人魚島殺人事件_オリジナル_15_夜のプールにて

「結局さ、ちょっと良いなって思うタイプって、彼女がいるものなのよねぇ」

夜中のリビング。
なんとなく手持ち無沙汰組の女性陣が集まってワインを飲みながらの雑談中。
遥の言葉に水野と綾瀬と松坂がウンウンとうなづくのに、アオイは一人意義を唱えた。

「ん~、それちょっと違う気も…」
一人彼氏持ちの女子高校生の言葉にフリーの女子大生3人組は好奇の目を向ける。

「ほ~、彼氏持ちのアオイちゃんの意見としては?」
お姉様方の注目を浴びて、
「す、すみませんっ」
と、焦るアオイ。

「ほら、脅さないっ!大丈夫よ~。
単純に良い男の見つけ方をね、知りたいかな~なんて思ってるだけだから思ったとこ言っちゃって♪」

綾瀬が遥を制して言うと、アオイはチラリと周りを見る。
周りもうんうんとうなづくと、それでは…と、始める。

「女の子から見ていいなって思うタイプって…彼女でも友達でも姉妹でも良いんですけど、周りに女の子がいて、”女の子が嫌な事、喜ぶ事”って言うのを知る機会がある人だと思うんですよね…。
始めから良い男なわけじゃなくて、学ばされてるっていうか…」

アオイの言葉に綾瀬がポンと手を叩く。

「あ~、それあるかもね~」

「はい。コウなんかも出会った頃って本当に俺様な怖い人でしたもん。
私、全然悪気がないコウの言葉で何回も泣かされましたし…」

「うっそ~。すごく優しくない?彼。
人当たりだって悪くないし、硬派な雰囲気なのに紳士だし」

「あ~、元々根は面倒見良い人ではあったんですけど、出会った頃はすごくぶっきらぼうで、人当たりが良くなったりとか色々気を回してくれたるようになったりとかはフロウちゃんとつき合い始めてから」

「そうなんだ~。男は完成品求めちゃだめってことなのね。
良い男が欲しければ自分で育てろと」
綾瀬がしみじみつぶやいた。

「でもさ、そういう理屈で言うと、うちのユートなんて上と下に女兄弟だし、女友達も多いからめっちゃ良い男になっててもおかしくないのに、あれよ?」
と、遥がそこで意義を唱える。

「ゆ…ユートだってモテるんですよっ。
春休み一緒に旅行行った時だってユートの事好きだって言う子いましたしっ」

真っ赤な顔でムキになるアオイに、

「アオイちゃん、かっわい~!』
と、盛り上がる女子大生達。

「ユートなんかにもったいないわ~。私が男だったら彼女にしたいくらいっ」
「うんうん、私も~」
お姉様方にもみくちゃにされてさらに紅くなるアオイを救出したのは、その噂の彼氏だ。

「姉貴、アオイいじめんなよっ!」
コウにフロウを返したユートはアオイの部屋にアオイがいないのを確認して、リビングかな、とあたりをつけて降りてきたのだ。

「おお~!王子様登場だ~!」
遥からアオイをひったくるユートに盛り上がる女子大生達。

それに構わず、ユートは
「馬鹿姉がごめんな、大丈夫だった?」
と、アオイを見下ろす。

「あ、ううん。全然。暇だったからおしゃべりに加えてもらってただけだよ」
アオイは紅い顔のままユートを見上げた。

「アオイは…飲んでないよね?」
テーブルの上のワインの空き瓶を見てちょっと不安になるユートだが、アオイは首を横に振る。

「未成年だもん。私は紅茶」

まあ…アオイはその辺り今時の女子高生とは思えないほど生真面目なので心配は要らなかったらしい。
一応…自分がしなければいけないらしい事を全て終えて”する気”満々でアオイを連れにきたユートは心底ホッとする。
さすがに初めてなのに酔った状態の相手というのはまずい。

「で…ユート君はアオイちゃんのお迎え…なのかな?」
さっき来たばかりでまだアルコールがそれほど回ってない水野が気を利かせて言うのに、ユートは
「はい、よっばらいの姉貴から救出に」
と苦笑いを浮かべて言う。

