて限らないと言う事が全くわかってないあたりが低能すぎて笑える。

メグは、今回の事もあるし、ゲームに接続できない時間にも連絡を取れる手段があった方がいいが、それを男の僕が提案するとみんな警戒するから、女の子の君が発案者という事にして欲しいと言うとあっさり了承した、馬鹿だ。

さらにこのままではイヴに向かうであろう疑いの目をそらさせるため周りを撹乱したいので、方法まで指定する。

まずメルアド交換をしても良いと言う奴のメルアドを一度メグが聞いて、送って来た奴に送り返すという方法だ。
これで本当にメルアドを送ってきたか来なかったのかはメグしかわからないという状況ができあがる。

こうしてメグにメルアド交換を申しださせてメルアドを集めさせた。
こういう状況だから、みんな心細くなって群れたがるのは必須。
案の定、やめると言うショウとヨイチというアーチャー以外は全員メルアドをよこして来た。

メグにショウはやめるから交換しないと言ってたと教え、ヨイチにはメグ本人に確認させるが返事がなかったので参加の意志がないと結論づける。

とりあえずヨイチはどうでもいい。
ショウがやめると言っているというのを全員に知らせるのが目的の一つだ。

メグにメルアドを回させる時に、参加しなかった奴の不参加理由も明記させた。

メルアド交換終了のタイミングでイヴにショウを殺させる。
まあ…やめると言えば殺されるとは思わなかったんだろうな。
相手がイヴという事もあってショウはあっさり騙された。

あとはメルアド交換の発案者が実は僕だという事をメグが漏らす前にメグを殺させなくては…。

メグを呼び出すのは簡単だった。

ショウこと秋本翔太殺害のニュースが流れたその晩、インしてイヴと合流後、メグにメールを入れる。
そして秋本翔太がショウで殺された事、イヴがショウはメルアドを送ったのにメグのメールでやめるから不参加だと書かれていたと言っていると伝える。

このままだとメグが悪用するため故意にメルアド交換の情報を改ざんしたと言いふらされかねない。
こういう状況になってから実は発案者が僕でショウがやめると言った話も僕から出ていると言っても、周りは僕がメグをかばってると思うだけだろうと言うと、焦ったメグから助けを求められた。

僕がその事できちんと相談したいから今から出て来て欲しいと言うと、焦っていたのだろう、メグは愚かにも誘い出されてきた。
それは当然イヴに殺させる。

誘い出せるメドが付いた所でもう一仕事…
イヴのアリバイ作りだ。

イヴがメグを殺してる間に二人目の被害者が出た事を理由に、一度全員の顔見せをと全員を広場に呼び出し、イヴと僕は普通に会話をする。

もちろん…イヴを操っているのも僕だ。
PCを2台並べて一人二役を演じている。

しかしこれでメグ殺害時刻に全員の前で話をしていると言う事で、僕とイヴのアリバイが成立した。

さらに…仲間が二人とも死んでしまって怯える可哀想な女の子を慰める善良なプリーストという図を全員に植え付ける事で今後イヴと行動を共にするのが自然に見えるようにできる。

…完璧だ』



………もう…どう反応していいやらわかんない…。

「気分悪くなって来たなら読むのやめてもいいぞ。
そのため全部俺の口から言わずに大方の流れだけ話してるんだからな。
詳細読まなくても流れだけはわかるように説明してやる」

サビトは言って、ギユウちゃん、ついで私に目をむけた。

映ちゃんは冊子を読みながらなんだか感心しつつ、時折おお~なるほど、とかうなづいてるから、平気というか、推理小説を読む感覚で楽しんでるんだと思う。
まあ…渦中にいたとはいってもほぼ蚊帳の外で怖い思いしてないもんなぁ。

