清く正しいネット恋愛のすすめ_21_冒険のスリルを楽しもう

…あ~…こりゃあだめだ……

当日…サネミが指定した待ち合わせ場所はファイアーマウンテンのふもと。

それを聞いた時、まさかなぁ…と思った。
まさか、ファイアーマウンテンを登るわけではないだろう…と。

しかしながら、集合してサネミが宣言したのはそのまさかだった。


いわく…
「ガチガチに守られて作業ゲーやるよりか、冒険したほうが楽しいだろォ!」

それを聞いた瞬間、宇髄は、これ、もうだめだわ…と、早くもすべてをあきらめる。



冒険が楽しいと言うのは、それがぎりぎり頑張ればクリアできる範囲のものであった場合で、どう考えても無理心中レベルの無謀な戦いの場合はその限りではない、と、宇髄は思う。

そして、ファイアーマウンテンを登って、おそらくその上のボス、ファイアードラゴンにこんにちはしに行くというのが本日の目的なのだろうが、それは間違いなくその無謀な試みというもの以外何者でもない。



宇髄に言わせればタンクなしにこの山を登ろうとするのは、頭のおかしい奴がやることだった。

なにしろこのファイアーマウンテン、頂上に行くまでの道は険しく遠く、道中の敵はアクティブでLv60~61。それが数も多くいてリンクしまくりである。

レベル60の宇髄のキャラのテンゲンや不死川のキャラのサネミでも2体くればキツイと思うが、さらにまだレベルが48のギユウは攻撃1発でHP一桁、2発で昇天すること間違いなしだ。

そんな中を、リンクした敵をひきつけて攻撃を受けてくれる固いタンクなしで進んでいくなど本当に正気の沙汰じゃない。

それを強行してギユウが死んでデスペナでレベルでも下げた日には、本当に宇髄まで連座である。

なんとかゲーム内だけでも交流を持たせてやってくれと宇髄が錆兎に頼んで頼んで頼み込んだ努力をなんだと思っているんだ、この馬鹿野郎は!と、小一時間ほど問い詰めてやりたかった。


しかしながら…それぞれのプランには口を出さないというルールなので、『やめておけ、このアンポンタン!』と言うわけにもいかない。

なのでせめて被害を少しでも抑えようと、

「とにかく…ここでは俺とサネミが敵を倒し終わるまでは、ギユウは絶対に回復とか、手を出すなよ?殴られれば即死しかねないからな?」

と、念を押すテンゲンの横で、サネミが

「何言ってるんだぁ?それじゃあ冒険にならねえだろ。
テンゲンのいう事は気にすんな。
そもそもお前はレベル低いんだからデスペナでレベルが下がってもあげなおしゃあいいんだよ」
と、異議を唱える。

その言葉に、もうお前その発言で終わったわ…と、宇髄が頭を抱えた。


まあ、サネミ自身は自分がギユウの立場だったとしても同じことを言っているだろうことは予測がつくし、悪気はないのも宇髄はわかっているが、一般的には死んでレベルが下がる前提の冒険なんて楽しくはない。

自分が楽しいことがイコール他の人間が楽しいことではない、そこから先にしつこいくらい教えておくべきだった…と、宇髄は心の底から後悔した。



そうして、とうとう山登り決行。

うあああ~~!!!!!
と、脳内で叫ぶ宇髄。


そんな彼の目の前のディスプレイ内では、ポップした敵を倒し終わる前に次が沸いて出て、あっという間にリンクしている。


それを前に、

「早く回復しろォっ!!!」
と言うサネミの怒声と
「ギユウ、関わんなよっ?!距離を置けっ!!」
と言うテンゲンの絶叫が交差して、義勇は混乱を極めた。

そしてもうどうしていいかわからずにその場でオロオロしていたが、

「ヒーラーが回復しねえでなにすんだぁっ!!」
というさらなるサネミの怒声に押されるように、ようやく回復魔法ヒールを唱える。

すると、サネミに行っていた2体のうちの1体がギユウの方へと流れてくる。


「ああぁぁあ~~!!!!」

と、そこでやっぱり絶叫しつつ、対峙している敵を連れたまま、少し後方にいるギユウの方へと戻って、ギユウに向かう敵を殴って自分がタゲを持って距離を取るテンゲン。


しかし忍者も撃たれ強いジョブではない。
複数の敵に殴られれば当然のように今度はテンゲンが死にかけてヒール。

そして再度ギユウに向かう敵。

そこで敵を一体倒し終わったサネミが戻ってくるが、その前に殴られてギユウ死亡。
サネミとテンゲンで残りの1体ずつを倒して戦闘終了とあいなった。



やっちまったああああーーー!!!

