第二の殺人(9日目)
日々楽しくない…ってか怖い。
真面目に怖いよっ。
とりあえず私はまだ生きている…。
でも怖くて怖くてたまらない、みんなに会いたい。
昼間…何もしてないとすごく怖くて、頭に全然入ってこないんだけどテレビをぼ~っと見ている。
でも…考えてみれば可能性が高いってだけで、絶対ではないんだよね。
鈴木大輔君が殺された理由…リアルの何かの可能性もなくはないよね…。
そうだといいな……そうだといいのに……
そんなニュースやってないかな……
カタカタと震えながら藁をもつかむ気持ちでチャンネルをニュース番組に変える。
丁度お昼のニュースが始まった。
画面を凝視する私の期待とは裏腹に、別の高校生が誰かに殺されたみたいなニュースはあったけど、鈴木大輔君の事件の新しい情報は何もない。
不安を抱えたまま一日が過ぎていく。
夜…食事を終えて部屋に戻って時計を見るとようやく19時。
そこからはひたすらカチカチ動く時計の針を凝視して過ごした。
思わず叫びだしたくなるような不安。
みんなこんな時を過ごしてるのかな…。
40…50…55…59…0!
時計の秒針が12を指すと同時に震える手でゲームのアイコンをクリックする。
PCが画面を読み込む時間すらもどかしい。
早くこの押しつぶされそうな不安な時間から解放されたい。
読み込みが終わって画面が明るくなる。
始めてアクセスした時と変わらぬ光景が安堵の涙でにじんだ。
涙を拭うと目の前にはもうすっかり馴染んだヒョロッと背の高い男の子のキャラクタが笑顔を浮かべている。
『おはよっ!』
と、いつものように言ってパーティに誘ってくれるその態度になんだかホッとした。
続いてちょっとキツい顔立ちのベルセルクが姿を現し、いつものようにパーティーに加わる。
最後にきたのはふんわり癒し系のお姫様キャラ。
『ごきげんよう♪』
とパーティーに入る。
いつものメンバーが揃ってなんだかホッと一息つけた気がした。
『レベル上げいこっか』
音声じゃないし、あくまでディスプレイの中のキャラクタなんだけど、なんとなく柔らかい雰囲気を感じるユートの言葉。
『そうですね。私、海岸行きたいですっ』
やっぱりおっとりまったりした空気のにじみ出るギユウちゃんのキャラ。
そこでいつもなら、
『じゃ、行くぞ』
と先に立って歩き始めるサビトが、今日は
『あ~…ちょっと今日は待ってくれ』
と、なんだかいつもと違って歯切れが悪い感じで言った。
なんていうか…少し厳しい表情してる気がする。
もちろんゲームの中のキャラクタがそこまでリアルな表現をするわけじゃなくてあくまで私の想像なんだけどね…。
そしてそう感じてたのは私だけじゃないらしい。
『サビト…?どした?』
ユートも聞いてくる。
『いや…悪いな、リアル事情で30分ほどキャラ放置するから。
なんなら3人で先行っててくれ』
……なんか…うそ…ついてる予感。
根拠はないけど女の直感っ。
『じゃ、ここでおしゃべりでもしてお待ちしてますねっ。
みんな一緒の方が楽しいですし(^-^』
一人何も気付いてないぽいギユウちゃんがいつものニコニコマークでそう言ってさっさと噴水の端に腰をかけた。
その後欲しいおしゃれ装備や行ってみたい狩り場とかの話を始めるギユウちゃん。
離席宣言のサビトはともかくとして、ユートも全くの無言なのも全然気にならないらしい。
どう見てもサビトの離席って嘘で、ユートはそれをウィスで問いただしてる気がするんだけど……
ある程度確信を持ってユートにウィスで聞いてみたら、案の定
『ごめんね、今ちょっと取り込み中。あとでちゃんと話すね(^^;』
とのこと。
やっぱりね。
しかたなく了解して小鳥のさえずりのように響き渡るギユウちゃんの可愛いおしゃべりに加わってみる。
そうしてる間にもみんな続々とインしてきた。
そしてそれぞれの目的の場所に消えていく。
やがてもう少しで30分という時、サビトが動き出した。
『待たせて悪い、行こう』
いつもみたいに先に立って歩き出すコウの後を勝手についていく追尾設定にして、私はユートにウィスを送った。
『んで?結局なんで離席のふりしてたの?』
取り込み中ってだけではっきり断言されたわけじゃないけど、そうと断定して話を進める私に、ユートは自分が言ったのサビトには秘密ねと念を押しつつ話してくれた。
