ジュリエット殺人事件クロスオーバー_05

「川本さん、開けて下さい」
川本の部屋のドアは鍵が閉まっていたので錆兎はノックした。

「ちょっと待ってくれ」
すぐ中から返答はあるものの、なかなかドアは開かない。

「ちょっと!川本開けてよっ!何かあったの?!」
痺れを切らした藤はドンドン!とドアを乱暴に叩くが、相変わらず

「ちょっと待ってくれ」
の一点張りだ。

「これ…何かあったな。ちょいマスター取ってくるから鱗滝君見張ってて」
藤は舌打ちして踵を返した。

「川本さん…何かドアを開けられない理由でもあるんですか?」
錆兎は藤を待っている間も一応声をかけてみるが、返答がない。

「取って来たっ」
やがて藤が帰ってきて、マスターキーで鍵を開けるが、いざドアを開けようとすると開かない。
向こうから押さえているっぽい。
さすがに大の男が二人で押さえてるらしく錆兎と藤だけでは開かない。

「藤さん…2F組呼んで来て下さい。開けるのは男だけでいいんですが、女性陣だけにするのは怖いので」
錆兎が言うと、
「了解っ」
と、また藤が走って行く。
やがて2F組を連れて藤がまた戻って来た。

「理由はわからないんですが、何故かドア開けたくないらしくて向こうからドア押さえてるっぽいから男全員でちとこじあけます」
と、錆兎が説明して男3人でドアを引っ張る。
今度はさすがに押し切ってドアが開いた。

ドアが開いた瞬間、いきなり何かが光る。
丁度ドアの開いた所にいた藤を錆兎が突き飛ばした。

血飛沫が飛び、悲鳴が上がる中、錆兎はナイフを持った川本の腕をつかんでそのまま投げ飛ばし、ナイフを叩き落とす。

「おい…冗談じゃすまないぞ…これ」
錆兎は有無を言わさずユートのカーディガンを取り上げると、それで川本の手を固定して、足元に転がる川本と中で呆然としている山岸の双方を睨みつけた。

「ご、ごめん!鱗滝君っ!」
藤がさすがに青ざめるが、それには
「ああ、腕だし皮一枚だから大丈夫です。
藤さんのせいじゃないですから。怪我ありませんでしたか?」
と、少し表情を柔らかくして言うと、自分でちゃっちゃとハンカチを出して止血し始める。
他は本当に呆然だ。

「ねっ救急車…」
思わず言う遥に
「だから…土砂崩れで…」
と青ざめたまま言う藤。

「俺が止めなければ…お前今頃殺人犯だぞ。
下手すれば藤さんの肺とか心臓とか刺してた」

思わず凍り付く様な怒りきった目で錆兎が低く川本につぶやく。
川本は青ざめて震え始めた。

「何のつもりだ?」
さらに低く殺気立つ錆兎の声。

そのままゆっくり屈むと錆兎はたたき落とした川本のナイフを拾い上げた。
錆兎の周りを沸々と怒りのオーラが包み、皆が硬直したように動けなくなる。
とりあえず…今錆兎が暴走すれば全てが終わる…そんな中、ユートが震える手で携帯をかけた。

「…もしもし…えと…ね…ちょっと話してほしいんだ…」
目的の相手に通じると、ユートは震える手で錆兎に携帯を押し付ける。

『もしもし?どうしたんです?ユートさん?』
電話の向こうから聞こえる声に、錆兎から殺気立った空気が消える。

「ユート…お前どこに電話かけてんだ?」
少し脱力した様に言う錆兎に、ユートはホッとしたように息をついた。

「いや…錆兎が熱くなりすぎると怖すぎて…誰かが心臓マヒおこしちゃいそうな迫力あったからクールダウンしてもらおうかと…。
事情は俺が聞くからとりあえずなごんでて?」
言って少しひきつりながらも笑顔を浮かべる。

「さんきゅ。やっぱお前すごいよ」
錆兎はポンと軽くユートの肩を叩くと、そのまま携帯で話し始めた。


「で?どうして閉じこもってたかと思ったらいきなりナイフなんですか?」
全員がドッと冷や汗をかく中、ユートはいつもの飄々とした口調で川本の横にしゃがみこむ。
そんなユートの雰囲気に心底ホッとしたように川本は息を吐き出した。

