寮生は姫君がお好き65_障害物競争スタート

こうしてデモンストレーションが終了し、実際に出場する選手が並ぶ。


並んだ………
………
………
………?!!!!

最難易度の競技と言う事で、一部銀竜寮のようにクリアを最初から諦めている寮以外は体力自慢、腕力自慢の屈強な選手達が居並んでいる。

その中に1人異質な姿が……

いや、屈強と言えば屈強な体格ではある。

……が、服装はチャイナ服
言わずと知れた銀虎寮の姫君、煉獄である。


確かに姫君が出場してはならないというルールはないので、ありと言えばありなのだろうが……


そもそもが色々と大きすぎる体格にチャイナ服という姿自体が異様な中で、さらにそれでこの競技というのは、なかなかに強烈な光景だ。

出場選手はみな、ウォーミングアップをしながらも、チラチラとその姿に眼を向けている。

その中には炭治郎もいるわけなのだが、普段はにこやかな笑みを浮かべている彼がまるで恐ろしいモノを見たようなぎょっとした顔をしているのを、義勇は初めて見た気がした。


当の煉獄はそんな他の視線など気にすることなく、むしろ隣の自寮の寮長の宇髄が、

「頼むから少しでも優雅にこなしてくれよ?
ゴリプリだってゴリラのプリンセスなだけで、一応プリンセス、つまり姫君なんだからな
と言いつつはぁ…とため息をついている。

そんな宇髄の言葉など全く聞いてはいないらしい。
煉獄はいつものようにカッと目を見開いて

「うむっ!とりあえず目指すは上位でゴールだなっ!!」
と、これもいつものように口元に笑みを浮かべて言った。


……は良いとして、互いに声のトーンを抑えず話すその言葉は、司会のマイクを通して全校生徒の間に響き渡っていて、あまつさえ

「おお、これは面白い事になってきましたっ!
銀側で唯一寮長参戦の銀虎寮の寮長の一番のライバルはなんと自寮の姫君かっ?!」
などと司会に解説まで付けられて、宇髄がさらに頭を抱えた。

それに苦笑する銀側の銀竜寮の寮長村田。
もう一人の銀側の寮長である錆兎は

「あんなこと言わせているなよ?!
いくら相手が3年とはいえ、姫君に負けるような醜態は晒すなよ?炭治郎!」
と、自寮の弟弟子に檄を飛ばした。

それに
「もちろんですっ!勝ちに行きますっ!!」
と敬礼する炭治郎。

本来は各寮2人ずつ出す競技なのだが、銀狼寮は錆兎が特別枠で1位と同等の点数を得るということもあり、出せる選手は1人、炭治郎だけなので、まあ普通に負けられないわけだが…。


そんな中、とうとう障害物競争の戦いの幕が切って落とされた。



──よ~い…スタートっ!!!

パンッ!!というピストルの音に一斉に走り出す選手達。

ズタ袋までは皆ほぼ同時に到着したものの、それを抱えて100mの時点で、一部の選手が早々にトップ争いから脱落する。

銀虎寮の2人と炭治郎は荷物を抱えていても全くスピードを落とすことなくトップで全力疾走。

銀竜、金狼、金虎の1人は、これに備えて腕力のある寮生を人選したのだろう。
抱える事には問題なさそうだが、元々の足自体は速くないようで、それに若干遅れて続く。

「今年の中1はすごいっ!
トップの3人のうちの2人は3年生組だが、残る1人は中学1年生だっ!
まあ将軍の弟弟子ということだから、それもありなん!
ダークホースは銀虎の姫君っ!
チャイナ服でズタ袋っ!!
視覚的にはすごい図だが、速いっ!!
その中で唯一の高校生は銀虎の寮長、宇髄っ!
高校生の面目躍如かっ?!!
それを追う高校生5人組っ!!
くす玉割りで追いつけるかっ?!」

まるで競馬かプロレスの解説のように実況していく司会。
ハイテンションのそれに思わず手に汗を握ってしまう。

トップ3人は100mを走りきり、ズタ袋を放り出して平均台へ。
3人ともそこは危なげなく渡り、次のくす玉割りへ辿りついた。

そこで、
「炭治郎っ!!頑張れぇぇ~~!!!!!」
と義勇も立ち上がって応援する。

あちこちからあがる歓声に紛れてしまいそうなその声だが、くす玉割りの位置が比較的銀狼寮のテントに近いので、トップ3人にはしっかり届いて、

「はいっ!義勇さんのために勝利を勝ち取りますっ!」
と、答える炭治郎。
俄然テンションが上がったようで、2発目で見事くす玉を割るが、その時宇髄はすでに一発で当ててトップで次へ。

煉獄はあまり正確に当てるのが得意ではないらしくなかなか当たらず、高校生5人組が追いついてきたあたりでようやくくす玉を割って3番手でうんていへ辿りつく。
煉獄がうんていに辿りついた頃には、トップ2人は壁登りだ。

しかしこれは炭治郎が遅いわけではないが、筋力の差だろうか…

驚くほど身軽に宇髄が圧倒的な差をつけて登り切り、さらに錆兎と違って壁のてっぺんからクルクルと猫のように器用に回転しながら飛び降りた。

もちろんその後のハードルも独走状態。
トップでゴールテープを切った。


一方で、目の前で宇髄が一気に飛び降りる様を見た炭治郎は壁の頂上で一瞬悩む。
そして、このままでは差をつけられて終わる…と、その一念で自分も同様に飛び降りようとする。

「炭治郎っ!!!そいつはダメだぞっ!!!宇髄は特別だっ!!
地道に行けっ!!!」
それを察知し、焦って立ち上がって叫ぶ錆兎の声も耳に入らない。

追いつかなくては…との思いだけが脳内をしめていて、高さへの不安を押し込めるように軽く眼を閉じた時、聞こえて来た義勇の声。

「炭治郎っ!!無茶はダメだっ!!
お前が怪我したら、誰が俺を守ってくれるんだっ!!!
この競技で全てが終了するわけじゃないっ!!!」

それはまだ声変わり前の高い声だけに、錆兎の声よりもよく響いた。
そして、それを耳にして、炭治郎は平静を取り戻す。

…ああ、そうだ。大前提として自分は姫君を守れる状態で居なければならない…
そう、だからこんなところで怪我をするわけにはいかないのだ…

と言うところに落ち着けば、おのずから答えは出て来た。


どちらにしても宇髄と同様の事をしても前を行く宇髄との差が縮まる事はない。
むしろここで怪我をすれば、順位を落とすどころか、下手をすれば完走できなくなる。


──だめだっ!!

グラリと飛び降りるために前傾姿勢になった身体を腕力で支え、炭治郎は錆兎がやったのに倣って、3分の2までは壁を伝い、そこから飛び降りた。

これで宇髄との差は決定的になったわけだが、どちらにしても単純な足の速さでは宇髄に敵いそうもない以上、例え今追いついていたとしても残りのハードルで宇髄に引き離されていただろうから、これが最善だと理解する。

そうして結果、無事2位でゴールした。


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