オンライン殺人事件クロスオーバーA05

ミッション(10日目)


私達が海岸につくと、ギユウちゃんが一人で釣りをしていた。
そそ、このゲームではなんと釣りもできる。
釣った物は雑貨屋さんでそのまま売ってもいいし、解体屋さんに持って行くと有料だけど解体してくれて、鱗やら魚肉やら牙やらにしてくれる。
それをまた雑貨屋さんで売ってもいいし、合成屋さんで何かに合成してもらえる事もある。

『ギユウちゃん、サビトは?』
私達が来た事にも気付かず一心不乱に釣りにいそしんでたギユウちゃんは、私達に背を向けたまま
『ん~~わかんないです~』
と答えた。

まあ…ギユウちゃんから有力な情報を引き出そうなんて無謀な事考えちゃいけない。

私は
『そっか…』
と流して、そのまま砂浜に腰を下ろした。ユートもそれに続く。

しばらくギユウちゃんは釣りをしてたんだけど、数分後ピタっと動きを止めた。

『ギユウちゃん…どうしたの?』
『餌…なくなっちゃいました…』
不審に思って聞いた私に答えるギユウちゃん。

『んじゃ、こっちきて座ったら?』
と言うと、フルフル首を横に振った。

『サビトはさんが…ここから一歩も動いちゃだめだって言ったので…』
『………』

たぶん…放置すると毎回迷子になった挙げ句とんでもない行動に走るギユウちゃんのこと、遠くに行くなじゃサビトはも安心できなかったんだろうな。
釣り竿をかまえたまま棒立ちするギユウちゃんに、ユートが苦笑する。

『えと…ね、俺ら姫から3歩後ろくらいに座ってるだけだから、そのくらいは無問題だと思うよ』
『でも…それだと3歩も動いちゃうのでっ(>_<)』
言ってギユウちゃんは断固としてそのまま立ち続けた。

『ま…いっか』
実際に立ってるわけでもないから疲れるとかいうこともないし、放置決定。
そのままサビトはを待ち続けた。

『そう言えば…』
餌がなくなって退屈になったんだろう。
ギユウちゃんがいつものようにおしゃべりを始めた。

『ふざけるって動作…』
『はい?』
『結局わからなかったんですよね……』
『はいぃ??』

ギユウちゃんの言葉をまともに聞いちゃ駄目だって…。
私はスルーしてたけど、人の良いユートはまともに聞いて首をかしげてる。


『サビトさんに聞いたらそんなのないって言うから、今日アオイちゃん待ってる間にイヴちゃんに聞いてみたんですよ…
そしたら何の事?って言われちゃいました…しょぼ~んです(._.)』

ああ~~~、あれかっ!
イヴちゃんの名前がでたところで、私はようやく思い出した。

以前イヴちゃんがサビトを引き抜こうと私達に嫌がらせウィス送って来たときの事だね。
ウィスって機能を知らなかったギユウちゃんが、ウィスに対して通常会話で返事をしてたんでこっそり嫌み言ってた事がバレバレでイヴちゃんすごく焦ってたっけ…。
懐かしいなぁ…。

そういえば…ショウが殺された日を境に、イヴちゃんはガラっと人が変わった。
きつい女王様だったのが、か弱い姫に大変身。
確かに色々あったしねぇ。一緒にいるアゾットの影響もあるのかなぁ…。
とにかくホントにこれがあのイヴちゃんと同一人物?って疑ってみたくなるくらい一日で180度性格がかわったよ。

そんな事を考えつつ数分後…ふと気配を感じて振り向くと、ベレー帽をかぶった男の子がチラリと視界に入る。
背中には大きな弓。これは…ヨイチ?!

