産屋敷学園高等部のリレーは200,200,200,800の4人で1400mを走るリレーだ。
グラウンドは1周400mなので、第三走者まではそれぞれ半周、アンカーだけまるまる2周走ることになる。
なので、一旦全員が競技者の入場門に整列した後、第1と第3、第2と第4が同じ地点に待機していた。
と、そこで宇髄は隣に居る拝島に気づいて声をかけた。
確か運動は全般的に出来るはずだし、目立ちたがり屋なので絶対にアンカーだと思っていたのだが、どうやら彼は、その宇髄のこれまでの認識を根底から覆すレベルで宗旨替えをしたようである。
何故かドヤ顔でふふん!と鼻を鳴らして、
「その予定だったんだけどね、僕には体育祭の実行委員として何より重要な仕事があるから、走る順番を代わってもらったんだ」
と、言う。
まさか?まさかそこまで馬鹿じゃないよな?と、その言葉で宇髄は一つの可能性にたどり着くが、脳内で否定をした。
…が、そのまさかだったらしい。
「自分がアンカーだと同じく絶対にアンカーであろう、いや、彼がアンカーじゃなかったらもう、1Bは頭がおかしいと言うしかないくらいの◆アンカーオブアンカー◆の鱗滝君が華麗にゴールテープを切る瞬間の実況ができないだろう?!」
と、目をキラキラさせながら言う拝島に、宇髄は頭を抱えた。
アンカーオブアンカーってなんだ?
…っていうか、自分が走り終えたら競技がまだ続いてるのに実況席に走るつもりか、こいつはっ。
何故他の実行委員はその奇行を許してるんだ???
…と、思うわけだが、なんのことはない。
実行委員の上級生達は、体育祭が盛り上がるなら何でも良いと思っているお祭り人間の集まりだ。
なんなら名誉体育祭実行委員として、来年もやらないか?とスカウトされそうな勢いである。
しかしながら、通常ならそこで突っ込みをいれたい宇髄だが、それ以上の気がかりが隣にあった。
普通の状態なら、たぶん拝島の今の言葉に拝島だけマイクで錆兎の応援を出来てずるい、か、もしくは錆兎が悪目立ちするのを嫌がるからやめろか、何かしら反応するであろう義勇が、一言もなく、ただ青ざめた顔で立っているのである。
「お~い、冨岡、大丈夫かぁ?」
と、義勇の顔の前でひらひらと手を振る宇髄。
「…冨岡君、借りた靴にも何かあったとかじゃないよね?
なんなら、僕が実行委員の先輩達に頼んで上級生の靴を借りてこようか?
上級生の先輩なら良くも悪くも無関係だからおかしな細工をすることもないだろうし…」
と、拝島も少し身をかがめて義勇の顔を覗き込んで言う。
それに義勇はフルフルと首を横に振った。
「…ちが……この靴は平気…だけど……」
と、半泣きな義勇に気づいた錆兎が駆け寄ってこようとするのを、拝島がマイクなしでも響くデカい声で
「大丈夫っ!鱗滝君が華麗に一番でゴールテープを切れるよう、僕は最善を尽くすつもりだから、彼女のことは任せてくれたまえっ!!」
と言って、それを制する。
「おまっ…ちゃんと1Cのリレーに真剣に貢献しろよっ!!」
と、それに当の1Cの生徒達から笑いがこぼれるのに、
「ああ、勘違いしないでくれたまえっ!!
僕は宇髄には勝つ!!
ただ、他の走者が棄権とかしたら、鱗滝君までバトンが行かなくなるだろう?
そうならないように、ということだよ」
と、本人は割合と真面目にそう答えた。
そうしておいて、トドメ。
「僕は確かに鱗滝君のことが好きだし尊敬はしているが、冨岡君の靴にミミズをいれた馬鹿のように、自分のクラスの競技妨害をする気はないっ!!」
と、その言葉には、拝島のいう事にはたいてい突っ込みを入れる宇髄ではあるが、素直に拍手を送っておいた。
「…最後の確認だ。
リレーを走るのに靴は大丈夫?
もし靴が大丈夫だとしても君自身はきちんと走れるかい?
靴がダメならさっきも言った通り僕が責任をもって絶対に問題のない靴を借りて来るし、それでも走れないということなら、今からでも1Bの誰かに交代してもらうこともできる。
どうする?」
と、それは実行委員らしくきちんと聞いてくれる拝島に、義勇が小さな小さな声ではあるが
…大丈夫…走る…
と、答えたところで、最終的に拝島が問題なしと実行委員に伝えて、いよいよ最終競技である男女混合リレーが始まった。
誤記報告です😅些細ですが、靴を借りてくる発言の最初の方で拝島君が俺って言ってます。お暇な時にご確認ください(^o^ゞ
返信削除ご指摘ありがとうございますっ!
削除一人称大事っ!マジ大事ですっ!
空太はやっぱり俺じゃなくて僕なんですよ。
きっちり修正いたしました😀