──ミアとはさリアルで好きな事やりたい事が同じなんだ。
その日はノアノアとウサは揃って帰宅が遅くオーバーポイント稼ぎは22時からに…。
なのでそれまではたまたま暇らしいセイジとおしゃべりをしながらの素材狩りだ。
そんな中、30分ほど狩って荷物を整理しながら出て来た話題はミアのこと。
「ミアはね、悪くないんだ。あの子はすごく優しい良い子でね」
と、セイジは繰り返す。
あんなに避けられるようになってもセイジは決してミアのことを悪くは言わない。
相手の態度で自分の方も手のひらを返したりしない。
そんな姿勢は義勇にはとても好感が持てた。
義勇は泣かされる母を見続けて、自分も疎まれて育って来たため、実は争い事や悪意を向けられる事がとても苦手だ。
そういう機会が多いだけにいちいち傷ついた様子も見せないし怒りも泣きもしないが、1人になった時に人一倍滅入る。
だからこうやって一度心を許した相手に対しては絶対に中傷をしない人間はホッとする。
自分の事じゃなくてもホッとするのである。
言うなれば、それがある意味、あれだけウサや周りに止められてもセイジと距離を置かない理由だったりする。
しかしミアはどうしてここまで優しくてこちらの都合でなんでも手伝ってくれるセイジをそこまで嫌うのだろうか。
お互いリアルの話までするほどに気を許していた仲で、さらにそのリアルでも気が合うようならなおさらである。
それはそれとして、リアルで好きな事やりたい事について、セイジに聞く前にウサが来て呼びもどされたので聞けずじまいなのもあって、ミアほどの姫が好きなものが何なのか、非常に気になった。
なので後日、ミアに聞いてみた。
『え?リアルで好きなもの??
あ~、セイジさんの話~?』
今日はお友達トークの日…と言う事で、ミアと2人、花咲き乱れる城の中庭の一つにあるベンチで歓談中だ。
もちろん…ミアに厳しく言われているので中庭には入ってこないが、中庭を望める城の廊下にナイト3大勢力を始めとするお付きがたくさん待機している。
そんな衆目の中でのおしゃべり。
内容はパーティ会話なので2人にしか聞こえないのに、彼らは何が楽しくてそうしているのだろうとは思うが、まあ別に義勇が気にする事ではないので、放置する事にしていた。
そしてふと思い出して、良い機会だからと、気になっていたセイジの言葉について聞いてみると、ミアはコロコロと面白そうに笑った。
『それね…やりたい事…については謎だけど、好きな事に関して言うなら、好きなラーメンの種類の順番よ?』
『ラーメンの??』
『そそ。確か寒い日で、ラーメンでも食べたいねって彼が言いだして…。
その時、ミアね、醤油、塩、味噌、とんこつの順で好きでって言ったら、一緒だって。
で、彼がいつか一緒に食べに行けたらいいなって言っただけで…』
『…それだけ?』
『そう、それだけ。
男の人って脳内補完がすごい人多いから…』
『あ~…そうかも……』
言われて義勇も納得した。
確かに自分の周りのいわゆる“粘着”する人々もそう言う人が多かった。
それを思いだして、以前にウサがサブクラス上げをしている間に作ったサブキャラでちょっと遊んでいた時のことを話したら、ミアの興味をひいたようだ。
ネカマの星のところでひとしきり笑った後に、
『ミアも言われた事あるわよ?今更そんな事言ってもありえないって言われた事』
と、こくん、と小首を傾けた。
『え?!ミアさんもレイグラムさんとお知り合いだったんですかっ?!』
驚いて思わず乗り出すと、ミアは、ん~んっ…と、首を横に振って言う。
『えっと…ね、セイジさんに。
あまりに色々しつこいので、「ミア、実はリアル男の子なんですよぉ~」って言ったら、「ミアが男なんて今更そんな事言ってもさすがにありえないってわかるから」って言われたのよ』
『なるほど…』
正直そんな事を言うのはレイグラムだけかと思っていたが、意外に言う奴がいると言うことに驚いた。
そして驚きで目を丸くしているユウの前で、ミアがキャラキャラ笑う。
『まあ無意味よねぇ、リアルの性別なんて』
『ああ…まあ、そうですね。ネット上で知り合っても相手が本当はどんな方かわからない以上、リアルで会うとかないですし…』
『あ~、女性はそういう面もあるけど…』
『…けど?』
と、今度はユウが首をかしげると、ミアはにこやかに宣言した。
『ストーカーされる人間て相手が同性でもされるし、されない人間は異性でもされないからっ♪』
………真理だ…と、義勇は感心しつつ、ユウでコクコクと頷いた。
ミアはユウと2人きりの会話の時はしばしば一般ピープルの心をえぐるような直球の言葉をずけずけと言う。
彼女いわく、『ミアはぁ夢を売ってるの♪』と言う事だから、他がいる時には絶対に言わないわけなのだが、義勇はミアのそういう本音部分は嫌いではない。
…というか、結構好きだ。
弱くて言いたい事も言えず、ただ泣く事しか出来ない母親と、人づきあいが下手で友人もいなくて、平気なフリはしているけれど内心は色々自信がない自分…そんな世界で生きて来たので、彼女のいかにも愛されて幸せに育って来たんだなと思われるようなあっけらかんとしたところが大好きだ。
『そもそもね、こちらから言わないのに性別聞いてくる相手って下心ありありな感じで、ミアはリアルで会おうとか言う気起きないし。
でも…ユウちゃんならリアル男性でも女性でも会ってみたいなって思うよ?
