そして午前中、病院で診療を受け、そのまま高速へ。
ギルに言わせると今乗っている高速は山の中を通っているせいもあって、海側を通るもう一本の有名な高速道路に比べると、どこか単調で華やかさにかけるらしいが、アーサーからしたらビルの多い都会を抜けて、両側の景色が緑生い茂る山に変わったあたりで、本当に旅行に来ているんだなと思えて、もうワクワク感満載だ。
そもそも生まれ育った街からほぼ出る事なんてなかったアーサーからしてみれば、旅行に行けるなんて身分がすでに華やかだと思う。
アーサーがそれを楽しみにしているのも知っているので、ギルは小さなパーキングエリアは通りすぎるが、大きなサービスエリアは停まってくれる。
「このSAで飯食うな~」
と、実に正確にきっちりとスペースのほぼ中央に車を停車し、そう言ってエンジンを切ると伊達眼鏡をかけてギルベルトは言った。
ドラマや小説などではお忍びの芸能人は真っ黒なサングラスをかけるものと相場は決まっている気がするのだが、ギルベルトいわく…
「真夏の暑い日ならとにかくとして、この季節にそんなもんかけてたら余計に目立つだろ」
と、言う事で、それでも紅い目は珍しく目立つので、こういう時はカラーコンタクトに伊達眼鏡をかけるのが常である。
それでも…よくよく見ればわかってしまう。
ギルベルトには圧倒的なオーラのようなものがあると思う。
平日の昼間という事で人もそう多くはないのだが、そんな中で眼鏡をかけていてもどこか一般人と違う空気を纏っているギルベルトが、普通にフードコートでラーメンを食べているのにすごく違和感がある。
細いように見えてがっちりと筋肉の付いた腕。
その先の少し骨ばった男らしい手が綺麗に箸を持ってすくった麺が、唇は少し薄めだが若干大きめの口の中に吸い込まれて行く。
そんな当たり前の光景すらカッコいいわけなのだが……
「あ?一口欲しいのか?」
あまりに見惚れすぎていたらしい。
視線に気づいたギルがピタリと箸を止めて視線だけ送ってくるのに、フルフルと首を横に振るが、
「遠慮すんな、ほら」
と、蓮華に丁寧に麺とスープを少量いれて差し出してくれるので、断り切れずに口にする。
撮影で散々キスシーンどころかベッドシーンまで演じはしたものの、リアルでは触れるだけの口づけを一度かわしただけ…のところの間接キスだ…と思うと、味なんてわかるはずがない……
アーサーは黙って真っ赤になった。
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