「誰がよっぱらいよっ!」
と頬を膨らませる遥。かすかに紅潮した頬で言うその様子は結構可愛いわけだが…ここには残念ながらそれを知覚する男はいない。
酔ってハイになっている綾瀬、まだ素面で少し当惑している水野、そして一人で黙々と飲んでいる松坂。

「キスくらい…したら?」
ボソリとそれまで無言だった松坂がつぶやいた。

「は??」
意味を取りかねて聞き返すユートに、松坂は
「ケチケチしないで、そのくらいの娯楽提供しなさいよっ!」
と、据わった目でユートに詰め寄った。
大人しく飲んでいるように見えたが、実は絡み上戸らしい。

「わ~い!それいいね~!キ~ス!キ~ス!」
その言葉にはしゃぎだす綾瀬と遥。
水野はそれに加わるでもなく止めるでもなくオロオロしている。

だめだ、こいつら完全に出来上がってる…とユートは内心頭を抱えた。

「そういうのは…コウと姫にでも頼んで下さい。俺らには無理。帰ります」
ユートはそう言い残すと、慌ててアオイの腕を掴んでその狂騒から逃げ出す。

「待ちなさいよぉ~~!!」
と遥の声が追ってくるが、無視してリビングの扉をしめると、アオイを連れたユートは廊下へと出た。


「ああいう女子大生にはならないでね、アオイ」
廊下に出て一息つくと、ユートがしみじみ言うのに、アオイが吹き出す。

「明るくて楽しくて、ちょっと羨ましいけど…」
「明るいんじゃなくて…馬鹿なのっ」
ユートはチラリとリビングに目を向けた。

「アオイは今のままが絶対に良いからねっ」

アオイは窓に背を向けて立つユートの背後の窓に映る自分をじ~っと見る。
今までいた部屋にいた女子大生達はみんなオシャレで…それに比べると自分があまりに見かけに無頓着な気がしてきた。

コウほど圧倒的に一般人離れした美形ではないものの、ユートも一般人に混じれば背も高いしカッコいい方だと思う。

その彼女としてはあまりにあまりな自分。
可愛いキャミとかを身にまとう女子大生達の中で一人Tシャツにジーンズ。
化粧っ気もない。

「アオイは…もう本人が丸ごと可愛いからね。それ以上色々して他の男の気ひかないでね」
そんな自分の憂鬱を察してくれたかのように、ユートが軽く抱き寄せてくる。
そして額にキス。

「俺は公共の場所じゃこれが限界。…部屋…行こうか」
ユートにうながされてうなづいたアオイは、次の瞬間硬直した。

「ユ…ユート…」
カタカタ震えるアオイに気付いて
「どうした?」
とアオイを見下ろすユートに、アオイは窓の外をまっすぐ指差す。

「お…おばけ…が…」
「おばけ?」
ユートは振り向いて窓の外を見ると息を飲んだ。

窓から見えるプールの水面に揺らぐ長い髪。
顔は仮面に覆われていて見えないが、女性らしい。

「姉貴!!ちょい来い!!見張っててっ!!」
リビングの方に向かって叫ぶと、ワラワラとリビングから女子大生達が出てくる。
そしてユートが指差す方を見て悲鳴を上げた。

ユートはほとんど条件反射でコウに電話をかける。
同じく遥が藤に電話をかけているようだ。
他の3名は一気に酔いが醒めた様子で青くなる。

ユートの電話でフロウを連れたコウが、遥の電話で藤が和馬と共に降りてきた。

「とりあえず俺と和馬と藤さんで確認行くんでユート女性陣頼む」
フロウを軽くユートの方へやると、コウは
「行くぞ」
と、和馬に声をかけて、もう窓をよじ登ってそこから外に出て行く。
和馬と藤もそれを追った。


窓から外に出ると、芝生の上に飛び降り、すぐ目の前のプールへと足を運ぶ。
プール中央にブルーのドレスを着た女性が浮いている。その顔はマスクに覆われていてわからないが、髪は長く身長は藤くらい。
本人がいなければ一瞬藤かと思う。

髪型は違うが身長からすると斉藤か淡路あたりか…。


「とりあえず…このままだと誰だかもどんな状態だかもわからないな。引き上げるか」
コウは言って上着を脱ぎ、携帯と共にプールサイドのテーブルに置くと、プールに飛び込む。
そして水の上に浮く人物を抱えてまた泳いでプールサイドに戻り、それを和馬が引き上げた。

