フェイクのマリアベールに真実の愛はあるのかっ?!2_8

「エリザさん、入りますよ。どうですか?」
コンコンとノックをして返事を待たずにドアを開ける本田。

中は広いスイートルームらしい。
入って廊下を抜けると高級そうな応接セット。
その奥に広いキングサイズのベッドが設置されている。


が、問題はそんなところではない。

ソファに座ってミネラルウォータを注いだらしいグラスを手にした、ホテルの制服を着た背の高いスタイルの良い美女…も普段なら気になるところだが、今はそれもどうでも良い。

「どうなさったんですか?」
と本田が目を向ける先には白い塊。

繊細なレースが幾重にも使われたふんわりとした真っ白なドレスから覗く小さな白い手。
華奢な肩から覗く白く細い首筋にかかる髪は落ち着いた金色だ。

そして…その髪を覆うレースの合間から見える顔はどこか泣きそうに懐かしい面影があって、しかし青い顔色と少し苦しそうに閉じられた瞼にアントーニョは駆け出した。


「ちょ、医者っ!医者呼んだってっ!!何しとるんっ!!!」
と、茫然とする本田と女性に構わず花嫁を抱き上げると奥のベッドへと急ぐ。

「あーちゃん、あーちゃんっ、どこかしんどいん?!!大丈夫かっ?!!!」
と、泣きそう…というより、泣きながらベッドに寝かせた花嫁に声をかけるアントーニョに、花嫁は少し億劫そうに目を開いた。

くるんと長い金色のまつげが揺れ、少しずつ瞼と共にあがっていく。
その下からはペリドットのように澄んだ大きく丸い目。
それが不思議そうにアントーニョを視界に入れた。

「…誰…?」
と言われて、初めてアントーニョはハッとする。

「貧血…かな。ちょっとドレス脱ぎましょうか」
と、硬直するアントーニョの横を先ほどの女性が来て、手早く花嫁の半身を起させると背中のファスナーに手を伸ばす。

「うあっ。堪忍っ!」
と慌てて後ろを向くアントーニョの視界の先に、困った顔の本田。

「えと…彼が今回の花嫁役、アーサー・カークランドさんなんですが……」
と、おずおずと言われて、へ?とアントーニョはまたベッドの方を振り返った。

するすると下ろされるドレスの下にはコルセット。
そしてパカリと胸元から外されたのは肌色のブラジャー。
確かヌ―ブラとか言う本物の胸に近い感触のするパッドを兼ねたものだった気がする。
フランシスの家で見た事がある。

それを外すと、貧乳…というにも苦しいまっ平らな胸。
色気も何もない…はずなのに、その首から肩、背中からドレスに隠れた腰までのラインから目が離せない。

ごくりと唾を飲み込んだところで、あのぉ…と遠慮がちな本田の声に我に返った。

「やっぱり…男性じゃ駄目ですか?」
と言われてブンブンと首を横に振る。

そして…もう一度手で目をこすって、後ろを振り返った。

…あーちゃんやて念じ過ぎてこんな風に見えとるんやろか……
あまりにあの子に似すぎていて、逆に現実感がわかない。

とにかく花嫁を凝視していて他には何も見えていないようなアントーニョに、本田はホッと安堵のため息をついた。



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