彼と行くからっ!」
それはクラスメートの浅倉真由の言葉。
そう絶賛片思い中だったクラスメートの。
この夏休み、どうしてもTDLに行きたいという彼女のためになけなしの小遣いをはたいて前売りチケットを2枚買った。
そして夏休み前の終業式の日、それを手に彼女にぜひ一緒に…と、誘ってみたら、彼女は善逸のチケットをひょいっと取り上げて、笑顔で、ありがとう!バイバ~イ!と手を振って駆け出して行く。
好きだった女子にあんなに嬉しそうな笑顔で手を振られてはもう、手を振り返すことしか善逸には出来なかった。
そう言えば…真由の誕生日は明日だった。
だから別に悪気があったとかではなく、誕生日プレゼントだと思われたのかもしれない…
他からすればそんな馬鹿な言い訳が…というところだが、好きだった女の子を悪く思いたくない善逸は、そう思うことにして、とぼとぼと家路についた。
女の子に適当にあしらわれるのはもう慣れていた。
悲しくないわけではないけれど、いつものことだ。
でも今回はどうしようか……
善逸には両親がいない。
父親は善逸が出来たと知って母親を捨てて、母親は父親に捨てられたと知って善逸を捨てた。
その後、本来なら施設に送られるところだったのを、母方の遠縁の老人が引き取ってくれて、今はその爺さんと暮らしている。
爺さんは善逸がいるからなのか、結構な年なのに現役で働いていて昼間はいないので、善逸の小遣いというのは昼食分も含んでいた。
まあ…小学校の高学年になったあたりから善逸が家事をやっていたから、夕食分の食材をやりくりすれば昼抜きということにはならないだろう。
だが、夏休みで時間もあることだし、小遣いを少し足してでも、たまには若干の手間暇と金をかけた美味しい夕食をじいさんに食べさせたかった…と思っていたので、少しだけ…ほんの少しだけ落ち込んだ。
こうしてとぼとぼと駅周辺から自宅まで続く遊歩道を歩いていると、やがて古びた日本家屋が見えてくる。
善逸が門を入って猫の額ほどの庭に足を踏み入れると、ちょうど郵便屋さんが家の前にいて、
「すみません、今戻りました」
と、声をかけると、小包を渡してくれた。
驚いたことにそれは善逸あてだった。
…差出人は日本でも屈指の有名大企業、三葉商事だ。
なんだこれ???
開けてみたら入っていたのは手紙と一枚のゲームディスクとそのマニュアル。
とりあえずディスクは置いておいて、白い封筒の封を切ってみる。
それはオンラインゲームで、試作品なのか都内在住の12名の高校生に無差別に送っているらしい。
そしてなにより驚いたことに、魔王を倒す事を目的としたそのゲームで魔王を倒した1名に一億円を進呈するというのだ。
うあ~~!!と善逸は手紙とゲームディスクを見比べた。
12分の1の確率で一億円…
しかも一億とれなかったとしても、各ミッションをクリアするごとに報奨金が10万円も出るという。
今の散財してしまった善逸にこれをやらないという選択肢はない。
幸いにしてパソコンは数年前に出ていった、爺さんが同じく引き取っていた青年が使っていたものがある。
やった!これで昼ご飯代を確保した上で、じいちゃんにも旨いものが食わせられる!!
もう他の事は全く考えていなかった。
しかし考えない方が時に幸運というのは転がり込んでくるのかもしれない。
この決断は、本気でついてない彼の人生を180度変えるものになったのだが、この時は善逸もそんな事は予想だにしていなかった。
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