清く正しいネット恋愛のすすめ_98_産屋敷学園高等部_さすが鱗滝君

──なあ、ウサ。あれはなんだ?

女子達の黄色い嬌声を浴びて手を振りながら、1と描かれた黄色い旗の列に座る宇髄天元。
にこやかに声援に応じていたように見えた彼の脳内はしかし、別のことで占めていたようだ。

第2組の彼の直前に走って、やはりダントツ1位だった友人、鱗滝錆兎にそう声をかけつつ宇髄が視線を向ける先は前方、解説をも受け持つ体育祭実行委員の席からマイクを放り出して、自分も出場する1年男子短距離走の列に慌ててダッシュする拝島空太である。

宇髄に指摘されるまでもなく、錆兎も謎の声援にはさすがに気づいていたようで、
「…知らん。俺が聞きたい。あれは…よもや、この前の諸々の報復行為なのか?」
と、心底気味悪そうに…青ざめた顔で聞き返してきた。

「いや…それはねえかなぁ…」
宇髄は片手をあごにやって考え込む。

「お前も恥ずかしいかもしれねえけどな?あれ、本人の方が100倍恥ずかしくね?
あいつは本来はプライド高い奴だから、そういう捨て身系の嫌がらせはしねえわ。
なんつ~か…この前のあれで完膚なきまでに叩き潰されたショックで、悔しいのが一周回って逆にすげえガチ勢になっちまったってやつじゃね?」

「…ガチ…勢…?」
「そそ、鱗滝君大好き、カッコいい、最高!!ファンですっ!!…ってやつ」
「うあっ!やめてくれっ!!!」

自分の事でここまで嫌そうに動揺する錆兎を初めてみた。
なかなか意外な展開だ。
まあ、からかい過ぎるとまた男子科に逃げられてしまうかもしれないので、ほどほどにしておかないと…と、宇髄は思うわけだが、実に困ったことに、その後も体育祭実行委員会の拝島空太の『さすが、鱗滝君!』放送は続いたのである。


女子は思いきり同意を示し、男子達は面白がり、本人は青ざめ、宇髄は心配し、義勇は怒るというカオスな状態だ。

そして午前の部が終わったあたりでとうとう義勇が
「文句を言ってくるっ!!」
といきりたったあたりで、宇髄は仕方なく自分がその役を請け負うことにした。

「目的は文句を言う事じゃなくてやめさせることだからな?
それなら多分俺の方がその手の交渉はうまいから…」
と言えば、断固として自分が錆兎を守るのだと強固に主張していた義勇も押し黙るしかない。
交渉事で口下手な自分が宇髄に敵うはずはないと言う自覚はさすがにあるらしい。

なので
「しっかり苦情は伝えてっ!」
と言う義勇の言葉にうんうんと頷いて、宇髄は昼休みの前にサクっと体育祭実行委員の席を訪ねて行く。


そして生徒席から校庭をはさんで向こう側正面。

「お前、あれ、どういうつもりだよ?」

午前の部が終わってずっと詰めていた実行委員席から弁当を手に出てきた拝島をみつけ、宇髄はまずそう声をかけた。

拝島の視線は校庭の向こう側の生徒席の方に向けられていたらしく、その声で初めて宇髄に気づいたらしい。

「ああ、宇髄か。
鱗滝君はどこで昼を食べるんだ?」
と、錆兎の心の平和を考えるならやめて差し上げろと思われるような質問を投げかけてくる。

「お前なぁ…やめてやれ」
と、深々とため息をつきながら宇髄が言うと、拝島は
「何をだ?」
ときょとんとした顔で言う。

ああ、もう本当に裏はないのだろう。
やはり先日の衝撃が大きすぎて、一周回ってガチ勢になってしまったとみるのが正しい気がする。

「ウサ、めちゃ引いてんぞ?あの解説…」
と、とりあえず伝えてみると、
「何故っ?!もうすぐ信任投票だし、鱗滝君がいかに生徒会長にふさわしい素晴らしい人材かを万人に知らしめているだけなのにっ!!」
と、こぶしを握って力説されて、宇髄は眩暈を覚えて天を仰いだ。

容姿や頭脳に恵まれた上、そこそこ裕福な家庭で育った彼は、ある意味、純粋培養な部分があるのだろう。

全てにおいて圧倒的に敵わなくて、さらに自分が絶対的なピンチの時に助けてくれた相手…──…まあ、そのピンチに陥れた張本人であることは、都合の悪いことは削除できる頭の中からはきっちりと削除されているのだろうが…──と、認識した途端、錆兎は彼の脳内では最も自分にふさわしい優秀な友人認定されたようである。

なんなら、心の友、親友だと思ってさえいるのかもしれない。

その証拠に
──容姿も優れた男子の1位と2位が仲良くしているとか、とても絵になると思わないか?
と、キラキラした目で問われたので
──ウサが可哀そうだからやめて差し上げろ。
と、答えたら、
──君は少しばかり顔が良いと言うだけで、身の程知らずにも鱗滝君の親友のポジションを狙っているのか?
と、思いきり敵対心を向けられた。



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