「木戸…殺した犯人で、今度は舞を狙ってるっていうから…」
「誰がです?錆兎なら…日本で一番犯罪者から遠い高校生っすよ?
あいつの親って実は警視総監だし」

「ええええ????!!!!!」
やっぱり飄々と言うユートの言葉にアオイをのぞく全員が驚きの叫びをあげた。

「そんなんなら彼に藤を捕まえるように言ってくれよっ!」
川本の言葉に少し藤が表情を硬くする。
それに気付いて遥が一歩前に出た。

「川本って…やっぱり筋肉馬鹿なのね。
ありえないわ。警視総監の息子いきなり刺して捕まるのはあんたでしょ?
警察に聞かれたら思いっきり証言してあげるわよ?私」
遥の言葉に青ざめる川本。

それを、まあまあ、となだめて、
「で?何を根拠に誰がそんなでたらめ言ったんです?」
と、ユートが先をうながした。

「舞が人殺しなんてするはずないし…あの部屋中から鍵かかってたってことは、合鍵持ってる藤しかいないだろ、犯人は」
川本の言葉に、遥は川本の耳のすぐ側にダン!とヒールを踏み降ろした。

そのヒールは本当に川本の耳からわずか2mmくらいの所の絨毯に跡をつけて、川本にヒッと引きつった声をあげさせる。

「残念でした…。藤は昨日あれから10時半くらいまで私とアオイちゃんと3人で露天風呂入ってて、その後は3時まで私の部屋でだべってたわよ」
ニコリと言う遥だが目が笑ってない。

「死体見つかったの6時くらいなんだから3時間あるだろっ!」

それに対して川本が言うが、
「それはない」
と、どうやら会話を終えて落ち着いたらしい錆兎が、ユートに携帯を返しながら言った。

「遺体発見時刻が5時47分。
で、遺体の状態から推測するに発見時に死後5~8時間くらいはたってたから。
以上の事から犯行推定時間はおおよそ昨夜10時から今朝1時前くらいだな。
更に言うなら…昨日の夜11時頃アオイが見た影っていうのが犯人の可能性高いから多分11時前後か、殺されたのは」

錆兎の説明にユートとアオイ、それに藤をのぞく残り4名はぽか~ん。

「この天才高校生…実は高校生とは世を忍ぶ仮の姿で、とかいうやつ?」
コソコソっとつぶやく別所に、
「NOUKINらしい意見だけど…さっき言ってたっしょ?警視総監の息子って。
母親いなくて必然的に父親を始めとする警察関係者の中にいる事多かったらしいよ」
と、藤がやっぱり小声で補足する。

「カッケ~な。こんなの引っ張ってこれるってさ…やっぱり遥ちゃんの勝ちだよな」
「あんたね、この状況でまだそんな事言ってんの?」

二人がコソコソそんな会話を交わしてるうちに、錆兎がさっき藤にした密室トリックを説明した。
「…というわけで、だ」
一通り説明して錆兎は息を吐く。

「合鍵持ってるならこんな面倒なトリックなんか使わんから。
藤さんはまず犯人じゃない。
というか…証拠集めに犯人の可能性のある人間なんか使うほど酔狂じゃない、俺も」
「まあ…その通りだね」
ユートも苦笑した。

「んじゃ、そういうわけで部屋いれろ。そっちの女性陣に聞きたい事があるから」
錆兎が言うと、川本と山岸は顔を見合わせた。

「あの…藤が犯人だと思ってたから…舞逃がさないとと思って俺らが囮になってなるべく引きつけるって事で美佳と外に…」

おずおずと言う山岸に
「こっ…の馬鹿野郎があぁぁっっ!!!」
と錆兎がキレた。

「殺人犯とそいつが殺したいと思ってる奴セットで逃がす馬鹿がどこにいるんだっ!!!」
錆兎の怒声に藤以外の面々は唖然。


「とにかく探すぞっ!雨で地盤緩んでて危ないからアオイと遥さんは留守番っ。
別所さんは一応女性陣の護衛で残ってて下さい。
そこの馬鹿二人は勝手に探せっ!
藤さんはこの辺り詳しいしできれば来て欲しいんですが…女性なので…」