『今日ね、昼にまた高校生殺害のニュース流れたの知ってる?』
あ~そいえば鈴木君の情報ないかとニュース見てた時流れてたな。
『秋本翔太君ね』
『そそ』
聞いてないつもりだったんだけど…なんだか名前まで覚えちゃってたよ。
『んで?それが何か?』
聞き返す私にユートは一瞬沈黙。
『なに?』
もう一度聞き返すと、他にはわからないように後ろでこっそりため息をついた。
『気に…なってなかったんだ?』
『へ?』
『いや…あれももしかしたら参加者の誰かなんじゃないかなと思ってみたわけで…』
『あ~~』
そういう可能性あるんだ…考えてみれば。
『でね、ある程度参加者ちゃんとインしてくるか、確認しようと思ったらしいんよ、サビト』
なるほど…
ま、今日はちゃんと死んだゴッドセイバーと辞めたショウ以外の10人みんなインしてたよね。
『ふ~ん、理由はわかったけど…サビトもそれならそうって言えば良いのに』
別に隠す様な事じゃないと思って言うと、ユートは続けた。
『この前の事があるからね、サビトもやり方変える事にしたっぽい』
『この前の事?』
『うん。結局さ、俺が教会でアオイに言った通りでさ、悪気があるとかじゃなくてアオイの気持ちとか本当にわかんないらしい。
んで、サビトにしてみたら普通に可能性も話して事態が深刻なんだってなるべくわかって欲しかったらしいんだけど、それでアオイが怯えてパニックになるなら姫に対するのと同様、ある程度必要のない事は言わない方向で進めようと…』
『ギユウちゃんと?』
聞き返すと、ユートはうなづいた。
『うん。サビトは姫には必要な事しか言ってないらしいよ。
初めて会った時にさ、攻撃受けてパニック起こしてたじゃん?
それで最初から無理だと思ったんだってさ。
だからもう不安にさせるから経過とかも一切伝えないで、自分の言う事だけをきちんと守ってくれれば絶対に安全は守るからって、リアル話さない事、呼び出しは絶対に受けない事、自分がいないところで俺とアオイ以外の参加者と話をしない事を約束させてるらしい』
そう…だったんだ…。
だからギユウちゃんはあんなに落ち着いちゃってるのね。
私は先頭を歩くサビトと、その後ろをテケテケついていくギユウちゃんに目を向けた。
確かに…全く怖くないわけじゃないだろうけど、サビトに任せちゃえば楽だよね…。
私はその頼らせてもらえる組に入れてもらえた事に正直ホッとした。
これでもうどうしようって思いながら過ごさずにすむんだ…。
サビトが先頭で敵を警戒しながら進んで、ギユウちゃんが何かあったら即サビトにフォローに入ってもらえるようにそのサビトのすぐ後ろを隠れるようについていく。
さらにその後に私がいて、後ろで何か起こったときの事は最後尾を歩くユートが警戒してくれる。
そんな狩りの時の立ち位置のまま、ゲーム終了までは前後の二人に守られるようにすごす事になるのかな。
不安がだいぶ減ったところでちょっと気分も軽くなって、私が二人の後を追いかけようと駆け出し始めた時、またメッセージが送られてきた。
今度は…アゾット…って誰だっけ?
『アゾットって…男プリーストだったよな?』
みんなの所にも同じくメッセージがきたらしい。
サビトが足を止めて振り返った。
『だね。いかにもヒーラーって感じのあたりが柔らかい奴だった気がする』
ユートが答えて、戻る?と聞くと、サビトは、そうだな、と答えて反転した。
『こんばんは。参加者のアゾットです。
なんとなく気にしていらっしゃる方もいるとは思いますが、今日の昼過ぎに秋本翔太君という高校生が殺害されたというニュースが放映されました。
参加者の一人、イヴさんによると、殺された秋本君は元このゲームの参加者のショウさんらしいです。
親しかった相手が二人とも殺害された事でイヴさんも非常にショックを受けていますし、犯人の男の次のターゲットが自分なのではと、とても怯えてもいます。
もちろん、僕を含めて全ての参加者がそのターゲットになりうるわけですから誰しもが他人事ではありません。
そこで下手に相手の事を知らないまま不安を抱えるよりは、一度全員街の広場に集まってどういう参加者がいるか顔合わせをしませんか?