『ね、あれヨイチじゃない?!!』
私は海岸を見下ろす木陰からこちらを見ている人影を指差してユートに声をかけた。

『え?マジっ?!』
しかしユートの視界に移る前にサッと消えるヨイチ…。

『あ…いっちゃった…』
私が言うと、
『見損ねた~』
とユートはがっくり肩を落とす。
ほとんど珍しい野生動物みたいノリだな~。

そんなこんなで30分ほど待ってると、後ろからサビトの声がした。
『姫…餌きれてないか?』
『はい、きれちゃいました~;;』
『で?餌つけずに釣り竿持って何してるんだ?アオイ達と座ってればいいのに』
『だって…それだと3歩も歩いちゃうのでっ。サビトさん一歩も動くなって言ってたから』
『………』

………
………
………

『……悪かった』

しばらく沈黙した後、謝罪するサビト。
なんというか…いつもこういうパターンな気が…。
私とユートは電話口で吹き出した。

『ね、絶対サビトってギユウちゃんに勝てないよねっ』
『うんうん、いつもこのパターンだよなっ』

私達が携帯でそんな会話を交わしてる間に、ようやく後ろを振り返ったギユウちゃんが小首をかしげた。

『サビトさん……ボロボロ?』
『ああ、回復してくれ。状態回復も頼む』

HPゲージが真っ赤なサビトにギユウちゃんがピュルルンと回復魔法をかけてMP回復のために座る。
そしてギユウちゃんのMPが満タンになると、サビトは
『行くぞ』
と、先に立って歩き始めた。

『どこ行くんですか?』
ピョコンと立ち上がると、トテトテとサビトの真後ろの自分の定位置にかけよるギユウちゃん。
サビトは一瞬止まって私達3人がちゃんと付いて来てる事を確認すると、
『魔王の所。今ちょっと行って来てみた』
と言ってまた歩き始める。

「サビトでも…冗談言うんだね…」
「まあでも…あんまセンスあるとは言えないのがミソだけど…」

携帯でやっぱりボソボソ話すユートと私。
しかし…そこでお約束。ギユウちゃんが目を輝かせる。

『魔王の所?もしかして魔王に会ったんですか?どんな感じなんですか?』
『えっとな…緑のタコ』
もう…やめといた方が……

普通…この言葉でいい加減嘘だと気付くはずなんだけど…ギユウちゃんをそんじょそこらの凡人と一緒にしちゃいけない。

『緑のタコなんですか?
確かに海で出るタコって茶色ですもんねっ。きっとタコの王様なんですねっ。
でも緑のタコなんて面白いですよねっ、とっても楽しみです♪o(^-^)o』

本気で楽しみにされてますが?
ええ、ギユウちゃんがとぼけてるわけでも冗談言ってるわけでもないのは、いい加減全員がわかってますよ…

『……………悪かった…冗談だ』
『ええ?!嘘だったんですか~。
……すっごくすっごくすっご~~く期待してたのにぃ;;』

いや…普通嘘だって気付くし…。最後の魔王がタコってありえんでしょ。
光の神が天使みたいなのにそれに対するのが緑のタコなわけが………

『タコ見たいなら…その辺から引っ張ってくるか?』
歩く足を止めずに横の海を指さすサビトに
『緑じゃないと駄目ですっ;;』
と、きっぱり断言するギユウちゃん。

『緑のタコさん……楽しみにしてたのに………』
『………悪かった…』
『……会ってみたかったのに……』
『………』
ため息一つ。

『とりあえず……ないものは無理だから、この後3人でミッションクリアの報告してる間にこの前欲しいって言ってたエンジェルウィング取って来てやるから。それで許せ』
『エンジェルウィングですかっ♪あれとっても可愛いんですよね♪』
とたんに機嫌がなおるギユウちゃん。

「なんかさ…現実社会の縮図?」
「っていうか…サビトっていつも自爆してるよね…」
裏で苦笑するユートと私。

「でもさ聖堂の奥行く自信あるってとこがサビトってすごいよな」
ユートが感嘆のため息と共につぶやく。

ちなみにエンジェルウィングっていうのは文字通り天使の羽根の形の髪飾り。
お城のお姫様がつけている、女の子なら垂涎のオシャレ装備。
イヴちゃんとかも欲しがってて、ショウやゴッドセイバーをせっついてた。
まあ…取れなかったわけなんだけどね。

街の教会の奥から行ける聖堂の奥で取れるんだけど…辿り着くのに失敗するとレベルが1下がっちゃうんだ。
ちなみに…レベル3からチャレンジ可能。
もちろん…辿り着くまでにはすごぃ難関が…

最初のフロアの床は一定の間隔であちこちに落とし穴ができる。
いったんピカっとタイルが光って次の瞬間穴があくから、すごく反射神経良ければ超えられなくはないんだけど、その後が無理。

落とし穴のフロア抜けた後のドアに、ここの主催ってホントは教育委員会の回し者?って疑いたくなるような仕掛けがあるんだ。

高校レベルの試験問題20問中19問正解しないとドアが開かない。もちろん時間制限あり。
高校生ばかりを集めたのってそのため?それだけのため??

