「あ~!竈門さんっ!どういう事ですかっ?!」
きちんと香も炊かれているその離れの和室には大きなホワイトボードが用意され、毎度おなじみの4人組、氷川夫妻、OL3人組、老夫婦、秋ちゃん、そして和田が錆兎の依頼によって集められている。
行方不明だったはずの炭治郎までいる事に驚く和田に、錆兎は
「救出したのはいいんですが、犯人のメドがつくまでは危険だったので隠しておきました、すみません」
と、少し苦笑して、それからクルリと全員を振り返った。
「今お集り頂いたのは他でもない、今回の小澤光二氏殺害及び、冨岡義勇、竈門炭治郎両名の誘拐事件について説明させて頂く為です。
一応…殺人事件の方はほぼ外部からの侵入は不可能に近い旅館の内庭で起こった事件で、おそらく警察の方では宿泊者の全員を容疑者として現在この旅館内に拘束という形を取っていると思うので…」
と、そこで錆兎はチラリと和田に目をやった。
それに気付いて和田はうなづく。
「容疑者である宿泊者全員と、警察の和田さん、旅館の責任者の紫村秋さんにご足労願いました」
そこで錆兎は長くなるからと、とりあえず全員に座を勧める。
そして全員が着席すると、また話し始めた。
「とりあえず…状況を先に説明します。
1月2日午後3時過ぎ、小澤さんを含む宿泊者が旅館に到着。
午後8時すぎ、花火見物に外庭に出ていた冨岡義勇、竈門炭治郎両名が何者かに拉致。
午後8時40分、一人で旅行中だった小澤光二氏が遺体となって宿泊中の離れの浴室で発見されています。
まず小澤氏の殺害について。
犯行推定時間は午後5時20分から午後6時40分の間と警察の方では推測されていました。
根拠は、午後5時20分に小澤光二氏の部屋の内線から小澤氏本人の声でマッサージの予約が入っていた事。
そして、遺体が発見された時には遺体の状況から死後2時間以上はたっていると推定されたためです。
以上の観点から犯行推定時刻が割り出されていました。
さらに犯行現場の状態から犯行には時間が30分以上はかかったものと思われます。
その間の各人のアリバイは次の通り」
と、そこで錆兎はホワイトボードにアリバイの書いてある紙を磁石ではりつける。
「まあざっと見て頂ければわかると思います。
同行者の証言は基本的に証拠能力はないとみなしますので、17:30から18:50までずっとラウンジにいるのを従業員が証言している氷川澄花さん、17:30に露天にむかって露天に到達して戻って来たため急いで移動しても母屋に戻るまでには18:20分まではかかった氷川雅之さん以外は誰でも犯行を行えた事になります」
「まあざっと見て頂ければわかると思います。
同行者の証言は基本的に証拠能力はないとみなしますので、17:30から18:50までずっとラウンジにいるのを従業員が証言している氷川澄花さん、17:30に露天にむかって露天に到達して戻って来たため急いで移動しても母屋に戻るまでには18:20分まではかかった氷川雅之さん以外は誰でも犯行を行えた事になります」
そのコウの言葉にOLの一人が
「え~!でも初対面の人間よ?!なんであたし達が殺さないといけないのよっ!!」
と不満げな声をあげる。
錆兎はそれにうなづいて続けた。
「確かに…ここで注目したいのは、小澤氏と面識があるという事で唯一動機がありそうな氷川夫妻にはアリバイがあり、初対面のため動機がないその他宿泊者にはアリバイがないということです。
そこでこちらはいったん保留します。
同日20時過ぎ、冨岡義勇、竈門炭治郎の両名が誘拐され、翌日5000万の身代金要求がありました。
最初の現金受け渡しは午前10時半。条件は身代金受け取り時に一人、そして受け渡しをした者が”自力で”指定した刻限までに旅館に戻った時点で一人人質を解放するという事でした。
受け渡しは俺がやったんですが、受け渡し終了後、戻ろうとする際かなりの妨害を受けました。