リアルで恋愛もどきとか変な意味じゃなくてね。
ミアはリアルでは片思いだけど好きな人いるから…』
…ユウちゃんなら会ってみたい…
…ユウちゃんなら会ってみたい…
…ユウちゃんなら会ってみたいぃぃ?!!!
不覚にもテンションが上がってしまった…。
なにしろリアルで友人がいないので、そんな事を言われると社交辞令でも嬉しい。
しかも言ってくれた相手はそんじょそこらの相手ではない。
大勢のプレイヤーにとって大切な大切なお姫様だ。
しかしそれが社交辞令ではなかったらしい。
なんとそれに続いた言葉は
『ユウちゃんにならミアのとっておきの秘密のリアル教えてあげるっ!
もし良ければ一度、会ってみない?』
…だった。
…ああ…やっぱりやめておけば良かったかも……
義勇は落ちつかない気持ちで待ち合わせの場所に立っている。
そう、今日はミアとの御対面の日である。
あの日、もし同性の友人だからと思っているなら申し訳ないと、他にはリアルを持ちこむのは色々申し訳ないから言わないで欲しいと重々お願いした上で、実は本当に男なのだとカミングアウトをした。
ついでにこのキャラでゲームを始めた理由すらも言ってしまった。
ウサにすら言っていない諸々。
何故言ってしまったのかと言えば、ミアが最初から友好的なだけではなく、他に見せない素の面をユウにだけは見せてくれていたから…かもしれない。
それでも秘密の度合いが違う。
もしかしたら引かれるかも?と思っていたら、ミアは本当に何の問題もないかのように、
『ああ、そうだったのね。
ミアは全然構わないわよ?
さっき言った通り、危ないかどうかって、性別がどうというより、人格の問題だから。
ユウちゃん、粘着とかするよりされそうなタイプの気がするし、そういう意味ではぜんっぜん危険を感じないし。
ミア、これでもお仕事も人の目とか関係するものだから、他人を見る目って結構あるって自負してるしね。
ユウちゃん、素でそういう性格で男の子だと、リアル生きにくそうな気はするけどね』
と、するっと言ってくれてしまう。
異性でも良い…。
ゲームをやっている時間以外にも友達が欲しい。
実母が小学生の時に亡くなって、しばらくは仕事が忙しい父の家で年の離れた姉と一緒に家政婦さんに世話をされながら暮らしていたが、それも高校になってすぐくらいに姉が結婚して家を出て、さらに父が再婚したことによって終わって、それからはマンションで1人暮らしをしている。
その上で友人の1人もいないのだから、ゲーム内以外では本当に一人ぼっちなのだ。
かといって…ウサ達にカミングアウトをして会おうとは言えなかった。
というか、そういう発想もなかった。
だって、彼らにとっては自分は可愛い女の子であり“お姫さん”なのだ。
彼らが一緒にいたいのは“ユウ”であって、“義勇”ではない。
そんな中でミアは“義勇”でも構わないからリアルでも友人になりたいと言ってくれたのだ。
ずっと友人を切望していた義勇が断れるはずがない。
そうして大学を無事卒業して内定をもらった会社に入社するまでの春休み。
義勇はミアに会う約束をして、待ち合わせ場所に指定されたとある住宅地の図書館の前で待っている。
(これ…いたずらとかだったら嫌だな……)
幼い頃の母の事があって、義勇は知らない女性は少し怖い。
もちろんミアのことは好きだし疑っているわけではないが、なにぶんネット上の付き合いだ。
当然義勇がそうであるように、ミアだってネットのままのミアではない。
義勇に悪意を持っているとは思わないが、もしかしたらリアルの自分を見て嫌になられる可能性だってあるのだ…。
そんな事を思いながら、人通りが少ないのでまずわかるとは思うが、一応目印にと手にしたファッション雑誌を抱えながら待っていると、すぅ~っと静かに停まる高級車。
(…え?)