反射神経がめちゃ良いだけじゃなくて頭も超良くないと取れない。
だからイヴちゃんの従者二人が失敗して諦めて以来、チャレンジした人いないっぽい。

ま、それはおいておいてだ、
『ね、ミッション報告って?もしかしてこれから行くの?』
『ん。ミッション3な。とりあえず中ボス倒すだけだからものの5分で終わる。
俺は以前お前ら待ってる間にレベル16ソロで倒せたから馬鹿な真似しなきゃいけるだろ』

サビトは…基本的にミッションはいつもソロで行ってる。
それは私達を待ってる時間だったり、私達3人が金策してる時間だったり色々なんだけど、ソロでいる時はいつもミッション。
で、自分がまず下見して情報とか実際の強さとか試してみて、だいたいの事がわかってから私達を連れて行ってくれる。
たぶん…今ズタボロだったのはミッション4の下見。

『ミッション4はどうだったん?』
同じ事を考えてたらしいユートが前を歩くサビトに声をかけた。

『ん~、少なくともソロ無理。
というか…プリーストいないと絶対に無理だな。レベル高くても無理。
2体…なのは良いにしても状態異常すごすぎてな…逃げ戻った。
状態異常の種類は毒と暗闇。毒はHP尽きるまでになんとかすればいいとしても暗闇がやばい。
今俺22だけど戻る道々にいたレベル5の敵とかにすら攻撃が全く当たらなくなったぞ。
いくらなんでもバランス悪すぎだ。あっちの攻撃も当たらないからなんとか逃げ切ったが、もうちょっと敵とのレベル差少なければ格下の敵に余裕で殺されてる』

『うあ…すごいね(^^;』
『ん…だからミッション3終わって報告終わったら即ミッション4の依頼受けて来い。みんなで行くぞ』

私達はそれから軽く、サビトに倒すの手伝ってもらったから本当に軽々とミッション3の中ボスを倒すと街に帰った。

『んじゃ、そう言う事でミッション3の報告終わったらそのままミッション4受けて門前集合な』
すでにミッション4受ける所まで終わってるサビトは一人教会の方へ消えて行く。

ホントにあれやる気なのか……。
呆れつつもすでにミッション報告をしにお城に足をむけているユートとギユウちゃんを追いかけようと前を向いた時、少し前方の建物の影からまたチラリと大きな弓が目に入る。

まさか…ヨイチ?!
私はあわてて建物にかけよったが、弓が見えたあたりに目をやった時にはもう誰もいなかった…。
………今まで全く姿を見せなかったのに、なんでこのタイミングで?2回もって…偶然?
ゾクリと背筋が寒くなる。

「アオイ?どうしたの?まさか姫じゃあるまいし迷ってないよね?」
そんな事とは知らないユートが電話ごしに少し笑いを含んだ声で聞いて来た。
「ユート…あのね……」
私が説明すると、電話の向こうのユートから笑いが消える。