結局それでもぎりぎり刻限内に辿り着いたのですが、犯人は”成功する事が想定外”だったので、人質を一人しか解放する準備ができていなかった、と言い、冨岡義勇のみを解放してもう一人については後ほどと連絡を終えました。
そして同日夕方、二度目の身代金請求がありました。金額は前回同様5000万。
今度は犯人は我妻善逸を受け渡しの相手として指定してきました。
身代金を受けとり次第人質を解放するとの事で、19:00スタートで刻限は21:00。
結論から言うと、これは失敗に終わります。
「え~!でも初対面の人間よ?!なんであたし達が殺さないといけないのよっ!!」
と不満げな声をあげる。
錆兎はそれにうなづいて続けた。
「確かに…ここで注目したいのは、小澤氏と面識があるという事で唯一動機がありそうな氷川夫妻にはアリバイがあり、初対面のため動機がないその他宿泊者にはアリバイがないということです。
そこでこちらはいったん保留します。
同日20時過ぎ、冨岡義勇、竈門炭治郎の両名が誘拐され、翌日5000万の身代金要求がありました。
最初の現金受け渡しは午前10時半。条件は身代金受け取り時に一人、そして受け渡しをした者が”自力で”指定した刻限までに旅館に戻った時点で一人人質を解放するという事でした。
受け渡しは俺がやったんですが、受け渡し終了後、戻ろうとする際かなりの妨害を受けました。
結局それでもぎりぎり刻限内に辿り着いたのですが、犯人は”成功する事が想定外”だったので、人質を一人しか解放する準備ができていなかった、と言い、冨岡義勇のみを解放してもう一人については後ほどと連絡を終えました。
そして同日夕方、二度目の身代金請求がありました。金額は前回同様5000万。
今度は犯人は我妻善逸を受け渡しの相手として指定してきました。
身代金を受けとり次第人質を解放するとの事で、19:00スタートで刻限は21:00。
結論から言うと、これは失敗に終わります。
明りを消されている状態の道で足を踏み外した近藤悠人がそのまま気を失って刻限を過ぎ、身代金はもちろん手つかずのまま回収されました。
そこで、犯人から身代金を支払う意志がないとみなすとの電話があり、これを最後に連絡が途切れます。
和田さんにはすでにお話したんですが、ここで俺は一つの疑問を感じました。
犯人は本当に身代金が欲しかったんだろうか?
そこで、犯人から身代金を支払う意志がないとみなすとの電話があり、これを最後に連絡が途切れます。
和田さんにはすでにお話したんですが、ここで俺は一つの疑問を感じました。
犯人は本当に身代金が欲しかったんだろうか?
最終的に犯人は二人の人質の身代金として総額1億を要求しているわけですが、犯人が1億欲しいだけなら始めから1億要求すればいいわけです。
人質を二人同時に解放するのが難しければ一人ずつ解放すればいいわけですし、どちらにしても俺が”自力で”刻限までに旅館にという条件は、どう考えても意味がありません。
本当にそのタイミングでと思っていたにしても、”自力で”と指定する意味があるでしょうか?
しかも犯人はあえて”自力で辿り着くのは難しい状況”を作っています。
そして条件をクリアした時の犯人の電話で犯人は”達成できると思っていなかったので”人質を一人しか解放できないと言いました。
以上の事から犯人は始めから一人しか返すつもりがなかったものと思われます。
それでは何故2度目の身代金を要求して来たのか。
これはおそらく最初の受け渡しで条件を達成しないから返さなかったという理由付けをするつもりだったのが達成されてしまったので、”元々一人しか返す気がなかった”という事を気付かれないための苦肉の策だったと思われます。
徒歩30分の場所に2時間以内に身代金を置いてくる、非常に簡単な条件です。
これで身代金を受けとる気は充分ある、と、普通は思います。
しかし実際は我妻善逸は足を踏み外して気を失って失敗したわけです。
当日ほぼ寝てない状態だったので、それが原因かと俺も最初は思ったわけですが…そういう状況で、足を踏み外したのをきっかけに気を失う…そんな事が早々あるでしょうか?
