不思議な感覚の中でアーサーが目を覚ますと、いつものようにアントーニョの腕の中だった。
ただ違うのは、ベッドではない。
下は畳。
どうやら楽屋で眠ってしまったらしい。
まだ熟睡中らしいアントーニョに、むくりとアーサーが半身起こすと、何かがはらりと肩から落ちる。
(…上着?)
自分のでもアントーニョのでもない見覚えのないそれを手に不思議に思って首をかしげると、
「お~よく寝てたな。でも風邪引くぞ」
と、手が伸びてきてギルベルトに上着を取り上げられた。
まるで小さな子どもにするようにくしゃくしゃと頭を撫でる手。
アーサーの手から取り上げた上着に当たり前に袖を通すところをみると、わざわざ自分の上着をかけてくれたらしい。
「ギル、上着さんきゅ。」
と礼を言いつつも、アーサーがまだ眠っているアントーニョにチラリと視線を落とすと、ギルは、おう、と笑ったあとに、
「ああ、トーニョは頑丈なやつだからたとえ外で転がしといても大丈夫なくらいだ。気にすんな。」
と、付け加えた。
このところずっとドラマの撮影に追われていて、実は一緒に仕事をしたのはまだ数回なのだが、ギルベルトは優しいと思う。
腐れ縁のフランシスはおいておいて、まるで恋人にするようにベタベタに甘やかすアントーニョともまた違って、後輩を前にした理想的な先輩の図とでも言うのだろうか…。
ファンの間で師匠と慕われているのも頷けた。
「あ~、坊っちゃん起きたの?どれか飲む?」
と、缶ジュース数本を手に戻ってきたフランシスの手から黙って午後ティーのミルクティを抜き取るアーサー。
他の優しさはいちいち感動するアーサーも、この腐れ縁のマメさ優しさは当然すぎて意識が向かないのがミソといったところだ。
しかし、せめて口で言いなさい、と言いつつもフランも慣れたもので、一本抜けた事によってずり落ちかけた残りを上手に持ち直すと、今度はギルにジュースを勧めた。
そして最後に
「トーニョは…どっちかな…」
と、呟いて横たわったアントーニョの顔を覗きこんだ瞬間、飛んできた拳を慌てて避けた。
「お、お前ねっ!それやめて頂戴っ!お兄さんの綺麗な顔に傷なんてついたら全国のマドモワゼルが号泣するからねっ!」
と、叫ぶのに
「…うっさい……」
と、不機嫌に起き上がるアントーニョ。
こちらもフランの気遣いオールスルー組だ。
フランもある意味、不憫と言われるギルベルトよりも悪友周りでは不憫な扱いを受けているかもしれない。
しかし、こんな事態にも悲しいことに慣れてしまうものである。
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