フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_ 衝撃!嫁はお子様、ノット・ノータッチ3

ギルベルトのマンションはひとり暮らしするにはやや広すぎる。
間取りも広ければ部屋一つ一つも広い。

なので広々とした寝室には1人で寝るには広いベッドを置いているのだが、その上には帰宅時にだきしめていたあのクマをしっかりかかえこんだ少年がちょこんと座っていた。

そしてギルベルトはここでまた、その場に固まったのである。

何?何だ??

部屋間違えた?
いや、さっき俺様が風呂はいる前にちゃんと部屋教えて入っていったし?

雷でも鳴ってて怖かったとかでもないな。
雨すら降ってねえ。

慣れない場所で1人で居るのが怖い?
ねえな。猫かよ。

う~ん……


色々可能性を考えてみるものの、結局理由がわからずに本人にきく。


「えっと…なんで俺様の部屋?」

「ご、ごめんなさいっ!」

「いや、いいんだけどよ。
あっちの部屋、何か寝にくかったか?」

そう言うと、アーサーはひどく動揺した様子で

「あっちの部屋でするんだなっ。
すぐ戻るっ!」
と、ぴょんとベッドから飛び降りた。

へ??する???

ギルベルトは今度こそ本当に目を丸くした。
そして考える考えるあああ~~!!!!



「ストップ!!」

と、ようやく合点のいったギルベルトは、少年の腕を掴んで、そのままベッドの端に座らせて、自分は椅子を直ぐ側まで持ってきてそれに座る。

そのあたりの誤解を正しておかなければならない。


ギルベルトがわざわざ椅子を持ってきて座ったところで、少年の方も緊張を解いて、きょとんと目を丸くした。

そんな表情をするとますます幼く見えて、これをそういう意味で頂いたりしたら犯罪じゃね?とギルベルトは思う。

まあ、先日副社長が監視の元、アーサーのサインも入った婚姻届けを役所に出しに行ったので、法的にはなんら問題はないわけなのだけれど


「あのな、もう少し落ち着いてから全部意思の疎通をすりゃあ良いかと思ってたんだけど、今いろいろ確認しておいたほうが良さそうだな。
ちょっと遅いけど、あと1時間ほど起きてられるか?」

なんだか1人で知らない場所に送り込まれて緊張しているように見える少年に威圧感を与えないように、ギルベルトの方が少し見上げる形のこの体制を取ったわけなのだが、それは意外に功を奏したようで、少年はまたきょとんとした顔でこっくりとうなずいた。

うん、可愛い。
いちいち可愛い。
なんだ、この可愛い生き物は。

ギルベルトはそんな事を思いながら、自分はわりあいとキツイ顔立ちだと言われることもあって、なるべく相手に緊張させないようにゆっくりと口を開く。

「あのな、俺様、お前の方の事情は全く知らないわけなんだけどな?
俺様の方の事情としては、簡単に言うと、今俺様の実家の財閥を実質取り仕切ってる副社長が俺の腹違いの弟を次期総帥にしたいと思ってんのな。

で、俺様はそれはそれで良いと思ってんだけど、俺様に子どもでも出来たら事情が変わるんじゃないかって思われてんのな。
だから、その副社長が俺様が子ども作ったりしねえように、子どものできねえ相手を選んで結婚しろって言ってきたわけだ。

俺様はそういうゴタゴタも面倒だしそれを了承。
で、まあそういう欲求は自分で処理すりゃあいいし、それで色々面倒な口出しされてこねえなら、同居人が出来たと思えばいいかと、男のお前さんを選んだわけなんだ。

だから無理してすることはねえと思ってんだけど?」

紛れもなく今日が初対面だし、初対面の同性に抱かれたいというやつもいないだろうし、と思って言うと、何故か真っ青になる少年。

え?と思っていると、

俺じゃだめか?」
と、ポロポロ泣き出した。

へ?えええっ???!!!