「お前はもうやめとけ、な」
サビトは涙目になるギユウちゃんの手から冊子を取り上げてテーブルに放り投げると、その小さな頭を引き寄せて自分の胸に押し付けた。

ギユウちゃんが小さな嗚咽をもらす。

そんなギユウちゃんの髪を軽くなでながら、サビトは
「お前は?どうする?」
と、私目を向けた。

どうしよう……なんか…自分がターゲットになったあたりとか読んだらトラウマになりそうな気もするけど……。

でも今読まなくても絶対にいつか気になって読むと思うからそれならみんなが側にいる今読んでおいた方がいいな。

「絶対いつか気になるから…一人の時に読むよりいい」
私が言うと、サビトはそうか、と言って先を続けた。

「まあ…ここから先は俺らのパーティーの話になってくるから気分悪くなって来たらマジ無理すんなよ。
んじゃ、続けるな。
アゾットはメグまで殺した所で一応最初の殺人の尻拭いは終了ってことで、ここからは1億をイヴに取らせる為に動き出す。
で、自分達以外で一番魔王に近そうな俺達のパーティーに目を付けて、一番誘い出せそうなアオイをターゲットにしたわけだ、詳細は付せん5」



『アゾットの日記 -5- 

メグ殺害でメルアド交換の本当の発起人も、ショウを殺害できた人間の範囲も永遠に闇の中。

フェイクを織り交ぜ真実と嘘が混在する事も知らずに必死に情報を集めようとする輩もでてきて、なかなか面白い。

僕としては右往左往する人間をもう少し眺めていてもいいんだが、とりあえず約束に向けて動いている事をアピールしておかないとイヴが焦って暴走しかねない。
そろそろ次に行こうか。

次のターゲットは…アオイ…かな。
まああいつ自体は急いで排除する価値もない、放置していても良い微妙ジョブなんだけどね。
周りがまずいな。

4人パーティーでウォリアーのゴッドセイバー、ベルセルクのショウ亡き後、イヴ以外で唯一の純近接アタッカーであるもう一人のベルセルク、サビトがいる。
しかも…二人しかいないヒーラーの一人が一緒というおまけつきだ。

……似ている…。
奴がこんな暇な事しているとは思えないんだが、あのキャラは僕が大っ嫌いなあの馬鹿にそっくりで…わざわざ役立たずを率いて善人面するその行動性まで奴を思い出させてイライラさせる。

珍しい名だから、その名であの行動というのは偶然ではないだろうし、あるいはうちの学校の奴の信奉者が奴のRPGをしているのかもしれないな。

だがまあいい。
ゲーム内といえども奴の牙城を粉々に崩して歯噛みするのをあざ笑ってやる。

奴の仲間は3人。
危機感ない馬鹿系のシーフにヒーラーにエンチャ。
セオリーだとまずヒーラーを叩いておくとこだけど、あの女、性格見えなさすぎ。
どう動くかわからない相手に手を出してイレギュラーな事態を起こすのは、この段階ではまだ危険だ。
残るはエンチャかシーフなんだが…女の方が奴を撹乱するにはいいな。
ってことでアオイ。

アオイは排除するってよりまず奴を排除するために撹乱させて尻尾を出させる餌だから、アオイ自身を殺すのはもっとあとの方。

とりあえず身元を暴いてパニック起こさせてやる。
ヒーラーのギユウを語って呼び出しをかけた。

人の目につきやすい時間に人の目につきやすい場所。
どう考えても殺人を起こせない場所を選んでやると、安心してノコノコと誘い出されてきた。
そこで後をつけて自宅を割り出す。
それで完了。

一応体調が悪くて行けないからキャンセルさせてくれってメールを送ったから、夜に体調くらいきくだろうし、そうしたらメールを送ったのが本人じゃないのにはきづくだろう。
今はそれで充分だ。