「それ言ったら怪我人の鱗滝君の方が待機してた方がいいでしょ。
私は行くよ。それなりに鍛えてるしそこの馬鹿二人よりはよっぽど役に立つから」
藤は川本と山岸にチラリと目を向けたあと、錆兎に申し出る。

「ありがとうございます、助かります。
俺はまあ…怪我はたいしたことないし同じく馬鹿二人よりは役に立てると思うので」
錆兎は言って、今度はちらりとユートに視線をむけた。

それに気付いてユートは肩をすくめる。

「俺が行かないわけないっしょ。同じく馬鹿二人よりは…略ってことでっ」
と、ユートもにやりと笑って行った。

一応錆兎の腕の応急手当だけすませて、2対3に分かれて探しに出る事にする。
川本と山岸は家の周りを探すという事で、ユート達3人はとりあえず土砂崩れの所まで行ってみる事にした。

 
「とりあえず土砂崩れの場所までは車かね…」
言って藤は車のキーを手に戻って来て3人で駐車場へ。

「…どうやら…当たりかな?」
「…みたいですね」
車が一台足りない。もちろん舞達がのって来た車だ。

「土砂崩れの場所まで車で行ってあとは歩きで逃げましょう…ってとこかね?」
「でしょうね」
藤と錆兎はそんなやりとりを交わしながら自分達が乗って来たワゴンに乗り込む。
もちろんユートもそれに続いた。

豪雨だった雨は少し小降りになってきている。

「近道するかな」
藤はキキ~!とタイヤの音を鳴らしてワゴンを反転させた。

「ちょっと林つっきるからしっかりつかまっててね」
と、そのまま横の林へ。

「ちょっ、藤さ…ん!地盤緩んでるんじゃ?いま」
ユートがドア横の手すりにしがみついて青ざめると
「ま、大丈夫っしょ」
と、結構楽しそうに藤は答えた。

生い茂った枝をポキポキ折りながらガッタンガッタン揺れつつ進むワゴン。
さすがの錆兎もやっぱり青ざめて無言で手すりにつかまっている。

そのうちガッタン!と大きく弾んだあと、ワゴンは下の方の道に降り立った。
はぁ~っと大きく息を吐き出す男二人。

「さすがの天才高校生もこういうのは苦手?」
その様子に藤が陽気に言ってチラリと錆兎に目をやる。
「前…向いて運転して下さい、藤さん。俺、姫と初詣に行く前に死にたくないです」
げっそりと言う錆兎に藤は吹き出した。

「ま、雨もやんできたしね。早ければ夜にでも警察到着できるんじゃないかな。
君達は部外者だしね…事情聴取くらいはされるかもだけど初詣は余裕っしょ」
藤は言いながら雨の中を目をこらす。

そのまましばらく走っていたが、やがてスピードを落とし
「…舞達の車だ…」
と言って、音をさせないように少し離れた所に車を止めた。

「…降りよう」
と言う藤を追って降りる二人。
そこで錆兎はユートに言った。

「お前だけちょっと別方向から俺達が見える範囲でこっそり移動してくれ。
一応矢木さん武器持ってるだろうし二宮さんを盾に使われる可能性もあるから、万が一の時は隙をつけそうな方が行動するってことで」
「らじゃらじゃっ」
その言葉にユートは錆兎達から少し距離を取った。

「…一人…みたいですね…」
舞達のワゴンからボストンバッグを手に出て来た美佳は藤に気付いたようだ。
ビクっと身を震わせた。

「…美佳…舞は?」
静かにきく藤の言葉に、美佳は怯えたように藤と錆兎の顔を交互に見る。

「…もう一度聞く。舞は?まだ生きてんの?」
カサリと落ち葉を踏みしめて藤が一歩近づきかけると、美佳は
「こないでっ!」
と、ナイフを自分に向けて叫んだ。

「…生きてるみたいですね。
死んでるなら素直につかまって自分がこんな事件を起こした発端になった二宮さんの過去の悪行を暴露でしょうし」
後ろで錆兎がコソコソっとつぶやく。