よほど打ち所が悪かったならともかく、通常は転倒したショックでむしろ目が覚めるものではないでしょうか?
別件でちょっと当日の食事について気を向けた時にふと気になって我妻に確認したところ、我妻は身代金の受け渡しについて説明を受ける前、寝室で仮眠を取って目が覚めた時、和室に用意されていたカプセル状のサプリメントと空腹を防ぐ系のグミを口しているそうです。
彼はそれをなんの疑問も持たず、旅館の側が夕食の時間に受け渡しをする自分に、胃に負担がかからないように、しかし空腹を感じない様にとの気遣いで用意してくれたものと思って口にしたらしいんですが、その後旅館に問い合わせたところ、そういう物を用意した事実はないそうです。
ということでおそらくこれは犯人が用意した、睡眠薬入りのカプセルだったのではと思われます。
カプセルに入っているため、一定時間後に効力が出る睡眠薬。
このため我妻は足を踏み外して気を失ったのではなく、気を失いかけて足を踏み外したのだと思います。
以上の事から考えられるのは、犯人は元々”一人しか人質を解放するつもりはなかった”という事です。
通常…営利目的で人を二人誘拐した場合、人質を返さないなら両方返さない、返すなら両方返すのが普通です。
一人返すも二人返すもリスクは対してかわりませんし、リスクをおかしたくないなら両方返さない、殺人という罪状を負いたくないなら両方返します。
ところが犯人はあえて”一人は返して一人は返さない”という選択をしていて、ご丁寧にそれを他に気付かれない様にと色々画策をしているわけです。
そして…犯人が誘拐事件を偽装する必要があった理由…まあ普通に考えればそれ以上の事件に関わる事、ここで言えば小澤光二氏の殺人事件しかないでしょう。
そこでおそらく誘拐事件の犯人は小澤氏の殺人に深く関わる人物と言う事になります。
以上の事から、返されなかった竈門炭治郎は”返したら犯人が困る何かを知っていた”、そして返された冨岡義勇は”返さないと犯人が困る何かを知っていた”と言う推論が成り立ちます。
竈門炭治郎が何を見たかは本人を返さない限りはわからないので問題はないのですが、冨岡義勇が何をみたかは証明してもらわないと困る事なので、逆にそれが冨岡義勇を返した理由だとわかると犯人にとっては自分を特定される非常に不利な条件になります。
それが犯人が二人の人質の対応についての真意を隠そうとした理由です。
そこに気付いてからは簡単です。
冨岡義勇が何を証言するか、それによって恩恵を受けるのは誰かをたどって行けば、犯人に辿り着きます。
実際…旅館の側に協力をして頂いて全員を非常ベルで母屋に集めて頂いたすきに、その推論を元に割り出した犯人の離れから竈門炭治郎を救出できたわけですが…」
「あ~、あの夜のやつね?そういう事だったの?」
OL3人組がまた口をはさむ。
「やっだ~。もしかして私達の部屋にも入ったのぉ?」
と非難の声をあげるOLには
「いえ、犯人の部屋だけですよ。時間ないですし」
と、錆兎は苦笑して答えた。
「でも…犯人があえて罪をなすりつけるために隙をみて離れに運んだとかいう可能性もあるわよね?」
そこで澄花が言うのに、錆兎はうなづいた。
「ええ、もちろん冨岡義勇が無人の離れで発見されたという前例もありますから、そういう可能性も否定はできませんし、連れ出してしまった時点でそこに竈門炭治郎がいたという事の立証は難しくなるというのもありますしね。
結局…竈門炭治郎が犯人に取って不利になる何を知っているのか、本人もわからない状態だったので、犯人が捕まらない事にはまた狙われて危険だろうという事で、旅館の側に協力をお願いしてかくまって頂く事にしました」
「それなら…我々の方に言って下されば…」
と不満をもらす和田。
実際…旅館の側に協力をして頂いて全員を非常ベルで母屋に集めて頂いたすきに、その推論を元に割り出した犯人の離れから竈門炭治郎を救出できたわけですが…」
「あ~、あの夜のやつね?そういう事だったの?」
OL3人組がまた口をはさむ。
「やっだ~。もしかして私達の部屋にも入ったのぉ?」
と非難の声をあげるOLには
「いえ、犯人の部屋だけですよ。時間ないですし」