と、心の中で大絶叫する宇髄。


これはまずい。錆兎がマジギレするかもしれない…
とにかく謝罪だ!平謝りだっ!!

と、唯一激怒した錆兎を宥められるであろうギユウに向かって、

「悪いっ!ほんっとに、悪かったっ!!!」

と、ゲーム内でテンゲンが土下座をし、リアルでも宇髄はディスプレイに向かって手を合わせて頭をさげた。


「テンゲン、たかだかゲームでおおげさすぎだろうがァ。
な?俺が山の入口にホームポイントを設定させておいてよかっただろぉ。
街まで戻らねえでもすぐここまで戻ってこれるからなァ」

ドヤァ~っと言うサネミに、テンゲンが頭を抱える。


「プランには口ださねえルールではあるが…これは無理だろ。
山登りは中止したほうがよくねえか?」

と、さすがに提案するテンゲンだが、

「何言ってやがんだァ!楽しいのはこれからだろうよ」
と、サネミに却下された。


ギユウは終始無言。

あ~…これ、もしかしてさすがに怒ってるか?と宇髄は焦るが、とりあえずギユウは死に戻りをして火山の入口から少し進んだパーティーに戻ってきたので、否応なしに再出発だ。



戻ってきたギユウを見ると、幸いにしてまだレベルは48から下がってはいない。
それに安堵しすぎて、すこしばかり判断力が落ちていたらしい。

「時間食っちまったから、急ぐぞォ!」
と、さっさと先に進むサネミを慌てて追ったのだが、あとから考えればここで断固として止めるべきだった。


麓近くですぐ死んでいるような状況で、山の上までたどりつくはずがない。

案の定、山の中腹のホームポイントが設定できる場所まで来るまでに一体何回死んだのかもわからないくらい、ヒーラーのギユウだけ死にまくった。

すでに死にすぎて経験値が減りすぎて48だったレベルが46まで下がっている。

それなのに、今度はその山の中腹に死に戻りの時のホームポイントを設定するようにとサネミが言うのを天元は慌てて止めた。


「おまっ!それは無茶過ぎだっ!
ここにHP設定しちまったらギユウはどうやって帰るんだよっ!!」


そう、ホームポイントというのは死んだときに戻る場所だ。

そして死ぬたびデスペナで経験値が減ってレベルが下がれば、死なずに山を下ることは困難になる。

…というか、いまでも死なずに下れるかわからない。


そんな状態で死んでこの場所に戻る設定にしてしまったら、下手すれば出られないままレベル1に下がって、そのまま一生出られなくなるんじゃないだろうか…


それはまずい。
錆兎に確実に絶縁される。

今回の勝負は口は挟まないルールではあるが、これだけは絶対に阻止しなければならない。


そんな断固とした気持ちで主張するが、サネミはのんきに

「ここまで歩いてきたんだから、帰りもそうすれば問題ないだろうがァ」
などと言うので、宇髄はリアルでコントローラを放り出して両手で顔を覆って天井を仰いだ。


そうして一呼吸して、

「お前なァ…」
と、切り出す。


「ここまで来るのに、何回ギユウを死なせてると思ってんだ…
デスペナでレベル2つも下げさせてるんだぜ?
しかも自分は死なないでヒーラーだけな?
これはさすがにヤバいレベルだ。
ウサに勝つどころか、鯖スレで痛いプレイヤーとして晒されるレベルだぞ?」

と呆れて口にするテンゲンのセリフは、正直義勇には半分もわからない。

鯖スレ?それなんだろう?あとで錆兎に聞いてみよう…と、思いつつ、ここで揉められてもなんなので、当たり障りないフォローを入れてみることにした。


「私は大丈夫だから、テンゲン。ここに設定するね」
とギユウが言えばサネミが大きくうなづく。

「そりゃそうだよなぁ。死ぬたび山のふもとまで戻ってたらいつまでたってもドラゴンまでたどり着かねえし」
と、満足げなサネミに、ギユウは色々わかってないのかもしれないと、テンゲンは今度はギユウを振り返った。


「お前なァ正気か?さすがにそれやったら終わるぞ?よく考えろよ?
ここからまた徒歩で下に戻ったら、お前は確実にあと5くらいはレベル下がるぜ?
つか、もどれなくなるぞ?
なにしろ行きよりレベル下がっているってことは行きより死にやすくなってるんだからな?」

