親戚の結婚式に出るため初めてきちんとしたスーツを着せてもらったアントーニョは子どもながらにやはり好きな子に格好良い自分を見て欲しくて、彼女に見せに行ったのである。
「親分なっ、おばちゃんの結婚式やったからスーツ着せてもろうたんやっ!格好ええやろ?!」
じゃ~ん!と手を広げるアントーニョを見て、彼女は目を丸くして、次の瞬間
「花婿さんみたい」
と、可愛らしくほほ笑んだ。
花婿さん…彼女の口から出たその言葉に、アントーニョの脳内にぱぁ~っと将来のビジョンが浮かび上がる。
「ええやんっ、それっ!親分大きくなったら、あーちゃんお嫁さんにしたるわっ!」
それは素晴らしい名案に思えたが、それを聞いた途端、彼女は少し悲しそうにうつむいた。
「どないしたん?嫌なん?親分やあかん?」
急に元気をなくした最愛の天使にアントーニョが慌てて言うと、彼女は小さく首を横に振って言う。
「…無理…。
トーニョはお婿さんになれるけど……あーちゃん、お嫁さんにはなれないから……」
消え入りそうな声で悲しげに告げられる言葉に、アントーニョはハッとした。
いつもいつもベッドに寝たきりのあーちゃんは、もしかしてお嫁さんになるくらい大きくはなれないと思っているのだろうか…。
そんなことはないっ!自分が彼女を元気にしてやるっ!
そしていつかこんなスーツを着て綺麗なドレスを着た彼女と教会で結婚するのだっ!
「…なれるよっ!親分絶対にあーちゃんお嫁さんにしたるっ!諦めたらあかんっ!!」
ぎゅっと手を握りしめて、アントーニョは彼女の部屋の窓枠によじ登ると、いつもさらさらと風に揺れているレースのカーテンを取り外し、彼女に手を貸して窓から庭へと誘導する。
もちろんベッドの中にいた彼女は裸足なので、アントーニョは自分の靴を脱いで
「ちょお大きいけどこれ履いて。」
と、彼女に履かせて自分は裸足で歩きだした。
「どこ…行くの?お外出たら怒られるよ?」
片手で自分の手を握り、片手にレースのカーテンを抱えたアントーニョに、彼女が不安げに声をかける。
しかしアントーニョは止まらなかった。
そして自分が入ってきた壁の隙間から彼女と二人外へと抜けだして、歩いてすぐの教会まで連れて行った。
0 件のコメント :
コメントを投稿