と、錆兎は苦笑して答えた。
「でも…犯人があえて罪をなすりつけるために隙をみて離れに運んだとかいう可能性もあるわよね?」
そこで澄花が言うのに、錆兎はうなづいた。
「ええ、もちろん冨岡義勇が無人の離れで発見されたという前例もありますから、そういう可能性も否定はできませんし、連れ出してしまった時点でそこに竈門炭治郎がいたという事の立証は難しくなるというのもありますしね。
結局…竈門炭治郎が犯人に取って不利になる何を知っているのか、本人もわからない状態だったので、犯人が捕まらない事にはまた狙われて危険だろうという事で、旅館の側に協力をお願いしてかくまって頂く事にしました」
「それなら…我々の方に言って下されば…」
と不満をもらす和田。
「すみません。状況証拠のみで、さらに令状を待つ時間もなかったので非合法な手段にでてしまって…下手すれば自分の方が拘束されても仕方ないかなと思ったので…」
と錆兎は苦笑と共に謝罪をすると、さらに続ける。
「まあ冨岡義勇の証言によって”アリバイ”が確保された人物ということで、ここにいる全員がおわかりになったと思いますが、この時点で容疑者の有力候補として浮かび上がったのが氷川夫妻です。
しかし同時に皆さんおわかりのように夫妻には犯行推定時刻の間の完璧なアリバイがあります。
様々な観点から考えてみましたが、これを崩すのはほぼ無理です。
という事でこの時間に夫妻が犯行を行うのは不可能でした。
そこでもう考えられる結論は一つ。
犯行は犯行推定時刻外で行われている。
ここで説明しますと、今回の犯行推定時刻はまず二つの点から特定されています。
始まりの午後5時20分というのは小澤氏が自分の離れからフロントに電話をかけているため、最後に生存が確認されている時間。
終わりの午後6時40分というのは遺体発見時刻から2時間以上はたっているということから遺体発見時刻の2時間前の時間です。
いくらなんでも犯行後1時間たってない遺体を犯行後2時間以上たっているようにみせかけるのは無理なので、動かせるとしたら始まりの時間。
午後5時20分の小澤光二氏の離れからの内線電話。
と錆兎は苦笑と共に謝罪をすると、さらに続ける。
「まあ冨岡義勇の証言によって”アリバイ”が確保された人物ということで、ここにいる全員がおわかりになったと思いますが、この時点で容疑者の有力候補として浮かび上がったのが氷川夫妻です。
しかし同時に皆さんおわかりのように夫妻には犯行推定時刻の間の完璧なアリバイがあります。
様々な観点から考えてみましたが、これを崩すのはほぼ無理です。
という事でこの時間に夫妻が犯行を行うのは不可能でした。
そこでもう考えられる結論は一つ。
犯行は犯行推定時刻外で行われている。
ここで説明しますと、今回の犯行推定時刻はまず二つの点から特定されています。
始まりの午後5時20分というのは小澤氏が自分の離れからフロントに電話をかけているため、最後に生存が確認されている時間。
終わりの午後6時40分というのは遺体発見時刻から2時間以上はたっているということから遺体発見時刻の2時間前の時間です。
いくらなんでも犯行後1時間たってない遺体を犯行後2時間以上たっているようにみせかけるのは無理なので、動かせるとしたら始まりの時間。
午後5時20分の小澤光二氏の離れからの内線電話。
旅館側はトラブル防止のため各部屋からのフロントへの内線は録音保存してあり、警察が取り寄せた小澤光二氏の自宅マンションの留守電の声と照合した結果、確かに本人の物とされました。
マンションはオートロック式。
防犯カメラにも不審な人物は映っていませんし、留守電の方は確かに小澤光二氏の物に間違いがないと思われます。
しかし…離れからの内線はどうでしょうか?確かに本人のものだったのでしょうか?」
そこで言葉を切る錆兎に和田が言う。
「旅館側の人間の声も入っていますし、細工は不可能です。小澤光二氏の声は留守電の物と声紋判定でも同一人物とされています」
錆兎はその和田を見下ろして
「はい、それは伺ってます」
とうなづくと、再度顔を上げて全員に目をやった。
「確かに声紋で本人と判定されたわけですが…皆さんご存知でしょうか?
