「ああ、リズ・カークランドさんのご子息だったんですね。
どうりできちんとした歌い方をなさると思いました」
本番後の控室。
ローデリヒのお土産のチョコレートをつまみながら、アーサーが聞かれるままに答えると、ローデリヒは小さく微笑んだ。
「ああ、はいはい。ほな、天使ちゃんはそろそろ休まなあかんな。
エリザ、ローデの話聞いたって」
と、そこでアントーニョが強引に割って入る。
普通ならここでフライパンが飛ぶところだが、エリザはローデリヒの前に突き出されて赤くなった。
その隙にアントーニョは有無を言わさずアーサーを抱えて遁走した。
「…あ…チョコ……」
と、悲しそうにチョコの箱に手を伸ばしたまま連れ去られるアーサーを見送って、
「ほとんど…誘拐犯ですね」
と、メガネをクイっと押し上げ、チョコレートの箱を丁寧に閉めたあと、
「これは、彼にあとで届けてあげてくださいね」
と、にこりと微笑むローデリヒから差し出されたチョコレートの箱を
「はいっ。さすがローデリヒさん、お優しい。私が必ず届けます。」
と、エリザベータは恭しく受け取った。
そのままスタッフがスタッドレスタイヤに履き替えさせた車の助手席に放り込まれ、しょぼんとうなだれるアーサーの頭をなで、運転席に滑り込んだアントーニョはハンドルを握った。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