ヒロイン絶賛修行中25

「お、チョコレートか。アーティ好きやんな。良かったな」

と当たり前に喜んでくれるアントーニョに、

「でも…トーニョせっかくの大当たりだったのに良かったのか?
代わりにはならないけど、これ…」

と、今更ながら言ってチョコの箱を差し出すと、アントーニョはやっぱり優しい笑顔で

「喜んどるアーティの顔がめっちゃ可愛かったから、親分にとってはそれが一番の大当たりやで。
でもせっかくやから、それ一粒アーティーの手で食べさせたって。あ~んってな」

と、もうそれ台本じゃないのか?素なのか?アイドルってそこまで言えないとダメなのか…と、もう憧れの相手にそんなセリフを言われて赤くなるしかないアーサー。




それでも…このクマのために大当たりを放棄してくれたアントーニョのささやかな希望を叶えないという事はさすがに出来ず、箱を開いて一粒摘みあげる。



「えと…どうせ食べさせてもらうなら、美人の女優さんとかの方が良くないか?」

と、すぐ側にエリザもいるため一応聞いてみるも、

「親分は、親分の愛しい可愛いヒロインに食べさせて欲しいわ~」

と、もう女性なら悶絶死するんじゃないかと思うくらい甘いイケメンスマイルで言われて、アーサーは羞恥と緊張で逃げ出したくなった。

もう絶対に自分なんかじゃ似合わない…そう思うのに、毎度毎度それを否定される。



ファンのみんなゴメン、俺でゴメン…と心のなかで謝罪しながら、

「…あ……あ~ん…」

と、恐る恐るチョコレートを持った指先を近づけると、形の良い唇が開いてわずかにアーサーの指をかすめつつも、チョコレートをくわえていく。



なんというか…アントーニョはいつも明るく爽やかな皆の親分で…なのにたまにすごく性的だと、側にいるようになって思うようになった。

チョコレートをくわえる口元、それが口の中に消えて言って、噛み砕いている様も妙な色気がある。



――ん、美味かったわ。ごちそうさん。

と耳元で低く囁かれ、腰が抜けそうになった。

座った状態だったことが幸いして醜態を晒すことはなかったが、立った状態だったら膝から崩れ落ちていたかもしれないと思う。



そして…そんな二人のやりとりに当てられる可哀想な人間も…。



――なんか…今年は例年にもましてリア充爆発しちまえって思うのは俺様だけか?俺様だけなのか?…



お風呂に浮かべるアヒルさん…ビンゴで当たったビニールの人形を手に一人楽しすぎるギルベルトのつぶやきは、二人をガン見して脳内メモリに記録中のエリザにも、ファンとのスマホでのやりとりに集中しているフランシスにも気にしてもらえることもなく、にぎやかな新年会の雑音の中に消えていくのだった。





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