世の中には自分以外にも同じ声紋を持った相手がいる人種も存在するのです。
小澤光二氏はその数少ない相手を持つ人物なんです」
その言葉に和田はハッとしたように錆兎を見上げた。
錆兎はそれに気づいて和田に少し笑みを浮かべてうなづく。
「そう、一卵性双生児の場合、声紋はおろか指紋もDNA鑑定ですら全て同一人物とみなされます。
小澤光二氏には光一氏という一卵双生児の兄がいます。
予約を受けた日…旅館側は小澤光二氏本人から当日の夕食が不要という旨を伝えられていますが、これもおそらく兄の光一氏、そして午後5時20分、すでにその前に殺されている光二氏の部屋でフロントに電話をかけたのも兄の光一氏です。
これによって犯行推定時刻が午後5時20分以降と言う推論が覆されます」
「理屈的には確かに不可能ではないけど…あまりに奇想天外すぎない?」
錆兎の話を黙って聞いていた面々の中で、澄花がそういって笑い出した。
「漫画じゃあるまいし、何を根拠にそんなありえない理論を思いつくかな」
「根拠なら…ありますよ」
錆兎はあくまで淡々とそれに返した。
「遺体は刺殺された状態で浴槽で発見されてるわけですが、それとは別に犯行現場になったと思われる寝室に犯人は何故か被害者が持参した全ての服に…ご丁寧にクリーニングの袋のままの服すら引っ張りだして被害者の血をつけてそれを切り刻んでばらまいているんです。
それは…おそらく被害者を数回に渡り刺した時に返り血がつかないように、犯人はまず被害者を眠らせてから被害者の服を着込み被害者を刺殺して被害者を浴槽に運んだ後、着て来た自分の服に着替えて返り血がついたものはもちろん、血がついてないものは血をつけて、切り刻んだためです。
それは一つには奇行で、また犯人が返り血がついた状態で外をうろついたというわけではないという事を隠す事によって捜査を攪乱するため、一つには時間がかかる犯行であった事を印象づけてアリバイをより確実にするためという、様々な理由があったと思われます。
もちろん、全ての服には本人の指紋がついていて、その他ついていた毛髪、その他全て本人の物だったため警察は犯人の思惑通りに受けとったわけですが…」
「ちょっと待ってよ。
なんで寝かされてから刺されたってわかるの?
それにそれだけじゃ同じ遺伝子持ってる人間の犯行って証拠にはならないでしょ?