現在僕はイヴさんと共に街の広場の噴水前にいます。
来られる皆さんはぜひ、噴水前までお願いします』
不安…だよね、イヴちゃん。
色々トラブルもあったけど、私は今の自分の立場を思い返して彼女に心底同情した。
今私はサビトやユートのおかげでずいぶん不安が減ったんだけど、もし頼れる筈の仲間が次々死んじゃってひとりぼっちになったら…始めから一人なより心細いよね。
私達が広場に戻ると、そこにはイヴちゃんが立っている。
そしてその隣にはギユウちゃんと同じく十字架模様の入った服を着た優しげな男プリースト、アゾット。
それと…黒いロングコートの…格好からしてたぶんウィザードかな?エドガー。
あとはでっかい弓を背負った見るからにアーチャーなシャルルが集まっていた。
で、私達4人入れて8人…ってことは…亡くなった二人を抜かしても二人足りない。
『例のメルアド主催者のメグとメルアドスルーのヨイチが来てないな』
横でサビトがつぶやく。
よくそんなにすぐ思い浮かぶな~。
やっぱり頭の出来が違うんだろうか……リアル絶対に賢い学校だよね。
「やあっ!君達いつも一緒にいるよね。仲いいの?」
私達の姿を認めると、シャルルがまず近づいてきた。
そしてそのままサビトの横にぴったりと寄り添う様に立つ。
スっと即一歩引いて距離を取るサビト。
するとまたシャルルが一歩近づき、またサビトが距離を取る。
しばらく二人はそんなやりとりを繰り返してる。
「サビト、いい加減にしなよ、大人げない」
思わず言うと、
「ほっとけ」
と言うサビトはいつもの事なんだけど、シャルルもいきなり
「そうだよ、君には関係ないでしょ?馴れ馴れしいな」
となんだか嫌~な言葉を吐いてくる。
なにこの人………
ムッとして黙り込む私に
「いきなりそんな…」
とさすがにユートが言いかけるが、それを最後まで言うまもなく、
「ふざけるなっ!馴れ馴れしいのはお前だっ!気味悪いっ!!!」
とサビトがキレた。
「こいつらは俺の仲間だから馴れ馴れしかろうがいいんだっ!
それを見ず知らずのお前にグダグダ言われる筋合いはないっ!!」
サビト……
ちょっと感動した。
こういう時のサビトは毅然としてて超カッコいいっ!
もう拍手喝采したい気分だ。
言われてシャルルは一瞬沈黙。
あ…ちょっとショック受けてるかな…って思ったら、またいきなり
「サビトってさ、すごぃ男らしいよなっ!そういう奴って僕超好きだよ!」
と、なんだか嬉しそうにまたピタっと距離をつめた。
うあああ…なんだかなんていうかこの人って…絶対に変!!
「リアルもさ、そんな感じ?服とかどんなの好き?
リアルでも背そこそこ高い?体格は?サビトって鍛えてはいそうだよねっ。
制服は学ラン?ブレザー?サビトのイメージだと学ランって感じだけど、ブレザー着崩したりとかもなんかいいねっ、シャツのボタンはずしちゃったりとかしてさ…
寝る時ってさ、パジャマ?Tシャツ?それとも着ないで寝ちゃったりとか?
