フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_政略結婚

「スコット、ひどいっ!!」

と、正妻が泣いた。
いきなり泣き出した。
泣きながら長兄を糾弾する。

いわく

「この子、まだ小さいのよ?
こんな幼いうちから政略結婚なんて、可哀想すぎるわっ。
ちゃんと普通に預かってくださる相手をなぜ見つけてきてあげないの?!」

……と。


「おふくろ~~」

そのお嬢様な母親の訴えに、長兄は頭を抱えた。


実家に戻って正妻は本当に昔のお嬢様に戻ってしまったようだ。
そして彼女にとって今は一緒に彼女の可愛らしい趣味を楽しんでくれるアーサーは小さな可愛い末っ子下手をすれば唯一の娘くらいに思っていかねない。

こちらに来てからというもの、さすがにスカートはないが、彼女の趣味で可愛らしい系のユニセックスな服を着せられて、お人形さん状態の末弟を抱きしめて、涙目で睨んでくる実母に、スコットは内心またため息をつく。

本当に5年前、初めて父親が狂ってから、どれだけの苦労を背負い込んで、どれだけのため息をついただろうか

まったく長子なんて良いことはない。
本当に良いことはない。

そう思いつつ、家族の面倒と調整役を買ってでてしまうのだから、本当に良いことはないと、スコットはいつも思う。

「あのな普通に考えて、善意だけで厄介ごとを抱えている相手を保護してくれるやつはいないんだ。
まず第一条件がオヤジに屈しない事となると、それなりのバックがある人間じゃないとダメなわけだから、そもそもうちの会社の系列じゃない、うちの会社が影響力を発揮できないレベルの会社のトップクラスの人間につなぎを取る事自体が、簡単なことじゃない。

そんな中で今回の案件は最良レベルのものだ。
正直、女だったら小躍りしてマッハで嫁入り支度整えて押しかけてもおかしくないくらいの身分、財力、顔、能力、性格と、全部が整った男だからな。

同性なのがアレだがまあ、一時的なモンならそれもいい経験だろ。
女と違って婚姻関係が破局したあとでも良いパートナー、友人、知人でいられる可能性は高いし、社会人になって役に立つ人脈になる」

そう自分よりは遥かに世間を知っている長子に言われて正妻はショボンとうなだれた。

まあ、こういう形での同性との政略結婚という時点で、両手を挙げて喜んではもらえないだろうとは思ってはいたが、スコットとしてはかなり頑張ったのだ。

自社よりも力のある会社のそれなりの地位の人間に渡りをつけるなんて、本当に楽なことじゃないし、ましてやこちらの要望をきいてもらうなんてとてつもなく難易度が高いのは当たり前だ。

そんな中で、ただ地位が高いだけではなく、それなりに人格者でというと、本当に相手だって限られてくる。

今回は本当に同性との婚姻になるという1点を除けば、申し分のない案件だ。
そこまでこぎつけるまでにどれだけ苦労をしたことか

その成果を涙目で責められればさすがにスコットも肩を落としたくもなる。
実際は、大手企業の長子、跡取りとして生まれ育った時点で、そんな感情を表に出す習慣はないので、無表情なのだが……

しかしそこでむしろ空気を読んだのは当事者である末弟で、

「いろいろ苦労して整えてくれてありがとう、兄さん。
俺も相手の人となるべく親しくなって、兄さんが会社を継ぐ頃には会社同士にも何か良い影響を与えられるようになれると嬉しいと思う」
と、言ってくれて、これには逆に不覚にも泣きそうになった。

思えば末弟も自分とは違う意味で苦労症に育つ環境だったと思う。

「まずは余計なこと考えないで、追い出されないようにだけ頑張れよ」

などと、本心を隠してぶっきらぼうに答えながら、この家族内で一番生き辛そうな弟が少しでも幸せな生活を送れるようにと、スコットは心から祈ったのだった。



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