フェイクのマリアベールに真実の愛はあるのかっ?!2_6

「…じゃあ…相手の方に口止めして…とかダメですか?」

それでもこの二人の幼い子どもの可愛らしい結婚式ごっこの写真を見ると諦めきれず、本田が言うと、エルネストはまた

「アンニュイやなぁ…」
と、小さく吐きだした。


「そっちのアーサーの方はアーサーで、その相手が俺やって思うとるんや」
「はあ?だって年齢が……」
「ん~ちっちゃい頃の記憶やし、そのあたり曖昧なんちゃう?」
「でもこの頃エルネストさんて…」
「ん、高校生やな」
「ですよね~」

「この写真のあとあたりから、持病悪化して外国行って手術受けたりとかバタバタしとったから、そのあたりでもう記憶が混乱しとるんやろうなぁ。
せやから、ちっちゃい頃から遊んだったし、顔がそうやから俺やと深く考えんで思うとるみたいや」

「え~っと…つまりどうすれば……」

色々と複雑なその人間関係をいちいちメモに取りながら、本田は頭にはてなマークを浮かべる。

少し混乱して目をまん丸くしている様子はあどけなさすら感じさせて、営業部長の肩書を背負った三十過ぎの男には見えない。

そんな本田にクスリと笑いをもらして、それから笑みを消すとエルネストは唇にこぶしを押しあてて少し考え込んだ。

「ん~~撮影の終わりまでは双方にお互いがこの写真の子ぉやって気付かせたないなぁ。
せやから意図的に二人を選んだとは思われんようにした方がええ」
「具体的には?」
「公募かけんで。
普通に公募かけて、俺はそれとのう二人にそれぞれ応募するよう突いとくわ。
で、審査はキクちゃんの方でして、そうやなぁ…男の子間違って二人取ってもうたとでもしとこか~。
でも公募かけて間違えてとってもうた~とは言えへんから、アーサーやったら体格的にも女性役出来ると思うし…みたいな感じやな。
二人にはそれぞれ俺と関係がある言うたら不正や思われるから、言うたらあかんで~って言うとくから、あとはキクちゃんの手腕やなぁ」

「……頑張ります。」
ごくりと唾を飲み込んで、緊張した面持ちでそう言う本田の肩を、

「まあ気楽にやり。なんかあったら俺の提案やってばらしたるから。
これからなが~い人生なんやから、そんなずっと力いれとったらもたへんよ?」
と、軽くポンポンとなだめるように叩くエルネストに、本田は少し肩の力を抜く。

「大丈夫。実際に表には出られんけど、後ろでフォローはしたるから、安心して仕事しぃ?」

ああ、この人はずるい…と本田は思う。

さらりと引いていくのかと思うとさりげなく引き寄せて甘やかす。
物理的に離れてもどこか助けられている気になる。
だから頼りにしてはダメだと思いつつ、思い切って切り離す事ができない。
気づけばいつもそこにいる…そんな気にさせられてしまう。

ああ、ダメだ、と、本田は頭を横に振って、そして書類をパッと手に取った。

「とりあえず公募の要項作ります。
ひな形出来たらご相談するので見て下さい。
で、完成したらお二人に自然にアプローチできる準備をお願いします」

6年前とは違うのだ。
自分は一つの大プロジェクトを任された営業部長。
フォローは受けてもやるのは自分だ。

そんな気持ちできりりと自分のデスクに向かう本田は

「適度に気ぃ抜いとかんともたんで~」
と、後ろから追いかけてくる、新人時代と何も変わらぬのんびりとした言葉に、なんとなく泣きそうになった。



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