とりあえず種はまいたから、しばらく育つまで放置しよう



微妙ジョブ微妙ジョブ失礼な~~!確かに微妙ジョブなんだけどさっ!
と、憤慨してる私の横では

「き…嫌われてるよっ!サビト君めちゃ嫌われてるって!!一体何したの?!!」
と、映ちゃんがヒ~ヒ~お腹を抱えて笑い転げるのをヨイチが
「映、駄目だよ、失礼だよっ」
と必死になだめてる。

サビトはそれにムスっとして、知るかっ!と返すと続けるぞと、先を続けた。

「それからしばらくはみんな普通にレベル上げ。
裏ではエドガーがユートと連絡を取りながら情報集めてた。
もうエドガーが死んだ今となっては何を根拠にそう思ったのかは謎だが、とりあえずエドガーはイヴが犯人てとこまでは辿り着いたんだ。
でもアゾットが共犯てとこまでは辿り着かなかった。
で、アゾットの事をイヴに騙されて利用されてる善意の第三者だと思ってイヴから離れるよう忠告して殺される。詳細は6」


『アゾットの日記 -6- 

様子見を始めて2週間。
面白い事が起こった。

情報を集めてかぎ回っていた雑魚、エドガーがイヴが犯人てとこまで辿り着いた。
まあそこまでは雑魚にしてはよくやったと褒めてやってもいいんだが、雑魚は所詮雑魚。
僕がイヴに騙されてる哀れな第三者だと思って離れるように忠告してきた。
本当におめでたすぎて笑えるな。

ま、笑うのはいいとして、それを明晩全員の前で発表しつつ主催にメールを送るつもりだというのはなんとかしないと楽しいゲームが終わってしまう。

僕は奴に非常に感謝していると礼を述べ、事情を全く知らないので、詳しく話を聞かせて欲しいと丁重にお願いする。

探偵もどき君は自分の推理を話したくてしかたなかったんだろう。
礼もしたいし話もじっくり聞きたいからと呼び出すと、やっぱりノコノコ呼び出された。

もちろんそれはイヴに始末させる。

そこで探偵君持参のノートパソコンから面白い事がわかった。
彼はサビトの仲間、ユートと親しく連絡を取っていたらしい。
そして、他に先んじてユートに犯人がわかったこと、知らずに犯人といる第三者に危険を警告して距離を取らせてから犯人を公に糾弾するつもりな事などを書いて送っていた。

お手柄だよ、探偵君。
これで完全な筋書きができた。
犯人が誰かと明記していない、その上で犯人は誰かと一緒に行動している人物、と、特定させている2点がポイントだ。

そろそろ仕上げにかかろうか



もう……むかついてきた。
何?この人を小馬鹿にした上から目線。
本人生きてたら殴り倒してやりたいっ!

「てことで最後な。魔王もみえてきたことだし、策も思いついたしってことで、アゾットはアオイとユートを殺して姫を俺から引き離して俺を孤立化させようって事で、イヴにその計画を話そうと言いつつ終わってる。たぶん話した直後に殺されてるっぽい。
詳細7」



『アゾットの日記 -7- 

魔王も近づいて来た事だしそろそろ仕上げだ。
いよいよ奴に目に物みせてやれる。

作戦はこうだ。
僕がいきなりインするのをやめる。
そしてイヴからアオイにメールを送らせる。
内容は…
僕がインしなくなったのはどこかで殺されているからかもしれない。
自分の周りはみんな殺されているからその可能性が高い気がして怖いし防犯ベルを買いに行きたいが、自分は一人暮らしで頼れる人間もいない。
外に出るのが怖いので、買って送って欲しい。
そんな感じか。

一応混乱している様子で繰り返し費用は払うからとその点を強調すれば間抜けなアオイの事だ、お金はどうでもいいのになんてその点に目がいって、危険だとか言う事が頭からすっとんでいくだろう。