「大丈夫♪」
と、そこでギユウはにっこり宣言した。

これ以上レベル下がりそうなら、サビトに迎えに来てもらう。
サビトが守ってくれてればレベル20台でだって余裕で下山出来るから♪」


そう、サビトがいれば何も問題はない。
いくらレベルが低くて殴られたら終わりでも、サビトはギユウの事を一発だって殴らせた事はないのだから。

それはギユウにとっては東から日が昇って西に沈むことくらいには当たり前の事だったのだが、何故か空気がぴき~んと凍り付いた。



「あ“あ~?!!何言ってんだァっ?!てめえは馬鹿かぁっ?!
やつを呼んだらどっちがいいか判断できねえだろうがっ!!」
と、サネミが激怒する。

怯える義勇。
あ、これはマズイと焦る宇髄。


Lvカンスト組の遊びは当たり前だがLv上げではなく、時には連続死も珍しくはないレアモンスター狩り、レアアイテム集めが多い。

そしてそのカンスト組の自分達はしばしばデスペナ上等、レベルが下がったらまたあげればいいという遊び方をよくするのでサネミはその感覚でいるのだろうが、まだカンストしたこともないレベル上げ真っ最中のプレイヤーにしてみたら、日々一所懸命に狩りをして頑張ってあげたレベルが下がれば、それはそれはショックだろう。

そのあたりの感覚の違いを全く理解していないあたりが、サネミの敗因だと思う。

それを教えてやりたいところなのだが、中立でいなければならない立場上、教えるわけにもいかずにハラハラする。

まあどちらにしろ、前衛がいて、自分達は全く死ぬことなく、ヒーラーを連続死させている時点で色々ダメだとは思うが…


それはとにかくとして、口を出さない=ギユウの被っている被害を放置で良いわけではない。
仲介人としては色々が取り返しがつかなくなる前に、ここいらでストップをかけるしかない。

…もう手遅れかもしれないが……



「あのなぁ…とりあえずもうどうやっても無理だろぉ…。
すでにギユウのレベル二つも下げた時点でウサがよっぽどの事をしてもお前が勝てる要素はねえ。
傷が大きくなる前にそろそろやめておけ」

「あぁっ?!じゃあ面白くもない雑魚狩り延々としてたらいいのかぁっ?!」

「レベルをあげたいお年頃のギユウにとっては一歩カンストに近づけるだけ今の状況よりはましだろ。
このままじゃ頂上にたどり着いて山のふもとにもどるまでにギユウのレベルが1になりかねねえぞ。
もうどうやっても無理だからアドバイスしとくとだな、カンストしてる俺らが重視してることと、カンストしたことのねえレベル上げ中のプレイヤーが重視することは違うからな?」

「それは俺じゃなくたって、サビトがいたって同じことだろっ!!」
「いやいや、ウサちゃんならそもそもこんな無茶なプランたてねえから…」

「じゃあ、やつともここに来てみればいいだろうがァっ!!
やつがやったって結果は同じだぜェっ!!」

「お前、ちょっと落ち着いて俺の話を聞けよ。
能力の問題言ってねえだろうが。プランからして間違ってるって言ってんだよ」


延々と止まない口論。

ギユウがそれに入れずぼ~っとみていると、サビトからメッセが入った。


(調子はどうだ?ギユウ。順調に行ってるなら返事はしなくてもいいからな。
でも何か困ってたら俺に言え。
フレンドリストで確認してみたら、なんだかファイアーマウンテンにいるようだから、少し心配になって連絡いれてみたんだが?)

ああ…もう本当にさすが錆兎だ。HSKだ。
なんでこうして欲しいタイミングにして欲しい事をしてくるんだ…。

…と、義勇は感心する。


…実は……と、今の状況を説明して泣きつくと、即

――今からすぐ迎えに行く。
と言う返答が返ってきた。



正直嬉しい、ありがたい。

これ以上レベルが下がるのはここまで一生懸命レベル上げに勤しんできただけにつらい。
一所懸命頑張って経験値を稼いできた時のことを考えると、今でも少し泣きそうだ。



「…サビトに迎えに来てもらう事にしたから…」
と、もう自分をそっちのけで言い争っている二人に、ギユウはきっぱりと宣言した。

拒否権なんて認めない。


そしてサネミがそこで何か言い出す前に、ギユウは先手を取って言う。

「その代わり同じ環境で判断を、という事でもいい。
だったら、今ちょうどこのパーティ組み始めて3時間たっているから、明日のサビトの順番の時には3時間ここで山頂を目指してみるから。
で、その時の死んだ回数とかデスペナルティで減った経験値とか比べれば差がわかる」