「でも…さ…」
それでもユートが口を開いた。

「逆説的に考えると、アクセスしてるって事はヨイチが犯人なんだったら今は安全って事だよね」

なるほど…そういう考え方もできるのね。

「ユートありがと。なんだかユートの言葉でちょっと気が楽になったよ」
私はユートにお礼を言うと、お城に急いだ。




シーフアオイの憂鬱


『ほら姫。約束の物。これで機嫌直せよ』
待ち合わせの門前に行くとサビトはすでに来ていて、ギユウちゃんに何か渡している。

『きゃあぁっサビトさんありがとう♪』
その場でピョンピョン飛び跳ねるギユウちゃん。
即装備したギユウちゃんのサラサラの黒髪にキラリと金色の羽根が光る。

サビトのレベルは…下がってないな。

『すごいね…、一発クリアなんだ』
思わず感心して言うと、サビトはそこで私を振り返った。

『ん?そんなに難しくはないぞ。お前も欲しいか?欲しければ今度とってきてやるけど』
当たり前に言うサビト。

まあ…失敗繰り返してたあたりがもういなくて良かったね。
自分に簡単にできるから難しくないわけじゃないという事は相変わらずわかってない発言だ。
それでもそう言われて私はチラっとギユウちゃんに目をやる。

白いワンピースで見るからにお姫様キャラのギユウちゃんにはすごく似合ってるけど…
茶色の皮鎧じゃどう考えても似合わないよね。

『ありがと~。でも私はいいや』
私が言うとサビトは
『そうか。まあ所詮見かけかわるだけでパラメータかわるわけじゃないしな』
と言ったあと
『んじゃ、行くか』
と、いつものように先に立って歩き始めた。


ミッション4はやっぱり中ボス退治。
街を出て海岸とは反対方向に進んだ山の中。
忘れもしない一番最初のミッションで麓の兵隊さんの手紙を渡したあの山の上だ。

銀色に輝く細身の鎧の背に青白く光る大剣を背負って先陣を切るサビト。
見かけだけじゃない。私達の何倍もの火力があってこの中では防御も一番高い。
しかも…その中の人はみんなが挫折した聖堂奥まで簡単に辿り着く反射神経と頭脳の持ち主でだ。
統率力もある。

その後ろに守られて歩いているのは純白のプリースト。
真っ白なその衣装と対照的に真っ黒な髪にはキラキラ光る金色の羽根。
お守りいたしますって気にさせる可愛らしい少女キャラは、それだけじゃなくて他にはない回復能力を持っている。
特に今回のミッションは彼女抜きではクリアできないらしい。

最後尾を守るのは艶やかな赤いマントに身を包んだエンチャンタ。
本人にそれほど火力があるとは言えないが、その能力アップの魔法には目を見張る物がある。
普通ならなかなか攻撃の当たらない格上の敵をガンガン倒せるのは彼のおかげだ。

そして…そんな中で冴えない茶色の皮鎧のシーフ。
見かけ通りの攻撃微妙、防御微妙なキャラ…。
なんか…私なんのためにこのパーティーにいるんだろう……
私は今更ながらその場違いさに気付いてリアルでため息をついた。

そんな私の憂鬱に当然気付く筈もなく、山を登りながら説明を始めるサビト。

『今回の敵は2体だ。もちろん1体ずつやる。
手前の敵はスイッチを押さない限り出現しないんだが、そのスイッチを押すと奥の敵も襲いかかってくる。
だからスイッチを押さずに先に奥の敵をやる。
だがスイッチを押さないと奥の敵がいる場所に行くドアが開かない。
ドアを通らないで奥に行こうとすると脇道を通らないとなんだが…これが炎吹き出すは落とし穴が移動してくるはで、一定のタイミングはかれないと奥に辿り着くの無理なわけだ。
まあ俺とユートは良いとして…アオイは頑張ればもしかしたら……姫はもう絶望的に無理だな』
サビトの言葉にギユウちゃんがコクコクうなづいた。

『ということで、だ、俺が奥行って敵釣ってくるからスイッチのちょっと手前で待っとけ。
そこで戦闘な。間違ってスイッチ押すなよ。
んで奥の敵倒したら初めてスイッチ押して敵出現させて戦闘。以上』

なんていうか…私要らない子な気がする……

現地に着くと、サビトが
『じゃ、行ってくるからここで待ってろ』
と、吹き上がる炎や移動する落とし穴を避けつつ脇道に消えて行く。

器用だなぁ…。
私も頑張ればとかサビトは言ってたけど絶対に無理だって。
最初の炎で丸焦げだよ絶対。

『とりあえず奥には辿り着いたからこれから連れてくぞ。準備しておけ』
しばらくするとサビトが言う。

『了解~』
一応答えるけど、ユートやギユウちゃんみたいに魔法があるわけじゃないし、オートで殴って微妙なダメージを与えるだけのシーフにしなきゃいけない準備なんてあるはずもない。
せいぜい心の準備くらい?