コウはプールから上がると、上着のポケットから手袋をだす。

「お前…何持ってるんだよ?」
呆れた和馬の言葉にコウは手袋をはめながら
「最近…遠出すると事件に出会わないで終わる気がしなくなってきてな」
と言って、仮面を取る。

「淡路さん…。」
長い髪はカツラだった。
脈と呼吸を調べたが死亡している。

「藤さん、警察に連絡を」
コウの言葉に藤が警察に連絡をする。

「2時間くらいで到着するって」
藤が通報を終えると、遺体を調べていたコウは
「とりあえず遺体を保存するためシート用意して頂けますか?」
と藤に言った。
それに対して藤は呼び鈴を鳴らしてメイドに命じて用意させる。

「じゃ、戻る前にいったん情報整理しよう」
コウはプールサイドの椅子に腰をかけた。

「着替えないでいいの?」
という藤に
「とりあえず…戻ると色々聞かれると思うので。与える情報と隠す情報の整理をしてからに」
と、和馬が説明する。
さすがに察しがいいな、と、コウはそんな和馬に感心した。

「まあそう言う事です。とりあえず座って下さい」
コウは二人に椅子を勧めた。
そして二人が腰をかけると話を進める。

「とりあえず…死亡したのは淡路さん。死亡原因は外傷もありませんし溺死と思われます。
他殺か自殺か事故死かは今の時点では判断つきかねます。
気になるところは…死亡時の服装ですか。
このブルーのドレスは撮影用衣装?あとはマスクとカツラですね。何故こんな物身につけた状態で死んでいたのか…」

「サイズからすると藤さん用のだよな?」
和馬の言葉にコウがうなづいた。

「カツラも…そうなんだが…まるで藤さんにみせかけるためみたいな格好だよな…仮面で顔隠して」
「で?お前の意見としては?どういう事だと思う?」
「わかるか。これだけで」
コウはム~っと考え込んだ。

「しっかりしろよ、名探偵」
「ちょっと黙ってろ、今情報整理してるから」
コウは最初からの情報を並べてみた。

「危害…という意味では前回藤さんにガラスの短剣落とした奴がいたよな。
で、水野さんの所に斉藤さんの携帯から来たメールによるとその犯人は斉藤さん。
でも肝心の斉藤さんは行方不明…と」

「犯人斉藤説?」
「いや…犯人は斉藤さんじゃない気がする…。少なくとも今回の殺人については」

この殺人の犯人はフロウの言っていた”巧妙に隠された悪意”だ。
とすると…”明確な悪意”の斉藤ではないとコウは思う。


「前回の短剣も…実はお前も別人だと思ってるんだろう?和馬」
コウはそこで和馬に振った。

「あ~、まあなぁ。確証ないんだけどな」

「どういうこと?」
そこで藤が聞くと、和馬はちょっと考えをまとめるように黙り込んだ。

「え~っと…つまりですね…、松坂さんはオレンジ色の何か見たって言ってたじゃないですか。
それで皆が斉藤さんの上着を連想したと思うんですけど、もしそれが本当に斉藤さんの上着だったとしたら、斉藤さんに罪を着せたい誰かなのかなと…」

藤の不思議そうな様子に、コウが引き継ぐ。

「最初に全員がリビング集まってた時って斉藤さん上着脱いでたじゃないですか。
それから外に一旦出たとかじゃない限り、斉藤さんが本当に部屋から何か落とそうとするためだけならわざわざ上着をまた着たりしないと思うんですよね…」

「あ~、なるほどね」
藤は納得した。

「まあ、それはおいておいて、今回のはどう見る?」
和馬が少し難しい顔でコウに視線を送った。

「犯人が誰かというのはおいておいて、犯人の意図として考えられるのは2通り。
一つは犯人は淡路さんを殺したくて殺した。
もう一つのパターンは、犯人が殺したかったのは実は藤さん。
で、何故か藤さんに変装したような淡路さんを間違って殺した」

「後者は…無理がないか?
確かに遠目には似てるし夜なら間違う事あるかもだが…藤さんはスポーツ万能なのは皆知ってるわけだから、プール突き落としたくらいじゃ死なんのはわかるだろ。
かといって睡眠薬なんて飲ましたら運ぶ時に藤さんじゃないってわかるだろうし」
コウの言葉に和馬が意義を唱えた。