ここ2週間静観したせいで、自分が住所を知られているなんて事は馬鹿な頭からは消去されてるだろうしな。

会いたいじゃなくて物を送ってくれというのもミソだ。
送り先の住所を書く事によって、情報を明かして危険を被るのは相手であって自分じゃないという錯覚を起こさせて、警戒心を緩める事ができる。
もちろん書いた住所はでたらめだ。
目的は物を送らせる事ではなく、アオイをでかけさせる事だからな。

こちらはアオイの家の近所で人目につかなさそうな場所で待って拉致れば良い。
もう4人殺してるイヴだ。拉致用の車を盗むくらいもう何でもない事だろうしな。

そのままアオイを連れて人目のつかない場所に行き、ユートを呼び出させて二人を殺させる。

二人が親しくしているのはエドガーとのやりとりから確認済みだ。

そこまで終わったら後は簡単。
エドガーが犯人をみつけたというメールはおそらく仲間であるサビトやギユウにもユートを通していっているだろう。

あとはイヴにエドガーが言っていた、誰かと行動している犯人というのはもう消去法でサビトしかいないとギユウに吹き込ませてサビトを避けさせればいい。

ギユウも殺してもいいんだが…それじゃあ面白くないな。
やっぱり奴には守るつもりだった仲間を助けられなかったばかりか、残った仲間にも軽蔑されて離れて行かれるという構図を味あわせてみたい。

単にたまたま親が警視総監だったというだけで周りにちやほやされて、偉そうな態度で学校でもかしづかれ、無記名だったらみんな本音が出て落選して裸の王様だった事にいい加減気付くだろうと思って生徒会長に推薦してやったら当選しやがるし……。

リアルの馬鹿の方は、じゃあ物理的に手を出そうかと思っても剣道柔道空手有段者だからイヴごとき返り討ちにされて終わるだろうからな…。お手上げだ。
せめてネットの錆兎もどきにくらいはそのくらいの辛酸をなめさせてもいいはずだ…。

これが本当に奴だったら良かったんだがな…
リアルのあいつはこの夏なんと聖星女学院なんて名門ミッション女子校の彼女作って遊びまくってるらしいから、ゲームどころじゃないだろう。
遊びすぎて1位から転げおちればいいんだが、抜け目ない奴だ、昼に遊びつつ夜は必死にガリ勉してるに違いない。
本気で嫌な奴だ。あいつこそ死んでしまえばいいのにな。

まあいい。まずはイヴに作戦を授けてやらなくては。

とりあえず…この作戦が終わったらイヴが一億を取るのを手伝いつつ、ちょっとサビトに近づいて奴が落ち込む姿を堪能しつつ、影でそれを笑いながら友人の振りでもしてみるかな



………
………
………


…ひどすぎて…言葉がでない…。
サビトは……友達だと思ってたんだろうな…。
和って呼んでたし…悪友って言ってた。

読み終わって無言で見つめる私の視線に気付くと、サビトは

「ま、最後の方のゴチャゴチャは気にすんな。忘れろ」
と苦笑する。

そしてそれ以上追求されないようにか、強引に話を進めた。

「あ~、その後アゾットはイヴに殺されたんだと思う。
たぶん…普通に考えればそれまで全然接触をもってない姫を引き込むより、ずっと一緒でプレイヤースキルも高いアゾットを使った方が状況的に楽だ。

しかも最初に言った通りアゾット自身は魔王にとどめをさせる可能性もないからライバルになりえないし、イヴがアゾットを殺す理由は何もない。
だからアゾットも自分だけは安全だと思って油断した。

だが奴は…俺が言うのもなんだけど物理的な事象は読めても普通の人間の感情が読めなかったんだろうな…。
イヴは賢すぎるアゾットが怖くなったんだ。
知恵では絶対に適わないアゾットを、頼もしいというより自分の生殺与奪権を持っている危険人物と認識して殺す決意をしたらしい。これはイヴの自供な。

