聖夜の贈り物Verぷえ9章02

「ギルベルト兄ちゃん、いい?」
意外な事に今日は自分達以外に人がいるようだ。
柔らかい…どこかひとを安心させるような声と共にドアがノックされる。
そして返答をする前にかちゃりとドアが開いた。

「あ、ごめんね。お邪魔だった?」
声と同じく優しい顔をした少年は、しかし悪いとも思ってない笑顔で手にしたトレイを小テーブルに置く。

「本当に邪魔してるとか絶対に思ってねえだろ」
「ふふ、そうだね」
とギルベルトと軽口を聞きあうくらいには、親しい仲らしい。

「ダイニングにご飯できてるから、ギルベルト兄ちゃん食べてきて?
その間に俺、アーサーと少し話をしたいし。彼の食事も持ってきたから」
「あ~…でも…」
そこで初めて異を唱えかけるギルベルトに、少年は少し笑みを抑えて言う。

「ギルベルト兄ちゃん、昨日から何も食べてないでしょ。
ダメだよ?看病は体力が基本だからね。
大丈夫。俺ちゃんと優しくするよ。
ギルベルト兄ちゃんの宝物を取ったり傷つけたりしない。わかるよね?」

優しく…でも有無を言わさぬ調子で、まるで子供に諭すようなその口調に、ギルベルトはため息をついて、アーサーを抱きしめていた腕の拘束を解いた。


「じゃ、頼むわ」
離れていく体温にアーサーは心細さを感じるが、引きとめるすべもない。

「すぐ戻るからな、絶対に無茶すんなよ」
と、くしゃくしゃっと子供にするように頭を撫で回して、ギルベルトは部屋から出て行った。


そして部屋に残されるアーサー。

もともと魔法の勉強か戦争ばかりで他人と接する機会は少なかったが、ギルベルトに拾われて一ヶ月強、少ないどころかギルベルト以外の人間と口を聞いていない。

どうしよう?どう接すればいい?
そもそもこれは誰だ?
色々がグルグル回ってベッドの上で半身起こしたまま硬直している。

少年のほうはというと、そんなアーサーの緊張に気付いてか気付かないでか極々普通に今までギルベルトが座っていたベッド脇の椅子に腰をかけて

「おはよう。気分はどう?」
と視線を合わせてきた。

ルート、もしかしてルートかっ。
半ばパニックになりながら思わず目をそらし、知っている情報を整理して現状を分析しようとしていたアーサーは、一年前までギルベルトと一緒に暮らしていた少年がいたことを思い出した。

「あ、お前、ルートかっ」
何を言っていいかわからなくて黙っている緊張に耐えきれなくて口にした言葉だが、

「ううん。ごめん、俺は君の事もう聞いてたから忘れてた。俺の自己紹介まだだったよね。
俺、フェリシアーノだよ」
という言葉にあえなく撃沈。
今度こそどうしていいかわからず俯いていると、いきなりふわっと抱きしめられた。

「大丈夫、ルートもギルも俺の従兄弟だから。全然無関係な人間じゃないよ」

温かく力強い太陽と土の匂いのするギルベルトと違い、フェリシアーノはほんわり花の香りがして、春風にふかれてでもいるようだ。

ギルベルトとは違う意味で安心する。
なごむというのが正しいのか。

「ね、俺は君の味方だからね。君を傷つけたりしない。安心して?」
抱きしめられたままささやかれる柔らかな声がとても心地よい。
ほわんと力が抜けて行く。

ああ、可愛いと言うのはこういうのを言うのか…。
大きな声では言えないが、アーサーは可愛い物が大好きだ。
いっそ少女趣味といっても良いレベルで。


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