早く着いてくれないと俺様は犯罪者になっちまう!!
実家に拉致されたアーサーを救出したその日…大陸行きの船に乗ったギルベルトは一睡もできないまま朝を迎えた。
(なんだ?これなんて拷問なんだよ?俺様が悪かったのか?)
船室のベッドに横たわるギルベルトの隣にはすやすや眠る天使。
真っ白なシーツの上にはぴょんぴょんはねた金糸の髪。
まだ幼さを残すふっくらとした薄桃色の頬。
クルクルとよく動く大きなエメラルドグリーンの瞳はいまだ閉じられたまぶたの下だが、その分驚くほど長いまつげがギルベルトの目を惹く。
かすかに開いた薄めの唇は、少女のように滑らかなベビーピンク。
正直言って…みかけだけでもはい、大変美味しそうなのでございます。
欲望のおもむくまま食ってしまえれば”楽園“が見えそうな気もするが、ギルベルトはそれをためらうほどには分別のつく年齢だった。
実家で拉致されたアーサーと扉越しに体面した時、今までの全てが嘘で、自分は敵国の魔術師一家の人間でギルベルトを騙してその命を狙っていたのだと言うアーサーに、
『騙していたのならおしおきをするから連れ帰る』
そう宣言したのは、言葉のあやみたいなものだった。
正直もうどこまでが本当でどこまでが嘘だなんてわからない。
アーサーが東の魔術師の名家カークランドの末弟であることは確からしい。
だが、口では素直になれない分、口よりも雄弁な綺麗なエメラルドの瞳の、紅茶と刺繍と散歩という少女のような趣味の持ち主で、本人は隠しているつもりのようだが実は可愛い物が大好きで、料理をさせれば茹で卵を茹ですぎて爆発させてしまうドジっ子で…なんて、なにそれ、どこのエロゲヒロイン?みたいなアーサーが、あのいかめしい兄弟のようにビシバシ闘う魔法エリートだとはとても思えない。
そもそも拾ってからの一カ月を振り返っても、その魔法はジャガイモの育成にしか使われた形跡が見当たらない。
攻撃どころか身を守るためにすら使った事がないのではないだろうか?という無防備さ、頼りなさだ。
さらに言うなら、実兄のはずのカークランド兄弟に拉致られた時の怯えっぷりは、家族に対するものとしてはギルベルトの想像の域を超えすぎていて、とても相手を兄と認識していたとは信じられない。
記憶が実はまだ戻っていないという可能性も否めないと思う。
以上の理由から、あの時ああ言ったのは、脅されていたのと、なによりギルベルトの身を案じて帰らせようとしてたからではないかとギルベルトは結論付けた。
口では可愛くない言葉ばかりだが、心は人一倍優しい天使なのだ。
そう…天使……聖なる存在……それを人間として愛する対象と見始めてしまったのが、この生殺し生き地獄の始まりだったのだが……。
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