策士知恵に溺れるってやつだな…。
で、ここでアゾット退場。

これによってイヴは自力でヒーラーを手にいれなくてはならなくなった。
で、アゾットの案を一部変更。
俺から離した姫を自分の側に引き込めば良いと考えてアオイ殺害計画を実行したってわけだ。
あとは…アオイが電車で話した通り」

そこで言葉を切るサビト。
するとまた映ちゃんがシュタっと手をあげた。

「サビト君て…アゾットと友達?
錆兎って実名でてるのあれどう考えてもサビト君の本名だよね?
呼び捨てで呼ぶほど仲良かったん?」


まあ…もっともな質問なわけだけど…
私とユートは困って顔を見合わせた。
それを今のサビトに聞くのは可哀想な気がする…。

ヨイチも空気を読む子なんだね…
「映、やめなよ」
とソッと映ちゃんを止めている。

当のサビトは…珍しく一瞬困惑した後、苦笑した。
「だよな、ま、気になるのが普通だ」
それでもそう言って話し始めようとした瞬間…

「さびと…ごめんね、ちょっと気分悪くなってきたかも…部屋に戻りたい」
と絶妙なタイミングでギユウちゃんが口をひらいた。

その言葉にサビトはちょっと困ったように映ちゃんとギユウちゃんを見比べる。
「歩けない…よな?」
確認するサビトを涙目で見上げるギユウちゃん。

「わかった、ちょっと部屋送ってくるから。すぐ戻る。
アオイも来てくれ。説明は戻ってからな」
言ってサビトがギユウちゃんを抱き上げた。

いわゆるお姫様抱っこ…。
ギユウちゃんはそのまま当たり前にサビトの首につかまっている。

「んじゃ、行ってくる~」
私も若干ホッとして歩き出すサビトの後を追った。



「ギユウ、大丈夫か?医者呼ぶか?」
部屋に戻りつつ聞くサビトに、ギユウちゃんは
「ううん、いい。ただドロドロすぎて気分悪くなっちゃった」
と答える。

青くなってプルプル震えてる姿は小動物みたいだ。
なんていうか…真面目にギユウちゃんが私の立場じゃなくて良かったよね…。
殺されるまでもなくショック死してそう…。


そして2階の寝室。
「んじゃ、悪い。俺は話の途中だし戻るからアオイついててやってくれ」
部屋についてギユウちゃんをベッドに寝かせるとサビトは反転しかけるが、クン!とシャツの裾を引っ張られて立ち止まる。
顔だけチラリと後ろに向け確認してちょっと困った顔をするサビト。

「さびと…行っちゃやだ…」
うるるんと涙目でギユウちゃんが訴える。
「ギユウ…」
苦笑して口を開くサビトの言葉を
「やだっ」
と遮るギユウちゃん。
この二人の間の強弱関係がわかるよね、これ見ると。

「悪い、アオイ。下には話はあとでって言っといてくれ。
こうなったらテコでも動かないから。」
サビトは大きく息をついた。

…あきらめとも取れなくはないけど、安堵にも思えるため息。
私にはなんとなく後者に思えた。




ヨイチの告白


私が下に戻った時にはもうユートが映ちゃんの質問に答えてとりあえず納得させたとこだった。
もちろん、私と同じくユートも二人が同じ学校の同級生で生徒会の会長と副会長だったということしか知らないわけなんだけど…。

「なんか…愛憎劇っぽ?」
映ちゃんは相変わらずで、なんか変な妄想してる…。
でもそれをヨイチが珍しく強い口調でいさめた。

「映…映の趣味は理解してるし、それが悪いとも思わないけど今回のはそういう風に面白がっちゃだめ。絶対にだめだ。
心に受ける傷ってね、治んないものなんだよ。
それをあえておかすなら、身体か心かの違いだけで今回のイヴやアゾットとかわらなくなるよ?」