「で?君に見解からすると…どうするべきだね?ホームズ君」
藤がコソコソっと錆兎に聞くと、錆兎は
「ん~、とりあえず矢木さんが二宮さんと離れてるってことは…見つけさえすれば二宮さんを無事回収できるので、俺らは矢木さんをここに引きつけておくのが正しいかと。
たぶんユートもその辺はわかってるかと」
と、少し離れた木陰にいるユートに、”行け”というようにこっそり合図した。
ユートはそれにうなづいて離れて行く。

「ということで…説得…は即断られて終わると思いますし、動機の質問お願いします。
それなら…たぶん矢木さんもむしろ話したいと思ってるでしょうし」
淡々と言う錆兎に
「了解。やってみましょ」
と、藤はうなづいた。

「美佳…とりあえず私だけ蚊帳の外なのは非常に不本意なんだけど?
まず理由を言って、理由を。
密室のトリックもそれと1Fのトマトジュースとの関連性もわかるし、それからたどって行くと今回の事件を起こしたのが美佳だってのはわかるんだけど…肝心の動機がぜんっぜんわかんない。
殺されたジュリエットって桜の事だよね?
でも5年も前の事なのにどうして今だったわけ?
そもそも舞はとにかくなんでそこに木戸がでてくんの?」

両手を腰にあてて俯き加減に小さく息を吐く藤。
美佳はそんな藤を少し悲しげな目でみつめて、複雑な笑みをうかべた。

「すごいな…わかっちゃったんだ、藤。
そうだよね…昔から私達の中で一番頭良かったもん。
強くて綺麗で頭良くて…聖星の王子様だった。
そんな藤がさ、お姫様みたいな桜と並んでるの見るのが私すっごく好きだった。
私はこんな風に冴えない子で…自分が夢の住人にはなれないけど、そんな二人が私の夢でおとぎ話だった。
なのに…なんで桜を守ってくれなかったの?」

女の世界はわからないが、女子校の世界はもっと本当にわからない…と、錆兎は内心ため息をついた。
自分にとってのお姫様もかなりわからないところがあるが、聖星は…”全自動電波製作所”なのか…。
しかし、まあそれも一部なのか、もしくはこっちがレアなのか、同じく意味不明と思い切り顔に書いた藤が大きく息を吐き出して言った。

「王子ってなに?王子って…。
ま、いい。そのあたりの突っ込みはまた今度。
王子としてでも友人としてでも良いけど、私は私なりに桜の事は気にかけてたし守ってはいるつもりだったんだけど…桜は一人で屋上に登って行ったの目撃されてるわけで…それで他殺はありえんよね?
ってことは、何か自殺するような理由があったってこと?
少なくとも私が前日の夜電話した時にはいつもの桜だったと思う。
楽しそうでふわふわしてて…まあちょっと電波入ってて」

やっぱり電波だったのか…と、全然関係ないあたりでしごく納得する錆兎。

「木戸と舞がね…桜を殺したの。桜は自殺だったの」
美佳はナイフを構えたままポロポロ泣き出した。

「一昨日…舞が木戸を呼び出した時、私聞いちゃったんだもんっ。
舞はうちの学校と同じ系列の男子高にBFがいて、その子を通して顔見知りだった木戸が試験でカンニングしたのをその子から聞いてそれをネタに木戸ゆすって、木戸に桜襲わせたって」

「…な…に…それ…」
サッと顔から血の気が失せて、フラっと体勢を崩す藤を錆兎が腕を取って支えた。

「その後興味本位のふりをして木戸に声かけたら、いざ桜を目の前にしたら結局何もできなくて、舞に頼まれた事言って謝って帰したって言い訳してたけど、そのあと、でも桜を殺したのは自分だって…言ったんだもんっ!
あいつが何もしないならなんで桜が自殺するのよっ!」
美佳はそれだけ言うと、嗚咽した。

「…鱗滝…君」
青い顔でうつむいたまま藤が口を開く。
「はい?」
「死体…刺したら罪になる?」
かすれた声できく藤に錆兎は軽く目をつむって息を吐き出した。

「はい、なりますよ。止めて下さい。
俺いて藤さんにそんな事させたら姫に怒られます」
そう言って錆兎は木戸の言葉の真意を探ろうと考え込む。
そして結論にいたって、錆兎は口を開いた。