ぼ~っと待つ私とユート。
ギユウちゃんは相変わらずクルクル回ってる。

『ねえ、アオイちゃん、このドアが開くんですよね?』
大きなドアを珍しげな目で見上げるギユウちゃん。

『うん。横のスイッチ押すとドアが開いて敵がでてくるからね』
……って口にした私がいけなかったのね…。

『このスイッチを押すんですね♪』
って……

『ギユウちゃん!!待ったああああ!!!!』
止めた時には遅かった。
何を聞いてたんだか…いや、何も聞いてなかったに一票……
ギユウちゃんは押した……ポチっと……押しちゃいけない例の物を……

『ユート!回避の魔法よろしくっ!!』

とりあえずクリアのための生命線のギユウちゃんを死なせるわけにはいかないっ!
私はユートに叫ぶなり、咄嗟にギユウちゃんに襲いかかろうとする大きな悪魔に殴り掛かった。

『姫、下がって!!』
ユートは言いつつ回避UPの魔法を唱える。

敵はとりあえず殴った私の方へ向く。
運が良ければ…サビトが戻ってくるまで持たないかな…。

まあ…どっちにしても私なんて役立たずだしね…。
ギユウちゃん死んじゃったら全員ミッション失敗だけど、私死んでも影響ないし…。
死んでてもちゃんとパーティのメンバーの誰かが敵を倒せればミッションクリアできるし…。
死んだらちょっと経験値減るけど…レベル上がろうが下がろうがどうせ役立たずだからいいや…。

投げやりな気分で防御態勢を取らせたままキャラ放置で私がぼ~っと画面を眺めているうちにサビトが戻って来た。


『おい…すごいな…。何者だよ、シーフって…』

サビトの台詞にちょっと我に返って画面を注視すると、そこには敵の攻撃を避けまくって無傷な自キャラが……。
なにこれ??

『これは…下手に手出すよりそこでキープさせておいた方がいいな。
よし、アオイ、俺達がこっちの敵を倒すまでお前そのまま敵キープな』

サビトが言って自分が連れて来た敵を倒すのに集中する。
その間もずっと敵の攻撃を避けまくるアオイキャラ。
我ながらすごい!シーフすごい!!

『そいえばさ…シーフって回避が基準値の4倍で…さらに俺の回避UPでそれが倍、さらに…防御態勢取る事でさらに倍になって…今全部で回避が基準値の16倍になってる?』
『なんだそれっ…鬼だな』

そ…そんなすごい事になってたとは…

結局…サビト達が最初の一体を倒し終わるまでアオイキャラは無傷だった。
そして一体倒し終わってから私が引きつけておいた敵を無事倒した。

『今回はお手柄だな、アオイ』
初めて戦闘で役にたって初めてサビトに褒められた。

『うんうん、すごいよ、アオイ!』
ユートも言ってくれる。
『ですです、びっくりしました(^-^』
と、ギユウちゃん。

単純にもう嬉しかった。

『ま、この先のミッションどうなってるかまだわからんが…もし敵が2体以上の場合はアオイが余分な分引きつけておいてその間にって感じだな』
サビトが言う。

この時から…ようやくシーフアオイに自分にしかできない役割ができたのだった。



まあ余談なんだけど……

帰り道…いきなりサビトが崖から滑り落ちた。

『サビト?そっちなんかあんの?』
ユートが不思議そうに下を覗き込むと
『いや…素でミスった、悪い。
まあそこからは敵に絡まれる事ないだろうから、お前らそのまま行ってくれ。
俺はなんとか自力で帰り道みつけるから』
との返事。

