生贄の祈りver.普英_4_1

「ギルっ!!逃げたっ!!逃げちゃったのっ!!捕まえてっ!!!」

いきなり部屋のドアが開いて焦った顔のエリザが飛び込んできた。


「「逃げたって、何がっ?!!」」

と、驚いた叔父甥の声がはもる。



(似てないようで変なところで似てるわね…)
と、そんな感想を持ちつつエリザは彼女にしては珍しく少し固まったが、全くそんな事に気づいていない本人達は

「「エリザっ!!」」
と、やっぱり揃って先を促した。

ああ、そうだった。
こんな事を考えている場合ではなかった。

そこで我に返ってエリザは言った。

「子猫ちゃんがね、逃げちゃったのよ」




ことのおこりは30分ほど前。
たまたま目を覚ましたのだろう。
アーサーは普段はそこにいるはずのギルベルトが居ない事に気づいて、不思議に思ったのか、そろりとベッドを抜け出して寝室を出るが、リビングにもいない。

当然だ。
その頃にはギルベルトは執務室で仕事をしていた。

そこでさらに他の部屋を探して、最終的に向かうのは廊下に出る扉。

初日にこそ鍵がかかっていたそのドアは、その後は鍵はかけられる事はなく開いていた。
それが災いした。

ソロリとドアを開けてみておそるおそる部屋の外、廊下を窺うアーサーをたまたまみつけたのは護衛兵で、

「何をしておいでですか?」
と、声をかけた。

他意はない。
本当に単純に何か探しているのか、人を呼びたいのか、何をしたいのかを聞こうと声をかけただけなのだが、城外と比べてはるかに軽装ではあるものの、武装した兵士に声をかけられた事に驚いてしまったらしい。

ぴゃっ!とばかりに大きな目を限界まで大きく見開いて飛びあがり、次の瞬間、ものすごい速さで、これも運悪く眼前に広がっていた中庭──と言っても、東西南北の宮で囲まれてかなり広い──に飛び込んでしまったらしい。

なまじあれこれ木々が植えられているだけに、その姿は兵士が呆然としている間にどこかへ消えてしまったとのことだ。

「っとに!人慣れねえ子猫だなっ!!」
と、叫びながら、ギルベルトは無造作に椅子の背にかけていた上着を手に駆けだしかけて、ふと思い出したように、ルートを振りかえって言う。

「ルッツ、お前も手伝えっ!」
「Ja!!」
と、ルートもその後ろに付き従って、執務室を飛び出した。



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