この男、ただのお人よしな軍人かと思っていたが、実はものすごい大物だったのか?!
「お前…もしかして偉い貴族とかか?」
おそるおそる聞くと、男はこれにもあっさり
「俺様はギルベルト・バイルシュミット。今の国王の娘の子。ようは孫ってわけだ」
とうなづく。
(マジ…か…。)
めまいがする。
名門とかそういうレベルじゃない。
(大物が良いとか言っても王族とか大物すぎるだろっ…)
と心の中で突っ込みを入れる。
太刀打ちできる気がしない…というか、無理だ。
無言で青くなったアーサーに、男、ギルベルトは
「顔色悪いな。長話で疲れちまったか?」
と、また斜め上な心配をし始める。
もしかしてこのボケっぷりはわざとなのか?そうなのか?
アーサーが混乱したまま
「なんで…王族が自分で落とし物とか探しに行くんだよ?!」
と、もうやつ当たりのように口走ると、ギルベルトはこれまた当たり前に
「ああ、なんつ~か…クリスマスだってのに一人とか暇だったしな。
あ、ちなみにな、うちのジジイ、あちこちで女に手出して子供だけでも鬼のような数いるから、正妻以外の孫なんて特別なもんじゃないからな?」
と、気が抜けるような、聞いていいのかどうかもわからないお家事情をあっさり口にする。
はっきり言って、西の国の人種が理解できなくなった。
こんなちゃらんぽらんな王族の国と戦って苦戦してたのか、自分達は…。
なんというか…色々な意味で勝てる気がしなくなってきた。
「王族のくせに…こんな得体のしれないガキ側に置いてていいのかよ」
「全然構わねえよ」
「一応王位継承権とかあるんだろ?謀反とか疑われても知らねえぞ」
「少なくともジジイや跡取りのルッツとは疑われるようなつきあいしてねえしな」
「俺…世話になっても礼とか何もできねえぞ?」
「別に礼なんていらねえよ?ていうか…秘密裏に金品送っておくか?」
「は?どこに?」
「お前の親に」
「……なんで?」
「いや…物で気持ち埋められねえかもしれないけどな、一応子供と引き離してる事になるし?親にしたって子どもがちゃんとした場所に居るってしれば少しは安心すんだろ。
お前の家教えてくれ。挨拶がてらきちんとそれ相応の見舞いくらいはしたいから」
「………」
ちょっと待て…どうなってるんだ?と、発想がわからなくて焦るアーサー。
何故世話している方がされている方に物を贈る事になっているのだろう?
というか、実家に物を贈られるなんてとんでもない。
まだなんら成果を上げてない今、現在の状況を兄達に知られたら…考えるだに恐ろしい。
「あ~でもお前なんだか良い家のお坊ちゃんぽい感じするし、普通の金品じゃだめかぁ?
ルッツに頼んで良い美術品でも手にいれたほうがいいのか…」
アーサーが悩んでいる間もギルベルトの話はどんどん進んでいく。
ダメだ!どこかでストップをかけないとっ!
だが色々が急展開すぎて、全く良い考えが浮かばない。
「で?とりあえずどこに連絡いれたらいいんだ?」
パニくっているアーサーをよそに、ギルベルトはそう言ってアーサーの顔を覗きこむ。
「えっとな…」
「うん?」
「わかんねえ…」
「何が?」
「……全部」
もう何をどうしたらいいのか思いつかなくて、ついついもらした言葉にギルベルトは一瞬ぽかんとして、次に
「なんだよっ、なんでそれ早く言わねえんだ?!」
といきなり初めて声を荒げた。
もうその反応すらアーサーには意味不明だ。
パニックで涙目になっているアーサーに気づくと、ギルベルトは少し険しくしていた表情を慌てて和らげて、少し焦ったように言う。
「あ、怒鳴って悪い。
ただ…記憶ないならないて言ってくれたらもう少し色々してやれたと思ってな。
心配しないでもいいからな。何も覚えてないならとりあえずここで暮せばいいからな?
俺様が全部コトリさんのように華麗に面倒みてやるから」
安心させようとしてか満面の笑みを浮かべて請け負うギルベルトをアーサーは茫然と見つめる事しかできなかった。
『…なんでそうなる?…というか…思い込み激しすぎだろ、おい…』
という言葉は声に出さずに飲み込んでおく事にする。
こうして、最強の勘違い男の誤解と思いこみでアーサーの西の国スパイ生活は幕を開ける事になったのだった。
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