あ、でも意外なとこで着物とかも似合うかもっ。
あ~、そだ、トランクス派?ブリーフ派?…………」
と…止まんないよ、この人。
サビトはおもいっきりひいてる。てか、リアルで怯えてるよ、絶対…。
珍しく逃げ回るサビトと追い回すシャルル。
普段は我が道を行く俺様なサビトなだけに端から見てるとちょっと面白い。
しばらくユートと少し遠目にそんな二人を眺めてたが、ふと視線を他に移してみると、怯えきったイヴちゃんを一生懸命慰めてるアゾットが目に入る。
ギユウちゃんもだけど…アゾットもホントに優しげな癒し系って感じ。
ユートいわく本来は魔王倒して一億円なゲームでわざわざ周りを癒すプリーストなんてジョブ選ぶ人って、リアルでもやっぱり優しい癒し系な人なのかな…。
「みんな…みんな殺されちゃった…」
多分リアルでも絶対に泣いてるであろうイヴちゃんのキャラにぴったりと寄り添って
「大丈夫…これからは僕が出来る限り側にいて君を守るから。なんでも相談して?」
と言うアゾット。
ほだされるよねぇ…。
なんていうか…前の二人は女王様イヴちゃんの従者って感じだったんだけど、アゾットはイヴ姫のナイトって感じで、ちょっと素敵。
あとは…その二人の隣にはエドガー。
「ゴッドセイバーの場合…確かに実名言いふらしてたらしいからわかるんだけど…
ショウは…どうして殺されたんだろうね?実名知ってたのイヴだけじゃないのかな?」
とてもとても冷静な口調でつぶやく彼に、アゾットは
「色々聞きたいのはわかるんだけど、彼女も本当に今日起こった出来事ですごく傷ついてるんだ。
せめて今日一日はそっとしておいてあげてくれないか?」
とイヴちゃんをかばうように二人の間に入った。
カッコいいなぁ………
「でもさ、彼はメルアドすら教えてないんだよね?」
と、それでもさらに食い下がるエドガーに、イヴちゃんがアゾットの後ろから顔を出す。
「えと…ね、それに関してなんだけど…気になる事が…」
無理しないでいいよ、というアゾットに、
「大丈夫、今はみんなそのために集まってるんだし…」
と気丈に答えて話しだすイヴちゃん。
けなげだなぁ…
「彼ね…メグちゃんにメルアド送ったって言ってたの。
辞めるって話もしてないって。
なのに私の所にきたメッセージでは彼は辞める事になってたから、びっくりしてたわ。
他の誰かと間違えたか何か勘違いしたのかもしれないしメグちゃんに一度確認のメッセージ送ったから返事待ちって言ってた…」
え……
それを聞いてアゾットもエドガーも一瞬固まる。
「確かに…エドガー君が二人と仲良くて色々聞いてた私を疑うのももっともだと思う。
…でもね…私もホントに今怖くて怖くて震えが止まらないの…信じてもらえないかもだけど…」
そこでイヴちゃんの言葉は途切れた。
たぶん…リアルで泣いてるんじゃないかな。
そんなイヴちゃんをかばうように、アゾットがまた彼女を後ろに隠す様にエドガーの前に立ちはだかった。
「仮に…僕が犯人だとしたら、真っ先に自分が疑われる様な殺し方はしないと思うな。
君もそう思わないか?」
まあ…それは確かに……
ゴッドセイバーはともかくとして、ショウは実名とか言いふらしたりしてないわけだから、普通は仲良くしててリアル知ってる可能性が高いイヴちゃんが疑われるよね。
犯人だってそんな事わかるはずだし自分が疑われるような事しないよね……
その言葉にエドガーもさすがにちょっと黙り込んで、それから_あたりを見回した。
「キーパーソンはメグって事かな。彼女に事情を聞けば少しは状況が見えるかも。
だけど…来てないな」
エドガーの言葉にアゾットはちょっと困った様にため息をついた。
「僕がインした時には確かにいたんだけどね…。何故だかログアウトしちゃったみたいだ。
送ったメッセージが届かない。明日事情を聞くしかないね」
確信を握るキーパーソンのメグが来てなくて事情はまだ霧の中だけどとりあえずそれぞれの人物像はわかってきた。
生き残ってるのは12人中10人。
私達4人を除くと、殺された二人と仲の良かった渦中の人イヴちゃん。
メルアド交換を申し出たまま姿を消したメグ。
怯えてるイヴちゃんを慰めてる癒し系の男プリーストのアゾット。
なんだかハイテンションでサビトを追い回してるアーチャーのシャルル。
周りから情報を聞きまくって犯人を特定しようとしているらしい男ウィザードのエドガー。
そして……このゲームを始めて以来、他人と一切連絡を取ろうとせずメルアド交換すら
スルーしてる謎のアーチャー、ヨイチ……
その日はとりあえずアゾットが音頭をとって、それぞれ自己紹介をして解散したんだけど、みんなが微妙に全員を警戒している嫌な雰囲気だった。