と、思っていると後部座席の窓が開き、中から目を見張るほどの美少女がこちらに向かって手を振って微笑む。
「ユウちゃん、お待たせっ!
移動するから乗って?」
ふわさらの長い髪に猫のようなアーモンド型のグリーンアイ。
首元と袖口にふわふわのフェイクファーがついた淡いピンクの可愛いコートがよく似合っていて、なんだかビスクドールみたいに可憐で愛らしい
まさかのまさか!
本当に本当にお姫様だった?!
ミアはドアを開けて、そんな風に驚きのあまり固まる義勇の腕を取ると車に促した。
え?え?一体俺どうなるんだ???
待ち合わせの場所に来たミアはネットのままの雰囲気のリアルお嬢様だったらしい。
運転手付きの見るからに高級車とわかる車の後部座席に彼女と並んで乗せられて、どこともわからぬ場所を進んでいる。
「あ、あの…ミアさん?」
わたわたと焦る義勇を見て、ミアはふふっと可愛らしく笑う。
「大丈夫!単におでかけ前にお着替えしに私の自宅に行くだけよ」
え?ええ??いきなり自宅?!!!
言われて義勇はますます焦るが、ミアは相変わらずの笑顔で
「一緒におでかけするのにね、ちょっと着てみて欲しいお洋服があるの♪」
というのみだ。
これはもう諦めて従うしかないんだろうな…と、半ば諦めて義勇が深く座席に座って背もたれに背を預けると、ミアはさらに
「その時にね、ミアのとっておきの秘密を教えてあげちゃうよ?」
と、少しいたずらっぽい目で楽しげに微笑んだ。
こうして車が最終的に着いたのは、驚くほど立派な門構えの洋館である。
まるでドラマのような館で、大きな扉の前にはなんと使用人までいる。
「おかえりなさいませ」
と、ドアの前に車が止まると、当たり前に使用人の手で開かれる扉。
「ただいま。
着替えたらすぐ出かけるから、車はこのまま待たせておいて」
と、ミアが命じると、
「かしこまりました」
と、初老の使用人は恭しく礼をして応じる。
まさか…本当に本当にお姫様なのか……
ミアの秘密というのはその事なのか??!!
そんな事を思いながらも、ミアに手を引かれて館の中に。
館の中も驚くほど立派で、落ちついたベージュのタイルの上に赤い絨毯の敷いてある廊下を通って、個人宅だと言うのに何故かあるエレベータまで辿りつく間にも何人かの使用人とスレ違ってお辞儀をされる。
義勇の父親の一族も皆実業家で裕福な方ではあると思うのだが、ミアの自宅は規模が違う気がした。
ひどく落ちつかない気分でひたすらミアに着いていって辿りついた2階の1室。
全体的に淡いピンクの室内。
入ってすぐ短い廊下があって、それを抜けると左側に小さめのカウンターキッチン。
右手はリビングらしく、可愛らしい白のローテーブルを挟んでソファが置いてある。
その向こうには螺旋階段。
家の中にある個人の部屋と言うより、このスペース自体がオシャレなマンションのようだと感心しつつその階段に視線を向けていると、
「この階段の上はね、寝室。
ソファに座ってて。ちょっと支度してくるから」
と、ミアは言いおいて、階段を駆け上がって行った。
「本当のお姫様に出会うなんて事、あるんだなぁ…」
なんだか全身から力が抜けきって、やや呆然としながらソファにへたりこむ義勇。
しかし本当に驚くのはここからなのを、彼はまだ知らない。
──お待たせっ!!
パタパタと軽い足音をたてて階段を駆け下りて来たミアの手には可愛らしい真っ白な水色のワンピースとコート。
どこかで見たような?と考えるまでもなく、それは両方ミアが今来ている淡いピンクの服の色違いである。
それを満面の笑みを浮かべたミアに
「はいっ!!」
と差し出されて、
「え??」
と頭にハテナマークを浮かべた。
「これ、着てねっ」
と、意味がわからずぽか~んとしていると、さらに言われて
「ええーーー?!!!!」
と、思わず後ずさる。
「これっ女性モノじゃっ?!俺、リアルは見ての通り男ですよ?!!」
と、わかりきっている事を口にすると、ミアは微塵も動じることなく、
「大丈夫っ!ミアも男だからっ!!」
と、高らかに宣言をした。
えええええーーーー?!!!!!!
驚きの絶叫。
顎が外れるかと思うくらいに大口を開けて叫ぶ。
その義勇の反応をミアは面白そうにクスクス笑いながら
「ほら、男でしょう?
本名はね、謝花梅之丞って言うの。
でもこの格好をしている時はミアって呼んでね?
