元々来日したてで疲れていたのと、慣れないコルセットによる締め付けなどで、貧血を起こしていただけらしい。
「申し訳ないです。」
と心底落ち込んだように八の字に下げる眉毛は、記憶の中のあの子と同じく可愛らしい顔に不似合いなレベルで太い。
でもそれが可愛い…と、男相手に不覚にもときめいて、アントーニョはブンブンと首を横に振った。
あかん…あかんよ、俺。こいつは男や。
仕事で花嫁の格好する男のモデルや。あーちゃんやない。
と、今度は先ほどとは逆の事を一生懸命思いながら、ベッドの上で半身起こす青年をエリザと本田と共に取り囲む。
「ん~今はね、女性として扱えるかと言う事をアントーニョ君に判断してもらうために着てもらっただけだから構わないけどね。
最終的に撮影ではこれとは限らないけどドレス着てもらわないとだしね…。
女性の服や仕草に慣れてもらわないとね……」
と少し考え込むエリザ。
「幸い日本に来て間がないから知り合いもいないでしょうし、これから可能な限り女性の服を着て女性として過ごしてもらうってどうかしら?
補佐が必要なら私が付くし、エスコート慣れしてもらうために男の部下付けるわ」
と、やがてキラキラした目を本田に向けるエリザに、本田は何故か苦笑いをしている。
「ええ、まあ…良い案だとは思うのですが……」
と、ちらりと青年の方に視線を向ける本田に気付いたエリザは
「ホテルでも注目の大プロジェクトですからっ!万が一にも失敗なんて出来ませんっ!!」
と、身を乗り出して力説し、今度は青年の手を取って
「お願いしますっ。本当にホテルの命運をかけたプロジェクトなんですっ!
完成度の高いものにしたいのっ!!
エスコート慣れした部下を付けますからっ!」
と、懇願した。
元々押しの弱い性格なのだろうか…青年がやっぱり困ったように眉尻をさげて、しかしもごもごと
「……わかりました…」
と頷いたその時
「あかんっ!!そんなん絶対にあかんっ!!!」
と叫んでしまったのは何故だったのか…。
ガタタッ!と運んできて座っていた椅子から立ち上がって力説したアントーニョを他の3人がポカ~ンと見上げている。
その視線に我に返って、アントーニョは慌てて椅子に座りなおした。
「ええと…俺が花婿やから…俺も慣れといた方がええんちゃうかなと思うて」
と、言いわけのように言うアントーニョに、やっぱりキラキラした目を向けてウンウンと頷くエリザ。
「それは…アントーニョさんが普通にアーサーさんを連れ歩いて下さるという事で宜しいんでしょうか?」
との本田の問いに、アントーニョが答えるより先にエリザが
「そうですよねっ!花婿が花嫁と一緒に居る方がいいですよっ!!
お互いに知らない同士よりも絶対に良い絵が撮れますっ!!
アーサーさんはこのホテルに滞在中なので、アントーニョさんはお時間がある時は連れに来て差し上げて下さいねっ!!」
と、話をまとめあげていた。
責任者が本田で、彼女がプロジェクトリーダーとのことなので、やはり現場はテンションが高いのだろう。
「ほな、大学の講義が入ってない時はなるべく時間作って一緒におるようにします」
というアントーニョの言葉で、この若者向けのウェディング企画は正式に動き出す事になったのだった。
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