単に指紋がつかないように手袋でもして髪が落ちない様にしてただけかもしれないじゃない」
途中で澄花が口をはさむ。
マンションはオートロック式。
防犯カメラにも不審な人物は映っていませんし、留守電の方は確かに小澤光二氏の物に間違いがないと思われます。
しかし…離れからの内線はどうでしょうか?確かに本人のものだったのでしょうか?」
そこで言葉を切る錆兎に和田が言う。
「旅館側の人間の声も入っていますし、細工は不可能です。小澤光二氏の声は留守電の物と声紋判定でも同一人物とされています」
錆兎はその和田を見下ろして
「はい、それは伺ってます」
とうなづくと、再度顔を上げて全員に目をやった。
「確かに声紋で本人と判定されたわけですが…皆さんご存知でしょうか?
世の中には自分以外にも同じ声紋を持った相手がいる人種も存在するのです。
小澤光二氏はその数少ない相手を持つ人物なんです」
その言葉に和田はハッとしたように錆兎を見上げた。
錆兎はそれに気づいて和田に少し笑みを浮かべてうなづく。
「そう、一卵性双生児の場合、声紋はおろか指紋もDNA鑑定ですら全て同一人物とみなされます。
小澤光二氏には光一氏という一卵双生児の兄がいます。
予約を受けた日…旅館側は小澤光二氏本人から当日の夕食が不要という旨を伝えられていますが、これもおそらく兄の光一氏、そして午後5時20分、すでにその前に殺されている光二氏の部屋でフロントに電話をかけたのも兄の光一氏です。
これによって犯行推定時刻が午後5時20分以降と言う推論が覆されます」
「理屈的には確かに不可能ではないけど…あまりに奇想天外すぎない?」
錆兎の話を黙って聞いていた面々の中で、澄花がそういって笑い出した。
「漫画じゃあるまいし、何を根拠にそんなありえない理論を思いつくかな」
「根拠なら…ありますよ」
錆兎はあくまで淡々とそれに返した。
「遺体は刺殺された状態で浴槽で発見されてるわけですが、それとは別に犯行現場になったと思われる寝室に犯人は何故か被害者が持参した全ての服に…ご丁寧にクリーニングの袋のままの服すら引っ張りだして被害者の血をつけてそれを切り刻んでばらまいているんです。
それは…おそらく被害者を数回に渡り刺した時に返り血がつかないように、犯人はまず被害者を眠らせてから被害者の服を着込み被害者を刺殺して被害者を浴槽に運んだ後、着て来た自分の服に着替えて返り血がついたものはもちろん、血がついてないものは血をつけて、切り刻んだためです。
それは一つには奇行で、また犯人が返り血がついた状態で外をうろついたというわけではないという事を隠す事によって捜査を攪乱するため、一つには時間がかかる犯行であった事を印象づけてアリバイをより確実にするためという、様々な理由があったと思われます。
もちろん、全ての服には本人の指紋がついていて、その他ついていた毛髪、その他全て本人の物だったため警察は犯人の思惑通りに受けとったわけですが…」
「ちょっと待ってよ。
なんで寝かされてから刺されたってわかるの?
それにそれだけじゃ同じ遺伝子持ってる人間の犯行って証拠にはならないでしょ?