サビトがミスなんて珍しいなあ…と思いつつ、私が
『らじゃっ』
とサビトに返した瞬間…ユートの悲鳴。

『ひ~め~!だめ~~~!!』
止める間もなくサビトを追いかけて崖をすべり落ちるギユウちゃん。

『……姫…何してる…?』
唖然とするサビトにギユウちゃんはきょとんと
『何って?』
『いや、そのまま行けって言っただろうが…』
『はい、だからそのまま付いてきましたけど?』

もう…脳内変換が…宇宙だ。

『しかたないね…みんなでそっち行こう(^^;』
ユートが苦笑して崖を滑り落ちる。

そしてさあ私も…と崖の方に足を向けかけた瞬間…
シュッ!と矢が私の目の前を横切っていった。

…へ…?
矢が飛んで行った方向ではいつのまにかいたんだかクモのモンスターが矢に串刺しにされて消えて行く。

矢が飛んで来た方向を見ると大きな弓を構えた見るからにアーチャーな男キャラ。

初めて……間近に見た。
シャルルじゃないから…ヨイチ…だよね…。
一応…助けてくれたの…かな?
でもありがとうって言おうとして振り向いた瞬間、音もなく消えて行った。

な…なに?いったい……行動が…謎。
しかしいつまでも考えてても仕方ないし、私もすぐみんなの後を追って崖を飛び降りる。


『アオイ、どうした?』
少し遅れた私を心配したユートが声をかけてくれたけど、返事をするまもなく、今度は悲鳴をあげて前にかけだしていく。

『サビト!何してるん?!そっちやばいって!』
『…あ…悪い』
炎につっこむ寸前止まるサビト。

『ホントさ、今日は姫以外みんなどうかしてない?』
軽く首を振りながら苦笑するユートに、サビトはまた、悪い、と謝った。

サビトも……変だね、さっきから。
ミッション終わるまでは普通だったんだけどなぁ…。
結局その日はコウが駄目ぽいんでユートが先頭で、それでもなんとか道をみつけて街に辿り着いた。



犯人は誰だ


その日からは日々裏でユートとウィスなり電話なりしながらレベル上げをした。
電話はもちろんゲームの時以外にもしてたし。

自分の事を明かす事で、リアルの自分が確かに存在すること、私の味方が確かに存在する事を感じさせようとしてくれてるらしい。
ユートは『アオイの方は別に言わないでいいからね』と言いながら、少しずつ自分の事を教えてくれた。

ユートは本名は悠人って言って、キャラ名はその本名から取ったらしい。
都立高校に通う2年生、それぞれ3歳ずつ離れたお姉さんと妹に囲まれた中間子。
エンチャになったのは…私と同じく迷ってる間に他が埋まっちゃったからだって聞いて笑った。

「今思えばさ、人数制限あるんだから良いジョブって早いもの勝ちだし、みんなあらかじめジョブ決めておいてアクセスした瞬間に連打が普通だよね」
ユートに言われて納得。

私も同じ様にボ~っとしてたらジョブ埋まっちゃってシーフになったって話をしたら
「同じような人間もいるんだね」
って電話の向こうのユートが楽しそうに笑った。

そんな話をしてるうちに、話題は自然に犯人の事に…

「私さ、ヨイチが怪しいと思うんだけど…」

自分の情報は一切明かさず姿も見せない謎のアーチャー。
なんだかあのなりすましメールの日にはストーカーみたいに影から私の事追い回してた気がするし…
こっそりつけてきて、私が気付いたら逃げるってあたりもすごく怪しい気が……。

「メグをなんとか騙して他のメルアド引き出してる可能性もなくはないね」
ユートは同意する。

「それにさ、もしアオイが呼び出された日に殺害のニュースが流れた女の子がメグだとするとさ、犯行時間てヨイチ以外は俺達全員ゲームにアクセスして広場で顔合わせとかしてたじゃん?
ヨイチだけは皆と会話してたわけじゃないから、キャラ放置ででかけてメグを殺して戻ってもわかんないよね。
殺された女の子がメグって仮定しての話だから、それに関しては絶対とは言えないけどさ」

そっか…そうだよね…
私が偽メールで呼び出された日以来、メグをみかけなくなっていた。
やっぱり赤坂めぐみ=メグだったのかな…。
誰もメグの本名を知らなかったから、本当に確認しようがないんだけどね。