「……ごめん…」
真剣な顔で青ざめながら言うヨイチに、映ちゃんは珍しくしょぼんとしょげてうつむいた。

そこでヨイチがあわてて
「僕の方こそ…ごめん。
映のおかげでまた外に出る事ができるようになったのに…」
と謝った後、でもね、と口を開く。

「僕も…引きこもっちゃったのって同じような理由だったから…。
親友だって思ってた奴に影で色々言われてやられてて、すっかり人間不信になっちゃってね…」
とまたいつもの静かな口調に戻って俯き加減に悲しそうな笑みを浮かべた。

そう…だったんだ。

「でもね、今回映に出会ってさ、映って口は悪いけど裏表なくて…ほんとに思ったままの事考えずに言っちゃう映見て、こんな子もいるんだってホント安心したんだ」
噛み締めるように言うヨイチ。

確かに…裏表だけはなさそうだよね、映ちゃんて。

「惜しいなぁ…」
そこでいきなり立ち直ったらしき映ちゃんの謎の発言。

「惜しい?」
ユートが首をかしげる。

「うん、ヨイチってさ、逸材なんだよねっ。
私も現実にヨイチみたいな人間ホントにいると思わなかったもん」

「???」
顔を見合わせて悩む私とユート。

「男なのに華奢で繊細で可愛くてピュアで…もう、いっその事私が男だったら押し倒したのにっ!!」

そういうことかいっ!!

呆れ返って引く私とユートだったけど、当のヨイチは少し恥ずかしそうに俯き加減に苦笑している。

なんていうか……もう勝手にしてって感じ。

その後私達はお互いに打ち合わせたわけでもないのに、何故かそれぞれ持参していた夏休みの宿題を持ち寄ってやり始めた。

高校生だなぁ…。

「実はさ…密かにサビトに教われないかな~なんて思って持って来たんだけど…」
私が白状すると、隣でユートも
「あ、実は俺もそうだったり…」
と同意する。なんだか発想が…いつも一緒だね。

「私は親がどうせやってないんだろうから持ってけって。
宿題持参しないなら旅行だめっていうからさぁ…」
というのは映ちゃん。

「微分積分なんてさ…生活してても使う事ないよね絶対」
数式を前にうなる私に
「いや、まだその方がマシだって。
人間様にサンショウウオの気持ちがわかるって思う方がマジ頭おかしいってっ!」
という映ちゃんは現国の宿題らしい。

