「いらっしゃい、アオイちゃん、ユートさん♪」
リビングではフロウちゃんがすでに冷たい飲み物を用意して待っててくれる。
この家は父親が仕事とかで不在の日は不用心だからと娘の彼氏を泊まりにこさせるすごい家だ。
まあ…フロウちゃんのママの優香さんはフロウちゃんにそっくりの天然ボケな人で、この二人を二人きりで留守番させるのが、パパの貴仁さんには怖すぎてできないというのはわからなくはない。
今日もそれかと思ってきくと、フロウちゃんはフルフルと首を振った。
「えと…昨日から父と母で楽しくヨーロッパ旅行中なんです。
で、私一人で心配だからってコウさんを…」
………
………
………
え~っと…
「考えたら負けだぞ、ここんちの親の行動は」
額に手をやって考え込む私の肩を軽く叩くとコウはソファに腰を下ろした。
ユートもクスクス笑いながらソファの近くの絨毯に腰を下ろす。
「相変わらずだね、姫父。もうコウ完全に婿扱い?w」
「籍も入れてないのにありえんぞ、ここの家族は。
若い女の場合一人よりも若い男がいる方が不用心て感覚が全くない」
「だってコウさんだから♪」
当たり前にニッコリするフロウちゃん。
「ずっとね、二人きりで旅行したかったらしいんですよ~両親。
でね、夏休みだしコウさんに来てもらって行っちゃえ~♪って。
2ヶ月ほどかけて二人でヨーロッパ回るそうです」
「…ってことはコウ……」
「ああ、2ヶ月な…嫁入り前の娘を若い男と二人で住ませようってことだ」
ため息まじりのコウにユートが吹き出した。
「つかコウ反応年寄りくせぇ。
少しは喜べよ、青少年。親の依頼で同棲ってマジありえね~ww」
ユートさらに爆笑。
とりあえず男二人がそんな会話をしてる間にフロウちゃんはチョコンとコウの隣に腰を下ろして宅急便の袋を取り出した。
「アオイちゃんの所にも送ってきました?」
袋の中から取り出したのはゲームパッケージ。
あ~~~~!!
「フロウちゃんのとこにも来たんだっ?!」
私の大声に何事かとコウとユートも視線を向ける。
「そそ、それなんだよ、今日来たのはっ!」
ユートが大きくうなづいた。
「あ~やっぱきたかっ。俺んとこにも来たけど…放置でいいだろっ」
コウがポリポリと頭をかく。
「いや…放置できないんだけど…俺とアオイの場合はさ…」
ユートがそこでようやく今日来た目的を思い出してコウに説明する。
コウはずっと腕組みをしたままそれを聞いていたが、説明が終わった所で携帯を手にした。
そのままどこぞに電話をかける。
「もしもし、俺だ」
偉そうな物言い……。
「今ユートとアオイから話聞いたがどういうつもりだっ?!」
この言葉から相手がなんとなく想像ついてきた。
「ああ?強制だろうがっ!そんなの詭弁だっ!」
たぶん…三葉商事の社長…。
コウを跡取りに欲しがっている。
「卑怯者っ!!」
コウが怒鳴って電話を切った。
「あ~どこにかけてたかはなんとなくわかったんだけど……」
「悪い、俺のせいだ」
ユートの言葉にコウがいきなり謝罪して来た。
「どういうこと?」
「あ~つまりな…」
コウは小さくため息をついて説明し始めた。
時は2年前に遡る。
当時高校2年生だった私達の元に1枚のディスクが送られて来た。
高校生12人に無作為に送っていると言うそのディスクは魔王を退治する事を最終目的としたネットゲームのディスクで、最終目標の魔王を倒した一名に賞金1億を出すというものだった。
そしてその賞金を目的とした殺人事件が発生。12人中5人が殺される大惨事に発展した。
まあその間色々な事もあったんだけどその辺は長くなるから割愛して、結局参加者の一人だった殺人犯も捕まって一件落着。
魔王も倒して祝賀会に呼ばれたんだけど、そこで始めてそのゲームの真の目的を知らされたんだ。
そのゲームの主催企業三葉商事は代々血族が引き継いできた会社なんだけど、現在の社長に子供がいないため、社長の遠縁、どこかで社長と血のつながりのある若者12名にゲームをさせてその中の行動から資質を探って、一番能力のありそうな人間を跡取りにしようとしてたんだ。
で、社長がそこで熱烈ラブコールを送ったのがコウ。
ま、妥当な選択だ。
でもコウは殺人もあえて黙認してもみ消したりする企業のやり方に反発して、その誘いをはねつけた。
それでも社長の方はあきらめず1ヶ月に1回、必ずコウに連絡を取ってたらしいんだけど、コウの方は無視。
というのが現在までの状況で……
しびれを切らしちゃった、と。
コウを少しでも三葉商事に近づけたかった社長は、とりあえずいきなり跡取りとかそういう話はおいておいて、自社のネットゲームに参加させる事で、少しでもコウとのコミュニケーションを図ろうとしたらしい。
でもディスクを送ってもコウは当然無視。
コウ自身の親は警察の偉いさんなので圧力もかけにくい。
で…まあコウと親しかった私達を取り込みにかかった、と、こういうわけらしい。
「ま、事情はわかったけどさ、なんで姫じゃないわけ?」
私が抱いてた疑問をやっぱり感じたらしいユートが聞くと、コウは小さく肩をすくめた。
「姫父はほぼ外国相手だから、仕事が。
あまり日本国内の企業の影響うけにくいから圧力かけられん」
なるほど。
で、一般庶民、かんっぺき日本企業の歯車なうちの親にきたってわけか。
「今から俺がやるって言っても…たぶん途中で放り投げる可能性考えてお前達を解放はしてくれないだろうな。
ホント悪い…」
コウが本当に思い詰めた様子で謝罪する。
責任感が強い性格だけに、こういう時って本当に思い詰めるんだよな……。
「ま、俺らコウいなかったら2年前に殺されてて今生きてない訳だしな。
いいんじゃね?ネットゲーやるくらい。また皆で遊ぼうぜ」
ユートが重くなりかけた空気を破った。
「そうだよね。なんだか懐かしいしっ。また遊ぼうっ!」
私もその提案に乗る。
「それにさ、私がネトゲで遊んでるだけでうちの親大出世らしいよ?
ボーナスでたらお小遣いくらいもらえるかもっ」
私の言葉に
「あ~、それうちもっ!親もう大喜びよ?w」
と、ユートも自分を指差してニャハハっと笑った。
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