寮生は姫君がお好き47_障害物競争の説明

そして始まる競技

短距離走、中距離走、長距離走などは、どこにでもある普通のものだが、中には、それは?!!と目を剥く競技もある。

そのひとつが障害物競争。

いや、障害物競争という種目自体は珍しいものではない。
問題はその内容だ。


スタートは50キロのズタ袋を担いでの100mダッシュ。
この時点で何かもう普通じゃない。
その後は平均台…だけならとにかく、これを逆立ちで渡る。

そして…くす玉割り。
これもただのくす玉割りではない。

地上から2.5mの高さにあるくす玉を15m離れた位置から球を当てて割る…までは良いとして、投げる球…これが重さ6キロの砲丸だったりする…。

その後は傾斜がついて徐々に高くなっていくうんていを進み、高さ3mの丸太を積んだ壁をよじ登り…ラストはハードル走400mだ。

これがなんと中高生種目。

ありえない。本当にありえないと思う。


「…これ…絶対に超えられない選手でるんじゃ?」

スピードを競うとかそういう問題じゃない、と、義勇が青くなると、錆兎はニコリと

「ああ。特に前の二つの種目は出来ない奴はいつまでたっても終わらないから、一応時間制限設けてるんだけどな。
それを超えると失格になるから、6つの寮がそれぞれ2人ずつ12名選手を出すんだが、毎年ゴールできない選手が片手の指の数くらいだな」
と、恐ろしい事実を告げてくる。

「…錆兎は?」
「…ん?」
「出た事あるのか?」

「ああっ!もちろん!!
俺と炭治郎が通っている剣道の道場はかなり基礎鍛錬に力を入れているからな。
その稽古についていくことができれば筋力も持久力もそんじょそこらのアスリートに負けないくらいつくんだ。
ということで俺は3年連続トップでゴールしていたから、今年は競技者ではなくパフォーマンスということで、他がやる前に俺だけ一度全部走ってみることになっている」

「ええーーー!!!!」

飽くまでパフォーマンスだからタイムで競うことはないけどな。
その代わりに出ていたら1位だろうということで、1位と同じ点数が与えられるから、まあサクっと気楽にできる。
と、まるで遊びにでも行くように軽く楽しげに言って見せる錆兎に、義勇は驚きの声をあげた。

あれを好き好んでやろうと言う心境がよくわからないし、そもそもそんな何かのついでみたいに軽いノリで出来る人間がいると言うのが信じられない。


驚く義勇に、

──眼がまんまるになって可愛いな、姫さん

などと言って頭を撫でつつ、錆兎は

「ま、今年もトップはうちが頂くっ!
なにしろ俺と一緒に鱗滝師匠に鍛え上げられた炭治郎が出るからな!!」
と、自分達から少し下がった義勇の側の隣に座る弟弟子に笑いかけた。

それに対して炭治郎は斜め後方の兄弟子を振り返り、

「錆兎ほどの成果を期待されても困るが…」
と、少し困ったように眉を寄せる。


が、それに対して錆兎が

「鱗滝師匠の愛弟子兼銀狼寮の姫君の近衛隊長としては、あの程度は完走してもらわないと!」
と、にやりと言って義勇を抱き寄せると、炭治郎もそれには

「もちろん、完走は当然だ。
筋力、持久力はなければ姫君を守れないし、俺は高校では錆兎の跡を継いでこの寮の寮長を目指すつもりだから」
と、気真面目な顔で頷いた。

「…当然…なのか……」

義勇自身は参加する事は一生ないとは思うが、参加したとしたら絶対に完走できないと思う。
いつか中3になってもきっと無理だと思うのに、同じ中1のはずの炭治郎がきっぱりと完走宣言するのにはもう感心するしかない。

そう言うと炭治郎は笑みを浮かべて、今度は義勇を見あげて頷いた。

「当然でしょう?俺は姫君だけのための一枚の盾です。
まだ錆兎のように素早く鋭く切り込む事はできなくとも、重圧を力で押し返して大切な俺達の姫君を守って進むことならできます」


………
………
………

もう…この兄弟弟子は~~!!!!!
2人そろって真顔ですご~~く恥ずかしい事を言うので反応に困る。

もう顔が真っ赤になっている自覚がある。

「照れてる姫さんも可愛いな」
「うん。そういう控えめな性格もとても愛らしいと思う」

両手で顔を覆うと、隣と斜め下から音声多重で聞こえてくるさらに恥ずかしい言葉。
普段は似てないように思えるが、変なところで実は似ている気がする二人だ。


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