単に指紋がつかないように手袋でもして髪が落ちない様にしてただけかもしれないじゃない」
途中で澄花が口をはさむ。
それに対して錆兎はチラリと和田に目をむけた。
「遺体発見時…被害者の衣服はボタンが飛んでたりとかかなり乱れていて部屋もかなり争った形跡があったそうですが…被害者の爪の間には相手の服の繊維や他人の皮膚など、誰かと争ったなら当然残るであろう物が一切付着していなかったそうです。
以上の事から被害者は抵抗する間もなく殺された、つまり、眠らされた後殺害されたという推論が成り立ちます」
「遺体発見時…被害者の衣服はボタンが飛んでたりとかかなり乱れていて部屋もかなり争った形跡があったそうですが…被害者の爪の間には相手の服の繊維や他人の皮膚など、誰かと争ったなら当然残るであろう物が一切付着していなかったそうです。
以上の事から被害者は抵抗する間もなく殺された、つまり、眠らされた後殺害されたという推論が成り立ちます」
おお~~~と言う歓声がお気楽OL3人組からあがる。
「すご~い、カッコいいね、ドラマの主人公みたい♪」
という声に少し苦笑して、錆兎は続けた。
「次に…もう一つの質問に対してですが…
さきほど言った通り散乱していた切り刻まれた服には全て被害者の指紋がついていたんです」
「そりゃ、つくでしょ。自分で用意してるんだから」
錆兎の言葉に澄花はあきれたように腕組みをして言う。
「そうでしょうか?」
錆兎はその澄花に視線をむけた。
「中には”クリーニングの袋をやぶいて取り出したシャツ”もまじってたんですよ?」
「それがどうしたのよ?むかついたから全部切り裂いてやろうと思ったんじゃないの?」
当たり前というようにため息をつく澄花に錆兎は言った。
「袋がやぶかれたのは犯人によって…ということは、犯人が袋をやぶくまではシャツは密閉された袋に入っていたんです」
「…!」
澄花がハッとしたように口に手を当てた。
「そう…被害者はそのシャツに限っては袋ごしにしか触ってないので、シャツ自体には指紋はつかないんですよ。
ところがそのシャツのボタンには被害者の指紋がはっきり残っているわけで…。
以上、犯人が被害者と同じ指紋を持つ人物で、ゆえに指紋がつかないように気を使う必要もなかったので素手で犯行に及んだ時、被害者がつけられるはずのない場所に指紋をつけてしまったという推論が成り立ちます」
全員がシン…とする。
「じゃあ…犯人は小澤光二氏の双子の兄、小澤光一と言う事に?
一体彼はどこに?」
和田が錆兎に先をうながす。
錆兎はそれに対して
「全員の指紋調べればわかりますよ」
と、表情を変えずにうつむいた。
「一応…説明しますか?」
錆兎の言葉に和田は
「もちろん!」
とうなづく。
それに小さく息を吐き出して錆兎は淡々と話し始めた。
「すご~い、カッコいいね、ドラマの主人公みたい♪」
という声に少し苦笑して、錆兎は続けた。
「次に…もう一つの質問に対してですが…
さきほど言った通り散乱していた切り刻まれた服には全て被害者の指紋がついていたんです」
「そりゃ、つくでしょ。自分で用意してるんだから」
錆兎の言葉に澄花はあきれたように腕組みをして言う。
「そうでしょうか?」
錆兎はその澄花に視線をむけた。
「中には”クリーニングの袋をやぶいて取り出したシャツ”もまじってたんですよ?」
「それがどうしたのよ?むかついたから全部切り裂いてやろうと思ったんじゃないの?」
当たり前というようにため息をつく澄花に錆兎は言った。
「袋がやぶかれたのは犯人によって…ということは、犯人が袋をやぶくまではシャツは密閉された袋に入っていたんです」
「…!」
澄花がハッとしたように口に手を当てた。
「そう…被害者はそのシャツに限っては袋ごしにしか触ってないので、シャツ自体には指紋はつかないんですよ。
ところがそのシャツのボタンには被害者の指紋がはっきり残っているわけで…。
以上、犯人が被害者と同じ指紋を持つ人物で、ゆえに指紋がつかないように気を使う必要もなかったので素手で犯行に及んだ時、被害者がつけられるはずのない場所に指紋をつけてしまったという推論が成り立ちます」
全員がシン…とする。
「じゃあ…犯人は小澤光二氏の双子の兄、小澤光一と言う事に?
一体彼はどこに?」
和田が錆兎に先をうながす。
錆兎はそれに対して
「全員の指紋調べればわかりますよ」
と、表情を変えずにうつむいた。
「一応…説明しますか?」
錆兎の言葉に和田は
「もちろん!」
とうなづく。
それに小さく息を吐き出して錆兎は淡々と話し始めた。
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