あと…残ってる男はサビトとユートを抜かしたらアゾットとエドガーとヨイチとシャルルの4人。

「まあ…どっちにしても一億狙ってってことならアゾットはあり得ないと思うんだよね…」
ユートの言葉に私もうなづいた。
「うん、なんか優しそうな人だもんね」
「いや、それもあるかもだけど…」
私の言葉にユートはちょっと苦笑する。

「取得条件が魔王にとどめを刺す事だから。
プリーストじゃソロでは無理だし、パーティーで他と一緒に殴ったとしてもとどめさせる可能性低いでしょ。なにせ全ジョブ一攻撃力低いから」

なるほど…一億狙うなら火力高いジョブ選ばないとなのね。
他の3人は平均以上の火力があるウィザードとアーチャー×2だもんね。

「サビトは…シャルル疑ってるみたいだけどね」
「そうなの?」

意外な人物の名前に私は目を丸くした。
確かに変人だとは思うけど……

「疑ってるっていうか…そうあって欲しいって思ってるって言うのが正しいか」
電話の向こうでユートが笑う。

「なにそれ??」
「いや、シャルルからのウィスに怯えてるマジ。身の危険をね…感じ始めてるっぽい」
電話の向こうでユートが爆笑。

「身の危険て……リアル特定されたとかじゃないよね?」
サビトに限ってうかつにリアル明かしちゃうってありえないと思うんだけど…

「あ~そういう事じゃなくて…ようは…貞操の危険てやつ?」
はあ~~~~?


「ミッション4の帰りもさ、それでパニックだったらしいよっ。ホントは姫が降りちゃわなかったらあのまま死に戻りして即落ちしようと思ってたらしいしっ」

そんなに…すごいのかっ。あのサビトが怯えて落ちるほどにっ。

「いったいどんなウィス来てたの?」
好奇心で乗り出す私にユートはやっぱり笑いながら
「いや、ゲーム上でのデート(?)のお誘いからリアルのサビトに対する質問までっ」

「コアな質問なの?どんな質問?」
さらに聞くと、ユートはやっぱりクックッと笑いながら
「無理っ!女の子には言えない、さすがに」
と言う。

なんで~~!そこまで言われたら超気になる。

「いいもん…サビトに直接聞いてやるっ!」
私はふくれて電話しながら飲んでたコーラのペットをドン!と机においた。

「それはだめ~~!!マジ、サビト来なくなるよっ!!」
あわてるユート。そんなにすごぃ質問なのか。

「じゃ、ユートが教えてっ」
いつもサラリサラリとかわすユートが珍しく言葉に詰まった。

そして
「サビトに…言っちゃだめだよ?絶対」
と折れる。

「うんうん、言わないっ。それでそれで?」
ユートが電話の向こうでため息をついた。

「恋人いる?から始まって…まあサビトは全部スルーなんだけど、話は進む訳ね、勝手に」
「うんうん」
「いないならたまった時ってやっぱり自分で?週何回くらい?その時どんな相手を想像してやってる?のコンボあたりで崖に落ちたっぽいよ」

うああああ~~~。

「俺だったら適当にかわせるんだけどねぇ…サビトほら、真面目だからさっ。
そこまで突っ込んだ質問された時点で頭ショートしたっぽい。
まあそれでさ…そういう趣味のある男に迫られてるんだって思うより、犯人が自分を魔王に近づけさせない様に妨害のための嫌がらせウィス送ってるって思う方が精神衛生上よろしい、と」

サビト…気の毒に………。

「まあさ…俺もそっちの趣味ないからよくわかんないけどさ、確かに普通の恋愛って考えるとそこまで聞かない気がするんだよなぁ。
だから妨害のためそういう話が苦手そうなサビトにあえてそういうウィスってのも可能性としてはありかなとは思うんだけど…」

あ~そうだよねぇ…。普通に排除するって難しそうだしサビトの場合。
搦め手もありなのかな…。
とするとシャルル犯人説も可能性0ではない?

エドガーは…犯人特定しようとしてるみたいだから、違う気もする。
本気で犯人は誰なんだろう…。






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