ショウを殺した犯人がゴッドセイバーを殺した犯人と同一人物だとすると犯人は男で…
たぶんこの中にいるんだよね…。
いったい誰なんだろう……
なりすましメール(10日目)
謎が謎を呼んでいて犯人はまだ捕まってないわけなんだけど、その日はゴッドセイバーが殺されて以来、久々によく眠れて、すっきり目を覚ました。
ユートとの会話でどうやらサビトに丸投げしておけば守ってもらえるっぽい事がわかったし、昨日ログアウトしちゃったメグにメルアドの一件を聞けば、なんとなく犯人が割れるのかな~なんてちょっと光が見えてきた気がした。
そんな状況を彩るように晴れやかな良い天気だし♪
そいえばここ数日まるで引きこもりみたいにカーテン閉め切った部屋に引きこもってたから、久々に買い物でも行こうかな~♪
せっかく10万も臨時収入はいったんだし、美味しいものでも食べて、服でもみよっか…
でも学校の友達はアヤは休みいっぱいバイトいれてるし、エリは豪華にヨーロッパ旅行中なんだよな~。
こんな時に彼氏でもいれば……
デートなら…サビトよりユートかなぁ。
買い物でもなんでもつきあってくれそう。服とかも一緒に選んでくれそうだし♪
でもサビトなら変な奴きても毅然とした態度でおっぱらってくれそうだよねっ。
道とか歩く時でも女の子に車道側歩かせたりとか絶対にしなさそう。
……って、何考えてんだろ、私///
ちょっと我に返って恥ずかしくなったけど、それでも想像が止まらない。
彼女…いるのかな、二人とも。
私みたいに自分のイメージに合わせてキャラ作ってるなら見かけは10人並み以上どころかかなりカッコいい。
性格は男らしいサビトと優しいユート、どちらもそれなりにモテそうだ。
そんな馬鹿な想像に没頭してたら、いきなりメールの着信音。
例のフリーメールのメルアドにメールが届いてる。
ギユウちゃんのメルアドからだっ♪
『おはようございます♪
なんだか色々怖い事ばかり起こって大変な時ですけど、お天気も良い事ですし気晴らしに一緒にお買い物しませんか?
ご都合がよろしければ11時頃吉祥寺の駅ビル内2階の切符売り場のあたりで○○という雑誌を持ってお待ちしてますので、いらして下さい♪
やっぱり怖いので念のため人通りが多い所で人が多い場所を選択してみましたっ。
これから外に出ちゃうので、携帯のメルアドの方に連絡お願いします♪
私の携帯ネットつなげなくてPCのメルアド見られないのでっ(>_<)』
という事で携帯メールのメルアドが添えられている。
ギユウちゃんもあれかな、やっぱりちょっと事態が落ち着きかけて周りの子のリアルとか想像してみたクチかなっ。
私はすぐ自分の目印を添えて了承のメールをギユウちゃんの携帯に送った。
楽しみだな~♪どんな子なんだろうギユウちゃん♪
キャラのままのイメージだと…サラサラの黒髪ロングヘアの小柄な女の子。
すごぃ可愛い感じだよねぇ…
そんな彼女と並んであまりに自分が可愛くない引き立て役だとちょっとやかも。
楽しみなんだけど、ちょっと心配。
ブス…ではないんだけどなぁ…
せいぜい10人並かぁ…
鏡の中の自分とにらめっこしながら服を選ぶ。
ああでもないこうでもないと取っ替え引っ替えしてるとあっという間に時間が過ぎて、結局ロクに化粧もしないまま家を飛び出す事になった。
吉祥寺まで電車で一本。
時間は……11時ジャスト!ギリギリセーフ!
ギユウちゃんらしき子は……まだ来てない、かな。
11時"頃"って言ってたもんね。
………
11時半…遅いなぁ…何かあったのかな……
時期が時期だし少し心配になって教えてもらった携帯のメルアドにメールを入れようとした瞬間、メールの着信音が鳴った。
ギユウちゃんからだ。
『ごめんなさいっ(>_<)
急に貧血起こして倒れちゃって、連絡遅れちゃいましたっ。
ちょっとさすがに行けそうにないので、ホントにドタキャンで申し訳ないんですけど、今日キャンセルさせて下さいっ』
うあああ…
即了承の旨を伝えるメールを返す。
このところの騒ぎでギユウちゃんも体調崩しちゃってたのかなぁ…。
たいした事ないと良いけど…。
なんとなく…ぶらつく気分でもなくなっちゃって、そのまま家へ直帰して、また引きこもりもどき。
残念だけど…しかたないよね。
でもまた機会があれば今度こそ会ってみたいな~。
ゲームが終わった後なら安全になるし、サビトやユートも一緒に同窓会みたいな感じで♪
もうほとんど習慣で意味もなくテレビをつけると、ニュースでまた高校生殺人事件が…
被害者は…赤坂めぐみ…めぐみ…メグ…???
