結局その後、警察が来た。
そして救出。
錆兎は気を失っている義勇に付き添っていて、後の事は全て真菰がやってくれたらしい。
色々ショックが大きかったのか、義勇はまだ意識が戻らずベッドの上だ。
殴られたのが顔、ようは頭だったので、どちらにしても念のため一日入院である。
犯人は父親で、別に乱暴目的ではなく、単に錯乱して義勇を他の男のために死んだ自分の母親に重ねて、他の男が買ったのであろう衣服を着ている事が嫌で全てをはぎ取ろうとしたということらしい。
「そっか……」
はぁ…と頭に片手をやったまま、へなへなと椅子に崩れ落ちる錆兎。
その様子に上からやや呆れた声が降って来た。
「何よ、あんた処女厨?」
「あ?なんで?処女だろうと非処女だろうと、義勇が傷つけられていいはずないだろっ」
「そういう意味ね。安心した。
じゃ、これ。
しっかり誤解解いてプロポーズしてらっしゃいな。
花は私からの怖い思いさせたお詫びだから」
と、次に降ってきたのは今日受け取った指輪の箱と薔薇の花束。
それに礼を言うと、錆兎は義勇が目を覚ますのを待った。
本当に…自分の不手際で義勇を悲しませるどころか、大変な事になるところだった。
猛省していると、漆黒の睫毛がふるりと震えて、ゆっくりと開いていく。
そこから現れるのはため息が出るほど美しい青い瞳。
…お姫さん…好きだ。結婚してくれ。
色々と言いたい事はあるのだけれど、説明しなければならない事もあるのだけれど、今は自分が一番言いたい事を素直に言ってしまった方が、速やかに義勇の誤解を解いて不安を払しょく出来る気がする。
目が覚めていきなりだったので、状況が把握できないのだろう。
ぽかんと口を開いて目をぱちくりしているのが愛らしい。
そんな義勇に錆兎はたたみかけた。
「今日はひそかに注文してたお姫さんにプロポーズするための指輪を受け取りに、その宝石店を紹介してくれた従姉妹と受け取りに行ってたんだ。
ちゃんと色々な手はずを整えてから言いたくてな。
でも結果、お姫さんを1人で留守番させることになって心細い思いさせることになっちまって悪かった」
相変わらず口ほどに物を言う目だと思う。
誤解してました…と、丸わかりしてしまう表情。
それでも信じ切れずに見あげてくる大きな目。
これ…少し早いけどな。
と、指輪を出して人差し指にはめてやると、そのどう見ても義勇のためのモノと分かる証拠を前に、緊張して身を固くしている猫のようだった義勇が、ふにゃっと緊張を解いて泣き崩れた。
「ごめん。不安な思いさせてほんっとに悪かった」
ごめんな?と、抱きしめると、半身を起してきゅうっとしがみついてくるのが愛おしい。
「あと5日だ。5日たって3月3日になってお姫さんが18になったら、俺と結婚してくれるか?」
とさらに聞くとコクコクと腕の中で頷くのにホッとして、錆兎は婚姻届を差し出した。
すでに入っている自分の名。
その横に名前をいれてもらうよう、ペンを差し出す。
…冨岡…義勇…と、そこに義勇の名前が入って、それはこれから2人が一緒に生きて行く一つの証となった。
思えばほんの2年前、全く見も知らぬ間柄であった2人が、互いに断るつもりで待ち合わせの場所に赴いたのが、こんな風に様々な障害を乗り越えて一生を共にしようとしているきっかけだったと思うと、なかなかに感慨深い。
これから長い時を共に過ごせば、きっと色々と問題が起きたりする事があるだろうが、普通に異性のお姫様だと思っていた相手が実は男で、ヤンデレた親の目をかいくぐって隠れて一緒に過ごして2年間。
そしてトドメが籍をいれる直前の誘拐などというとんでもない激動の末の結婚という事を思えば、多少の事は苦笑して終わってしまうんじゃないだろうか…。
こうしてめでたしめでたしで、一日病院で過ごして帰った翌日。
事情を全て話すとまず炭治郎が
「錆兎が他の相手と一緒になる事なんてまずないと思うが…もしそんな事があれば、義勇さんさえよければ俺と結婚すればいいんじゃないだろうか」
と、しごく真面目な顔で言い、それに錆兎が慌てて口を挟もうとするよりも早く、
「う~ん。炭治郎でも良いけど、私でも良いんだよ?お姫様。
オジサンで良ければ大歓迎だ。大切に大切に可愛がってあげるよ?
それにこの家の決定権は一応私にあるし、私は君が居にくくなるような同居人を許可する気はさらさらないからね。
もしそういう事が起きたなら、出て行くのは錆兎の方だ。
なにしろ君は錆兎のお姫様であるのと同時に、私達、この家に住む家族の大切なお姫様だからね」
と、耀哉がにこやかに言い放つ。
「いやっ、俺がお姫さん以外と籍入れるとかありえないからっ!!
お姫さんは俺の大事な伴侶だからなっ!!」
と、それに対してはもう、非常に焦って立場を確保しにかかる錆兎だが、家族みんなが受け入れて守ってくれるということは、義勇にとっては良い事かもしれない…と、少し思う。
まあ、あくまで俺のお姫さんという前提でだけどな、と、しかしそれは大事な叔父と従兄弟を相手にしても譲れないところではあるのだが…
こうしておとぎの国のお城には、男3人に守られた性別:お姫さんが約一名。
まるでおとぎ話のように平和に穏やかに、楽しく暮らして行くのであった。
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