青い大地の果てにあるものGA_13_31_過去から来るモノ1

「ア~サ~さぁあ~~ん!!!」
「マシュー!!マシューじゃないかっ!!!!」

激動の一夜が明け、大広間で全員が食事を取っていると、菊が来客を告げて来た。
そこで入ってきたふわさらの柔らかい色合いの金髪の青年を目にした途端、アーサーが立ち上がって駆け寄って行った。

「大きくなったなぁ!あ、そのクマは相変わらず持ってるのか」

「その節はお世話になりましたっ!
もちろん!くまじろうさんは、アーサーさんに助けて頂いた大切な大切な子ですからね。
本当はこちらに来ていると菊に聞いてすぐに会いに来たかったんですけど、目立つから敵がたに気づかれてもいけないと止められまして」

にこにこと手を取り合う2人にブルーアース組…特にギルベルトはぽか~んだ。


え?え?何が起こってる???
と、思わずギルベルトが戻って以来、まるで腹心の部下のように後ろに控える菊を振り返ると、菊は

「お館様がお話をなさりたいようでしたのでマシュー様にご連絡を取りましたら、ご自身の方から出向かれると言う事でしたので。
あと、アーサー様と顔見知りでいらっしゃるのは、アーサー様がまだ極東支部にいらした頃、お忍びで街にいらしてレッドムーンの襲撃に巻き込まれたところをジャスティスとして出動なさったアーサー様に救われたからだと、配下の者の報告です」
と、にこりと感情の読めないアルカイックスマイルを浮かべる。

なるほど、命の恩人というやつらしい。
身体は大きくなったものの、顔立ちは分かれた時のあどけなさを残したままの可愛い末の弟と最愛の恋人。
その2人が仲良く手を取り合っている図は微笑ましくて無条件に心が温かくなった。



こうして少し離れたところで、そんな楽園に目を向けて和んでいると、積もる話も終わったのだろう。
マシューのまあるい眼鏡の奥の温和そうな目が、嬉しげにギルベルトに向けられた。

「兄さんっ!ご挨拶が遅れてすみませんっ!!」
パタパタと走り寄ってくる弟。

一筋ぽわんとはねた髪が揺れて可愛い。
末っ子可愛い。
可愛いと言う言葉しか出てこない。

いや、別にルートも可愛いわけだが、あれはギルベルトがルートの兄だから可愛いのだが、マシューはおっとり感が溢れ出ていて、兄じゃなくても可愛いタイプだと思う。

「マシュー!久しぶりだなっ!!」
と、まるで育ちの良い室内犬が走り寄ってくるような様に思わず腕を広げると、
「お久しぶりですっ!!」
と、その中にぽすっと飛び込んでくる。

ふんわりと香る甘い匂い。
ギルベルトがブルーアースに行った時は幼児だったから、10年後の今もまだ13歳のはずだ。

「まだガキなのにな。
全部押し付ける形になってごめんな…」

ルートが実家を去ることになったのが3年前。
マシューが10歳の時で、マシューはそれまではお館様としてではなく、普通の若様として育てられたせいだろうか…

自分やルートと違ってどこか雰囲気も柔らかくて年相応のあどけなさが残っていて、それに余計に憐憫と申し訳なさが沸き起こる。

しかしマシューはふるふると首を横に振って、愛らしい笑みを浮かべながらギルベルトを見あげた。

「いえ、実はルート兄さんが連れて行かれて半年ほどで父上が亡くなった時に、一位がギル兄さんを取り戻すんだと過激なあたりを連れて出て行ってしまったので、今、里は普通の農業や林業を営みながら穏やかに暮らす一族だけの集落になって、すごく平和なんです。
僕も里の中では未だ若様って呼ばれてますし、一位が離反してから檜の一族から別の婚約者がたちましたが、彼女も今まで奥方様として育っていない普通の優しい子で、なんだか普通の彼女みたいな感じです。
むしろこんな風に代々のお館様が築いてきた威信のようなものを引き継げなくて申し訳ないくらいです」
と、そのマシューの言葉にギルベルトはホッとした。

お館様というひどく堅苦しくも現代社会に合わない形式を、まだ13歳になったばかりの弟が変えてくれたのだと思うと、本当にありがたい。

「お館様とかな、要らねえと思う。
今の時代はもう一族で外敵と戦う時代じゃねえ。
里に残りたい奴は残れば良いけど、普通の農村の村民をまとめる村長って感じで良い。
むしろ…俺やルッツが出来なかった、そんな当たり前に平和な集落に出来たお前はすごいと思う」

そう言うと、マシューは嬉しそうに笑った。

結局マシューは、今回一位について死んでいった一族の遺体も一族なのだからと里に葬ることも了承してくれて、ギルベルト的には肩の荷がいっきに降りた思いだった。




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