まさか…ね…
考えてもどうしようもない…てか、考えたくない…考えるのよそう。
ブチっとテレビの電源を切る。
朝はあんなに爽やかで楽しい気分だったのに、また鬱々とした嫌な気分に………
あ~なんか楽しい事ないかなぁ…
まあ…それでも昨日ほどの恐怖心はない。
サビトに任せておけばなんとかしてくれるんだよね、きっと。
ホントに無意味に貴重な高校の夏休みを浪費してるとは思うんだけどダラダラと雑誌をめくったりとかしながら私は夜を待った。
そして8時。
もう習慣通りにゲームにログインする。
今日は私がのんびりしてたせいか、サビトとユートだけじゃなく、ギユウちゃんももうインしてた。
貧血…大丈夫なのかな?
『ちわ~(^^』
『よぉ!』
『ごきげんよう(^-^』
サビトに誘われてパーティに加わると3人がそれぞれ挨拶をしてくる。
『こんちゃっ(^o^)ノ』
それに挨拶を返したあと、私はちょっと気になってギユウちゃんに声をかけた。
『ギユウちゃん、身体もう大丈夫なの?無理しないで休んでた方が良くない?』
私の言葉にサビトが振り返った。
『どこか悪いのか?なら無理するなよ。ログアウトして早く寝とけ。
レベル開くの嫌なら今日はレベル上げ行かないで金策でもしながら待ってるから』
『そうだよ、先は長いんだしね。無理しないで?
まあ…それでも色々あったし不安だったりとかして一人嫌なら、街でまったりおしゃべりでもしてようか(^^』
ユートも言うが、ギユウちゃんはハテナマークを振りまきながら私達3人の周りをクルクル回った。
『えっと…私どこも悪くないんですけど……』
『え?だって今日貧血起こして倒れたって………』
『…?…なんの話です???』
あ…もしかして…そうだよね、リアルで会おうなんて話してた事バレたらサビトが大激怒だよね…。
私は納得して今度はウィスをギユウちゃんに送った。
『ごめんね、リアルで会う約束してたなんてサビトに知れたら大激怒だよね…。
でもホントもう大丈夫なの?』
私のウィスに目を通したのかクルクル回ってたギユウちゃんがピタっと止まった。
『あのぉ……リアルでって??』
『え?メールくれたじゃない?今朝一緒に買い物をって』
『ええ??私がです??送ってませんよ??』
『え?だってギユウちゃんのメルアドからメールきたよ?』
『えええ???私ホントにぜんっぜん覚えがないんですけど…』
どうなってんの???
いきなり無言になる私とギユウちゃん。
もう裏でウィスしてるのは見え見えなわけで…
『お前ら!裏で話進めるなっ!』
と、サビトがキレた。
ピョンと一歩とびのくギユウちゃん。
その反応にサビトが語尾を和らげた。
『悪い…怒ってるわけじゃなくて…。
女同士の方が話しやすいのはわかるけど、体調悪いとか隠されると心配になるだろ…。
なんかあるなら言ってくれ。時間調整とかして無理させないようにしたいから』
すると今度はギユウちゃんとサビトがいきなり無言……
ウィス中な予感。
そして数分後…
『アオイ、お前なぁ!』
いきなり怒鳴りかけるコウの言葉に、ギユウちゃんが
『サビトさん…怒らないって約束したのに……』
とかぶせる。
それで一瞬沈黙するサビト。
そこで3人の中で唯一蚊帳の外でも我慢強く待っていたユートが、
『えっと…俺だけ何にもわかってないっぽいんで、説明してもらえると
嬉しいかなぁ…なんて思ったりとか…(^^;』
と、遠慮がちに口をはさんだ。
ため息をつくサビト。
『今朝…な、アオイんとこに姫のメルアドから一緒に買い物しようってメールが届いたらしい』
『あらら…好奇心が勝っちゃった訳ね(^^;』
というユートにサビトはまたため息をついた。
『それですめば良かったんだがな……』
『何か問題でも?』
『大問題だ。姫はそのメールを送ってない』
『どういう事??』
私とユートが同時に聞く。
『たぶん…なりすましメールだ』
『なりすましメール??』
私は聞き慣れない言葉に首をかしげた。
『えとな…最近詐欺とかでよく使われるんだけどな…他の人間のメルアドでメールを送れる方法があるんだ。
例えば…実際は俺が送ったのに、送られた側の方にはユートのメルアドから送られたように表示されるみたいな感じだな。
本当のユートのメールを使ったわけじゃなくてあくまで偽装だから、ユートの側のメールには送信履歴とかも残らない』
『え~っと…つまり…』
そこで一旦言葉を切るサビトをうながすユート。
『今回で言えば…誰かわからない第三者が姫のアドレスを使って姫になりすましてアオイにメールを送ったってことだ。
で、そこで問題だ。
二人とも今回のためにメルアドを”新しく取った”という事は…二人のメルアドを知ってるのは今回メルアド交換をしたこのゲームの参加者だけって事だ。
いいか?このゲームの参加者だけって事なんだぞ?!
