かつて知ったるチャペルの中に入ると、アントーニョは少女の頭にレースのカーテンを被せる。
そこで彼女もようやくアントーニョがやろうとしている事を理解したらしい。
「…マリアベール……」
小さな白い手でそっとカーテンをおさえながらそう呟く彼女に
「マリアベール?」
と、アントーニョが聞き返すと、少女はコクンと頷いて
「花嫁さんのベールだよ…」
と、澄んだ可愛らしい声で教えてくれた。
どことなく寂しそうな…悲しそうな…なんだか胸が痛くなるような笑みを浮かべる彼女をアントーニョは抱きしめた。
「今はこんなんやけど…おっきくなったらカーテンやないちゃんとしたマリアベール用意したるからっ!
親分のお嫁さんはあーちゃんだけや。あーちゃん以外は絶対にお嫁さんにせえへんからっ!」
ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめるアントーニョを、彼女もおずおずと抱きしめ返す。
子どもながらにすごく真剣だった。
絶対にこの子以外をお嫁さんにはしない…と、アントーニョは視線の先の大きな十字架に誓ったのだ。
そんな神聖にして清らかな空気を破ったのは、
「自分ら…こんなとこで何しとるん?」
と、呆れた声で聞いてきた高校生の従兄弟。
頼まれて神父様に届けモノをした帰りらしい。
そこでアントーニョが大きくなったらこの子をお嫁さんにするのだと自らの計画を告げると、
「そらまた…無茶なこと考えよるなぁ…」
と、こいつも実現不可能なような事を言うのでむっとしたが、持っていた携帯で写真を取ってくれたので、勘弁してやることにした。
レースのカーテンをベール代わりにしたあーちゃんの頬に口づけたところを撮ってもらった写真は今でもアントーニョの宝物で、財布の中にしっかりとしまわれている。
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