「ん~、でもな、淡路さんのこの格好ってなんか気にならんか?」
コウが言うと、
「まあな~」
と和馬も眉間にしわを寄せる。

「とりあえず…この3人とユート以外には今回はまだ事故死か他殺かわからないって事で情報流すのはやめておこう。基本的には警察に任せるって感じで」
コウが最終的に言った。

「一応…今集まってるメンバー以外も起こした方がいいかな?」
藤がそこでお伺いをたてる。

「ん~そうですね…警察来たらどうせ事情聴取でしょうし。起きてた方がいいかもですね」
そう言いつつコウは立ち上がった。
それに釣られるように他の二人も立ち上がり、淡路の遺体をそこに残して館に戻る。

来た時と同様窓から入ると、そこには遥と綾瀬、水野とアオイ、ユート、フロウが待っていた。


「あれ?彩は?」
藤が松坂がいない事に気付いて聞くと、遥が
「ああ、他起こしてくるって2Fに行ってる」
と、答える。

さすがに藤の友人だけあって行動が速いな、と、和馬は思った。

「で?どうだったの?」
遥の言葉に藤はチラリとコウに目をやり、コウがうなづくとまた遥に視線を戻す。

「うん。淡路さんが…ね、亡くなってた。溺死らしい」
藤の言葉に女性陣が小さく悲鳴を漏らした。

「光…確かに泳げないんだけど…どうして…」
水野が真っ青な顔で大きな目をさらに大きく見開いて言う。
「あ~行きの船でそんな事言ってたね…」
遥がやはり青い顔でうなづいた。

という事は…高校生組以外は全員その事を知っていたということか…。
と、コウと和馬は互いにアイコンタクトを送る。

そこでアオイがコウに駆け寄った。
ツンツンとシャツの袖を引っ張られて、コウはアオイに視線を落とす。

「…あのね…コウにだけ話したい事が…」
アオイがコソっとコウにささやいた。

「わかった」
コウも小声で返すと、フロウを手招きで呼び寄せてフロウが来ると藤の方へとやる。

「すみません、俺ちょっと確認したい事があるので、姫頼みます」
と藤に言った後に、今度は和馬に
「というわけでちょっとだけ外すけど、念のため藤さんの護衛頼むな」
と手をあげた。

「了解。んじゃ、全員リビングかな」
和馬が了承と共にそう言うと、全員がリビングへと移動して行く。

それを見送って、コウはアオイを振り返った。
「で?なんだって?」
コウが聞くとアオイは
「コウは…私が見た事とか信じてくれるよね?」
とコウを見上げた。

またか…とコウは内心思う。

アオイはいつも事件が起こる時何か重要なものを目撃してしまうという、もうほとんど特技なんじゃないかと思う様な状況に陥る。
それは一見超自然現象のような馬鹿げたものなのだが、いつも意外に核心に迫ってたりするのだ。

「今までいつもアオイの見た物は確かな物だったからな。俺は信じるぞ」
コウの言葉にアオイはホッとしたように笑った。

いつも変な物を見るので、みんなに”夢でもみてたんじゃない?”と言われるのだが、そういう時でもコウだけは必ず真剣にその正体について考えてくれている。

「で?何を見たんだ?」
コウが再度聞くと、アオイは口を開いた。

「えとね…コウの部屋から逃げて空き部屋に駆け込んだ時、私寝ちゃって夢見たって言ったじゃない?」
「ああ、言ったな」

「あの時さ、壁にお化けがいてって言ったでしょ、そのお化けってね、プールに浮かんでた仮面になんだか似てるの」

「ちょっと待て…。それって…もしかして壁にあれがかかってたとかじゃないのか?」
「う~ん…今思えばそうかもしれないけど…でもね、う~う~ってうなり声がしたのはホントだよ?
ただの仮面なら声なんかしないでしょ?」

「壁って…どっちの壁だ?お前の部屋の側?それとももう一つの空き部屋の側?」
「えっと…空き部屋…かな?」

「アオイ、ちょっと来てくれ」
コウはアオイの腕を掴んで二階の寝室へと向かった。
そして自分達の部屋の正面、アオイが最初に逃げ込んだ空き部屋に入り、明りをつける。

「あれ?ない。やっぱり夢だったのかな…」
空き部屋側の壁には何もない。

それを見たアオイの言葉に、黙って壁を探っていたコウは
「いや…」
と、答えた。

「画鋲の跡があるから、元々ここに飾ってあったんだろう。…ということは…ちょっと隣行くぞ」
コウはまたアオイの腕を取って、今度はさらに隣の空き部屋へと足を運んだ。
今来た空き部屋とはうってかわってガランと何もない。

