生贄の祈りver.普英_6_4

そうなると双方力づくで…となりかねないわけだが…あちらは普通に戦いを仕掛けてくるような真似はしないだろう。


調整をしに執務室へ戻っていったエリザを見送って、ギルベルトはへなへなとその場にしゃがみこんだ。


正直、正面からの戦いなら勝つ自信はある。
それが戦いの上での戦略でも負けないと思う。

だが、一般人の心を掴む戦いとなると、もう完敗だ。
人タラシと評判の高い風の国の王相手でなくとも、そのあたりの衛兵にすら余裕で負ける。

なにしろ伊達に恐ろしげな異名をつけられて、女子どもに悪魔か鬼のごとくおそれられてきたわけではない。

今はこうして心を許し始めてくれているアーサーだって、最初は気絶されたくらいだ。

今だって完全に心を預けてくれるかと言うと甚だ疑問が残る状態で、あの魔性の王に会われた日には、敵う気がしない。

もちろん正式な契約にのっとってこちらに滞在させているわけなので、アーサーが風の国に行きたがったとしても、風の王がアーサーを引き取りたがったとしても、それを拒否する事はできる。

が、辛い。
自分から離れて他国に行きたがっているアーサーを無理に滞在させているのはやっぱり辛いのだ。

「…どうすっかなぁ……」
と呟くギルベルトの声は、戦争となれば常勝の戦の天才と言われる王とは思えぬ弱々しさだ。

どうしたらここに居たいとおもってもらえるのだろうか……

「…よし、舟釣りでもすっか……」

しばらく考えて、華やかな事が好きな風の国の王がしないような事…と、探すうちに思いついた。

おそらく釣りどころか船に乗った事もないアーサーに、釣りを経験させてやって、釣れた魚をその場で調理して食べさせてやれば、楽しんでくれるかもしれない。

同じ土俵にあがっても絶対敵わないのだから、なるべく自分の国らしく……

そう決めて、ギルベルトは立ち上がって、船の手配を申しつけた。



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