「俺も…平安時代の人間の日記なんて知らなくても生きていける予感……」
ユートは古文か。

うなる3人をヨイチがにこやかに見ている。

「ヨイチは?宿題終わったの?」
と余裕こいて見えるヨイチにふと目をむけると、ヨイチはちょっと困ったような笑みを浮かべた。

「俺は…学校いってないから…宿題もないんだ…」

うあ…失敗。

「ご、ごめんねっ」
慌てて謝る私ににっこりと優しい笑みを浮かべつつ、ヨイチは
「ちょっと…みせてもらっていい?」
と、私の宿題のプリントを覗き込んだ。

「あ…これはね…」
映ちゃんの筆箱からシャーペンを一本取ると、そのままスラスラと数式を解いて行くヨイチ。

うぉぉ~~すごぃ!
学校行ってないと言いつつ私よりよっぽど頭良いっ!
ヨイチはそのままスラスラと数式を全部とくと、映ちゃん、ユートと順番に宿題を教えてくれた。

「ねえ…学校行ってないヨイチより馬鹿ってあたしら人間失格ってこと?」
結局全員ヨイチに宿題をやってもらって一息ついたあと、映ちゃんが言った。

ヨイチに感謝はしてるんだろうけど…映ちゃんその言い方ヨイチに失礼な気が…。

でもヨイチは全然気にならないらしい。
少しはにかんだ様な笑みを浮かべて言った。

「俺…勉強は嫌いじゃなかったから…一応高認は受かってるし」

おおお~~~実は秀才だったのかっ…

「すごいね、ヨイチっ!繊細美少年なだけじゃなくて頭もいい奴だったんだねっ!超感動したっ!!」

映ちゃん…相変わらずハイテンション。
この二人も…すごぃ対照的なんだけど妙に良いコンビ。
ある意味普通じゃなくて面白いな。

とにかく明るい映ちゃんにひきずられるように盛り上がる面々。




終章


それからはもう…すごぃ勢いで遊びまくった。

私達4人は結局魔王退治まで全7ミッション。
映ちゃんとヨイチは3までクリアしてて、普通に計算して340万。

まあサビトやユートは今回の殺人事件のゴタゴタで移動費やらなんやらで使ってたり、危険を全然感じてなかった映ちゃんもお買い物とかして若干使ってたり、あ、あと私はすごい勢いの電話代はらったから多少は減ってたけど、それでも300万を軽く超えるお金が残っている。

それを全部使い切ろうとここにいる間しか着ないであろう服を買って正装してギユウちゃんご一家御用達の高級レストランに行ってみたり、タクシーであちこち回ってみたりと6人で頑張ってみたんだけど無理だった。

サビトやギユウちゃんだけならともかく、庶民4人付きだとやっぱり行ける所も限られるし、5日後、新宿に着いた時には残金160万なり。

まだ昼過ぎだったから、お嬢様生活を垣間みさせて頂いたお礼に今度は庶民の生活をという話に。
さて何を見せるとなった時に、ギユウちゃんが颯爽と手を挙げたっ。

「は~いっ!ブロードウェイ行ってみたいです!」
ブロードウェイって………いわゆるオタクの方々の聖地では……

意味の分かってるユートとヨイチは苦笑。
サビトは当然どういう所かは知らないからきょとんとしている。

「姫とブロードウェイってすっごく結びつかないんだけど…」
例に寄って私が考えてた事をユートがそのまま口にする。

それに対してギユウちゃん
「そうです?お人形の専門店に行きたいんですけど…」

おお~そんなものがあったのかっ。
アニメ関係だけじゃなかったのね…

そして中野。

地下1階地上4階建てのビルの中にマニアなお店がいっぱいのブロードウェイ。
そこをクルクル回って日が暮れて、なんとなくプラプラと散歩に出て辿り着いた神社。

もちろん所持金は新宿に着いた時とたいして変わってない。

「お金…使い切らなかったね…」
「ま、そりゃそうだ。」

会計を任されていた私がお金の入った茶封筒を覗き込んで言うとサビトが小さく肩をすくめた。

「どうする?これ。やっぱりさ…綺麗になくしたいよね…」
さらに言う私の言葉にギユウちゃんの一言。
「寄付しましょう♪」
でたよ~と爆笑する一同。

「うん、それがいいね。丁度ここ神社だしお賽銭?」
ユートが言う。

「んじゃ、そういうことでっ♪」
私が即茶封筒の中身をザザ~と賽銭箱に放り込むのと
「おいっ!ちょっと待てっ!!!」
とサビトが叫んだのはほぼ同時だった。

「なに??」
チャリン!と最後の小銭まで全部賽銭箱に吸い込まれたのを確認して振り返ると、サビトがいつものようにため息をついた。


「お前…馬鹿か」

久々だなぁその台詞。
最初の頃は口癖のように口にしてたけど、いつの頃からか飲み込むようになっていた。
でもそういう事言ってる方がなんだかサビトらしくていいね。

なんてノン気に懐かしんでる私の耳に続いて飛び込んできたサビトの言葉…

「おい…帰りどうすんだよ………」
「……あっ……」
………全員の…お財布の中身全部入れてたんだっけ…
「あはは…どうしようね?」
「おいっ!笑ってごまかすなっ!この馬鹿がぁぁ~~~!!!」

夕暮れの神社。
どたばた劇の最後の幕はこうして俺様なパーティーリーダーの怒声で〆られたのだった。




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