厳しい表情で部屋に駆け込んで来たギルベルトの様子に、ルートが声をかけると、ギルベルトはうなづいた。
で、お姫さんが拾った時計の持ち主は氷川雅之だ。
つまり…フェリちゃんを返したくなかったのは氷川澄花でお姫さんを返したかったのは氷川雅之」
そこまで言って、ギルベルトはさらに難しい顔で考え込んだ。
「ってことで犯人の目星はついたんだが…やばいな。
そろそろフェリちゃんが拉致られて丸一日になる…。
救出急がないと…。どこに拉致られてるんだろうな……」
ドスンと座り込んで腕組みをするギルベルトに、アーサーがおずおずとその横に座って腕を取る。
温かい体温。
少し伏し目がちになる大きなグリーンアイ。
少しためらうように
──…ギル…あの……
と、可愛い薄桃色の唇が震えるのが目に入って、ギルベルトは思わずその身体を抱き寄せて、口づけようと顔を近づけた。
すると、
──違ってっ!!!!
と、慌てたように小さな両の手でさえぎられる。
「???」
真っ赤に染まる頬。
羞恥に潤む目。
てっきり甘えたいのかと思ったのだが、違ったらしい。
「なんだ?お姫さん」
少し名残惜しいがキスは諦めてギルベルトがその細い両の手首をそれぞれ自分の両手でつかんで視界からアーサーの手をどかせると、アーサーはまだ真っ赤な顔をしたままで、それでも口を開いた。
「えっと…氷川夫妻で思い出しただけど…さっき言おうとしたこと…」
「さっき?」
眉をよせるギルベルトにコクコクうなづくアーサー。
「えっとね、お香の話しただろ。みんな違う香がするって」
その言葉にギルベルトは
「ああ、したな。ルッツ待ってる時だな」
と同意する。
「そそ。あの時な言おうとした事。
俺、ギルの浴衣の匂いで気付いたんだけど、俺が着てた浴衣って本来俺達の部屋の香の匂いのはずなのに、なぜか氷川夫妻と同じ香の匂いがしたんだよな…」
「ほんとかっ!それ!!」
ギルベルトは身を乗り出してアーサーを強く抱きしめた。
「お手柄だっ!お姫さん!」
おそらく…一緒にさらったわけだから、閉じ込められていた場所も同じ可能性が高い…。
香の香りが強く移ってある程度広い場所と言えば…
ギルベルトは部屋をぐるりとみまわして一点に注目する。
タンスの中…
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