ここまで言えば…いくらなんでも何を言いたいのかわかるな?』
う…あああああっ!!!!!
全身が総毛立った。
今日…犯人があの場にいたってこと???
すぐ側に??!!!
こ…殺されないで良かったぁぁ………。
それでもマウスを握る手がカタカタ震えてる。
『またなりすましが発生する可能性は充分あるからこれからは仲間3人にメール送る時、合い言葉というか本人同士しかわからない暗号みたいなものをいれる事にするぞ。
例えば…文章の3行目の終わりに必ず@いれるとか…そういうのをそれぞれ特定の相手ごとに作る。
だから…一人につき3種類な。
お互いしか知らなければ、誰かが暗号もらしてもあとの二人に被害が及ばないからな』
サビト…相変わらず頭いいってか、冴えてるなぁ…
なんてのん気に感心してたら、話はそこで終わらなかった。
いきなりまた核心をつかれる。
『じゃ、成り済まし対策はこれで良いとして…終了っ。
んで、アオイ…あれほど注意したんだから、よもやお前それでノコノコでかけて行ったりはしてないよな?』
………サビトの視線が痛い……
『あ…あの、さ…、一応人通りの多い時間に人通りの多い場所だったから……
人目いっぱいだったから…殺されないで良かったなって事で……あはは…
…次からは気をつけます……』
『行ったのかっ!この馬鹿野郎っ!!!』
怒声は覚悟してたものの、やっぱり怖いっ。
『ごめんなさいっ!』
と言ってリアルでビクっと肩をすくめた私に、サビトは沈黙した。
しばらく無言。
もっと矢継ぎ早に罵られると思ってたから少し拍子抜けしたものの、あまりに続く沈黙にちょっと不安になってくる。
言う事聞かなかったから…見捨てられた…のかな…。
『アオイ、確認』
『はいっ』
思い切って声かけようかと思った時に、サビトの方から口を開いてきた。
『今ちゃんと窓の鍵かかってるな?自宅のドアの鍵も。
あと窓のカーテン開いてたら閉めろ』
『らじゃっ!』
言ってあわてて確認しにいく。
『大丈夫だったっ』
というと、サビトは、
『よしっ』
と短くうなづいたあと続けた。
『携帯は常に充電して、手元においておけ。何かあったらすぐ110番できるようにな。
あと…持ってなければ早急に防犯ベル買って来い。
買いに行く際に人通りない所通るようなら、家族なり友人なりについて行ってもらうか、それが無理ならタクシー使え。命には変えられんだろ』
『てか…当分家からでない様にするから…』
もうそれこそ命には変えられないんでそう言う私に、サビトはまた今日何度目かのため息をついた。
『お前…全然わかってないだろ…』
『え?』
『今回な、犯人がなんで状況的に殺せないのにわざわざお前を呼び出したと思う?』
え~っと………
『犯人の目的は今日呼び出した場所でお前を殺す事じゃない。
待ち合わせ場所にきたお前の後を尾行してお前の身元や家を確認して、確実に殺せる時を伺いたかったんだ』
……う……そ……
顔面蒼白になる私に、サビトがとどめをさす。
『要は……家にいても安全じゃない。
お前には安全地帯がなくなったってことだ』
リアルで悲鳴をあげそうになって、時間を考えてあわてて飲み込んだ。
恐怖のあまり目からボロボロ涙がこぼれる。
ガタガタ震えながら思わず周りを見回した。
こうしてる間にもすぐ後ろに犯人が隠れてるような錯覚に襲われ目眩がしてくる。
どうしよう…どうしよう…どうしよう!!
パパやママの所へかけこもうか、と一瞬思ったが、部屋のドアを開けるのが怖い。
すでに犯人が家の中に入り込んでて、パパとママも刺されてて家中が血の海だったらどうしよう……。
『とりあえずレベル上げ行くか…』
…へ?