「こっち側は…ベッドかクローゼットあたりか」
コウはつぶやいて、手袋をするとまずベッドのシーツを調べ、次にクローゼットを開けた。
丹念に中をさぐって、何かを拾い、明るい所でそのかすかにウェーブのかかった茶色い糸のようなものをかざす。

「…髪の毛?」
不思議そうな目を向けるアオイにうなづくと、コウはそれをビニールに閉まった。

「ここで調べたもの、見つけたものとかは他には言うなよ」
コウは厳しい顔で言ってアオイをまた部屋の外にうながす。

最初に”巧妙に隠された悪意”に捕われたのは斉藤…。

いなくなったのはいつだった?

最後に見たのは最初の顔合わせ。
それから古手川の言葉で部屋を出て行って荷物を置いて部屋に戻った時にはいなかったらしい。
あの時の状況を考えれば犯人はおそらくあの人物だが…しかし何故?

とりあえずいったん自室に戻って濡れた服を着替えると、コウはアオイを伴って皆が待つリビングへと戻った。

本当のターゲットは誰で全てが終わったのかこれからも何か起こるのか全くわからない。
警察がくればおそらく犯人が確定するまでは拘束される事になるかもしれない。
しかし警察が来たからと言って確実に安全が確保されるという保証もない気がする。
最悪…フロウだけでも安全な所に逃がしたかったが、こうなっては無理だ。

「姫…」
コウが呼ぶとフロウが駆け寄ってくる。
抱きついて来るのを抱きとめると、コウは小声でフロウに言った。

「これから絶対に俺以外の人間と二人きりにはなるな。不用意にあちこちを触るのも厳禁。
飲食物は俺が毒味するから、それ以外の物は一切口をつけるな。誰に勧められてもだ。いいな?」

コウの言葉にフロウは少し不安げに大きなまるい目でコウを見上げた。
不安にはなるだろう…。

「大丈夫だ…。姫は俺が守るから」
「…コウさん…」
「大丈夫。安心しろ」
コウはもう一度言って、それでも不安げな目を向けるフロウにちょっと微笑むと、軽く口づけた。


「全く!下らない事でせっかくの優雅な読書タイムを台無しにするなんて」
不機嫌な顔の古手川。淡路の死よりも自分の時間を邪魔された方が重要ならしい。

「そういう言い方ないでしょっ。人が一人死んでるのよ?」
「そう!死んでるんだ。今更慌てても仕方なかろう?
光の馬鹿が!かなづちのくせにプールわきプラプラして溺死とははた迷惑なっ」

「あなたは…!自分で呼んで来てもらった相手なんでしょっ?!」
「知るかっ!勝手に来たがったんだっ、あいつらはっ!
連れてきてやったのに事故死だか自殺だか知らんがほんっきで迷惑だっ!」

遥と古手川の言い争いをうんざりした目で遠目にするユート。

「まいったな…なんで死ぬのに縫いたてのドレス着ていっちゃうかな…。
事故にしても自殺にしてもお気の毒ではあるけど…何も他人の物着ていかなくても…」
松坂も淡路とはそれほど親しくなかったのもあって、イライラと言う。

「これ…やっぱり撮影中止?」
綾瀬も気持ちは淡路以外の方へ向いているようだ。

「事故死なら…続行できないかな?」
成田の言葉に
「ん~、警察次第か」
と高井が応える。

「一応…どうせ警察くるまで暇だし、ここに置いてある材料で出来る分だけでも服縫っちゃう?」
松坂の言葉に遥も賛成して、二人でミシンをかけ始めた。

「なんか…誰も淡路さんの事きにしてないんだね…」
ボソボソっと俯き加減にアオイが言った。

「あ~…仲良かった斉藤さんとかは行方不明だしね。
でもほら、水野さんなんかは青くなってるし、平井さんが慰めに行ったっぽいよ」
なんとなく沈んで見えるアオイにユートは少し離れたところに立つ水野を指差した。






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