お友達だから敬語は要らないよ?」
と、服をまくりあげた。
それに一瞬ぎょっとして視線を反らせかけて…しかし可愛らしいシュミーズやブラまでまくりあげた中に見える胸は、貧乳と言うにも足りないくらいストン…と平らである。
「ちなみにね、下は女性に変装する用のインナー履いてるんだ」
と、恥じらう事もなく、天気の話でもするような軽いノリで言われて、ああ、そうなのか…と、今度は気恥かしさより好奇心が勝ってマジマジと観察してしまった。
言われてみれば…腹から腰の線などは、どことなく男性っぽい感じはする。
それでも、女性だと強く言われれば信じてしまうほどではあるが…
なにより可愛すぎる。
そこらにいる女性よりよほど美少女だ。
とりあえず義勇が納得したところで、ミアはたくしあげていた服をおろした。
そして言う。
「えっとね、何故こういう格好してるのか、知りたいわよね?」
と言われて義勇がコクコクと頷くと、ミアはローテーブルの横のマガジンラックから一冊の雑誌を出して
「ローズプリンスオペラって知ってる?」
と、その雑誌を差し出した。
ローズプリンスオペラ…昔々、それこそ数百年以上の歴史を持つ男性のみの歌劇だ。
女性ファンが多く、義勇も遥か昔、幼い頃に姉と共に母に連れられて一度だけ観に行った事がある。
舞台の上で歌い踊る役者は全て男性。
あの妖精のように可憐なお姫様も男性なのよ?
と、説明されて、ずいぶん驚いたものだった。
「あたしの家ね、その主演を張る役者の家系なの。
お爺ちゃんが有名な男性役の役者でね。
お婆ちゃんの家は女性役の家系だったんだけど、男の子が生まれなくて女のお婆ちゃんしかいなかったから、お爺ちゃんとお婆ちゃんの次男、つまりあたしの父がお婆ちゃんの実家の女性役の家系を継ぐことになったの。
…つまり…ようはあたしはローズプリンスオペラの女性役の家系の人間なの。
まあでも、あたしも次男だから、家は継げないんだけどね。
継ぐのはお兄ちゃん。
でも跡取りの兄ちゃんと違って主役ではないけど、小さい頃から女性役で舞台にも立ってるし、女性の仕草とか研究しろって言われて育ってたし、もともと可愛い格好とか嫌いじゃないしね。
プライベートでは極力こういう格好してるの」
「なるほど…。
梅之丞…さんが女性の格好しているのはよくわかったけど…そこで何故俺に??」
そう、そこだ。
そういう事情だと普通の友人も作りにくいだろうし、男だろうと女だろうとミアは外見上は絶世の美少女なので、それをエスコートしろと言われるならまだわかる。
しかし何故自分まで女装する必要がある?
そう思って訊ねると、ミアはにこっと微笑んで──この格好の時は“ミア”ね、と、訂正を入れたあと、当たり前のように続けた。
「えっとね、女の子同士で行くような場所に行きたいし?」
「…本当の女の子とじゃダメなんですか?」
「あ、2人きりの時は本当に敬語じゃなくて良いわよ?あたしも普通にしゃべるし。
で、質問の答えね。
一応舞台ではすごく厚い化粧してるし、素顔を晒すことはないから知られてないけど、あたしいちおう芸能人だし?
うちはロズプリの中では1,2位を争う名門の家なのね。
だから異性問題は困るの。
下手すると双方お友達のつもりが、結婚しないと困る事になりかねないから…
その点、“本当はいない女の子の友達”だったら安心でしょ?
それで誰かいないかなぁと思ってたんだけど、ユウちゃんてモテるのにあまり周りを利用しようとかしないし、あたしがすごく周りにちやほやされてても、他の女性キャラの子達みたいに嫌がらせとかに走らずに仲良くしてくれたしね。
でも、あたしは"女性を演じる事"に関してはプロだから、この子、なんか男の子なんじゃないかなぁって思ってたのね。
で、いつかリアルで一緒に女の子の友達同士を演じるのに付き合ってくれないかなぁって、ちょっと狙ってたの」
驚きの告白…。
よもやそんな方向で目をつけられていたから、ああいう特別扱いをされていたとは…
女装はさすがに抵抗がある。
あるのだが、目の前でにこにこ微笑むミアは愛らしくて、そんな愛らしいミアに特別な友達になって欲しいと言われればひどく惹かれてしまう。
──ね、あたしプロだからね、ちゃんと女の子に見えるようにお化粧とかもするから。
と言われて突っぱねるには、義勇は人付き合いに飢え過ぎていたのだ。
こうしてあれよあれよと言う間にミアと色違いの可愛らしい服を着て、義勇は再度、ここに来る時に乗って来た車に乗せられることになった。
そうして街へ繰り出した事が、彼のこれからの人生を大きく変えることになったのだった。
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