唖然とそれを見送って、次の瞬間ハッとする。
まずい!逃げられたっ!!つかまえなくてはっ!!!
そう気づいた時には少年は遥か遠く。
弱々しい感じなのに逃げ脚だけは早い。
まるで野生のウサギのようだ。
「ま、待ってくれっ!!!」
と、それを追って駆けだすルート。
しかし当然相手は止まらない。
やがて側道から合流する衛兵。
「いたぞーーー!!!」
と叫んでピ~~!!!と呼び笛を鳴らす事で、さらに怯えさせているように思う。
「そういうやり方は怯えさせる!!」
とルートが叫ぶものの、笛の音でわらわらと集まって来た衛兵たちは
「こっちだーー!!!」
「捕まえろーー!!!」
と、口々に叫んで追い詰めていく。
もう収拾が付かない。
こうして走って走って走った先には西の塔。
城の東西南北にそびえ立つ見晴らし台の一つだ。
その塔の中に飛び込んだ少年を追って塔に殺到する衛兵たち。
「待てっ!!そこでストップだっ!!!」
と、同じく笛を聞いて駆けつけたギルベルトの制止の声もすでに大勢の叫び声に紛れて届かない。
「陛下っ!すまないっ!!一度は見つけて普通に会話してたんだが……」
と、その姿を見つけて駆け寄ったルートの頭をポンと軽く撫で、
「ああ、話は後だ。先にお姫さんを保護してやんねえと」
と、ギルベルトは衛兵を押しのけて塔の階段をかけあがった。
ルートもその後に続く。
「追い詰めたぞ~!!!」
と上方で声。
「馬鹿野郎っ!!追い詰めんなっ!!!」
と叫びながら焦ったように駆けあがるギルベルト。
どうやら塔のてっぺんの見晴らし台まで逃げたらしい少年は海側の柵に追い詰められてひゅうひゅうと苦しそうに呼吸をしながら震えている。
その見晴らし台にギルベルトとルートが辿りつくのと、衛兵たちの
「捕まえろっ!!」
という叫び声。
それに心底怯えた目で少年が柵を飛び越えたのはほぼ同時だった。
「馬鹿っ!!やめろおぉぉーーー!!!!」
ドン!と前にいる衛兵を突き飛ばしてギルベルトが柵に走る。
ふわりと宙に浮く小さな身体。
白い寝間着がひらひらと風に吹かれて舞う。
伸ばしたギルベルトの手はすんでの所でその細い腕には届かず空を切り、はるか下方の波間へ向かって落ちていく少年を追って、止める間もなくギルベルトも柵から身を投げ出して、一瞬のちに二つの水しぶきがあがる。
「陛下あああーーーー!!!!」
と叫ぶ衛兵。
ルートは柵から下を見下ろして、すぐに反転。
「医者を手配しておけっ!!!」
と叫びながら、塔の階段を今度は下に向かって全速力で駆けおりた。
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