「木戸さんは…美佳さん風に言うと白雪姫の狩人ってとこですね…」

その錆兎の言葉の意外性に、号泣状態だった美佳も怒りに青ざめてうつむいていた藤も錆兎に注目する。
二人の無言の問いに、錆兎は閉じていた目を開いて取りあえず自力で立てそうな藤の腕を放した。

「つまり…こういうことです。
ジュリエット役が欲しかった二宮さんは弱みを握っている木戸さんを使って桜さんに嫌がらせをしようとした。
ところが木戸さんはいざ桜さんを目の前にして…危害を加えるどころか逃がしたくなってしまった。
で、二宮さんが桜さんに危害を加えようとしているという事を教えて気をつけるように忠告して帰したんです。
ところが桜さんは自殺してしまった。原因は木戸さんじゃない。
たぶん…本当に子供の頃から仲が良くてお互いに好意を持っていると信じていた友人にそこまで嫌われていたという事がショックだった。それが理由。
少なくとも木戸さんはそう思ってて…自分が余計な事を言ったからだとずっと気に病んでたんだと思います」

「そんな事くらいで…」
美佳と藤が口を揃えて言うのに、錆兎は苦笑する。

「お二人ともそういう経験ないでしょう?あれはホントきつい。
少なくとも俺は発作的に自殺しかけた事ありますよ。
ユートのおかげで今こうして生きてますけど」

錆兎はそこでポケットからハンカチに包んだ物を藤に見せた。
四葉のクローバーのしおり。
端っこには可愛らしい丸文字で”キドさんへ”と言う文字が添えてある。

「本当は…遺体から物を取るなんて論外なんですけどね…取って来てしまいました。
これ…桜さんの字じゃないですか?」
藤はガバっと身を乗り出してそれを凝視してうなづく。

「うん…間違いないよ。これは?」
と、藤が錆兎の顔をのぞきこんだ。

「行きの車で言ってたじゃないですか。
木戸さんが”四葉のクローバーを天使からの授かり物だって押し花にしてお守りにしている”って。
あれ…正確には授かったのは四葉のクローバーの押し花なんです。
遺体調べてる時にたまたまこれを見つけて…自分で自分をさんづけなんておかしいですし、男の文字じゃないしと…。
矢木さんは桜さんを語る時にいつも”天使みたいな子”とおっしゃってたのでもしかしたらと思いました。
こういう物を贈ってるという事は…たぶん木戸さんが桜さんに対して危害を加えてない証拠でしょう。
たぶんお礼の意味で渡したんでしょうね」

錆兎の言葉に藤は心底脱力したように、その場にしゃがみこんだ。

「木戸さんは…たぶんとても心の弱い人で、自分の一言が殺してしまったと言う罪の意識と正面から向き合う事ができなかった。
だから”天使になってしまった天使みたいな子がいて、その子からもらったお守りが守ってくれる”という方向に置き換える事で乗り越えようとしてたんだと思います。
そこへ現実をつきつける舞さんが現れた。
もちろん舞さんは木戸さんが桜さんに手を出せなかったのなんて知らなくて、木戸さんが桜さんを襲った事が桜さんの自殺の原因だと思っているので、当たり前に”お前が殺した”発言をした。
木戸さんはそれに対して原因は舞さんが言っている事ではないが確かに自分が殺したと思っているため、自分が人が一人死ぬ原因になった事をしてしまった人間だと発覚するのをとても怖れたんだと思います。
特に…藤さんあたりに…かな?
まあ…こんな分析をしても意味ない気もしますが…」

どちらにしてもそれで美佳の木戸への敵対心が消えるわけでもないだろうな、と、自分でも思う錆兎だったが、しゃがみこんでた藤は少しおっくうそうに立ち上がって錆兎の肩に手をかける。

「いや…私的にすごく感謝してる。
とりあえず遺体を刺しまくって警察沙汰になる事は避けられそうだし、悪夢にうなされる危険性もなくなった」
と、そのまま力が抜けた様に錆兎の肩に置いた手に額をつけて息を吐き出した。

 





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