「まだ山頂までついてねえだろうがぁ!」

とそれでも不満げなサネミには、

「これ以上進んでもレベル下がり続けて下がったレベルだとさらに死にやすくなって、レベル下がるだけ下がって頂上にはたどり着けないと思うから…」

と、しごくもっともな反論をしてみるが、

「ドラゴン見ずに判断されたら意味ねえだろうがぁっ!」
と、キレられる。


それにリアルで泣きそうになった。

だってもうこれ以上デスペナで経験値を減らすのは嫌だ。
一所懸命レベルあげしたのに…本当に一所懸命やったのに…

そう思うとじわりとあふれてきた涙が止まらなくなる。

ヒックヒックとしゃくりをあげる義勇。
自分だけどんどんレベルを下げられて、何故自分の方が怒られているのかわからない。

それでもう何を言われても黙ったままのギユウの代わりに、ギユウの言い分は致し方なしというテンゲンにサネミは怒りをぶつけ始める。

そして二人がまた言い争っているうちに、なんとお迎えがたどり着いたようだ。



いつもの細身の銀鎧ではなく、がっしりとしたフルフェイスの金茶の鎧だったので、遠目に見えた時は一瞬誰かと思ったが、近くまで来て表示されているキャラ名を見てホッとした。

「ウサちゃん、ここまで一人で来たのかよっ!!
まじ、どうやったんだよ?!!」

と、自分達が3時間もかけてたどり着いたここまで20分弱でかけつけたサビトに驚くテンゲン。


それに対してサビトは淡々と

「防御用に特化させた装備着てきた。
ギユウが待ってるし回復は詠唱時間もMP回復する時間ももったいないから薬漬けだけどな。
元々タンクだから固いし、敵はある程度絡まれても戦わずに放置で突っ切って、HPがあまりに減ったら薬で回復。これで最速だ」


なるほど。だから鎧がいつもと違うのか。

敵は確かに絡まれた場所からだいぶ離れると元の場所に戻っていくのだが、おそらくきちんとした防御用の装備を着ていないと敵のレベル的に複数に絡まれればタンクでも距離を取る前に死ねる。


「とりあえずパーティーに入れろ、テンゲン」
と言うサビト。

それに応えてテンゲンが送ったらしい誘いを受けてパーティーに入ると、サビトの装備がシュッといつもの銀鎧に変わった。


「もうその鎧じゃなくて大丈夫なの?」

とそれを見て聞くギユウにサビトは

「ああ、防御特化の装備は固い事は固いが攻撃力が落ちたり、アビを使うためのスペシャルポイントSPが下がってヘイトを稼ぎにくくなるから、タゲを取りにくいんだ。
ずっと一体だけを殴り続けるボス戦ならそれでもターゲットが変わらないから蓄積でヘイトを稼げるが、瞬発的にヘイトを稼いでいかないといけないパーティーでの移動や雑魚狩りには向かない」
と、説明してくれる。


「で?結局どうなったんだ?
ここのHPを設定してしまったのか?」

と、その後、サビトは聞いてくるが、そう言えば口論が始まってしまってそれを眺めていたのでまだ設定はしていなかった。


「ううん。まだ。HPは山のふもと」
と答えれば、
「じゃあ、そこまで飛ぶぞ」
と、サビトは他から文句が出る前にパーティーをテレポートで移動させた。



「ちょ、てめえっなにすんだっ!!これからドラゴンだったのにっ!!」

と詰め寄るサネミを押しのけて、テンゲンが先ほどのギユウの提案を伝えると、サビトはチラリとギユウに視線を落として、少し考え込んだ。


「テンゲンとギユウと3人でファイアーマウンテン…かぁ…。
まあ構わんが?
じゃあ、俺のプランはもうなしで、それで評価ってことだな?」

「ああ、悪いな。俺の仕切り不足で」
「いや、こっちが勝手に頼んだんだ。そこはテンゲンに文句を言える筋合いではない」

と、テンゲンとサビトのやりとりの間、無言のサネミとギユウ。


「じゃ、そういうことで、明日同じ時間にここに集合な~」
と言うテンゲンの最終的な宣言で、この日のパーティーは解散とあいなった。



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3 件のコメント :

  1. 気になっちゃったのでご報告。山の中旬←中腹とか中番辺りとかの意味合いだと誤記かと…😅あと宇髄さんのセリフ「一人で来た」の誤変換だと思います。ご確認ください。

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    1. ご指摘ありがとうございます。修正しました😀

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