「さあて、行くかっ!!」
午後一の借り物競争が終わり、各学年の学年競技や大縄跳びなどが終わって、午後の競技も中盤を過ぎた頃、午後で随一の過酷な本気の競技と言われている障害物競争の時間になった。
その分、配点も高いので、どの学年のどのクラスも、たいていは運動神経…というより、腕力に優れた人材をここに投入して、勝利を狙うのだ。
最初は20キロのずた袋を背負って100m。
その途中の50m地点で高い所に吊るされたパンを手を使わずに口で取る、いわゆるパン食い競争があるが、これはよくある一口齧って廃棄などと言う無駄なことをしないよう、袋に入っているものをくわえたままさらに50m先の一次中継地点まで行って完食。
この中継地点には他にも6kg砲丸が置いてあって、8m離れたところにあるくす玉を割る。
くす玉は1人につき1つ割るのだが、どちらかが相方の分も割っても良いという事で、たいていは男子が女子の分も割る。
パンも同様にどちらが食べても良い。
そうしてパンを完食、くす玉も二つ割り終わったら初めて第一中継地点を出て、これは男女それぞれ10mのうんていを渡り、ロープを垂らした3mの垂直の壁を登っておりて、最後は50mハードルだ。
もう聞いただけで無茶な競技だけあって、毎回ゴールできるのは5,6組ほど。
つまり、3,4組は脱落するという事である。
得点も1位40点、2位25点、3位15点、4位10点、5位以下5点と非常に高得点だ。
「甘露寺、途中で何かキツイことがあったら言ってくれ」
「ありがとうっ。でも大丈夫っ!私こう見えても力持ちなんだからっ!」
と、錆兎の言葉に力こぶを作って見せる甘露寺蜜璃。
可愛い顔をしているが、腕力には自信がある系女子なので、初っ端から難関の20kgのずた袋も余裕なようだ。
他が…特に女子が必死の形相で抱える中、1Bの2人だけはひょいっとまるで綿でも入っているかのように軽々と担いでスタート地点につく。
──よぉ~い…スタートっ!!!
パアン!!とスタートを知らせる鉄砲の音が鳴り響くと、力自慢の男子達に混じって甘露寺が走る。疾走する。
その目はまっすぐ吊るされた袋に入った一斤分のデニッシュ食パンへ。
そうしてなんとその下までくるとずた袋の重さなど全く感じさせずに華麗にジャンプ!
見事袋をくわえて取ると、そのまま第一中継地点へ。
その様子を力自慢の他の組の男子が唖然とした目で見ている。
「ちょっとくす玉割ってくるから、俺の分も食っててくれ」
と、当然ちゃっちゃと自分もパンを取って中継地点に来ていた錆兎がそう言ってパンの袋を差し出すと、また周りの視線が驚きを通り越してヤバい物でも見るようなものに変わった。
そりゃあそうだ。
一斤分でも女子には辛いだろうし、普通は女子の分も半分くらいは男子が手伝うものなのだが、二斤分全部女子に食わせるとか、正気の沙汰じゃない。
鬼か、こいつは…と、いう視線が向けられるが、当の甘露寺は、きゃあぁと歓声をあげながら
「ここのパンねっ美味しいことで有名なのよっ。嬉しいわっ!!!」
と、いきなりバリっと袋を破るとものすごい勢いで…しかもこれ以上なく幸せそうに食べ始めた。
「…かわっ…可愛いけど…すげえ…」
と言う反応の男性陣。
女性陣はまるで野球のボールでも投げるように軽々と砲丸を投げて一発も外さずサクっと甘露寺の分と二人分くす玉を割る錆兎の雄姿に嬌声をあげている。
ちなみに…砲丸の重さ6kgというのは、高校男子の正式な競技での重さで、女子は4kg。
しかも当たり前だが本来は何かを狙って当てるものではない。
とにかく重いのだ。
それをある程度の高さにあるくす玉に当てると言うのが無理ゲーだ。
なのでたいていの組はここのために腕力のある体育会系の男子を出してくる。
…が、腕力があってもコントロールは別物なので、ここで毎年脱落する組が出てくるのだ。
さらに言うならパン食い競争の後始末…パン一斤完食も地味につらい。
特に男子は女子の分も手伝うため、毎年男性陣が目を白黒させつつ詰め込んでいるそれを、
「おいし~いっ!やっぱりデニッシュ食パンはこのバターと卵の香りとほんのりした甘味がたまらないわねっ!
競技用なのにこの美味しいパンをわざわざ用意してくれるところに、学校の愛を感じるわっ!」
と、喜々とした様子で、それこそそんな解説すらしながら、錆兎の分のパンもあっという間に胃袋に収める甘露寺。
1Bだけなんだか違う競技をしているように、難関ポイントをやすやすと突破して、次のポイントへ。
2人そろって軽々うんていを超えると、3mの壁。
「俺が先に登る。待ってろ」
と、錆兎が言って、あっという間にロープを登り切って壁の上に陣取ると、
「いいぞっ!甘露寺っ、ロープにしっかりしがみつけっ!」
と、合図を送る。
そうして甘露寺がロープにしがみつくと、なんとそれをスルスルとあっという間に壁の上へと引き上げてしまった。
「なんつ~馬鹿力だよ、おい!!
あんな越え方したやつ、初めて見た」
と、宇髄が呆れた声をあげている間に、今度は錆兎はロープを滑り降りて壁の反対側へ。
そして
「受け止めるから、飛び降りろ!」
と甘露寺に声をかける。
普通の女子なら怯えたり戸惑ったりするところだろうが、甘露寺も甘露寺で度胸がいい。
「重くてごめんなさいっ!!」
と言いながらも、全く躊躇することなく壁の上から飛び降りた。
当然それは錆兎がしっかり受け止めて地面へおろすと、
2人して最後の50mハードルを越えてなんなくゴール。
圧倒的速さである。
なにしろ2番目の組がまだようやく第一中継ポイントを越えてうんていに差し掛かったところだ。
周りからは驚嘆のため息。
校庭にはマイクを握った空太の
──さすが鱗滝君っ!圧勝だあああぁーーー!!!
という絶叫が響き渡った。
安定の拝島…(;^ω^)
返信削除茂部太郎に次いで第二の鱗滝君推しのモブに😁
削除誤字発見しました😅最初の🍞一均➡一斤ですね...
返信削除ご報告ありがとうございます。
削除修正しました😁