だが、本田は特に神経が細くてそのくせ力を抜く事を知らずに常に全力で物事に取り組むため何度も体を壊しかける手のかかる教え子だったため、特に可愛かった。
それが営業部長にまで上り詰めて、今、アルマダホテルでも今までにない新しい方向性のプロジェクトを任されるまでになったのだ。
元教育係としては出来れば協力してやりたい…。
「そうやなぁ……」
エルネストは顎に手をやって考え込んだ。
アントーニョは単純な男だからなんとでもなる。
金で釣れる。
ただし……相手がこの子でなければ…だが。
と、エルネストは写真の中で恥ずかしそうな顔でキスを受けている実はレースのカーテンを外したものをマリアベールの代わりに被っている子どもに視線を落として眉を寄せた。
「…エルネストさん……」
そして写真から目を離して今度はリアル。
席に座ったままちらりと見ると、少し不安げな童顔がこちらを見下ろしている。
(あ~もう、その顔ずるいわぁ…)
エルネストはくしゃくしゃと頭をかいた。
新人時代、『もうちょおゆっくりやったらええんやない?』というと、よく何か失敗したのか?とでも言わんばかりにこんな泣きそうな顔をしていたのを思い出す。
当時は確か1歳とはいえ自分より年上の27歳だった本田は、しかしどう見ても20歳行くか行かないかのようで、そんな心細そうな顔をすると、さらに幼く見えた。
本人は無意識なんだろうが…。
自由人に見えて実際自由人なわけだが…エルネストは従兄弟の中では年長でいつも下の面倒をみさせられていたせいか、今でもこういう年下に弱い。
「しゃあないな…ちょお考えてみよか…」
フ~っと息を吐き出してエルネストは言った。
「けど、条件厳しいで?」
「ええっ!もちろん可能な限りなんでもやりますっ!
このプロジェクトにかけてるんですっ!!」
本田の顔から不安げな表情が消えて、キラキラした勢いが戻ったところで、良かったと思う反面、ああ、面倒な事になりそうやなぁ…と言う気持ちが凝縮されて、
「アンニュイやなぁ…」
と、そんな言葉がエルネストの口から思わず零れ落ちると、
「懐かしいですね、そのセリフ」
と、仕事がはじまるたびよく呟いていたそのセリフを懐かしく思いながら、本田は
「じゃあ、具体的な相談に入りましょうっ!」
とバササっと関係書類のファイルをエルネストの机に積み上げた。
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