パニックで目の前がクルクル回ってる私。
こんな状況であまりにあっさり言うサビトを信じられない目で見る。
『コウさんっそんな場合じゃっ』
普段はおっとりぽわわんなギユウちゃんもさすがに言葉のでない私の代わりに言ってくれた。
それに対してサビトは至極冷静に言う。
『注意すべき点は注意したし、今はこれ以上何もできないだろ。
あとできる事といったら、少しでも早くこのゲームクリアするくらいじゃないか?』
いや…そうなんだけど……
とてもじゃないけどそんな冷静に考えられないよ…。
こんなんでレベル上げなんて絶対に無理っ!
『ごめん、サビト、姫を連れて先行っててくれる?10分ほどしたらすぐ後追うから』
スタスタと歩き出すコウの後ろ姿にユートが声をかける。
『わかった。海岸の入り口あたりに行ってるな。
そこまでならアオイと二人でもこれるだろ?』
と言うサビトに手を振って、ユートは
(少し話があるんだけど、いい?)
と私にウィスを送ってきた。
私はうなづいて、噴水の端に腰をかけるユートの隣に座る。
(リアルのさ、アオイの連絡先、聞いちゃだめかな?)
唐突にユートが切り出した。
(まあ俺も普通の高校生だからさ…守りきれるとか言えないんだけど駆けつけるだけは駆けつけられるからさ…)
今朝までだったら二つ返事で教えてたかも知れない…
でも今は…正直何を信じて何に気をつければいいのかわかんない…
返事のできない私に、ユートはいつもみたいにおっとり微笑んだ。
(…っていっても怖いよね、こんな事ばかりあると。)
(…ごめんねっ…ユートの事信じてないわけじゃないんだけど…今どうしていいかホントにわかんなくて…)
正直な所を打ち明けると、ユートは首を横に振った。
(怖くて当たり前。俺だって怖いからさ、アオイ女の子だしね。
だからさ、とりあえず俺の携帯教えるね、良かったら今かけて見て。
番号の前に184ってつけてから番号いれると、俺の側にはアオイの番号が表示されない非通知設定になるから。
アオイが怖くて嫌だと思ったら、今後かけなければいい。
俺にはアオイの番号わからないまま終わるから大丈夫)
なんか…それだと私すごいずるい気するんだけど……
でも現状のあまりの怖さに、心が折れた。
184と入れた後に、教えられた番号を打ち込む。
プルルル~という呼び出し音がなったあと
「もしもし、アオイ?」
と、初めて聞く男の子の声がした。
ユート……なんだ。
「アオイ?大丈夫?」
言葉のでない私を心配するような、柔らかい声。
「うん…ごめんね、迷惑かけて」
嗚咽が漏れる。
「大丈夫、全然大丈夫だからね」
優しい声。
……ユートだ。
「怖くなったらいつでもかけていいから。だから一人で抱え込まない様にね」
「……うん…」
「まあ…怖くなくても退屈な時とかにイタ電かけてくれてもいいけどね」
ちょっと笑いを含んだ声。
緊張をほぐそうとしてくれてる。
ユートらしいな…。
「どうする?良ければ今日はこのまま話しながらレベル上げやる?
俺はどっちでもいいけど。アオイがしたいようにして?」
「このままにしてて…いい?」
「うん、そうしよっか。アオイの電話代が大変そうだけどね。
いつかこのゲームが終わって安全になってみんなちゃんと会える状況になったら半分渡すからね。請求書書いといて」
冗談めかして言うユートの言葉にちょっと笑った。
電話の向こうのユートも少し笑ってる。
でも、ユート、優しいなぁ。
私の都合なのにそこまで心配してくれるんだ。
「ううん、そこまでしないでもいいよ。一応ミッションクリアした時のお金あるし、これからもクリアごとに入ってくるから。でも私の番号は教えるね」
ユートならいい、ユートなら大丈夫、そう思って私は言った。
それでもユートはちょっと心配そうに
「無理しないで良いよ?」
と言ってくれるけど
「ううん、無理してない。私が教えたいの」
と、私はユートに携帯の番号を教えた。
それからユートがかけなおしてくれて、『こんなのサビトにバレたら大目玉だね』
とか笑い合いながら先に行ったサビトとギユウちゃんを追いかけた。
楽しい…。
こんなに危ない状況でこんなに怖くて不安なのに、私はそれでも自分がまだ笑える事にびっくりした。
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