「いや、ダメとかじゃなくてっ!」
と、ギルベルトはまた慌ててバタバタと顔の前で手を降ってみせる。

「普通さ、男でも女でも誰でもいきなり初対面の相手と寝たいと思わないだろ?!
俺様、実はお前さんの事結構気に入ってるし、上から目線で悪いけど、まあ一生衣食住の面倒みてやっても良いなくらいには思ってんだけど。

逆に一回ねて別れる相手じゃないほうが、そのあたり時間おかねえ?
まず相手の事知って、ちゃんと家族になってからっつ~か

そう言ったあとに、もしかしてそれも誤解されてる一端かと補足説明をした。

「今回、俺様がGO!出してから1週間後に式どころか顔見せすらせずに入籍、同居だったから、そういうもんかと思わせちまってたんならゴメンな。

さっきも話した通り、今回の話はすげええげつない義理の伯父が弟に跡を継がせるのに俺様が邪魔にならないようにってんで持ってきた縁談だったからな。
正直、跡取りの座なんてどうでも良いと思ってる俺様からしたら、面倒なだけのもんだったんだ。

だから俺様が普通に楽しく日常を送る邪魔さえしないでくれれば、子ども生むような特別な女を作らせないためだから別居はできねえけど、部屋も余ってるから同居人の1人くらいいてもいいかくらいの感覚だった。

でもお前さんなんだか思ってたより随分と子どもにみえるしな。
なんだか兄弟みたいに世話すんのも悪くないなと勝手に思い始めてる。

ていうかもうちっとちゃんと飯食って大人の体型になってからじゃねえと、そういうことすんの壊しそうで怖いわ。

先は長いしな。
俺様がちゃんと3食くわせて、規則正しい生活させてやるから、まず嫁うんぬんよりちゃんと大人になっておけ」

異性愛者だということもあるが、ソレ以上に、目の前の戸籍上の配偶者は幼なすぎて、そういう気分にはならない。

愛らしいとは思うし、愛おしいとも思うのだが、それが性的なものに結びつくかと言うと、また別だ。

とりあえず少年は夫婦のいとなみのような事をしない=返品事案だと認識していたらしい。

そういう意味ではないという説明をしたところで、安堵の息を吐き出してぎゅっとだきしめていたクマに顔をうずめたところで、納得したのだろうと判断したギルベルトはそのままベッドにもぐりこむと、半身起こした状態でベッドの縁に座り込んだままの少年をかかえこんで、自分の隣に横たわらせた。


「とにかくな、俺様は明日も仕事なんだ。
早急に確認しないと困りそうなこと以外は明日以降な。
聞きたい事があるなら眠るまでは話をきいてやるけど、とりあえず明かりは消すぞ」

そう言って明かりを消すと、少年はわずかな時間、腕の中で固まっていたが、弟のルートが小さかった頃にやってやったようになだめるように背をとん、とん、と叩いて眠りをうながしてやると、すぐ、ほぅっと小さな息とともに、力がぬけていった。

そこで
「おやすみ、アルト」
と、自国風の愛称で少年を呼んでつむじに軽く口づけてやると、腕の中で

「おやすみぎる……
と、小さな声が返ってきて、やがて規則正しい寝息が聞こえてくる。


実母が生きていた頃の記憶はないので、ギルベルトにとって一番幸せだった家族の思い出はまだ祖父が生きていた頃の弟との時間だったわけなのだがそんな時代の優しい空気が何故かそれをぶち壊してくれた副社長の企みでまた戻ってくるのはなんとも皮肉なことだ。

だが、別にギルベルトとしてはそんな事はどうでもいい。

他人の思惑なんてどうでもよい。自分自身が幸せで快適ならそれでいいのだ。

だから今回の事は本当に副社長に感謝してやらないでもない。

そんなふうにつらつらと思いながら、ギルベルトもまた人肌の心地よさに誘われ、いつのまにか眠りの世界におちていった。



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