ギルベルト視点
間に合わぬ王子は慟哭する
運が良かったのだろう。
随分と頑張ってくれるタクシーだった。
『捕まえられた?誤解は解けたの?』
という彼女に
「目の前で誘拐された。
今タクシーで追ってる」
と答えると、本当に一瞬息を飲んで、
しかしそこで即
「携帯のデータ共有システムのパス教えて。出来ればお姫ちゃんのが良いけど、わかんなければあんたので良いわ」
と返ってくる。
「は?」
「GPSを利用して空から追うから!早くしなさいっ!絶対に捕まえないとっ!!」
と言うではないか。
空?空から?と思いつつ、自分のパスを告げた。
敵に回すと面倒だが、味方としては本当に頼もしい女だと思う。
空から探せるのは親の財力としても、動揺して感情に流されないのが良い。
こうしてなんとか車の多い街中でも見失うことなく、車はやがて街中を出て、山道を入っていく。
その時点でエリザとの会話を聞いていたのだろう。
運転手に事情を聞かれて話したら、警察に連絡をする事を勧められた。
確かにそうだ…と思いつつ、叔父が懇意にしている警察関係者に連絡をし、事情を話す。
そうしている間にも車はどんどん進んでいき、山のふもとあたりにある大きな倉庫へと入って行った。
もちろんギルベルトも追おうとしたが、追ってきたとわかるとお姫さんが危険かもしれないと少し離れた場所タクシーを降りる。
どうやら今はなのか今の季節はなのかはわからないが、使っていない資材倉庫のようだ、
正面の大きな入口を開ければ当然気づかれるだろうと、ギルベルトは用心深く裏口を探して、鍵のかかっているそれを、何かあった時に念のためと、普段は絶対に利用しない事を重々約束させられた上で教えられたピッキングで開ける。
しかし音がしないようにそろりそろりとドアを開けた瞬間、聞こえて来たお姫さんの悲鳴で全ての理性と気配りが吹っ飛んだ。
何か平手打ちのような音。
そちらに急いでかけつければ、目の前に広がる光景…
床に横たわるお姫さん。
ビリビリに破かれて申し訳程度に身体にまとわりついている服…
横に放り出されている下着…
そこで何が起こったのか、それを想像してギルベルトは頭にか~っ!と血がのぼった。
「お姫さんに…なにしやがったああぁぁーーー!!!!」
気づけば泣きながら飛びだして、男を思い切り殴り倒していた。
「てめえっ、ゆるさねえっ!!!殺してやるっ!!!!!」
大事にしていたのだ。
本当に本当に大事にしていた。
一緒に暮らし始めて2年。
自分の理性が信用できなくて、危なそうな時はお姫さんが寝いったあとに、こっそりベッドを抜け出してソファで眠った。
女性じゃないので子どもが出来る心配とかはなかったが、それでも正式に籍をいれる前に軽々しく手を出す事で、お姫さんに自身の価値を軽んじていると思わせたくなくて、大切な存在なのだと言う事を実感させてやりたくて、どれだけ辛い夜でも絶対に手を出さなかった。
それを!!!!
こんな風に薄暗い倉庫で冷たい床の上で暴力でなんて、どれだけ怖かっただろう、悲しかっただろうと思うと、心が痛むどころではない。
張り裂けそうな気分になる。
この直後、かけつけて来たエリザが止めてくれなければ、あやうく相手を殴り殺してしまうところだった。
本当にあやうく……
殴り殺さないで良かった…とそれでも思ったのは、全てが明らかになった夜の事である。
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